第三十九話 “ヤンキー”ども
――探検隊と救助隊。未知なる謎の組織を前に同盟を結んだ二つの組織。そして今、救助隊選抜メンバーがギルドへやって来た!
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「おお! あれが噂のフーディン、フォンさんか」
「カメックスのラングさんもいるよ!」
「うおー! バンギラスのランティフだ!! かっけー!」
先頭のフーディンさんを筆頭に、屈強そうなポケモンたちが次々に入ってきた。その迫力といったら、周囲の興奮もうなずける。そんななか。
「あ、カイ! 見て見て、ルテアだよっ!」
スバルが僕を引っ張って最後尾を指差した。僕がその方を見てみると、黒い鬣をなびかせてレントラーが入ってきた。ルテアさんだ!
その瞬間、「あ、槍雷だ!」「槍雷のルテア!? どこどこっ!?」といった歓声が響く。わぁ、ルテアさん有名……!!
「ルテアーーーーー!!」
スバルが腕をブンブン振って叫ぶ。ちょ、ちょっとスバル! 恥ずかしい……!?
すると、スバルの声に気づいたルテアさんが、なんと大胆にもこちらに近づいてきたではないか!!
「よぉ、スバル、カイ! 元気にしてたか?」
ルテアさんが僕らに近づいたことで、僕の真横にいたゴチミルさんが「キャーッ!!」と叫んで気絶してしまった。……ちょ、誰かー!
「ルテア! 救助隊選抜メンバーに選ばれてたんだね!」
「おうよ、俺は“仲裁役員”だぜ! ま、選ばれたのにはちょっとした理由があるんだけどな」
ルテアさんが鼻高々にそう言うと、後ろからやって来たシャナさんが「おいルテア、そろそろ……」とルテアさんを促した。
「お、いっけね。じゃ、後でな二人とも!」
そう言ってルテアさんはシャナさんと一緒に行ってしまった。なんか二人の後ろ姿って絵になるなぁ。
「ふ、二人ともかっこいい……」
スバルが目を輝かせながら二人を見つめた。たぶんスバルは、二人の格好を言っているわけではない。親友同士の二人がどちらも強くて、どちらも“仲裁役員”に選ばれたことに感動しているに違いないと僕は推測した。
「そういえば、スバルとカイはシャナさんの弟子だって噂なのですけど、それって本当なのです?」
ムーンさんは思い出したようにスバルに聞いた。ん?
「いや、僕は……」
「うん、そうだよ?」
いや、スバル……?
「すごいです! あのシャナさんの弟子だなんて羨ましいですー! あちし一回も喋ったことがないから今度紹介してほしいですー!」
ムーンさんは種族柄細い目をさらに細めた。そっか、ムーンさんはシャナさんが活動を一時停止したあとで弟子入りしたんだ。
「うん、いいよ」
「やったですー!」
ムーンさんは飛び上がった。僕らは苦笑しながら案内に戻ろうとする。しかし、僕らはあるポケモンたちの会話で歩を止めた。
「――ケッ、あのバシャーモとレントラーのどこがいいんだか」
ピクッ。
最初に反応したのはスバルの耳だった。彼女はものすごい早さで声のした方を振り返る。
そこにいたのは――?
青い体、特徴的な喉袋にかぎづめ。人相は恐らく最悪なポケモン――ドクロッグ。
「え、でもレントラーの方はまだいいんじゃないっすかね兄貴ぃ。問題はあのバシャーモっすよ」
ピクピクッ。
スバルの耳がせわしなく動いた。
ドクロッグの横にいるのは、オレンジのとさか、伸びきった黄色のフードとズボン(?)。これまた人相は最悪そうな――ズルズキン。
なんだこの二人は?
「なーんであんな奴の人望が厚いか不思議っすよ。探検隊をやめたかと思ったら五年たっていきなり戻ってきて“仲裁役員”っすよ?」
「フン、聞けば一回の依頼の失敗で探検隊を辞めたそうじゃねぇか。よくのこのこ戻ってくる勇気があったな。勇者だぜ」
「もしかして、コネっすか? 賄賂っすか?」
ブチッ。
僕の隣でなにか聞こえた。できれば聞かなかったことにしたい。あんな人相の悪い二匹に突っかかるわけないよね、うん。気のせい……。
「――ちょっといいかな、あなたたち」
あちゃー……。やっちゃったよ。見ればスバルが、二匹の前に立ってひきつった笑いを浮かべていた。
「あん? なんだてめぇ」
「おれっちたちになんか用っすか?」
「用? 用はないよ。あるのは文句」
スバルはさらに二人を煽るような言い回しになった。これ、まずいよね。
「だ、誰か呼んでくるです」
ムーンさんが慌てて席をはずす。ああ……僕を一人にしないで!!
「文句だとぉ? てめぇヤンのか、あぁ?」
「兄貴に楯突いたらどうなっても知らないっすよ」
「上等だね。人前でうちの師匠の暴言吐いといて、弟子が黙っているとでも?」
「師匠……? ははん、てめぇあのバシャーモの弟子か? ああん?」
ドクロッグがガンを飛ばす。こ、怖いっ!
しかし、スバルは怯むどころかフンッ、と二人を鼻で笑った。
「実力がない奴ほど口は達者って言うのはどうやら本当のようだね」
「ああ!? んだとてめぇ!!」
ドクロッグが攻撃しようとするのをズルズキンが遮る。
「おれっちたちは事実を言ったまでっすよ。今の言葉、聞いていたんなら反論でもしてみたらどうっすか?」
「――なんの騒ぎだ?」
いきなりスバルと二匹との会話に第三者の声が割って入った。
いや、ぜんっぜん第三者じゃなかった。渦中のポケ物――シャナさんが現れたのだ!!
「言い争いなら外でやれよ」
シャナさんが静かな口調で言った。ドクロッグはケッ、と声をあげる。
「ご本人登場って訳か」
「師匠! 聞いてください! こいつらが師匠の……」
「わかってるよ。どうして戻ってきた云々だろう。言わせておけ、そいつらの言っていることに反論の余地はない」
シャナさんのため息交じりな言葉に、スバルの耳がピクピク動く。
「はぁ!? 何いってるんですか! あそこまで言われて黙ってろと!?」
「だからここで言い争うなといっているんだ。救助隊も来てるんだぞ、お前は昨日からビクティニのギルド弟子だ。忘れたとは言わせないぞ」
「それでも私は引きませんよ、私は! ビクティニのギルドの弟子の以前に、シャナさんの弟子なんですからねッ!」
「――嬢ちゃん、その心意気、気に入ったぜ」
今度こそ第三者の声が響いた。低い、ドスの聞いた声。そして……。
スパンッ、スパンッ!
「グエッ!」
「ギャッ!」
鉄拳とはこの事だろうか。ドクロッグとズルズキンの前に拳が降り下ろされた。唸り声をあげた二匹は涙目になって頭を押さえる。
目の前に現れたのは、真っ黒に塗られたような目の上に、さらに黒いサングラスをかけた、赤茶色でシマシマのポケモン――ワルビアル!
「あ、兄貴ぃ!」
「なにするんっすか!!」
「黙れ弟ども! 人様の悪口をこんなところでしやがって! この、恥さらし、が!!」
スパンッ、スパンッ!!
「グエッ!」
「ギャッ!」
さらに鉄拳。そして、ワルビアルはサングラスを取ってスバルたちに向き直る。(サングラス取っても全く人相が変わんない……)
「弟たちが無礼をして悪かったな。俺たちは探検隊“ヤンキーズ”だ。俺はリーダーのサスケで、こっちの馬鹿な弟たちはカガネとギンジ」
そう言ってサスケさんはドクロッグのカガネとズルズキンのギンジを紹介した。
「俺はシャナだ。こいつらは探検隊“シャインズ”のカイとスバル」
「おう、噂は聞いてるよ。二人はあんさんの弟子なんだってなぁ」
サスケさんは僕らを鋭い目で凝視した。僕は震えて声も出ない。スバルは気丈にもサスケさんにまで睨んでいた。
「さっきは悪かったなぁ、あんさんよ」
「……うちの弟子もな」
「しかしなぁ、あんさんよぉ。こっちにも悪口を言う理由があるってもんだ。こいつらはあんさんの強さを身に染みていないからこんな風につけあがる。なぁ、あんたも何か言い返さないのかい。
漢の名が廃るよ」
「別に好きに言わせておいて構わない。今さら言い訳をする気はないしな」
サスケさんの格好よすぎる言葉に、シャナさんは興味もないといった様子で返した。すると、サスケさんはこんなことを言う。
「あんさんが別にそうだとしても、そこの嬢ちゃんは納得しないだろ? なぁ?」
スバルは首をブンブン縦に振った。サスケさんはその反応をひどく気に入った様子で、腕を組んでニィっと破顔一笑した。
「そんじゃ、論より証拠。実際に勝負してみようじゃあねぇか」
「さんせーいッ!!」
スバルはものすごく嬉しそうに叫んだ。しかし、僕が震え上がったのは次の言葉……。
「――丁度どちらにも三匹いるしよぉ」
「え゛……」
ぼ、僕もっ!? 無理無理! 絶対無理ぃい!!
「待ってくれ、バトルするんなら二対二にしてくれ」
「なぜだい?」
シャナさんの待ったにサスケさんは口角を吊り上げる。
「カイにバトルは体に負担がかかりすぎる」
「でも、あんただってあんさんの弟子だろぅ? 悔しいんじゃないのかい?」
サスケさんは僕を見てそう言ってくる。何でみんな誤解してるの! 僕はシャナさんの弟子だと一回も名乗ったこと無いのに!!
「い、いや、僕は……」
「そうだよ!」
ス、スバル……。そんな……。
「売られた勝負は買いなよ、三対三だ」
「ぐ……!」
シャナさんは、そう言われては引き下がるしかなかった。渋々「わかった」と答えてしまう。
こんな怖そうな人たちとバトル!? しかも、みんな最終進化系で、その中の一匹が僕と!?
――僕……死んだかも。