第三十八話 ギルド案内なのです
――アリシアさんと、ついでにミーナさんが合流して、ギルドは本格的に“イーブル”への対応が始まった。そして、僕とスバルが“シャインズ”を結成した次の日の朝礼で……。
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一階の大広間にギルドの弟子たちが集まっていた。そして、彼らの前にはギルドの副親方(ウィントさんが帰ってきたことで“代理”から“副”になった)であるラゴンさんと、五ヶ月ぶりにギルドに戻ってきたウィントさんがいる。僕の周りで「やっと帰ってきたぜ、親方」とか、「今回は新記録なんじゃないですか」といったひそひそ話が聞こえてくる。
そんななか、ラゴンさんが咳払いをしてみんなを静めた。
「えー。では朝礼を始める。まずは、二日前にギルドに来ていたカイとスバルが晴れて探検隊を結成してこのギルドの弟子になった。みんな先輩としてよくしてやるように」
パチパチパチ、と結構しっかりした拍手が起きた。口々に「後輩かー」とか、「なんか嬉しい。なんでだろ?」とかいっている。よかった、歓迎されているみたいだ。
「えー、そしてここからが重要だ。最近不穏な動きを見せる怪しい団体……“イーブル”についていくつか言うことがある」
“イーブル”――。
この単語が出た瞬間、弟子たちがざわめいた。“イーブル”の行動はすでに弟子たちは知っているようだ。
「まず、ひとつ目。知っている者もいると思うが、現在“イーブル”対応においての重要参考ポケモンであるクレセリアのアリシアと、我々に協力してくれるというシェイミのミーナがギルドに宿泊中だ。彼女たちはギルドの大事な客だからくれぐれも失礼の無いようにしてくれ」
ラゴンさんはそう言って目の前にいるマルマンさんをにらみ……いや、見る。
「マルマン、特にお前は間違っても二人を起こすようなことをするなよ」
「わかったぞコラァ。なんでおいらだけに言うんだコノヤロー」
「別に深い理由はない。近くにいたから言っておいただけだ」
理由、ないんだ……。僕がそう思ったのと、スバルが同じように呟くのはほぼ一緒だった。
「では二つ目。“イーブル”一斉検挙のために……探検隊連盟と救助隊連盟が同盟を結ぶことになった」
ざわざわ!!
ラゴンさんの予想だにしなかった発表に、周囲がいきなりざわついた。「救助隊!?」「これは、忙しくなりそうだ」などの言葉が僕の耳に入ってくる。
「静かに! ちなみに何人かの弟子はすでに伝えてあるが、今日この朝礼が終わってすぐに救助隊選抜メンバーがここにくる予定だ」
「「え……!?」」
僕とスバルは同時に声をあげた。救助隊がギルドに!? まさか、あの人も……!?
「こちらとしては万全の体制で迎え入れたい。リオナとシェフは最終確認をしてくれ。ルペールはいつも以上に査定に力を入れてくれ。他の者も、ビクティニのギルドの名に恥じない行動を心がけるように」
『はい!』
弟子たちはラゴンさんの威圧もあってか、一斉に答えた。うーん、さすが副親方。
「そして、これが最後だが……救助隊連盟からの選抜メンバーと同盟を結ぶ上で、我がギルドと救助隊の活動が円滑に行われるように双方から一匹ずつ、架け橋役として“仲裁役員”という臨時ポストを作った」
仲裁役員? なんかすごそうな名前……。
「仲裁役員というのは文字通り、お互いの慣れないところや壁を少しでもなくすための役員だ。探検隊の方はその役員に……ギルドの卒業生で活動停止中だったが、はるばる戻って来てくれたマスターランク探検隊――シャナを任命することにした」
『おぉーーー!!』
うわぁっ!?
いきなり弟子たち全員から歓喜した様子で声が上がったので、僕は思わずビクリと肩を震わせてしまった。シャナさんって、そんなに人望が厚かったんだ……!! え? それは失礼だって?
「マジ!? 流石はシャナだな」
「頑張ってよ」
「だめだよ、そんなに言ったらシャナにプレッシャーがかかる」
『はははは!!』
誰かのそんな言葉に、周囲からドッと笑いが弾けた。見ると、スバルやラゴンさんも笑ってる。
「シャナ、久し振りに会った弟子や初対面の弟子のために一言挨拶でもするか?」
ラゴンさんがそう言ったので僕はシャナさんを見てみた。というか、全員の視線がシャナさんに集まる。しかしシャナさんは、ブンブンと首をこれでもかというほど横に振った。どうやら、前に出る気はないらしい。なーんだ、面白くない。
「ま、師匠らしいや」
スバルは苦笑しながら呟いた。
「朝礼で話すことは以上だ。では解散!!」
ラゴンさんの号令で全員が散った。シェフさんは厨房、レイさんは受付、ルペールさんは見張り番……それぞれの持ち場に帰っていく。
「ねぇ、私たちってどうするんだろう?」
スバルが僕の横で言った。そうだよね、僕らってなにすればいいんだろうね? すると。
「おーい、シャインズ! 来てくれ!」
ラゴンさんが入り口近くで叫んだ。僕らはそれを聞いてラゴンさんの方へ向かった。ラゴンさんのすぐ横には、ピンクの体に尻尾の形が特徴的なポケモン――エネコがいる。
「お前たち、今日はギルドの案内をしようと思う。まだわからない箇所が多いだろう?」
「ええ」
スバルが控えめに返事をする。
「ギルドは、こっちにいるエネコ――ムーンに案内させる」
そう言ってラゴンさんは、顔のついた手でムーンさんを一歩前に出させる。
「ムーンはお前たちの一番近い先輩に当たる」
「あちしムーンっていうの、よろしくです!!」
ムーンさんは興味津々な表情で尻尾を振りながら言った。
「「よろしくお願いします」」
二人で同時に挨拶をした。それをみたラゴンさんはニヤリとしてその場を離れた。
「では、あとを頼んだぞムーン」
「はいです! ……じゃ、二人ともついてくるです。あちしが一階からギルドを案内するですよ」
ムーンさんは僕らが返事をする前に背を向けて元気に歩き出した。あ、もしかしてはじめての後輩で嬉しいのかな?
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「ここがギルドの玄関口なのです」
ムーンさんはルペールさんが見張り番をしている扉の前で立ち止まった。
「二人とももう体験したと思うですけど、あそこの穴からルペールさんが外を覗いて客を査定するですよ」
そうそう、あれは驚いたなぁ。ギョロってなるんだよね。ムーンさんは次に入り口を入ってすぐの受付に向かった。
「ここはギルドの受付ですよ。用があるひとはみんなここに来るです。レイさんがにこやかなスマイルで対応してくれるです。ちなみにレイさんは種族柄、伝達や連絡係も兼ねているです」
へぇ、それは知らなかったなぁ。
「忙しそうだね」
スバルが静かに呟いた。
次に僕たちは受付を通りすぎて大広間に入る。さっき朝礼をした場所だ。
「ここは大広間なのです。探検隊やトレジャータウンのポケモンたちの出入りが一番激しいです。なぜなら……」
ムーンさんは一旦言葉を区切って大広間奥の二つの掲示板を見る。
「依頼状が貼ってあるからなのです。右が救助や探検依頼、左がお尋ね者依頼なのです。君たちも明日らへんからもしかしたら依頼をこなすことになるです。よく覚えておくです」
「はーい」
ムーンさんっていっつもこんな喋り方なのかな?
「じゃ、二階に上がるです」
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僕らが二階に上がると、まず目に入るのは長い廊下。思わずシェイミの里の長老宅を思い出した。
「まずは食堂なのです」
ムーンさんは廊下に入ってすぐ右に曲がる。
「ここではシェフさんが腕を振るった料理が食べられるです。シェフさんが大声を出さないと来てくれないのはもう知ってるですよね?」
うんうん。僕とスバルは同時に頷いた。
「じゃ、次は弟子の部屋です」
僕らは食堂を出てまた階段に戻っていく。
「ここから先は弟子の部屋と親方様の執務室ですからいく必要はないですなのよね。親方様の執務室は実質ラゴンさんの執務室と化しているです。ラゴンさんは裏親方なのです。時に親方様より権力が強いです」
へ、へぇ……いいのかな? それって。
「じゃ、三階なのです」
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三階は階段を上がりきった瞬間に展望室になっていた。前にシャナさんとリオナさんが喋っていたところだ。この前は暗くてよく見えなかったけど、改めて見るとすごい所だ。何がすごいかと言われたらその広さと眺め、そして壁の装飾だ。
「ここがこのギルドのシンボル、大展望台なのです。ギルドの創設者である親方様の祖先が作ったです。ここからの眺めは絶景で、特に夜の眺めはギルドの弟子たちだけが見れる特権なのです! 時々ここは重要な会議に使われるです」
ムーンさんは次に大展望台の壁に近づく。
「この壁の装飾は一枚一枚に、このギルドを建てる由来が描かれているです」
「「由来?」」
僕ら二人の声がハモった。
「二人とも“英雄伝説”は知っているですよね?」
「うん」
「?」
英雄伝説? なにそれ?
僕が首をかしげていると、スバルが横で「えー!? カイ知らないの!?」と叫んだ。だから僕は世間知らずなんだって!
「子供の時に必ず一度は絵本で読むぐらい有名なんだよ!?世界の危機に英雄が奮闘する……」
「う〜ん……」
「……まあ暇があったら読んでみるです。このギルドはその危機を救ったのを称えて親方様の祖先が作って、この壁はそのときに英雄の活躍を忘れないように彫られたものだって親方様が言ってたです」
へぇ……祖先がねぇ。
「じゃ、最後に地下一階へ向かうです!」
え!? このギルドって地下があるの!?
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「あれ……?」
僕らは地下一階に向かうために先ほど通った一階の入り口へ戻ってみると、何やら様々な探検隊がざわざわと集まっていた。
何が起きてるんだろう?
横にいたスバルがムーンさんをちょんちょん、とつっつく。
「ムーンさん、なんであんなに探検隊が集まってるの?」
「あー。そろそろ救助隊が到着するから、みんな一目見ようとしてるじゃないですか?」
「あ、そっか! ねぇ、私たちも見てみようよ!」
スバルが僕とムーンさんを引っ張る。わ、スバル、痛い……。
僕らが探検隊の群がりに入ると、入り口でルペールさんとシャナさんが喋っているのが見えた。そして、喋り終わったシャナさんが僕らに向き直って……?
「みんな、救助隊が入ってくるから道を開けてくれ」
僕らは入り口近くの道を開けた。けどみんな救助隊見たさに道の近くでわらわらと群がっていた。そして。
「よし。ルペール、開門だ」
「カーイモーン!!」
シャナさんの一言にルペールさんは“ねんりき”をかけ扉を開けた。
そこから入ってきたのは……?