第三十七話 チーム結成
――異世界のポケモンたちが無事元の世界に戻り、親方様も連れ戻すことに成功したスバルとカイ(?)。ギルドに戻って二人の新たな生活が始まろうとしている。
★
「……ろ、…だ…コ……!」
うぅうん……。誰かが僕を呼んでる……? なんだろう、うまく聞こえない……?
「起きろぉ! 朝だぞコラァ!」
……“コラァ”?
「起きないと爆発するぞコノヤロー!」
「ば、爆発ッ!?」
ガバァ!!
爆発ってどういうことぉおお!? なに!? なにが起きてるのぉおお!?
僕は眠気が一気に吹っ飛んで飛び起きた! ここは……ギルド?
「おぉ、起きたかコラァ。弟子の中でもなかなかいい反応だったぞコノヤロー」
「……」
ふと僕の近くで聞きなれない声がしたので、僕はその方を振り返ってみた。すると、そこにはマルマインがいる。び、ビックリした……!
「あ、あなたは……?」
「んぉ? おいらはギルドの弟子の一匹、目覚まし係のマルマンだぞコラァ。覚えておきやがれコノヤロー」
「は、はぁ……」
そういえば、ギルドに来たときにシャナさんを張り倒していた弟子たちの中にいたなぁ……。
「まだ起きてないのはお前だけだぞコラァ。早く起きて朝飯食わないとシェフが怒るぞコノヤロー」
「あ、はい……」
僕が答えたのを確認すると、マルマンさんはゴロゴロと転がりながら去っていった。なんか個性的な人だなぁ……?
ん?
待って、何で僕はギルドにいるんだ?
確か、僕の記憶はスバルが攻撃されそうなところで途切れているんだけど……。なんで? また記憶が飛んでる。まさか……“もう一人の僕”?
……いったいあの人たちはどうなったんだろう? 自分達の世界に帰ったのかな?
……そういえばスバルがいない。さきに起きちゃったのかな。まぁいいか。ひとまず食堂へ向かおう……。
★
僕が起きた時間がかなり遅かったせいか、食堂にはポケモンがまばらにしかいなかった。僕はビクビクしながらカウンターに向かう。
「あ、あのぉ……」
カウンターの奥からは白い蒸気がモクモクと上がっている。中の様子が見えないから不安でしょうがない。
「す、すいませ……」
「シェーーーーフ!!」
「うわぁああ!!」
僕の後ろからいきなりの轟音(比喩じゃない)が鼓膜を刺激した。慌てて後ろを振り向くと、そこにはスバルの姿が!
「ス、スバルっ!? 驚いたじゃないか!」
「だめだよ、カイ。シェフさんは大声で叫ばないと来てくれないよ?」
「そ、そうなの……?」
……スバル、このギルドに馴染むの早くない?
僕がそんなことを考えていると、蒸気が立ち込める厨房の中からコック帽を被ったブーバー――シェフさんが姿を現した。
「……何が食べたいんだ?」
「ほら、カイ」
シェフさんがぶっきらぼうに聞いてくると、スバルは僕の肘を突っついた。あ、はい……頼めってことね。
「えっと……。お任せって出来ますか……?」
僕は背の関係で上目使いになりながら、恐る恐るシェフさんに聞く。
「……いいよ、座って待ってな」
「は、はい……」
こ、怖いっ……。
カウンターに料理が置かれたので、それを持って僕らは席に座った。スバルはすでに朝食を取り終わったらしい。ちなみに、この食堂はセルフサービスだ。
「ねぇ、スバル……。あの後どうなっちゃったの……?」
「ああ、そういえば。カイは記憶がなかったよね」
スバルは納得した様子で僕の記憶が途切れた後のことを話してくれた。
「つまり……僕はあの人たちに別れの挨拶もできなかったわけだよね……」
はぁ、記憶がないって……。
「まあまあ、そんなに落ち込まないで。ちゃんと“もう一人のカイ”が挨拶してくれたから」
う……でもそれは“僕自身”じゃないじゃないか……。まあ、そんなことをスバルに言ってもしょうがないんだけどね。
ギルドに戻ってきたスバルは、親方様も連れ戻せて依頼成功って訳だね。……あ、そう言えばウィントさんは……?
「そうだカイ、食べ終わったらウィントさんの所へ行こうよ。探検隊登録しよう!」
「あー、そういえばそうだったね。うん」
スバルの目が宝石さながらに輝いてる。もとはといえばこのための親方様捜索だった。
僕は食べ終わった料理を片付けて、席を立つ。
「ごちそうさま!」
これはちゃんと聞こえたかな?
★
ギルド二階、親方様(ほぼ代理)用の執務室。僕らはその扉の前に訪れた。
威厳たっぷりな装飾が施された扉は、僕を威圧するのには十分だった。スバルはそんな扉にコンコン、とノックしながら叫ぶ。
「親方様、スバルとカイです。入ってもいいですか?」
言い方がかなり軽い感じだったので、一瞬僕は大丈夫なのか心配になった。スバル大胆だね。
すると、なかからいくらか物音がして、次にこう返事が帰ってきた。
「あ、いいよいいよー。入ってきてぇ」
親方のものとは思えない間延びした声だ。ウィントさん以外にこの声はあり得ない。
僕らは扉を開けて中へ入った。
「おっはよー! スバル、カイ」
部屋にはいると、オレンジのVマークが目立つウィントさんの姿があった。椅子に座っている。
「探検隊登録だねー! チーム名はもう決めたぁ?」
「あ、そういえば……考えてなかった。カイ、何かある?」
「チーム名? うーん……」
探検隊につける名前かぁ……。どうしよう、半端な名前もつけらんないし、えーっと……。
「シャインズ……がいいかな、光って意味」
「……へぇ、いいね。じゃ、それでいいです」
「そぉ? それじゃあこの紙にチーム名とメンバーを書いてね」
ウィントさんは、“サイコキネシス”でペンと紙を持ってきた。この世界で貴重な紙とペンがあるあたり、さすがはギルドだなぁ、と感心してしまう。
「カイが記入してよ。私、足形文字が書けないの」
スバルが僕に紙とペンを渡してくる。……ああそうか、スバルは元ニンゲンだから足形文字がわからないんだね。
僕は記入欄にペンをつけようとする。すると……?
「あ、字を間違えないようにしてねー。昔そこに文字を間違えて書いて、それがそのままチーム名になったことがあったから」
「「え゛」」
僕はスバルと同時に声をあげて、ペンの動きが止まった。き、気を付けなきゃ……。
「チーム名を間違えた探検隊って……どのチームですか?」
スバルが、まるで信じられない、といった表情で親方様に聞いてくる。どうやら、チーム名を間違えるなどというのは彼女の中ではありえないということらしい。するとウィントさんは少し笑ったあと。
「――チーム“フレイン”」
「え……」
フレインって……。
「えぇえええ!? 師匠のチームーーー!?」
「うん、そうだよぉ?」
「なにやってんの師匠!」
「いったいなんて登録しようとして間違えたんだろう……?」
ペンを持つ僕の手が若干震えた。ま、間違えちゃいかん! 僕はどうにか気力で紙に記入を終えた。やった! やり遂げたよ!
ウィントさんは再び“サイコキネシス”で紙とペンを呼び戻す。
「うん、探検隊“シャインズ”、隊員はカイとスバル、ちゃんとかいてるねー。じゃ、登録するよー。……ぴかっとひらめき、さらっとかいけつ! 探検隊“シャインズ”ぅうううう……登録、お酢っ!」
「「お酢……」」
何? 今の呪文……。
「さあ、これで君たちも晴れて探検隊の一員だよー! チーム“シャインズ”、リーダーのカイを中心に頑張ってぇ!」
……ん? 今なんて?
「……なんだってえぇえええ!? なんで僕がリーダーなんですかぁあああああ!?」
「そういえば……なんでだろ?」
スバルが横で冷静に首をかしげる。いやいやいやいや! もっと慌ててよ! 無理でしょ、僕にはぁああああ!
「だって記入したのはカイじゃんかぁ、記入者がリーダーになるのは当たり前だよぅ。誰かから聞いてなかったぁ?」
「聞いてない! 聞いてないよーー!」
僕は必死に叫んだ。このへっぽこで体力ほぼゼロの僕にリーダーが勤まるわけがないじゃないか!
「どどどどどうしようスバルぅうううう!!」
「別に私は構わないよ? 君がリーダーでも。頑張ろうね、カイ」
スバルが僕を見てこう言った。いいの!? ねぇ、本当にいいのーッ!?
「そういえばウィントさん、ラゴンさんはどこに行ったんですか?」
スバルが僕のこの気持ちを無視してウィントさんに聞いた。いや、いまはそれどころじゃ……!
「ああ、ラゴンー? 僕がさぁ、戻ってきたら……。
『どぉおおおおこをほっつき歩いていたんですかあなたはぁあああああッ!』
……とか言ってきてねぇ。で、僕が、
『やだなぁ、ラゴンだってわかってるでしょぉ? 時空ホールだよ、時空ホール!』
って言ったら、
『“出逢いの森”の時空ホールを閉じるだけで五ヶ月間もギルドを開ける奴がいますかぁ!』
だってー。
『ラゴンこわーい! “海のリゾート”でグミちゃん取ってきてたんだよぉ。あげるから許してぇ』
って言って紺色グミちゃんをあげたら、
『こんなことで許すとでも……もぎゅっ! ……今回だけは許します。その代わり、たまった書類をどうにかしてくださいよ』
……って許してくれたんだー」
「は、はあ……そうですか」
スバルは苦笑いをしてそう言った。たぶん心の中ではラゴンさんの不遇に同情していることだろう。
★
はぁ……。
チーム登録をし終わった僕たちは、アリシアさんを連れてくるシャナさんを待つために一階の受付にいることにした。受付にはルペールさんがいた。覚えているだろうか、見張り番のダンバルさんのことだ。
「カイサン、スバルサン、親方様捜索オ疲レサマデシタ」
「ありがとうございます、ルペールさん! あの、師匠はあとどれぐらいで戻ってくるかわかりますか?」
「モウスグデスヨ。ホラ、受付近クヲゴ注目クダサイ」
ルペールさんのことばに、僕ら二人は同時にその方を向いた。すると、受付の前の空間が微妙に歪み始める。そして――。
シュンッ!
僕らの前ににシャナさん、レイさん、そして……。
「カイさん、スバルさん! お久しぶりです!」
「アリシアさん!」
僕は思わず叫んで二人でアリシアさんの所へ走った。本当に、数日間だけだったけど久し振りだ!
「元気にしてました!?」
スバルが嬉しそうに聞く。すると……。
「――私もいますよー!」
「「ミーナさん!?」」
そう、いつか僕たちと空のいただきを探検したシェイミ、ミーナさんも来ていたのだ!
「きゃー! ミーナさん!」
「スバルさん!」
アリシアさんの上にいたミーナさんは、スバルのところに飛び降りて、お互いに前足と手を合わせてはしゃいだ。
横ではルペールさんがシャナさんとレイさんに近づいている。
「オ帰リナサイ、シャナサン、レイサン」
「ただいま」
「あー……俺やっぱり“テレポート”酔いしたかもしれない」
「いい加減慣れてよ」
「無理言うな」
……そうか……。これがギルドの生活なんだね。僕はこれからそんな生活が始まるんだ。里での生活より刺激的かもしれない。
……取りあえず、頑張ろう……。リーダーだし……。