へっぽこポケモン探検記




















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第四章 “ギルド”編
第三十三話 親方様を探せ 5
 ――“出逢いの森”でカイとはぐれてしまった私は、異次元(?)からきたリヒトと行動を共にしていた。あれ? でも私たちがここに来た本来の目的って確か……?





 リヒトがスピアーたちに対して尋常じゃない強さを見せつけてから、またいくらか時間が経っていた。その後、フロアごとに出てくるポケモンの強さは増していったけど、私とリヒトが四対六の割合で効率よく倒していった。そんな中……。
「……お前……」
 リヒトが先頭を行く私に静かに声をかけた。私は振り返る。
「どうしたの?」
「……お前はさっき、“私もにわかには信じられない存在”と言っていたな。あれはどういうことだ」
「……」
 いきなり核心(?)をついてきたね、彼は。
 ……どうしよう、まだあの事はカイにしかしゃべってないんだけどリヒトに言っても大丈夫かな……。
「……その……今から言うことは、秘密にしてくれる?」
「わかった、誰にも言わない」
 リヒトは面と向かってスッパリと言った。いっそ清々しいほどに。そういってくれると私も覚悟が決まるんだけどね。
「……私、元は人間だったの」
「……人間?」
 リヒトが確かめるような口調になった。私は曖昧にうなずく。
「そう。……でも私には人間だった頃の記憶がない。なぜか目覚めたらピカチュウで……」
 自分で言ってて、私はなぜか自信がなくなってきた。どうして記憶がないのに私は自分が人間だったと断言ができるんだろう?もしかして、私が勝手にそう思ってるだけなんじゃ……。

「――コトネ……」

「え?」
 今、なんて?
 私はマントで完全に姿を隠したリヒトを見た。彼は私の視線に気付いて静かに言う。
「いや。……記憶喪失の元人間。おれは同じ境遇のやつを知っている」
「え!? そうな?」
 なんて偶然!? 私の他にもそんな人がいただなんて!!
「それは……誰!?」
「……おれの敵側の奴だ」
「え?」
 敵? 敵ならなんでそんな声で言うの? 大切な人かと思ってたのに……。
「敵……? それって……」
「そのままの意味だ。おれの立場とその元人間の立場はお互いに敵同士。……おれは世間から見れば“悪い組織”の者、そしてあっちはおれたちの目的を阻止する組織の者だ」
 悪い、組織……? “イーブル”みたいな?
 でも、さっきからリヒトを見ていると、とてもそんな風には見えないんだけど。ダンジョンを進むときはいつだって私をフォローするように歩いてるし、敵同士だって話した今もなぜか悲しそうな口調だったし……。
「ねぇ、その人がリヒトの立場から見て敵だったとしても……リヒト“個人”から見たら大切な人なんでしょ?」
「……」
 私の言葉に、リヒトは立ち止まった。そして――。
「大切な……大切な存在だ……! それこそ、命にかえてでも守りたい……いや、守り抜いて見せる……!」
「そう……よかった」
 リヒトの口からその言葉を直接聞けてよかった。
 あんなことを言ってるけどリヒトは悪い人じゃない。どうして“悪い組織”にいるかはわからないけど、本当に彼が悪い人ならな今私はここにいない。あっという間にあの世行きのはず。
 やっぱり、彼は……。
「……すこし喋りすぎた。行くぞ」
「……うん」
 リヒト……彼にこんなにも思われている“大切な存在”って、いったい誰だろう……?





 そのあとは二人とも無言で歩いた。
 さっきの話題が意外に重かったのかもしれない。はたまた、お互いにこれ以上会話は必要ないと思ったのかもしれない。私が先頭を行き、リヒトはただ後からついてきた。しかし、そこから暫くして……。
 ガサガサッ!!
 いきなり私の近くの茂みが激しく揺れた!私は一瞬ビクついてすぐに身構える。……敵!?
「さがっていろ」
 リヒトがそう言って懐から氷牙という剣を取り出す。そして茂みに近づいた。
 ガサガサッ!!
 再び動く茂み。リヒトはそこへ慎重に近づく。そして――。
「氷牙の弐――“銀の……」
「ばあっ!!」
 ……。
 ……“ばあっ”?
 私と、技の詠唱途中だったリヒトは唖然とした。声の主は、“ばあっ”と同時にビュン、と茂みから出てきたのだが……?
 ……。……誰?
「ばあっ! ベロベロベロ!! うんみゅー!」
 声の主は、リヒトに向かって自分の顔をゆがませていた。何をしたいのか全くわからない。
「どおどお!? 僕の超究極変顔!」
 声の主は、全体的にクリーム色の体をしていて、中に浮かび上がっていた。背中には小さな羽がついていて、目はクリクリと大きく水色。そして、耳から額にかけてオレンジ色のVマークが。
「……なんだ貴様は……?」
 リヒトは脅しに近い形で中を浮遊するポケモンに問うた。おそらく、フードの中の顔がピクピクひきつっているに違いない。しかし、相手は動じることなく、くるくると宙を浮遊する。
「えぇー? 僕ぅ? 僕はね、ウィント! ウィント=インビクタっていうんだ! えへへー、よろしく」
「……ウィント?」
 聞いたことないなぁ。敵じゃないよね。
「あなた、種族は……?」
「種族はビクティニだよっ?」
「ビクティニ?」
 聞いたことがない……。
「リヒトは知ってる? ビクティニって」
「……知らん」
「ねぇねぇねぇねぇ! 君たちの名前は? なんてゆーの? 教えて教えて!」
 ウィントと名乗ったビクティニというポケモンは、私とリヒトに顔を近づけて言った。なんだかやけにハイテンションだ。
「えっと、私はスバルって言うの。で、そっちがリヒト」
「へえ! スバルにリヒトかー。ねぇ、リヒトはなんで怒ってるのぉ?」
「……怒っていない」
「だってぇ、ねぇ? リヒトこわーい!」
 ウィントはきゃっ、きゃっ、と耳に残る笑い声を撒き散らす。
「うっとうしい、目障りだ……!」
 リヒトはワナワナと手に持った剣を震わせて今にも攻撃しそうなのを必死に抑えていた。
「リヒト怒らないでぇー! グミちゃんあげるからー!」
「いらん! おれは――もぎゅっ!?」
 ウィントはどこからか持ってきた黄色いグミを、抵抗するリヒトの口に押し込んだ。
「はい、スバルにもー!」
「あ、ありが……もぎゅっ!?」
 私がお礼を言う前にリヒトと同じく黄色いグミを押し込まれる。……ん? 意外に美味しい……。
「……氷牙の壱――」
「わーー! 待って!! ウィントは敵じゃないと思うから抑えてー!!」
 怒りに任せて抜刀しようとするリヒトを私は慌てて抑える。
「あいつは一回斬らないと気が収まらん……!」
「抑えてー!」
「きゃっ、きゃっ、リヒトが怒ったー! こわーい!」
 ウィントは私の背中に隠れる。
「ウィント! 火に油を注がないでー!」
「うふふー!」
「氷牙の弐――」
「リヒト! だめぇええ!」
 ひとまずみんな落ち着いてぇええ!





「えーっと……」
 ひとまず、落ち着きを取り戻すことができた。事が収まるまでの過程は聞かないでほしい。
「ウィントはいったいこのダンジョンに何をしにきたの?このダンジョンに何かあるとは思えないけど……」
「えへ、僕はねー、この森の一番奥に用があるんだー。ねぇ、スバルたちもそこに行くんでしょ? ねぇねぇねぇ!」
「え、あ、うん」
「じゃあさあじゃあさあ! 一緒に行こ! ねぇいいでしょー?」
 ウィントが私の手をつかんでブンブンとふる。私は苦笑するしかなかった。
「ねぇ、こう言ってるからさぁ、ウィントも一緒に連れてっていいよね?」
「……好きにしろ」
 リヒトの声は不機嫌そうだったけど、たぶん言っても聞かないと思ったのか、了承はしてくれた。
「わーい! リヒトと一緒ー!」
 するとウィントは私の手を離して、隙がないはずのリヒトの両手をいつのまにか掴んでいた。
「なっ……!」
 リヒトが驚くなかで、ウィントは手をブンブンと振り回す。
「離せ、おれの手を掴むな! うっとうしい!」
「やーだぁ!」
「き、貴様っ……! うわっ!?」
 リヒトが抗議の声をあげようとした瞬間、ウィントはリヒトの両手をつかんだままワルツを踊るようにくるくる回り出す。リヒトは舌を噛みそうになっていた。
「おい! や、やめろ……」
「よーし! このまま奥まで行こうねー!」
「き、貴様離せッ! スバル、なんとかしろッ!!」
「……うーん」
 リヒトが私を見て助けを請うように言った。正直ここまで必死なリヒトを私は初めて見た。
 ウィントと回る黒いマントは、端から見たらかなりシュールな光景だが、見ていて微笑ましくないと言えば嘘になる。つまり私の答えは……。
「おもしろいから、やだ」
「……き、貴様ッ……!」
 この後リヒトは、本当にダンジョンの奥までずっとウィントと回りっぱなしだった――。


 あとで聞いた話、この時リヒトはマジで怒っていたらしく、この時私を“裏切り者め、このふざけた奴もろとも斬ってやる”と思ったらしい。





「だいぶ奥まで来ましたね……」
 ウィンさんは辺りへの警戒を緩めずに、後ろにいる僕に言った。僕はちょっと息を切らしながら頷く。
「大丈夫ですか、カイさん?」
「……ええ」
 僕はそう答えたけど、正直きついものがある。だいぶ歩いたんだからそろそろ奥地に着いてもいいはずなんだけど……。
「見てください。もうすぐ奥地ですよ」
 ウィンさんの言葉に、僕は顔をあげた。確かに、木々の向こう側は視界が開けている。やった! やっと奥地に着いたんだ……!!
 先頭からウィンさん、そして僕が奥地らしき開けた場所に足を踏み入れる。すると、そこには……。
「……これは……!」
 奥地の中心に……何かがたたずんでいた――。
 ウィンさんは目の前にあるそれに目を見開き、絞り出すような声を出した。これはなんだろう……?
「なんですか? これ……」
 僕は、生まれてこの方こんなものを見たことがない。僕はそれに向かって近づこうとすると、ウィンさんがすかさず僕を制した。
「これ以上近くには行かない方がいいですよ」
「ウィンさんは、これがなんだか知っているんですか?」
僕がそう言うと、ウィンさんはそれを警戒しながら見つめた。そして――。
「あれは――“時空ホール”です」

ものかき ( 2014/03/04(火) 12:47 )