へっぽこポケモン探検記




















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第四章 “ギルド”編
第三十二話 親方様を探せ 4
 ――いきなり襲われた突風に飛ばされた僕は、イーブイのウィンさんと出会い、行動を共にすることになった。






「――“火炎放射”!」
「グギュァ!!」
 ウィンさんは僕らに襲いかかってきたペンドラーという凶暴なポケモンを一撃でダウンさせた。
 つ、強い……! この人……穏やかな口調をしてるけど絶対ただ者じゃないって! しかも“火炎放射”って普通はイーブイじゃ覚えられない技だし……ウィンさん、何者?
「ふう……。このダンジョンのポケモンはくせ者揃いですね」
「は、はぁ」
 今しがた敵を一撃で倒したウィンさんに言われても説得力に欠けるなぁ。
 しかし、このダンジョン……なにか変だ。たしかラゴンさんの話じゃここには進化系前の虫ポケモンしか出ないはず。なのにさっきのペンドラーはフシデの最終進化系のポケモン、そんな強いポケモンがこのダンジョンにいただろうか?
 もしかして……ウィンさんがこの時間に来てしまったのと何か関係があるのかな?
 僕の前を行くウィンさんは、どんなポケモンが来ても冷静に対処した。僕もこれぐらい心に余裕が持てればなぁ……。まあとにかく、今は気を引き閉めて行くことにしよう。


「そう言えば、カイさんにははぐれた仲間がいると言っていましたね」
「え? あ、はい」
「教えてくれませんか?あなたのこと、仲間のこと……ここで会ったのも何か運命的なものかもしれませんし」
 心なしかそう言うウィンさんの声と視線が穏やかに感じた。
 別に断る理由もなかった僕は、今の自分の境遇とスバルやシャナさんのこと、僕がギルドへ行くことになったきっかけである“イーブル”についても話した。……ただ、“もう一人の僕”のことは黙っていた。
 僕が説明し終わると、ウィンさんは少し暗い表情になる。
「そうですか……やはり、どの時間、どの世界に行っても……平和を脅かす存在というのは必ずいるものなのですね……」
 そう言う彼の声が少し悲痛な感じに聞こえたのは僕の気のせいだろうか。僕は思いきってこんなことを聞いてみる。
「まさか、ウィンさんがいる時代も……?」
「ええ……。僕のいる時代は“ルナティック”と言う組織が世界征服を目論んでいて、僕らは“ルナティック”の野望を阻止しようとしています」
「そのグループが……“クレスント”?」
「そう。正確に言うと、“クレスント”は、いくつかのグループのうちのひとつなんです。メンバーは僕と……今はいませんがルナというキュウコンがいます」
 ウィンさんはその“ルナ”というキュウコンの時だけ名前を呼び捨てにして、親しげな表情になった。なぜ苦笑したかはわからないけど。
 ……たぶんウィンさんにとってルナさんは大切な仲間らしい。
「もし言いにくくなかったら、なぜウィンさんが時間を渡ることになったのか聞いてもいいですか?」
「……いいですよ。ただ、ちょっとややこしくなりますけどね」
 僕の前を歩くウィンさんは静かに背中を向けたまま話し出した。
「僕たちは、フィノンという銀色の毛並みのキュウコン――ルナの母親ですね――の先導のもと、“ルナティック”の野望を阻止しようと活動しています。そのフィノンさんの家系は代々“予言”を行える家系なんですけど、その予言のなかに……未来の救世主とそのパートナーが世界を救う、といった内容のものがあったのです。僕たちはその予言に従い、救世主たちのサポート及び護衛のために未来へ発つことにしたのです。セレビィというポケモンの力を借りて」
 セレビィ……聞いたことがある。たしか仙人が“セレビィは時渡りポケモンだ”とか言ってた。
「で、いろいろトラブルはありましたが何とか救世主たちの元にたどり着けました。……ですがやはり、その時代にも平和を脅かす存在がいて、彼らのせいで救世主たちが暗黒の未来へと――僕らからすればさらに未来へと――引きずり込まれてしまったんです。星の停止を迎えた未来へ、ね」
「“星の停止”!?」
 待って、星の停止って言ったら、僕たちから見れば過去におきかけた事柄だ。なんでウィンさんの方は星の停止を迎えているのだろうか?まさか、ウィンさんのいる世界は、僕らがいる世界と少しずれているのかな?
 ウィンさんは、僕がいきなり大声を出したせいでキョトンとした表情になる。
「“星の停止”に心当たりが?」
「実は……僕たちからみたら、“星の停止”は過去におきかけたことで……僕が生まれる前にすでに英雄が星の停止の危機を救ってくれているんです」
「そうなのですか!?」
 僕がそう言うと、あの冷静だったウィンさんが目を見開いて叫んだ。
「……まさか、“星の停止”を救った者の名前は――“ヒナタ”と“カズキ”、ですか?」
「わ、わかりません。そこまでは覚えていなくて……」
「……っ、そうですか……。そうですよね……」
 うわぁ、物凄く落胆してるよ……! まずい……期待に添えなかった罪悪感が……。
「は、話の腰を折ってすいません」
「いえ。……僕たちは未来世界でもセレビィの力を借りて過去へ帰ろうとしたんですけど、そこでも“ルナティック”の襲撃に遭いました。成り行きで救世主と仲間は無事過去に帰し、守り通すことができましたが……」
 最後らへん、えらく説明省いたね。“成り行きで”の一言で片付けたよ。
「残ったのは“ルナティック”の……四天王と僕だけになりましたが……彼もまた変な奴で、“ルナティック”のくせに敵なのか味方なのかはっきりしないんです。まったく……」
 ……最後らへん、愚痴になってたね。
「で、僕はその四天王と戦って……完敗しました。意識を失って……目を覚ましたらもう誰もいなくなっていて、僕は一人で過去に帰ることになったのです」
「だけど、この時代に来てしまった……?」
「ええ」
 ……ウィンさんの話を聞けば聞くほど、彼がどれだけ仲間思いで強い人なのか思い知らされた。ウィンさんの台詞のなかに、そう思わせるものがいくつかあった。
 “僕らは“ルナティック”の野望を阻止しようとしています”
 “救世主のサポート及び護衛のために未来へ発つことにしたのです。”
 “救世主と仲間は無事過去に帰し、守り通すことができましたが……”
 ウィンさん……この人は、強い。
 彼には誰かを守れる強さがある。戦いでの強さだけではない、心の強さ……。

「――うらやましい」

 僕は思わずそう呟いていた。ウィンさんは僕の言葉を聞いて立ち止まり、振り返る。
「カイさん……?」
 はっ! まずい、つい本音が……。
「え、あ、す、すいません! ふ、不謹慎ですよね、うらやましいだなんて……ウィンさんも大変なのに」
「いえ……。でも、なぜそう思うのか聞いてもいいですか?」
「え? 僕は……今まで誰かに守られることはあっても、自分が誰かを一人でも守ることができた試しがないんです。守らなければならない場面はいくつかありました。でも……そのときに僕はいつも無力で、誰かを――大切な人を一人でも守れる強さがないんです」
 そうだ。リンの時だって、スバルのいた町の時だって、アリシアさんの時だって……。いっつも僕は無力で、誰かに任せっきりだ。
「ウィンさんの話を聞いてると……ウィンさんはすごいと思いました。人のために自分の使命を果たせて、誰かを守る強さがあって……今だって、僕はウィンさんに任せっきりだ。僕がでしゃばったら邪魔になるのはわかってるけど……」
 僕は自分でそう言いながら、ウィンさんの顔をまともに見れなくなった。自然と視線は地面に落ちる。そして、その地面が視界一杯にたまったもので潤んで見えなくなる。何を言っているんだろう、僕は……。
「……顔を上げてください、カイさん」
 僕は視界が潤んだままの状態でウィンさんを見る。彼がぼやけて見えた。
「カイさん、あなたにいったい何があったかはわかりません。いえ、聞かされたところであなたのその気持ちを完全にはわかちあえないでしょう。でも、これだけは言えます。カイさん――本当の強さとは、なんだと思いますか?」
「え……?」
 本当の、強さ……?
「今のあなたには、僕のさっきの話がすごいものに聞こえるかもしれません。でも……誰かを敵から守り通すのだけが、“強さ”ですか? あなたの友達やお師匠さんは、あなたにそうなってほしいと、望んでいるんですか?」
 ……シャナさんは僕の師匠じゃなくて、スバルの師匠だけど……。って、今は関係ないや。
「カイさん、僕は自分に何ができるかを考えた末に“未来で救世主を守る”と決めたんです。これは僕の場合であって、すべての人に当てはまるわけではありません。……考えてみてください、カイさん。
 ――“あなただけに”できる、“本当の強さ”とは何なのかを」
 ウィンさんはそこまで言うと、再び前を向いて僕の前を歩き出した。僕はそんな背中を見て思う。

 ――“本当の強さ”って、いったいなんだろう――。





 クシュンッ。

 私の後ろでリヒトがくしゃみをひとつした。私が驚いて彼を見ると、「いちいち見るな」と脅しに近い声音で言ってきたので、私は渋々前を向く。
 誰かがリヒトのウワサでもしてるのかな?
「そもそも貴様……今おれを見ている暇があるのか?」
 ……ごもっとも。
 残念ながら今の私にはリヒトのくしゃみが意外にかわいかった……なんてことを考える余裕はない。
「あのー……ね? みんな、一旦まずは落ち着かない? ほらー、私たちだってあの突風の被害者なんだし……」
 私は必死になっていた。なぜかって?目の前の軍団を見てもらえればわかると思う。
「うるさいっ! 俺たちの住みかを荒らしてただですむと思うなよ!?」
「だから私たちじゃないってー!!」
 目の前にいるのは黄色い体に黒いしま、四枚の羽と巨大な針を持ったポケモン――スピアーの大群だ。どういうわけか、さっきの暴風で住みかがめちゃくちゃにされたのを私たちのせいだと思っているらしい。
「誤解だよ! ね、だから……」
「問答無用! 全員かかれ!!」
「うわぁああ!?」
 スピアーがその巨大な針をつきだして飛んできた! しかも大群で!
「リヒト! ここはひとまず逃げるよ!?」
「……なぜだ?」
「いや、だってあれはさすがに……」
「問題ない」
 リヒトは私に短くそう言うと、おもむろに懐から碧(あお)い刀身の剣を取り出す。まさか……!?
「氷牙の壱――“刹那”」
 そういった瞬間、リヒトの姿が――消えた。
 ……消えた!? 私は辺りを見回してリヒトの姿を探す。それはスピアーたちも同じだったようで、辺りをキョロキョロ見回している。と、その時。
 キンッ。
 剣が鞘に収まった音で、私たちはリヒトの場所がわかった。――スピアーの大群の後ろである。
 そして……。
「ぐはっ!?」
 スピアーの大群は……一匹残らず倒れた。えぇええ!?
「行くぞ」
 リヒトは何事もなかったかのように歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って!」
 リヒトって……何者!?
 慌てて私がついていこうとすると、リヒトは立ち止まって……。
 クシュンッ。
 ……またくしゃみをした。

 ――あとでカイから聞いた話……カイと一緒にいた人が、リヒトらしき人の噂をしていたらしい――。

ものかき ( 2014/03/03(月) 12:14 )