へっぽこポケモン探検記




















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第四章 “ギルド”編
第三十一話 親方様を探せ 3
 ――“出逢いの森”を襲った謎の突風のせいで離ればなれになってしまった僕たち。誰かに揺さぶられて僕が目を覚ましてみると、そこにいたのは蒼い目をしたイーブイで……?





 蒼い目……?
 イーブイの目ってこんな色をしてたっけ? しかし、透き通った綺麗な色をしていて神秘的だなぁ……。
「……あの……」
「……はっ!」
 イーブイが訝しげな表情で声をかけてきたので僕は我に帰った。まずい、つい凝視してしまった……!
「……その様子ならもう大丈夫ですね」
「は、はあ」
 イーブイが落ち着いた口調で言った。そういえば、僕はいったいどうなったんだっけ……?
「えっと……ここは……」
「わかりませんが、ダンジョンの中でしょうね。あなたはここで倒れていたのですよ。どうやらさっきの突風で気を失っていたようですね」
 そういうイーブイの声は落ち着き払っていて大人びた印象を受けた。なんだか不思議な感じのイーブイだなぁ。決して目の色だけが彼(彼女?)をそういう印象にしているわけではないらしい。
「……あの……あなたは……?」
「おっと、すみません。自己紹介が遅れてしまいましたね。僕はウィン、一応探検隊“クレスント”のリーダーをやっています」
 イーブイ――ウィンさんが姿勢を正してそう言った。探検隊?
「僕はカイと言います」
「カイさんですか。……怪我はありませんか?」
「は、はい。大丈夫です……」
 探検隊、ということは僕たちのいるギルドからやって来たのかなぁ?
「……えっと、まさか、助けに来てくれたんですか? ……ギルドから?」
「え? あ、いや、そうではありません。僕は……」
 ウィンさんはそこまで言うと、後の言葉を僕に言ってもいいものか迷っているそぶりを見せた。うーん、よほど込み入った事情があるのかなぁ……?
「あの……言いにくいなら別に大丈夫ですけど……?」
「……いえ、正直なところ僕もなぜ自分がここにいるのかわからないんです。ですからどうすればいいかわかりかねて……。そうですね。信じてもらえるかどうかわかりませんが、僕の話を聞いてもらえないでしょうか、カイさん」
「え? あ、はい……」
 いきなりウィンさんに話を振られて、僕はそう返事をするしかなかった。
 “なぜ自分がここにいるのかわからない”とはどういうことだろうか。それにしても、なんか急な話になってきたなぁ。



「僕は色々と込み入った事情で……未来からタイムスリップをしている途中でした」
「……タイムスリップ?」
 僕は首をかしげた。
 ん? タイムスリップ? それってつまり……?
「えぇ!? 時間を渡ってきたってことー!?」
 僕の叫び声で驚いたミツハニーたちが一斉に飛び立った。ウィンさんは神妙に頷く。
「そうです。しかし僕が行くべき時間はここではなかったはずなのですが……。ここはいったいどこなんでしょうか?」
「えっと、“出逢いの森”というダンジョンですけど……」
「“出逢いの森”……聞いたことがありませんね……」
 ウィンさんはそこまで言うとその綺麗な蒼い瞳を地面へ向けて黙り込んだ。
 しかし、タイムスリップってことは過去か未来から来たポケモンってこと? ……“僕が行くべき時間はここではなかったはずなのですが”とか言ってたけど……?
 だめだ。頭がこんがらがってきた……。
「――どちらにしろここで考えていても仕方がありませんね。僕はもとの時間に戻らなければなりませんし……。――カイさん、お願いがあるのですが」
「へ? な、なんですか?」
 び、びっくりした……。いきなり話を振られるとは予想外だった。僕は慌ててウィンさんを見る。
「僕はこの時代……この世界のことをよく知りませんし……一緒に行動をしてもよろしいでしょうか?僕の話をすぐに信じろと言っても無理な話だとは思いますが――」
「――いえ、僕は信じます」
「……え?」
 僕の言葉に思わず目を見開いてウィンさんが声をあげた。どうやら、彼は僕が自分の話を信じると言うとは思っていなかったらしい。だからといってそんなに驚かなくても……。
「……信じてくれるのですか、僕の話を?」
「ええまあ……。僕は……元人間のポケモンとか、翔べないクレセリアとか、もう一人の自分とか……いろんなことを体験したせいでちょっとやそっとのことじゃ驚かなくなっちゃったんです。だから、タイムスリップもありかなって思って……」
「……カイさん」
 ウィンさんが僕を見て呟いた。しかし……我ながらに動機が不純だ。逆に僕の言葉を信じてもらえるか心配になってきた。
「も、元の時間に戻りたいんですよね!? だったら、とりあえずこのダンジョンを一緒に抜けましょう! 僕も仲間とはぐれちゃったし……よろしくお願いします、ウィンさん!」
 ちょっと弁解ぎみに言った。うわ、なんか押し付けがましくなっちゃった。
「カイさん……」
 しかしウィンさんは僕の言葉を受けて大きく目を見開いた。そして……。
「ありがとうございます。よろしくお願いします、カイさん」
「はい!」
 こうして僕はウィンさんと行動を共にすることになった。




「……えっと、つまり? あなたは時空を渡る力を持っていて、その力を使って元の世界に戻るはずだったけど、なぜか今回は失敗してこの世界――時間に来ちゃったってこと?」
「……ああ」
「で、あなたは元の時間に戻りたいけど、なぜか戻ることができない、と」
「そうだ」
 私はリヒトから一通りの話を聞いて思わず唸った。
 ま、まさかリヒトが別の時間から来たとは……。私がそんなことを考えていると、リヒトは私の表情を横目で見て言う。
「信じろとは言わない。にわかには信じられないだろうし、ましてや信じてもらおうと思って話したわけではない」
「信じないとは言ってないじゃない。ちょと驚いたけど……」
「……まさか、信じるのか?」
 リヒトは少しだけ驚きを含んだ声で言った。……私が逆に疑われている?
「……だって、私は今までいろんなポケモンを見てきたし、私自身もにわかには信じてもらえないような存在だから……。今さら時間移動って聞いたって、信じちゃう。私も普通じゃないかもね」
 それに、さっきの桃色の剣で色々見せてもらったから、リヒトの身の上の話で疑う所はない。
「……私はちゃんと自分で考えた上で“信じる”って言ってるから」
「……そうか」
 リヒトはそう答えた。そして……遠い目をして森の彼方を見た。おそらく、元の時間には大切な誰かがいるんだね……。え? なんでわかるんだって? ……女のカン?
「……とりあえずここで考えていても埒が明かないね」
 私が立ち上がると、リヒトの視線が上がる。
「ひとまずこのダンジョンを抜けた上で元の時間に戻る方法を考えよう。私もはぐれた仲間と合流しなきゃいけないし。それでいいでしょ?」
「……貴様は……」
 リヒトは小さく何かを呟いた。ん?何?よく聞こえなかったんだけど。
「今何か言った?」
「……貴様は、どうして見ず知らずのおれにそこまで……」
「目の前で誰かが困ってたら助けちゃうタチなの、私は。でも、誰だってある程度はそうじゃない?」
私がそう言うと、リヒトが――微笑んだような、気がした。
「貴様は変わった奴だ」
「あ、そう。それって誉めてるの?それとも、呆れてるの?」
「……」
 リヒトは私の質問に答えずに、マントのフードをかぶって完全に姿を隠してしまった。……しょうがないね、まったく。
「じゃあ、行こうか」
 早いところカイと合流しないと彼のことだからダンジョンのポケモンにやられちゃうかも。私はダンジョンの奥に向かって歩き始めた。リヒトは静かに後をついてくる。





 “それって誉めてるの?それとも、呆れてるの?”
 スバルが放ったその質問に対し、リヒトは誰にも聞こえない声でつぶやいた。



「……質問に答えよう。どちらでもない――感謝している」

ものかき ( 2014/03/02(日) 14:45 )