へっぽこポケモン探検記




















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第四章 “ギルド”編
第二十七話 トーク&トーク再び
 ――シャナさんが帰ってきたことで沸き上がったギルドのポケモンたち。正直僕らはほぼ空気と化していたけど、シャナさんが無事にギルドへ帰還して、温かく迎え入れてもらえたのは嬉しい限りだね。





 ひとまず僕らはサザンドラのラゴンさんに連れられて、彼の執務室らしきところへ入った。これは余談だが、ラゴンさんは“色違い”のサザンドラらしい。
「正式な自己紹介がまだだったな。俺はサザンドラのラゴン、このギルドの親方……代理だ」
「え? “代理”?」
 僕は思わず声をあげてしまった。すごく威厳のある人だったからてっきり親方かと思ったけど……。
「親方様は不在な時が多いのだ。だからその時は俺が代理をすることにしている」
「「へぇー」」
 僕とスバルは同時に声をあげた。ギルドに親方がいないときが多いって、どうなんだろう……?
「それで、君たちは……?」
「あ、僕はリオルのカイです」
「私はスバルです!」
 ラゴンさんが僕らの方を見たので自己紹介をした。するとラゴンさんは何を思ったのかこんなことを言った。
「シャナ、俺はお前が子持ちだとは聞いていなかったが?」
「……は?」
 シャナさんは呆けた声を出した。
 シャナさんが子持ち?
「……ふふっ!」
 見るとスバルは必死に笑いをこらえているところだった。一方、当の本人は完全に赤面して……。
「ち、違いますっ! こいつらは……!」
「私は師匠の弟子ですよ!」
 スバルがラゴンさんに向かって鼻高々に宣言したここぞとばかりにね。
 するとラゴンさんは、今度は鋭い目を大きく見開いた。
「……弟子? お前に、か?」
「え、ええまあ……」
 シャナさんは曖昧に答えるとラゴンさんは沈黙してうつむいた。そしてその肩を小刻みに震わせる。いったいどうしたんだろう、と僕ら三人が成り行きを見守っていると……?
「……くくくっ」
 いきなり声を漏らした。そして――。
「あーっはっはっはっはっ!!」
 ――いきなり哄笑した……?
「いやー! シャナに弟子!? ギルドにいた頃は弟子なんて恐れ多くて絶対に持てないとか言っていたお前がか!? あっはっは! 明日は槍が降るかもなぁ! ひーっ! 腹が痛い! あっはっは!!」
『……』
 僕ら三人は狂ったように笑うラゴンさんを中ば呆れぎみに眺めていた。ラゴンさん……笑いすぎ……。



「くくくっ……いや、すまないな。はは、それでは本題に入ろうか」
 いまだに笑いの余波から脱出できないままラゴンさんは僕らに言った。シャナさんはため息をつきながら僕らが今まで体験してきたことを話し始める。
 僕があの町にやって来たこと、“イーブル”とND、ダークライの存在、アリシアさんと“満月のオーブ”、そして……“もうひとりの僕”。
 全てを話終わった後、シャナさんはちょっと疲れた様子だった。
「うむ……。どうやら君らはとんでもない情報を持ってきたな」
 僕らの話を聞いたラゴンさんの第一声はそれだった。
「“とんでもない”? いったいなにがですか?」
 シャナさんは首をかしげてラゴンさんに聞く。僕とスバルもシャナさんと同じ気持ちだった。するとラゴンさんは、何を言っているんだという顔になる。
「とんでもないことだぞ? いくつかの探検隊が危険を冒してまで調べても得られなかったことたちを、成り行きとはいえこの短時間でいくつも持ってきたんだからな! “イーブル”のメンバー、NDの元凶、それを払う“満月のオーブ”の存在……お手柄だぞ、三人とも!」
「……なんかわかんないけど、やったね! カイ!」
「う、うん。そうだね」
 いきなりラゴンさんに褒められて、正直僕は悪い気がしなかった。僕らは小さくハイタッチをするづ、パンと小気味良い音が控えめに響いた。
「それじゃあ、我がギルドがすべきことは、そのアリシアという名のクレセリアをこちらに連れてくるのと“三日月の羽根”の回収だな?」
「はい、今のところは。いまだに“イーブル”の目的はわかりませんが……」
「それも追々調べていくさ。では、クレセリアの件はレイに任せることにしよう。彼女の“テレポート”で送らせる。“三日月の羽根”の回収はギルド総出でやるとして……」
「あのぉ、ラゴンさん。私たち……ここに弟子入りして、探検隊を結成したいんですけど……」
 話がまとまろうとしていたところに、スバルが恐る恐る声を上げた。するとラゴンさんはなぜか申し訳なさそうな顔になる。
「悪いが、スバル。探検隊の結成は親方様しか出来ない。代理では無理なんだ」
「ええーーーーー!?」
 スバルが大声で叫んだ。僕は思わず耳を塞ぐ。
「せっかくここまできたのにー! ラゴンさん、その親方様はいつ帰ってくるんですかぁ!?」
「いや、それが……。俺にもわからない。親方様はなにぶん自由奔放なお方だ。行き先も告げずにいきなりふらりとどこかへ消えて、そろそろ弟子たちも忘れかけた頃にギルドに戻られたりする」
「な、なんですって……?」
 スバルはがっくりと膝をついた。そんなにショックだったの……。なんか気の毒だなぁ。
 スバルが半ば放心状態になっていると、シャナさんもまた控えめにラゴンさんに言う。
「ラゴンさん、俺も一からまた探検隊を始めようと思ってるんですけど……」
「……は?」
 今度はラゴンさんが呆けた声を出す番だった。理由はわからないけど、彼はシャナさんに“何言ってるんだこいつ”みたいな視線を送る。
「どういうことだ、それは」
「いや、どういうことと言われても……ほら、俺のチームは俺がここを抜けるとき解散させたじゃないですか……。ポケモン探検隊連盟――PEUに申請書を出してもらえるようにラゴンさんに頼んだはずですけど……」
「……ああなんだ、その事か!」
 ラゴンさんはやっと合点がいった様子で叫んだ。そして、シャナさんには衝撃的とも取れる言葉をいい放つ。
「お前のチーム……まだ残ってるぞ?」
「……は?」
 シャナさんは今度こそ我が耳を疑ったようだった。いや、シャナさんだけじゃない。“俺のチームは無い”と聞かされていたスバルもまた、耳をピクピクさせてわが耳を疑っているようだ。
「な……ど、どういうことですか!?」
「文字どおりの意味だ。お前のチーム――“フレイン”は、まだ活動を停止していない」
「そんなはずは! チーム存続の条件は、隊員が一人以上いなきゃいけないのが決まりでしょう!」
 事実を受け入れがたいシャナさんは、切羽詰まった声でラゴンさんに言う。
「俺が抜けたことで“フレイン”の隊員はゼロになったはずだし、チーム解散の申請書もあなたに渡したはずですよね!?」
「そのチーム解散に……待ったをかけた奴がいた、と言ったら?」
 ラゴンさんはニヤリとしてシャナさんに言った。まるで“お前がそんな表情をするのはすでにわかっていた”、という風に。シャナさんはゴクリと唾を飲んで次の言葉をやっと絞り出す。
「いったい誰なんです? ……その“チーム解散に待ったをかけた奴”というのは……?」
「お前がよく知っている奴だよ。わからないか?」
「焦らさないでください」
「まあまあ、そう焦るな。……カイ、スバル、はるばるギルドまでご苦労だったな。そろそろ腹が減ったんじゃないのか?」
 いきなりラゴンさんは僕らに話を振ってきた。そういえば、確かにそろそろお腹が空いてきたかも……。
 僕はスバルの方を見てみた。すると彼女も僕の方を見て「カイも?」と小声で聞いてきた。するとラゴンさんはまたさっきのにやけた顔になる。
「さっきのサーナイト――レイが部屋に案内してくれるから受付へ行ってくれ。夕飯も食堂へ行けば食える。それじゃあな。
 ……シャナ、お前は残るんだよ」





「よし、これで二人きりだな」
 ラゴンはふう、と一息ついて言った。一方、シャナの方は先程の話が中断されたせいかかなり眉をひそめている。
「なんだか、俺の訴えがていよくあしらわれた感じが……」
「いちいちうるさいな。チーム存続云々は後で話す。だがその前に……」
 シャナの不満を“うるさいな”一言で片付けたラゴンは一拍おいて……。
「では聞こうか、話の続きを。……まだ話していないことがあるんだろう? あの二人――カイとスバルについて」
「……さすがラゴンさん、全てお見通しってわけですか」
 シャナはラゴンの鋭い勘に驚きを通り越して戦慄した。昔からいやに勘が鋭い人だったが、まさかそこまで見破られていたとは…… 。
「お前の子は二人ともいわくありげな感じだったな」
「ええ……。って! だから子供じゃないんですって! そのネタ引っ掻き回すのはやめてください!」
「ははは! まあいいじゃないか。……話してみろ」
 シャナは思った。ラゴンさんは俺をからかうためにわざと言っている、と。
まったく困ったものだ。
「まずスバルなんですが……あいつは記憶喪失なんです」
「記憶喪失?」
 ラゴンの声音が変わる。
「俺の家の近くで倒れていたんですが……なぜか大怪我をしていて、しかも覚えているのは自分の名前だけで」
「大怪我? ……まさか、“イーブル”にやられたのか?」
「今のところはわかりません。“イーブル”に関連があるのか、ないのか……」
「うむ……」
 ラゴンは唸った。あのピカチュウは確かに他のポケモンと雰囲気が違って見えたが、その原因は記憶喪失だったせいか? ……いや、それとも別の何かか?
「それで、カイの方は?」
「カイはスバルよりはっきりしています。……カイは、“イーブル”に狙われている」
「……なんだと?」
 今度こそラゴンは完全に百八十度声音を変化させる。さすがに“イーブル”に狙われていると言われて驚かないはずがなかった。
「確かなのか?」
「確かです。あいつらがカイの居場所を見つけるためだけに俺たちの町を襲ったぐらいですから」
「……なぜ狙われていると思う?」
 ラゴンはいい意味で興味津々な様子で席から身を乗りだした。端から見れば不謹慎かもしれない。
 シャナはラゴンに振られた質問にしばらく考える素振りを見せた後、確信に近いものを込めて口を開く。
「“もう一人のカイ”が“イーブル”にとって脅威に近いからではないでしょうか?」
「興味深い。詳しく考えを聞かせろ」
「“もう一人のカイ”が何者なのか、どうしてカイに宿っているかはさっぱりですが、その強さは尋常ではありません。あのダークライを軽く下したんですから」
「つまり敵さんは何らかの方法で……カイに“もう一人のカイ”が宿っていることを知り、手に終えなくなる前に消そうと考えたわけか」
 ラゴンがシャナの言いたいこと察して言葉を継いだ。シャナは神妙にうなずく。
「しかし……恐らくカイにもう一つの魂を宿していることは、“イーブル”の中でもごく一部しか知られていないようです。あのダークライが知っていたかどうかはわかりませんが、油断していたみたいですし」
「それはつまり……」
 ラゴンはここまで言って口をつぐんだ。彼はある一つの事実にたどり着いてしまった。シャナもまた同じ考えに行き着き、二の句が継げない。
 ある一つの事実、それは――。
 ――ダークライよりも上の存在がいるという事実である――。






 ギルドから場所は変わる。
 そこはとある広間だった。照明は全て消されていて、その部屋は全体に暗い雰囲気を醸し出している。
そんな広間にある一匹のポケモンがたたずんでいた。姿は部屋が薄暗いせいでぼんやりとしか見えない。と、そこに……?

「――まったく、ひどい目に遭ったよ」

 広間の中にもう一匹のポケモンが入ってきた。――ダークライである。
「……遅かったな」
 ポケモンがそう言うと、ダークライはわざとらしいぐらいに肩をすくめて見せる。
「私は聞いていないんだけど。彼――“もう一人のカイ”があんな力を秘めていたとは、ね」
 ダークライがそう言うとポケモンはフッ、と乾いた笑いをもらした。
 ここは“イーブル”の本拠地の一室である。
「ちょっとそれはひどいんじゃないのかな。君は知っていたんだろう? “もう一人のカイ”がもう目覚めていたってこと。言ってくれないなんてひどいね」
 ダークライはわざと悲痛に顔を歪めて被害者を装う口調になった。しかし、ポケモンはそれに取り合うことはせず、
「覚醒が思ったよりも早かった、と言ったら納得するか」
 と言った。
 するとダークライは青い目を不気味に光らせる。
「わかっているよね? 私は君に協力してあげているんだよ。そんな態度でいたら後で痛い目に遭うのは……」
「わかっている。今回は私にも非があった。だが、久々に強い相手に出会えたのだ。収穫ではあっただろう」
「うん? ……まあそう言われてしまったら返す言葉がないね」
 ダークライはそこまで言って、自身の体を床に滑り込ませ――影となった。
「ま、今度からは気を付けてよね」
 そして、影は静かに消えていった。
 再び一人になったポケモンは、静まり返った部屋を見渡して呟く。

「……私の目的のためなら、どんな犠牲も必要なのだ。たとえ誰が邪魔しようとも。……邪魔が入ったら、そのときは――」

ものかき ( 2014/02/26(水) 15:41 )