へっぽこポケモン探検記




















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第三章 覚醒編
第二十三話 全員無事ってことで
 ――僕の意識が途切れたのはいつ頃だったかな……? その間に、いつの間にかダークライとの攻防には決着がついたらしい。誰が戦ってくれたんだろう?





 ……ここは、どこだろう……夢の中かなぁ……。前にもこんなことなかったっけ……?
『前にもあった。夢で会うのは二度目だ』
 ……また君? 君……誰? どうして僕の夢に出てきて安眠を妨害するのかな。
『……私は……そうだな……。強いて言うなら“もう一人の君”か』
“もう一人の僕”? 変なの……。
『詳しいことはまだ話せない。だが、私は君の味方だ』
 味方……そう……安心。それじゃあ、寝かせて。さよなら……。
『……お・き・ろ』
 ……君は僕の目覚ましなの……?





 ……変な夢を見た。それはもうとてつもなく変な夢だ。なんか、“もう一人の僕”と名乗る奴がなれなれしく僕に話しかけてくる夢。誰なの? あれ……。
 そう思いながらうっすらと目を開けてみる。と、目の前には――スバルの顔が。
「ひぃやぁあ!?」
 ……彼女はなぜか僕を見て慌てて叫んだ。そして顔を離す。あのー……?

「い、今のは別にそんなんじゃないからね!! ただ……。そう! 様子を見るためにやったことだからねっ!!」
 スバルは顔をマトマの実のように火照らせながら、いきなり僕に弁解するような口調でそうまくし立てた。……正直、何のことをいっているか全くわからない。
「……スバル?」
「あ……い、いや、なんでもない」
 スバルは軽く咳払いして言った。
 そう言えば、僕はどうなったんだっけ? 確かダークライとアリシアさんとシャナさんが……? ……あ、そうだ! アリシアさん!!
「スバル……アリシアさんは無事? 大丈夫なの?」
「うん。なんとか助かったよ。この長老さんの家の違う部屋にいるの」
「そう……よかった……!」
 僕はここにきて初めて心の底から安心することができた。アリシアさんは……生きてるんだ……!
「……君のおかげで……」
「……ん? なにか言った?」
「……ううん、何にも……体の方は大丈夫?」
「うん……なんか激しく動いた後みたいに体全体の節々が痛い。なんでだろ?」
「……」
 僕がそう言うと、スバルはなぜか黙り込んで下を向いた。……なんかスバルの様子がおかしい。顔が赤いし、熱でもあるのかな……。
 僕はスバルの額に手を当ててみた。
「うわぁああ!? な、なにするのッ!?」
 スバルは僕の手をどかしながら叫ぶ。そ、そんなに怒らなくても……。僕はただスバルに熱でもあるんじゃないかって心配で……。
「も、もう……! カイったらッ!!」
 スバルはそのままなにかを叫んだ後、逃げるように部屋の扉を開ける。
 ガチャッ!
「うわっ?」
 ちょうど開け放たれた扉の先にはミーナさんが。スバルはそのままミーナさんの脇を通りすぎて部屋を出てしまった……。
「……カイさん?」
 ミーナさんがジト目でこちらを睨む。……え、え?
「スバルさんに何かしたんですか?」
「い、いえっ!?」
 ご、誤解だよ!! どうして僕がこんな目に……! 大体、あっちが妙に挙動不審なんじゃないか!!
 僕はそう訴えたい衝動にかられた。が、ミーナさんはそれ以上この事には触れずこう言った。
「ま、それはいいんですけど。カイさん、アリシアさんがみんなに話したいことがあるから来てくださいって言ってますから、一緒に行きましょう」
「え? アリシアさんが?」




 全く、本当にあり得ないんだから、カイは! 私にあんなことをしたくせに何にも、全く、全然憶えてないだなんて! 反則だッ! この羞恥心をどうしてくれるっ!? 一発“十万ボルト”を食らわせてやりたい!!
 私がやり場の無い怒りをどう発散しようか考えていると、ふと『カイ』のことが頭に浮かんだ。
 ……『カイ』……君はいったい何者なの? どうして何も教えてくれなかったの? カイと別人なのは確かなはずだけど……(だって、普段のカイでは私にあんな『仕打ち』をできないに決まってる。)自分で名乗らないから、カイも知らないみたいだし……。
『……君、さっきから耳鳴りがしているね?』
 ……はっ、やだ、私何を思い出してるの!? 駄目駄目駄目!!
 私は火照る頬を両手で打ち付けてあのときの記憶を無理矢理追い出す。……よし。
 あーあ、本人には悪いけどカイとはしゃべりにくくなっちゃったなー……。だからって、師匠のところにいったら怒られるに決まってるから行きたくないし……。……師匠、もう目を覚ましてるよね、多分。私に会った瞬間「どうしてあんな無茶なんかしたんだ!?」とか言うに決まってる。
 どうしよう。誰にも会いたくないなぁ……。でも、長老さんの家を無闇にうろつくわけにはいかないし……。
「どうしたんだ?」
「うん……。なんか誰と会っても気まずい雰囲気で……って!?」
 いきなり後ろから話しかけられて私は飛び上がった。だ、誰!? 私が後ろを振り替えると、目の前には赤い毛の脚が。自然と私の視線は上へとあがり……?
 師匠の目が私を見下ろしていた――。
「し、ししょー……?」
 冷や汗が勝手にだらだらと流れていく。今一番会いたくない人が現れてしまった……!
「あ、はははは……!」
 私は笑いながら一歩、二歩と後退していく(我ながら情けない笑いだ)。が、師匠は逃げようとする私の首筋(人間に例えるなら襟首)をつかんで逃がさなかった。無念……!!
 私を掴んだ師匠の姿は所々包帯や何やらが貼られていて完全に怪我人の出で立ちだ。そんな怪我人バシャーモは私を睨んで静かに口を開いた。
「スバル……俺が何を言いたいかわかるな?」
「……」
 うう……。私がうつむいてだんまりを決め込むと、師匠はため息をついて私を地面に下ろした。
「……あのときはバタバタしてちゃんと言えなかったが、どうしてあんな無茶をしたんだ?」
 恐らく師匠は“イーブル”の幹部が現れたときのことを言っているんだろう。
「だって……私に出来ることをしたかったんだもん……」
 私は弁解混じりにそう言った。だって、私はそんなに強くないから足止めぐらいしか思い付かなくて……。
「よく考えてみろ。『出来ること』と『したいこと』は違うんだ。『したいこと』をしたくても、それが『出来ないこと』ならそれは『無茶』にすぎない。今回はたまたま大丈夫だったからよかったものの……」
 師匠が『説教モード』に入った。私は妙にイライラする。
「師匠だってよく無茶するじゃない! 今回だってそうでしょ!? 私……たとえ無茶しようとも、自分の正義を曲げたくない!!」
「違う!」
 師匠は叫んだ。私は一瞬肩を震わせる。
「違う、そういうことじゃないんだ!! 俺が言いたいのは……ぐっ……」
 師匠はそこまで叫んだと同時に、受けた傷が響いたのか苦しそうに顔を歪めて膝をついてしまった。……やっぱり本当は動いちゃ駄目なんだ……!
「し、師匠……! 大丈夫ですか!?」
「……俺が言いたいことは、そうじゃない。俺は……怖かった……また失ってしまうかと思ったんだ。お前が残ると言ったとき……!!」
「……」
 師匠が怖かった? 私を、失うかと思って……!?
 ……“また”?
 どういうこと……?
「……スバル……お前を失いたくない。頼むからもう無茶はしないでくれ……!!」
「し、師匠……」
 師匠のただならね表情と声音に、私はただただ申し訳ない気持ちになった。こんなに心配させてたんだ、師匠のこと……。
「……ごめんなさい。私……」
「……謝まらなくていい……今回無茶はしたが、倒したんだろう? 幹部を。……よくやった」
 師匠の言葉は、やけに私の心に響き渡った。怒られたけど……初めて誉められた……!!
「師匠……今回は心配かけたけど、大丈夫ですよ? 私は……見た目よりヤワじゃないんですから」




 僕はミーナさんに連れられてアリシアさんがいる部屋へ案内してもらっている。
「アリシアさんの様子はどうなんですか?」
 僕はミーナさんに恐る恐る聞いた。僕は空のいただきであのとき、アリシアさんの命が少しずつ薄れていく恐怖が身に染み付いていた。忘れたくても忘れられない。
「アリシアさんはよほど体が丈夫なんでしょうね。一時はかなり危険な状態でしたけど、今は意識もはっきりしてますし命に別状はありませんよ」
「……よかった」
 さっきスバルにも聞いたけど、やっぱりアリシアさんは助かったんだ……!!
「だけど驚きましたよ、カイさん! あなたあんなことができたんですね!!」
 目を輝かせたミーナさんが僕に言った。はい?“あんなこと”ってなんのこと?
「え……覚えてないんですか? アリシアさんを救ったのは他ならぬカイさんじゃないですか!!」
「ええ!?」
 僕がアリシアさんを!? まさか。まっったく覚えてない。第一、僕はあのとき極限の緊張状態にあったせいか、記憶が途中から全く無い。
「えー? 格好よかったですよ? その時のカイさん! ……正確が百八十度変わったのには驚きましたけど」
「えぇええ……?」
 そんなこんないいながら僕らは廊下を歩き続ける。長老さんの家……ものすごく広くない? まだアリシアさんのいる部屋まで着かないんだけど。と、ミーナさんがやっとある部屋の扉の前で立ち止まった。
「ここですよ」
 そう言って、ミーナさんはノックをした後扉を開いた。部屋の中にはアリシアさんはもちろん、スバルとシャナさんもいる。(シャナさんは“怪我人”スタイルだったが。)
「アリシアさん! シャナさん!」
「カイ、無事だったか」
 シャナさんがほっと息をつきながら言った。とりあえず、これで全員の無事がひとまず確認できたようだ。
 僕はアリシアさんの横に腰かける。
「アリシアさん、大丈夫ですか?」
僕 が声をかけると、アリシアさんは恐れ入った、という風な表情になる。
「……九死に一生を得た感じです。助けていただいてありがとうございます、カイさん」
「ははは、記憶に無い……」
 僕らがそんな会話をしていると、全員をぐるりと見渡したシャナさんが次のように言った。
「さて……全員揃ったところでアリシアさんが俺たちを集めた理由を聞きたいが、その前に……」
 一拍おいて……。
「まずは、お互い別れた後のことを話そう。全体像が見えなくては話が分かりにくいだろうからな」

ものかき ( 2014/02/19(水) 14:21 )