第二十話 混戦、混乱 後編
――三つ巴スクランブルもいよいよ佳境! “ハイパーボイス”に苦戦中のスバルは、突破口を開けるか。
★
――私が知りたいのはそこじゃない!
頭が割れそうな痛みに耐えながらスバルは記憶を巡らせる。“ハイパーボイス”を相殺する方法はいったい、彼女の記憶のどこに隠されているのか?
☆
「“十万ボルト”!」
ピリッ。
「……」
スバルは、そう叫んだ後に出てきた電撃を見て、言葉が出てこなかった。ジトッとした目で電撃が落ちた場所を見つめる。
「……あーはっはっは! いや、これは傑作だ!!」
そんなスバルを見て、ルテアは大笑する。さっきの電撃がよほど面白かったらしい。もちろん、ルテアに笑われて面白いスバルではない。
「はいはい、面白いですねー」
「いや、ごめんって! 俺が悪かった。いや、しかし……かわいい“十万ボルト”だな」
「……怒るよ」
スバルはルテアに言った。ルテアは、スバルの本気な声音に、やっと笑うのをやめる。
「まだまだ練習し始めたばかりだ、焦らずいけ。お前はセンスがあるから、たぶんマスターするのにそんなにかからないと思うぜ?」
「……だといいけど」
スバルはぶっきらぼうにそう言った。
「ああ……言い忘れてた。“十万ボルト”を積極的に練習するのはいい」
と、ルテアはふとあることを思い出したような顔つきになる。
「だが……一つ気を付けろよ」
「何が?」
スバルは耳をピクピクさせた。
「間違っても慣れていないうちから自分の近くで“十万ボルト”を撃とうとするなよ?」
「……え?」
自分の近くで技を撃つなとは、どういうことだろうか?
「“音”だよ」
「音?」
「ああ。ほら、電気技ってのは音がすごいだろ? 音に慣れない奴が大技を近くで撃たれたら気絶もんの音量だ」
「まあ、そうですね」
スバルは、頭で理解できてもいまいち納得がいかない様子だ。ルテアは引き続き説明をする。
「この場合、まだ“十万ボルト”だからそこまで大音量じゃないかもしれねぇ。だが、“かみなり”や“放電”ならどうなる? 大轟音だろ? そんなもんを自分の近くで撃ち落として練習してみろ。毎回気絶する! ま……慣れたらいいんだけどもよ?」
★
「それだッ!!」
スバルは思わず叫んでいた
――そうだ、わかったよ! “ハイパーボイス”を相殺する方法を!!
スバルはバソンと向き合った。
「どぉーしたのぉおおお!?」
スバルのこの行動には、バソンも不思議がって首をかしげた。
「なぁあああにぃいいい!?」
「“ハイパーボイス”……受けて立つよっ!!」
「えぇえ!? いいのぉおお!?」
「うん!!」
バソンは一瞬キョトンとした後、スバルの言っていることがやっと理解できたらしく、大口をあけた。“ハイパーボイス”を放つ態勢だ。スバルは、緊張のせいか冷や汗が流れるのを感じる。
――私が“十万ボルト”を撃てるのはせいぜい二、三発。いや、私の体力を考えると……二発!! 二発が限度、チャンスは二回! これで決める!
「“ハァイィパァアアアアーボォオオイィイイイイイスッ”!!」
来た!!
スバルはその瞬間、“10万ボルト”を頭上へ高く打ち上げた。その間にも、“ハイパーボイス”は空気を振るわせて向かってくる!
――私は、電気のコントロールがうまくできない。でも、お願い! 今だけ、言うことを聞いて!
「うりゃ!!」
スバルは打ち上げていた“十万ボルト”をまっすぐ地面に向けて軌道をそらす。お願い、“落ち”て!!
クイッ。
電撃は、スバルが願った通り、打ち上げた場所から方向転換し、バソンとスバルのちょうど中間地点を目指してまっすぐ地面へとせまる。長々と説明したが、今のは“ハイパーボイス”が放たれてから一瞬のことだ。
そして、すべての条件が揃った――。
「いくよ――“サウンドボルト”――!!」
★
「覚悟しろクーガン! これがボクの全力だ!!」
スカイフォルムへとフォルムチェンジしたミーナは、そう宣言した瞬間――姿を消した。
「んなっ!? ど、どこいった!?」
キョロキョロと辺りを見渡すクーガンすると……?
「ここだよ」
「!!」
真上から声が降ってきた!
「“エアスラッシュ”!?」
「ぐぁああああ!?」
――いつの間に!? っていうか、空を飛べるのか!? 反則だ!?
クーガンは体勢を建て直しミーナに狙いを定める。
「くそっ! “辻斬り”ッ!」
「遅い」
またミーナの姿が消えた。恐らく、高速で移動しているだろうが、今のクーガンには消えたように見える。
今度はクーガンの斜め後ろにミーナが現れる。
「“エアスラッシュ”!」
今度は右隣。
「“エアスラッシュ”!」
次は真後ろ。
「まだまだ、“エアスラッシュ”!!」
「くっそぉおおお!!」
連続で放たれる“エアスラッシュ”をクーガンはすべて受けている。先ほどからミーナはクーガンの死角で攻撃する。ミーナの姿を目でを追うことができない。
「“ヘドロ爆弾”!!」
「どこ狙ってるんだ?」
「うるせぇッ!!」
今のクーガンは完全にパニック状態だった。それは逆に、ミーナが大技を撃つのには絶好のチャンスである。
「そろそろ終わりにしようか!!」
「はぁ、はぁ、どこにいやがるッ!?」
クーガンはキョロキョロ辺りを見渡す。と、その時。
「ここだよ」
「!!」
シュッ!
最後にミーナが現れたのは、クーガンの目の前だった。
そしてニコッとミーナは不敵に笑い――。
「“ソーラービーム”ッ!!」
まばゆい光がクーガンの前で放たれた!
「いっ――!?」
もちろん、避けることはできずに、クーガンの絶叫が空のいただきに轟いた。
そして、“ソーラービーム”が消えた頃には、完全にノックアウトしたクーガンの姿があった。
「ふん、口ほどにもない」
そう言うミーナの表情は得意気だった。
★
「いくよ――“サウンドボルト”!!」
地面に向かった“10万ボルト”は、スバルとバソンの間で……。
ガシャァアアアアンッ!!
轟音を撒き散らしながら地面へと落ちた。そして――。
シン……と、辺りが水を打ったように静まった。
――成功した……! “サウンドボルト”!!
音と言うのは空気の振動だ。バソンの“ハイパーボイス”ももちろん空気の振動であるからこっちはその“空気の振動”をなくせば相殺できるわけである。
では、空気の振動を無くすにはどうしたらいいか?
簡単な話、こっちも同じように空気を振動させ、二つの振動をぶつけてお互いに相殺し合えばいい。そのためには“ハイパーボイス”と同じぐらいの轟音をかき鳴らさなくてはならない。
そこでスバルが考えたのが“サウンドボルト”だ。
“十万ボルト”を高く撃ち上げて地面に打ち付ける。かみなりが落ちるのに限りなく近い状態をつくることで轟音をかき鳴らそうというスバルの作戦だ。
本当はかみなりがよかったんたが、背に腹は代えられない。“サウンドボルト”は、いわば“かみなり”もどきだ。
しかし、本家には劣るものの、“サウンドボルト”はしっかりと轟音を撒き散らしてくれた。後はお互いの空気の振動がぶつかり合って相殺してくれる。振動が無くなれば、音も消える。スバルの作戦は理想的な形で成功した。
「あ……?」
バソンはいきなり音がなくなったこの状況が理解できなかった。大口を開けたまま固まっている。
スバルはそんな隙だらけのバソンに向けて走る。このチャンスを逃すわけにはいかない!!
――バクオングの弱点は、大口を開けることだ!!
スバルはバソンの目の前で立ち止まる。そして……!?
「“十万ボルト”!!」
「あがががががッ!?」
隙あらば大技、スバルはバソンの口の中に“十万ボルト”を叩き込んだ!! バソンの口の中で、電撃が炸裂する。 そして……?
「……」
ドオン、とバソンは大口を開けたまま白目をひんむいて倒れた。
「はぁ、はぁ……。やっ……た、バソンを……倒……し……」
スバルは、そこで意識を手放し、静かにその場に倒れ込んだ――。