へっぽこポケモン探検記




















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第三章 覚醒編
第十九話 混戦、混乱 中編
 ――三つ巴のバトルは引き続き混戦中。六匹の間では熾烈な攻防が続いていた。一方、カイは……?





「アリシアさん!! しっかりしてください!!」
 僕は、アリシアさんの耳元で名前を呼び続けた。……だけど、反応がない。アリシアさんはか細い呼吸をしていた。体温が徐々に下がり始め、それに対して僕は、それらの症状が生からどんどん遠ざかっているものだと嫌でも思い知らされた。
 ど、どうしよう……! こんなときどうしたらいいの……!?
 僕ははパニック寸前だった。目の前に危険な状況のポケモンがいるのに、なにも出来ない……まるっきりあの時と同じだ。
 リン……!!
 いやだ、嫌だ! あの時みたいになにも出来ないでいるのは!! なにか助ける方法は!?
 僕は肩にぶら下げたバッグの中身を探る。くそっ! こんなときに何にもないなんて!!
「……あ、あなたは……?」
「え……あっ!」
 アリシアさんがうっすらと目を開けて、消え入りそうな声を上げる。気がついた!
「アリシアさん、大丈夫ですか!?」
「……ダークライは……!?」
「え? ダークライって?」
「……あ、あの……黒い、はっ……ポケモンです……!」
 そうか、あのポケモンはダークライって言うんだ! そのことで納得した僕は、チラッと向こうの状況を見てアリシアさんに言う。
「今、シャナさんと交戦中! あのポケモンはいったい何者なんですか!? どうしてアリシアさんが、こんな……!」
「……これを……!」
 アリシアさんは息も切れ切れにこう言って、どこからか取り出した羽根――金色に輝く羽根を僕に差ししてきた。
 な、なに? これ……。僕は訳がわからないままそれを掴んだ。
「ダークライは……うっ、はぁ……そ、それを狙って……! お願い……それを渡さないで……!」
「わ、わかったから、もう喋らないで!」
 僕は、アリシアさんの悲痛な声に思わずそう叫んでいた。





「はっ……かっ……!!」
 スバルはやっとのことで肺から息を押し出す。
「ぐっ……!」
 息をする度に全身に激しい痛みが襲った。“メガトンパンチ”を受けたスバルは近くの木に激突し、一瞬頭が真っ白になっていたのだ。スバルは、自分の意識が飛んでいないことに感動を覚える。
「おぅらはつぅよいっ! おぅらはつぅよいっ!」
 バソンはスバルより少し離れたところで小躍りをしていた。なんとも、頭が小さいと思っていたわりには強い、と、バソンに対する認識を改めたスバルは、どうしたら彼に勝てるのか、必死に頭をフル回転させる。
 “十万ボルト”である程度ダメージは与えられても、バトルに関しては初心者で、今まで全く鍛えていなかったスバルが、そんな大技を撃てるのはせいぜいあと二、三発といった所だろう。しかし、バソンの方は“ハイパーボイス”1つでスバルの技を防いだ上に大ダメージを与えられる。
 ――そうだよ、まずあの“ハイパーボイス”をどうにかしなくては! でも、どうやって?
 “ハイパーボイス”は音波であって実体を持たない。避けるなどと言うものは不可能だ。
「……っ、どうすれば…!?」
「んお!? おまえぇ! まだ動けたのぉ!? しつこいよぉおお!!」
 ば、バレた……!! スバルがいまだに戦闘不能ではないのに気づいたバソンは、戦闘態勢に入る。
 ああ、まさかあの構えは……!?
「“ハイパーぁアアアアボイスっ”!!」
「う゛あ!」
 本日三度目の“ハイパーボイス”がスバルに迫った。彼女はまた耳を塞いでやり過ごすが……やはりうるさすぎて頭がガンガンした。
「うぐぅ……!」
 どうすればいいの!? このままでは、“ハイパーボイス”を受けている間は完全に隙ができてしまう。
 ――もっと、こう……!“ハイパーボイス”を相殺する方法は!? 何か、何か無いの!?
 お願い……力を貸して、誰か……!!
『……だが、気を付けろよ?』
 はっ!
 スバルは慌てて顔を上げた。今のは……?
「ぶあっ! はぁ、はぁ……!」
 バソンが息切れを起こしたおかげで、“ハイパーボイス”が一時的に解除される。スバルは、ガンガンと鳴る頭を必死に巡らせて、さっきとっさに出てきた“声”の正体を探る。
 ――あの声……いつの……?あれは……ルテア?
 その瞬間、スバルの脳内で電気が走るようある一つの記憶がフラッシュバックする。そう、あれはまだスバルが助けられて間もない頃……。





「“十万ボルト”!」
 森の中で電撃音が炸裂した。この技を放ったのは、紺色の毛並みをしたたくましい四肢を持つ、レントラー――ルテア。
「いいか? これが“十万ボルト”だ。電気タイプの技としては威力が高い」
 そこまで言って、ルテアはクルッとスバルを振り返った。
「本当にやんのか? お前まだ戦闘慣れしてねぇだろ?」
「うん、やる」
 スバルはコクンと頷いた。彼女はルテアに頼み込んで本来ならまだ習得するには早い“十万ボルト”を習えるようにしてもらったのだ。ルテアは、スバルがなんの躊躇もなしに頷いたのを見て、軽いため息をついた。
「まったく、言い出したら聞かないのは誰に似たんだか。いや、まあ別にあいつとは血はつながってないんだけどな……。じゃ、やるか」
「お願いします!」





「“メガトォンーパァアンチ”!!」
「はっ!」
 バソンの叫び声で、スバルの回想は一時停止、現実に引き戻される。
「よーそー見ーしーなーぃいいいッ!!」
「うう……もう!」
 大手を振り上げスバルに攻撃しようとするバソン。スバルは素早く地面を蹴って飛び上がり、バソンの拳を回避する。
「邪魔……しないでよっ!」
 スバルは、バソンの脳天に“叩きつける”をヒットさせた。
「のぉおおおおっ!?」
 意外に効いてるだけか、ただリアクションがでかいだけか、とにかくバソンの動きが止まった。これでまた時間が稼げる。
「私が知りたいのはそこじゃない……!! もっと、後だよ……!」





 一方、シャナはダークライと対峙していた。どちらも腹を探り合い、動こうとしない。二人の間だけにわかる無言の攻防が続いていた。そして、先に動いたのは――シャナだった。
「“火炎放射”!」
 シャナが放った熱風がダークライに迫る。そしてその炎は、ダークライ近くの一帯を、音を立てながら焼き焦がした!
 ――やったか……!? まさか。
 シャナは、一瞬の期待を抱きながらも、相手が自分の技を避けて追撃が来るのに備えた。と、その時。
「……いつまで待たせるのかな」
「な……!!」
 ――背後から、声がした。
「“悪の波動”」
 超至近距離からの、しかも無防備なシャナに、ダークライは両手から黒い波動を打ち出した!
「ぐぁああああ!?」
 その波動をもろに受けたシャナは、そこから数十メートルも離れた大木の幹に激突する。
「か……はっ……!!」
 ――なぜだ!? 俺が“火炎放射”を放ったときに、確かにあいつはあそこにいたはず……!! それに、もしあれを避けられたとしても、背後に回られて気づかないはずがっ……!?
 シャナは自らが予想した以上に動揺していた。予想外の出来事に加えて、“あくの波動”の威力が予想以上に絶大だった。それを至近距離で受けてしまって、立ち上がるのも困難。
 ――まだ一発目だぞ……!?
「……まだ勝負が始まって一分も経ってないけど」
「!!」
 シャナは我に返った。すでに目の前には、目に不気味な光をたたえるダークライの姿が。
「さっきからずっと待ってあげてるんだけど……君がのろますぎて飽きてくるね」
「なっ……に……!?」
 ――こいつ、やはりあの時、一瞬で“火炎放射”を避けて俺の背後まで来たというのか!? 俺が気づかないうちに……!!
 シャナは、自分のスピードは自慢できるほどではないが、そこまで劣っているとも思っていなかった。それなのに……あちらが速すぎるのだ。
「……そろそろ相手にするのも面倒になってきたね。“爆炎”と通り名がつくからには、少しは期待したのに」
 そして、ダークライは片手を挙げる。技を撃つ体勢だ。
「く……そっ……なめるなぁ!!」
 ダークライが至近距離、しかも技を出すのに隙が出来た。やるなら今しかない。シャナは自身がもてる最大スピードで技を練り上げた。
「“オーバーヒート”!!」
「!!」
 ダークライは、シャナが業を繰り出すとは思っていなっかのか、目をほんの少し丸くした。そして、今度こそシャなの放った“オーバーヒート”は、ダークライに直撃した。
 熱風はダークライを飲み込んだ後も周囲数メートルを焼き焦がした。木々の一部が黒く染まる。
「……はぁ、はぁ……これで、どうだっ……!?」
 ――傷ひとつぐらいは付けられたか……? 避けられなかったのは確実なはず……!!
 シャナは、技を受けた部分を押さえながらよろよろと立ち上がる。と、その時。
「この土壇場で“オーバーヒート”か……」
「!!」
 ダークライの声が響いたと同時に、シャナの前に再びダークライが現れた。傷ひとつ負っていない。
「……まさか……そんな、馬鹿な……!!」
 シャナの衝撃は尋常ではなかった。ダークライのただならぬ強さは、あったときから感じていたが……まさか、至近距離からの“オーバーヒート”で……無傷!?
「たしかに……とっさの判断力はなかなか。でも……ぬるい」
 ダークライはそういって、今度こそ片手を挙げた。そして……。
「“サイコキネシス”」
「……ぐっ、ああああ!!」
 シャナの体を“サイコキネシス”で締め付けた。拘束されたシャナは、ギリギリと押しつぶされるような痛みに、思わず叫ばずにいられなかった。格闘タイプも含まれるバシャーモであるシャナには、エスパータイプの“サイコキネシス”は効果が抜群だった。
「がっ……はぁ……!!」
 もうろうとする意識の中、彼は何とか技から抜け出そうとする。が、ダークライの技が強力すぎた。意識が持っていかれそうになる。そんなシャナをダークライはながめていた。
「さて……どうしてくれよう?」
 ダークライは、そういって、低い声で笑った。





「ぐ……!!」
 “シードフレア”によってひっくり返ってしまったクーガンは、やっとのことで起き上がる。それ見たミーナは、感心したのかはたまた別の感情からか、目を少し丸くした。
「あら、まだ意識があったんですか、タフですねぇ」
「くそっ……! 外見にすっかり騙されたぜぇ……」
 先ほどのを食らっても、クーガンは戦闘不能になっていはいなかった。やはり、草タイプの技の“シードフレア”では、毒、あくタイプのスカタンクには、効果を発揮してくれなかったらしい。
――やっぱり、だてに幹部を名乗ってませんね、むかつくことに。
「おい、まさかこれが切り札なわけじゃねぇよなあ!? 俺を怒らせたにしてはまだまだじゃねぇか!!」
 クーガンは、大技を耐え抜いたことで自信が生まれたのか、ミーナに対してそう言い放った。すると、ミーナはきょとんとした顔になる。
「……なんですか。本気、出していいんですか……?」
「ふん! やはりお前などでは俺様は……って!! なんだと!?」
 まさかミーナがそんな言葉を発するとは、予想だにしていなかったらしい。クーガンは台詞の途中で思わずさけんだ。その隙を利用して、ミーナは岩の間にわいている花――綺麗なピンクの花――に近付く。
「まさか、私が何の考えもなしに、ここにあなたを連れてきたとでも? 案内役(ガイド)は、さまざまなスポットを把握しておいているんですよ?」
「ああ……!?」
 ミーナは、花に顔を近づけた。
「これは、グラシデアの花という、空の頂にしか咲かない貴重な花です」
 ミーナがそういったと同時に、その体がまばゆい光に包まれた!!
「んなッ……!?」
 クーガンが目を丸くする横で、ミーナは引き続き説明する。
「そして、私たちシェイミはその花の花粉を吸うと、ランドフォルムから……」
 徐々にミーナを包む光が小さくなっていく、そして……。
 これまでのに倍近くの体長、白く伸びた四肢に、スカーフのように首についた花びら、顔は凛としために、緑色の耳。
 ミーナは、今までの姿とまったく違っていた。その名も……スカイフォルム。
 そして、ミーナは叫んだ。
「覚悟しろ、クーガンッ!! これが――ボクの全力だッ!!」

ものかき ( 2014/02/08(土) 16:34 )