第十六話 お邪魔虫
――空のいただきで、木の下敷きになっているクレセリアのアリシアさんを助けた僕たちだけど、まさか彼女(?)の口から“イーブル”の名が出るなんて……!
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「どういうことなの!? アリシアさんが“イーブル”ことを知ってるなんて!」
空のいただきの入り口を通り抜け、うっそうと繁る森の中を走る僕たち。でも、序盤なのに結構起伏が激しい。そんな中スバルがそんな意味合いのことを言った。
「いや、あの様子だと……俺たちよりももっと深く知っているようだぞ? 一連の件について……」
僕もシャナさんと同じ意見だ。アリシアさんがとっさに言ったあの言葉……。
『……ポケモンたちを“イーブル”のナイトメアダークから救えなくなります!』
いったい、あの言葉の真意は? 何が起こってるんだ? 僕たちの周りで!
「とにかく、アリシアさんは頂上に向かっているみたいですし、急ぎましょう!」
ミーナさんが声を張り上げた。それと同時に……僕の背中に悪寒が走った。
「……ミーナさん……頂上まで、あとどれぐらいですか?」
僕は恐る恐る聞いた。するとミーナさんは満面の笑顔で……。
「あと……九合くらいですね!」
「……」
死ぬ、死んだよ、僕……!
「ちょ、カイ! この時点で諦めないでよ!? もう今さら後戻りなんてできないんだからね!?」
スバルが檄を飛ばすけど……いや、そういう問題じゃ……!
僕は救済を求める眼差しをシャナさんに送った。すると彼は……?
「今回ばかりは気合いで何とかしろ!」
「……」
えぇえええ!? き、気合いって……僕にどうしろというんですか!?
「さあ、どんどん行きますよー!」
ミーナさんが走るスピードをあげた。ちょ、ちょっとミーナさんッ!? 何をなさっているのですかあなたぁあ!
ま、待って……息が……!
★
――空のいただき・五合目――
「ぜぇー……や、やっと、五合目……!」
つ、疲れたぁ……これがあと半分以上あるかと思うと……!
「皆さん、あと半分ぐらいですよ!」
ミーナさんが息ひとつ切らさずに元気に叫んだ。み、見かけによらず、なんて体力なんだ!
周りを見てみると、やはりシャナさんは息も切らしておらず、スバルもちょっと肩で息をする程度だ。
「そろそろ行こう」
シャナさんが短く言った。もう、『えぇ!?』、と叫ぶ暇も気力もない。
全員がシャナさんの声を受けて先に進もうとした、その時。
「はっ……!」
一番先に反応したのは、シャナさんだった。
「みんな伏せろッ!!」
そう言っている側から、シャナさんがダイブする勢いで僕ら三匹もろとも巻き添えにして倒れ込んだ!
「な、何してるん……!」
スバルが額に怒りマークを浮かべてシャナさんに抗議しようとしたのと、空気がものすごく振動し始めたのは、ほぼ同時だった。そして……!
ビュンッ!
僕たちの頭上を何かが通りすぎた。な、何だ!? 今の……!
そして、通りすぎた何かは近くの木に激突! 破壊音が鳴った。
「あれは……“辻斬り”か!?」
伏せた体制から素早く立ち上がり先頭体勢に入るシャナさん。そして、彼は叫んだ。
「誰だ!?さっさと出てこい!いるのはわかってるんだ!」
シャナさんは虚空に向かって叫んだ。すると……?
「……くっくっく、バレちまったもんは仕方がねぇぜ」
その声は、木の影から聞こえた。全員がその方を振り返ると同時に、そこからビュンと、勢いよくポケモンが現れた!
あ、あいつらは……?
一匹目は、全体的に黒と深い紫の体毛に包まれた、独特な顔立ちの、スカタンクというポケモン。
そしてもう一匹は、全体的に紫の体に背中はパイプのようなものがいくもついている。たしか……バクオング、だったかな?
その二匹のうちの一匹、スカタンクがフン、と鼻を鳴らしてだみ声で叫ぶ。
「俺様はスカタンク! 名前はクーガン様だ! そして……」
「おぅうれぇはぁああ! ぶぁああくおぉんぐのぉバソンだぁああああ!!」
……はい? 今なんて?
「こいつはバクオングのバソンだ」
クーガンが冷静に翻訳する。そして、クーガンは高々と声を張り散らす。
「俺たちは“イーブル”の幹部だぜぇ! お前らまとめて――」
「――“火炎放射”」
「って! あち、あちちちちッ!」
……シャナさんは、クーガンの台詞が終わらないうちに技を繰り出してしまった。容赦ないね、このひと……。
クーガンは“火炎放射”をあわてて避けた。しかし、毛の先が焦げてしまっているようだ。
「てめぇ! 人の話は最後まで聞きやがれっ!!」
「俺たちはお前たちの相手をしている暇はない。“イーブル”とわかった時点で十分だ……。頂上まで一気に行くぞ!!」
シャナさんは、前半をクーガンに、後半を僕らに言った。やはり、彼らは“イーブル”だったんだ!! だとしたら、アリシアさんのいる頂上にもおそらく……。シャナさんの言うとおり、こいつらの相手をするより頂上に向かうほうが先決のようだ。しかし……。
「ははーん! お前ら、あのクレセリアを追ってるんだなぁ?」
ピクッ。
これにはシャナさんはもちろん、僕ら全員反応した。ミーナさんがいぶかしげな目で言う。
「まさか……アリシアさんを襲ったのはあなたたち?」
スバルがそれに続く。
「あ! そういえばアリシアさん、自分を襲ったのは“複数のポケモン”って言ってた!!」
すると、クーガンはいやらしいぐらいにニヤリと笑みを浮かべた。少々気持ちが悪い。
「へへっ、その通りだぜ。あいつを襲ったのは俺たちだ。あの方の命令でなっ! ついでに、お前たちの足止めも命令されてるんだ。誰一人、上にはいかせね――」
「――“エナジーボール”!!」
「うおわっ!」
……今度はミーナさんが台詞途中のクーガンに技を食らわせた。容赦ない……。
「もう! こいつらに足止めされるなんて時間の無駄です!!」
ミーナさんはいくらか怒ったような口調で、僕たちの前に一歩踏み出した。そして……。
「皆さん!! ここは私に任せて、先へ行ってください!!」
背中を向けたまま、僕たちにそう叫んだ――。