へっぽこポケモン探検記




















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間章2
間章の終わりに
 えっと……お待たせ。カイです。
 それじゃ、早速続きを話すことにしよう。どこまで話したっけ? ……ああ、僕がスバルの小屋に数日間お世話になったところまで話したね。
 僕が療養している間に外ではいろいろあったみたいだ。
 スバルがやっと、めでたく正式にシャナさんの弟子になった。スバルは長年の望みが叶ってなのか、僕に説明するときちょっと鼻高々だった。
 そして、シャナさんの方はなんと!スバルが弟子入りしたことによって、探検隊に復帰することを決めたらしい!
 今二人はシャナさんのギルドへ行く準備の真っ最中だ。スバルは探検を通しての方が早く強くなれると言っていた。そう言うスバルの、もっと強くなりたいと言う感情はどこから来るんだろうか……?
 一方僕の方はこれからどうするかと言うと……スバルには内緒でこの町を離れようと思う。
 スバルは、僕がまだここにいると思っているようだけど、あの謎の集団――“イーブル”がいつ僕を襲ってくるかわかったもんじゃないから、もうこの町の人たちには迷惑をかけられない。 ……だから、今僕は……朝日が上る前のひんやりとした町の入り口の前に立っている。





「ここも結構長くいたなぁ……」
 僕は、まだ明るくなる前の町を振り返った。周りはシン……と静まり返っている。そして、前を見ると、地平線の向こうまで一本の道が広がっている……僕が今から向かう道だ。
 僕はまだ全然強くないし、相変わらず体力も破壊的な無さだけど、旅をしながらちょっとずつ強くなっていけば、あるいは“イーブル”も自分の力で追い払えるぐらいにはなるかもしれない。彼らの目的や、各地を襲っている“ナイトメアダーク”の正体もわかってくるも知れない。
 僕はやっぱり一人の方がいい。誰かと一緒にいると迷惑をかけないようにできないから。
 スバルには置き手紙だけをして黙って出ちゃったから、ちゃんとしたお礼も挨拶も出来なかったけど、旅の途中で会えると信じよう。
 ……それじゃあ、ここともそろそろお別れだ。
 僕が町から外へ、最初の一歩を踏み出そうとしたその時。

「待って!!」

 背後から声が響いた。……この声は……。
 僕はゆっくりと振り返る。そこには――。
「ずるいよっ! 私達になにも言わないで一人で行こうとするなんて」
 スバルが、息を切らしながら叫んでいた。
「ス、スバル……」
「どうして、黙って出ていこうだなんて思ったの!?」
「そ、それは……みんなと一緒にいると迷惑がかかるし……」
 一人の時には固く決心していたことも、スバルの前になると声が小さくなる。何なんだ、僕は……! ヘタレにもほどがある……!!
「誰かに迷惑をかけちゃダメなの!?」
「え……」
 スバルは、黒く澄んだ瞳を僕に向けて細めた。
「私には我慢しないで、とか、寂しいんじゃないか、とか言っといて……自分の事になるとあなたも一人で背負い込んでるじゃない!!」
「あ……そ、それは……」
「カイ、一人で背負い込まないでよ……一緒じゃだめなの? 私、カイにがいても迷惑だなんて思わない!!」
「……ど……」
どうして? どうしてスバルは……まだ僕らは会って数日じゃないか……なのに、どうしてそこまで……。
「カイ、私……君がいたから変われたんだよ。一歩前に進めたんだよ。私は、カイと一緒がいい……一緒に同じ景色を見て、同じ時間を過ごしたいよ……!!」
「スバル……」
 僕は、目頭が熱くなった。
ほんと……? ほんとに僕と一緒にいてもいいの……?
「カイ……」
 スバルは僕の前にたって、手を取った。
「……一緒に行こう」
「……うん」





 一方シャナは、自分の小屋で身支度をしていた。
「なーにやってんだ?」
「あ……?」
いきなり入り口の方から低い声が響く。シャナが振り返ってみると、赤い双眸と目が合った。
「……ルテア」
「お前、旅にでも出んのかよ?」
 きわめて明るい声を出しているが、どこか真剣で中途半端な答えを許さないような口調だった。シャナは、腹を据えて静かに言った。
「……俺は、探検隊に復帰することにした」
「……そうか」
 そう静かに答えるルテアの声音は、どこか優しく、そしてどこか淋しげだった。
「……あーあ、俺もフラれちまったなぁ……」
「は?」
 いきなりルテアは明るい声で軽く言う。シャナは首をひねった。たしかルテアは失恋した記憶など無かったはずでは?
「な、何言って……?」
 思わず呆けた声になる。
「はは、いや、半分冗談だよジョーダン! ただ……」
ルテアはからからと笑う。そして……。
「……あいつは、最初の師に俺ではなくおまえをえらんだ。……どうだ? 俺もフラれちまっただろ?」
「……」
 普段のシャナなら、てめぇそれは嫌味か、と叫んでいるところだ。しかし今だけは何も言葉が出なかった。ただ……普段なら真剣な顔をしない目の前の親友に向かって、目で語るのだった。
 ――スバルを、頼んだぞ。
 ――当たり前だ、任せろ。
 そして、二人は視線をはずす。
「それにしても、スバルがいたら、お前がネガティブなときに電撃で喝を入れてくれそうだな」
「余計なお世話だッ!!」
 ――こいつ! せっかくの“友情”ムードをッ!!
 結局、最後までシャナはルテアの“趣味”に付き合わされる事になった。





「二人とも忘れ物は無いな?」
 日もすっかり昇った頃、僕たち四人は町の入り口にいた。シャナさんがくるりと振り返って僕とスバルに尋ねた。僕たちは二人同時にうなずく。ちなみに……。
「シャナさん? その質問、もう五回目だと思うんですけど……」
「う……? そ、そうだったか……?」
 僕の問いに、シャナさんはぎくりとしてこちらに向かって言った。
 たしかに五回言ったよ? 小屋を出る前、小屋の外、町の中、町のはずれ、そして門の入り口。
「どうしてそんなに心配するんですか。もうそんなに言わなくても大丈夫ですよ、師匠?」
 スバルが大きく一息ついて言う。
「だって、何か忘れ物に気づいたときにもう戻れなくなったところにいたら、自己嫌悪は必至じゃないか……」
「「なんてネガティブ思考!?」」
 僕とスバルは同時に突っ込んだ。シャナさんのネガティブが再来してしまったようだ。
 そんな僕らを見て、ルテアさんはからからと笑う。
「ははは! こりゃあいい! スバルとカイがいればお前がネガティブ発言をするたびにビシバシ突っ込んでくれるな!」
「おい、てめぇ……!」
 シャナさんは、ルテアさんを恨めしげに睨んだが、それもどこか親しげな表情だ。
「そういえば、ルテアさんはこれからどうするんですか?」
「ん? ああ……俺はもともと救助隊だからな、一度連盟のほうに戻って、また各地の救助だな。ここは里帰りで来たようなもんだし」
「それじゃあ、ここでお別れですか……?」
「ああ。だが、お前たちの旅先でまた会うかも知れねぇ。そう落ち込むなって!」
 ルテアさんはそういって、長い尻尾で僕の背中をドンッ、と叩いた。うぐぅ!?
「それじゃあ、頑張れよ!」
 ルテアさんは叫んで、町から続く一本道を颯爽と走り出した。風で揺れる鬣が美しかった。そんなルテアさんも、少しずつ地平線のほうへ遠ざかる。
「……さて、俺たちもそろそろ行くか」
 シャナさんは、しばらく目を細めて遠ざかるルテアさんを見ていたけど、ふと僕たち二人にそう言った。
「はい、師匠!」
 スバルは、これからのたびに対する期待でいっぱいなのか、元気良く答えた。
 ……これから、僕たちのたびが始まるのかぁ……。
「ねぇ、カイ」
「ん、なに? ……うわ!?」
 スバルが僕の視界のいっぱいまで顔を近づける。
「二人で最初の一歩を踏み出さない!?」
「え? ……うん、そうだね」
 僕とスバルは手をつないだ。そして……。
「いくよ!? せーのっ……!!」

 ――そして僕らは、未知なる冒険への第一歩を踏み出した――。

■筆者メッセージ
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ものかき ( 2014/01/31(金) 12:39 )