へっぽこポケモン探検記




















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第二章 黒いオーラ編
第六話 弟子入りは命がけ
 ――僕の生まれて初めての尾行はもはや清々しいと言ってほど見事に失敗した。でも結果オーライというか、スバルがどこに行こうとしたかは聞き出せた。聞き出せたけど……。





「で、弟子入り!?」
 僕の声は多分……いや、確実に裏返っていた。
 待って! 弟子入りって、そんな買い物をしにいく感じでするものなの!? もっと、こう……厳かな感じじゃないの!? そう思った僕の心を見透かしたのか、スバルは自嘲ぎみに笑う。
「そうだよ、弟子入りなんて、買い物にいくついでみたいな心情で出来るものじゃない。私も初めての時は緊張で足がギクシャクしたもの」
「は、『初めての時』……?」
 そ、それじゃあ、今回は初めてじゃないってこと!?
「今日は、これで何回目!?」
「そ、その質問は勘弁してよ、カイ!恥ずかしいから!」
「そ、そう……」
それじゃあ、君は誰かに知られたら恥ずかしいぐらいの回数は行ったってこと? つまり、その分追い返されてるってことだよね……?
「そこまでして弟子入りしたい人って……誰?」
 すると、スバルとルテアさんは顔を見合わせた。しかも何かフクザツそうな顔で。
「……実際に見てみる方が早いんじゃねぇの?」
 ルテアさんが鋭い目をこちらに向けて言った。
 実にごもっともです……と、彼に睨まれたらこう言うしかない。





 ……と、言うことで、僕は詳しい話も聞けないままスバルとルテアさんの後をついていくことになった。
「だけどルテア、どうしてあなたもついてくるの?」
 スバルはやっぱり弟子入りの場面を見られるのが恥ずかしいのか、ちょっと小声で言った。すると、ルテアさんはため息をつく。
「だってよ、あいつの病み期はいつものことだが、ここ数日間は急にあいつの病み度が上がったっていうか……もしかしたらお前だけじゃあいつの相手をするのはキケンかもしれねぇからな」
「病み期……?」
 なんですか? それ。
「病み期っていうのは……まあ、なんだ。あれだよ。……ああ! 言葉が出てこねぇ! スバル、説明してくれ」
「簡単な話”ネガティブ”ってことじゃない?」
 ね、ねがてぃぶ……。舌をかみそうな言葉だ。
「おっと、自己紹介がおくれたな。俺はルテア。見ての通りレントラーだ。ま、気軽にルテアって呼んでくれよ。よろしくな」
「よ、よろしくおねがいします……」
 気軽に、と言われましても……。出会い方がアレだったもんですから……。
「ちなみに、ルテアは現役救助隊だよ」
 スバルが補足を加えてくれる。へぇ、救助隊……! なんかかっこいい……!
 そんなこんなで僕たちの前方にポツンとたたずむ小さな小屋が見えてきた。恐らく、あれがスバルが弟子入りを申し込みに行くポケモンがすんでいる小屋だろう。
「気を付けろよ、二人とも。あいつのアレは今に始まったことじゃないが、最近は異常だ、いじょー!」
 ルテアさんは心配してくれてるのか脅してるのかわからない言い回しをしてくる。う……なんか怖いなぁ……。
「ねぇ、スバル、大丈夫なの……?」
 情けないけど、僕はスバルに近寄って小声で聞いた。するとスバルは胸を張って言う。
「大丈夫! ……多分」
 ますます心配になってきた……。
 僕らが小屋の前にたつと、スバルが扉の前まで行く。手をドアの前にあげて……。コンコンコンコン、とノックを四回。そして、大声で一言。
「スバルです! 入りますよ!?」
 弟子入りするとは思えないアットホーム(?)な声音でそう叫んだ後、勝手知ったるなんやら、といった感じで何のためらいもなくドアを開けるスバル。
 ガチャ……。
 意外にもすんなりドアが開いた。戸締まり大丈夫かな、この小屋……。
 僕はビクビク、スバルとルテアさんの二人は悠々とドアをくぐってなかに入っていく。おじゃまします……。
 小屋の中は、しん……と不気味なぐらい静まり返っていて、誰もいないんじゃないかという感覚にとらわれた。でも二人はずんずん奥に進んでいってしまうので一人だけ戻ることは出来ない。
 小屋の様子はというと、家具が何日も使われた痕跡もなく散乱しててホコリっぽかった。ここの住民が面倒くさがりやなのか、それとも何か理由があるのかは不明だ。
 そんななか、スバルは部屋のなかを探りながら声をあげる。
「シャナさーん!? どこですかー!?」
どうやら“シャナ”という人がここの住民の名前らしい。つまり、スバルの弟子入りを何回も断り続けている人、ということだ。
「あいつ……生きてるか心配になってきた」
 ルテアさんが部屋の様子を見てブッソウなことをポロリと漏らす。そ、それってどういう……? 僕がルテアさんの言葉の真意を聞こうとした、そのとき……。
 ガタッ!!
「うわっ!?」
 な、なに!?何が起こったの!?
 急に部屋の奥の方で物音がしたかと思うと、そこからうなるような、消え入りそうな声が聞こえてきた。
「……誰が何の用だ……?」
 ドスのきいた……とまではいかないけど、僕を竦み上がらせるには十分な低い声だ。しかし。
「あ、いたいた」
 スバルは声のした方平然とてくてく歩いていくいくではないか! このお方は恐怖という単語を知らないらしい。
 僕はスバルの後を背中に張り付くようについていった。え、情けなくないのかって…?
 僕らが物音のした方まで行くと、音を出した正体(つまりシャナ、さん?)が床に座っていた。
 全身が炎のように真っ赤な体毛に包まれていて、手足は鍛えられているのか屈強だ髪は白く、目は鋭い。たしか、バシャーモと言うポケモンだったかな?
 バシャーモさんは家具が散乱している床に座り込んでいた。 こういっちゃなんだげど、いま目の前にいるこの人はかっこいいポケモンの代名詞であるバシャーモとしての威厳が丸潰れだ。
 バシャーモって、もっとかっこよかったよね!? 目の前にいるこの人は、目も虚ろでちょっとアブナイ感じなんですけど!?
「シャナさん、今日こそ私を弟子にしてください!!」
 スバルがシャナさん(勝手に呼ばせてもらいます)にズイッと一歩歩み寄って断固とした口調で言った。この光景は、実際に見てみないとどれだけのハラハラものか伝えきれない。スバル、危なっかしいよ……!
「……これで何回目だ……? だから言っただろう? 俺には無理だ……! 弟子なんかもらう資格がないんだよ……」
 スバルの申し出を断るシャナさんの口調には意外に憂いがこもっていた。スバルが師匠と仰ぎたいぐらいなんだから、もっと威厳たっぷりに「弟子など要らんわぃ!!」ぐらいの勢いで断るかと思ったよ。
 ひょ、拍子抜け……。ふう……。
 でも、『資格が無い』……ってどういうことだろう? 弟子を取るのに資格って要るの?
「おいおいシャナ、またそれかよ……何年前の過去を引きずってるんだ? てめぇはよ……」
 そう言うルテアさんの顔には思いっきり“呆れ”の文字がうかんでいる。今、気になる単語が再びサラッと出たけど……?
 過去……?
 僕の頭上にさっきから疑問符が飛び交っている。誰か説明を! と、思った、その時。
「……うるさいっ!」
 ひぃっ!? な、な、な、何!? シャナさんは急に立ち上がっていきなりスイッチが入ったように叫んだ。ビックリした……。
「お前らに俺のことがわかってたまるか! 帰れ!」
「な……てめぇ!」
 シャナさんの言葉にルテアさんの鬣が逆立った。
「上等だてめぇ!その腐った思考を叩き直す時が来たようだな! ああ!?」
 ルテアさんの全身から電気の火花が散る。え、まさか……こんなところでバトルを始める気なんじゃあ……?
「ル、ルテア……待って!」
 スバルがあわてて止めには入るも、すでにルテアさんは聞く耳を持たぬ様子……。すると、シャナさんがルテアさんの戦闘体勢を見て、全身に炎のオーラをまとった。ま、まって……あれって、まさか……!?
「……おいっ、ま、待て!! てめぇ、いくらなんでもこの小屋の中で、しかもこいつらの前でそれは……!!」
 さっきまでバトルする気満々だったルテアさんまでもその様子を見て狼狽えた。早口にシャナさんを説得する。しかし、シャナさんにまとったオーラはすでにあの技を放つ直前にまでなって……!!
「くそっ、二人とも逃げろっ!!」
 そういったルテアさんは、僕たちがその言葉を行動に移す前に、スバルと僕を素早く背中に乗せる。
「「うわぁ!?」」
 乱暴に背中に乗せられた僕ら二人が声を上げるのもお構いなしに、ルテアさんは全速力で出口へ駆け出した!
 そして……!
「“オーバーヒート”!!」
 シャナさんの放った技は、自身の小屋の扉を紙切れのように吹っ飛ばした――。

ものかき ( 2014/01/21(火) 09:37 )