第八話 迫りくる恐怖
――僕たちにいきなり鳴り響いた轟音。ここに来てからというもの、ビックリするイベントには事欠かないようだ……。
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「町の方からだ……!!」
スバルの耳は長さに比例して良いらしい。彼女はそう叫ぶと、一目散に町の方角へ駆け出した!
「え、ちょ、待ってよ!」
僕はあとをついていくが……。
「ゼェ……ハァ……!」
何て速いんだ、スバルは! どんどん引き離されていくじゃないか!! え? 僕が遅いんじゃないかって?
僕は息も切れ切れになんとかスバルのあとを追った。そして、僕の前方に森の出口が見えてきた。あとちょっと……!
★
「何……!? これ……!!」
町を見たスバルは、声を震わせて言った。呆然としたのは僕も同じだった。だって……町は……!!
――謎のポケモンたちによって襲撃を受け、悲鳴と破壊音に染められていたからだ……!!
町は戦場にも引けをとらないような有り様だった。狂暴なポケモン達が暴れまわり、建物を壊し、人々を襲っている!
「ちょっと……!! 誰なの……!? やめてッ!!」
スバルは鋭く叫ぶ。そして、すぐそばで何かの店を壊しているヘルガーに走っていった。危ないッ!!
「邪魔だ!」
ヘルガーは、近寄って止めようとしたスバルをなぎ払った。
「きやっ……!」
「スバル! 大丈夫!?」
僕はスバルにかけよる。スバルは、突然の町への襲撃に狼狽を隠せなかった。声を震わせながら呟く。
「ど……どうして!? どうしてこんなことに……!?」
「……あ……」
その瞬間、僕の脳内に電撃にも似た衝撃が走った。まさか……まさかそんなことが……? こいつらは……!
――僕を追ってきた?
そ、そんなことはあり得ない!でも……僕が来て数日でこの襲撃……偶然にしてはおかしい!!
と、その時。
「もっとよく探すプワー! 絶対に近くに隠れているプワよ〜!」
プワ……?
……なんだか間の抜けた声が僕らの上空から降ってきた。なんだ……?
僕は恐る恐る声のした方を見上げてみた。そこには……。
「プワー!!じれったいプワー!!」
紫色の、気球のような体、背中には雲を連想させるフワフワな毛(?)。そして、薄っぺらい手足に黄色いバッテン印の口……。
フワライドだ! フワライドが僕らの真上を通り過ぎた!
「な、なに……ムギュ!!」
「静かにっ!!」
僕はフワライドを見て叫びだしそうなスバルの口をあわてて塞いだ。見たところあいつは町を襲撃しているポケモンたちの司令塔かもしれない。それに……。
「んも〜、あのヤドキングの“テレポート”は厄介プワ……。ヤドキングがあの技を使えるなんて、っていうか他人に使うなんて反則プワ!! おかげで姿を見失うプワし……」
……やっぱりそうだ……! こいつらはリンを襲って僕を狙った奴らだ……! ということは……僕がここにいるから、この町は襲撃されて……。
まさか! 何てことだ! 僕がもう少し早くここを離れていれば、この町は襲撃されなかったんだ!!
いや、今からでも何とかなる。あいつらは僕を見つけたら真っ先に追ってきて、町もほうっておくに違いない。
「スバル、聞いて」
僕はスバルに小声で話しかけた。
「何!?」
スバルも、小さいながら怒気のこもった声で聞き返す。
「僕があいつらをひきつけるから、ほとぼりが冷めたら傷ついたポケモンたちを助けてあげて」
「え、な……何言ってるの……?そんなこと……」
「いいから! あいつらは僕を探してるんだ!!」
「……プワ?」
あ……! しまった、つい大きな声を出してしまった……! 僕は、フワライドの方を冷や汗たっぷりに向いた。すると。
パチ。
「……見つけたプワーー!! 全員しゅーごープワー!!」
目が合った……。まずい……!!
僕はすぐさま立ち上がって森の方角へ一目散に駆けだした。こうなったら引き離せるところまで引き離すしかない!!
「あ、待つプワ! 逃がすなプワ!!」
「どこ行くの!? カイー!」
スバルは僕の後をついて走ってくる。
「ついてきちゃだめだよ!!ここにいるんだ!!」
僕は今までで一番鋭い声でスバルに叫ぶ。するとスバルは、ビクッとして動きを止めた。よし。今のうちに……!
僕は全速力で走る。スバルが何か叫んだような気がしたが、走るのに必死な今の僕には聞こえななかった。
★
「まさか本当にいるとは思わなかったプワ〜! のこのこと現れるなんてまぬけプワねぇ! プワワワワ!!」
僕を追ってくるフワライドが甲高い声で叫んだ。
笑うな! さきほどから耳につく語尾がうるさくて、僕は彼にそう叫びたかった。
しかし、今の僕はその感情を口には出せない。なぜなら、僕の肺は爆発寸前! 出るのは言葉よりゼェゼェという荒い息だけ……。
待って、僕は、“波導”とか感じないし、ドジだし、運動神経の、悪い、ただのリオルなのに……!
「ほらほら、そろそろ苦しいプワね? 逃げても無駄プワよ〜。こっちには部下が大勢いるプワ。さっさとつかまっちゃえば楽プワよ?」
「誰がッ……ゼェ、素直にっ……!」
“楽”なわけがあるか!!どうせオクタン殴りにされるのがオチだ!
「あっ!!」
良過ぎるタイミングで木の根っこが僕の足に引っかかった。こんなときに、典型的なドジを踏むなんて……! もちろん、そんな僕の心の叫びなどお構いなしに、重力は平等に僕の体にもかかって……?
「ぶっ!!」
派手に転んだ。
「プワワワワ! ばかプワねぇ……」
「うう……」
僕が起き上がっていた頃には、もうフワライドと部下のポケモンたちが僕を取り囲んでいた。まさに今の状況は四面楚歌だった。
「さあ、捕まえたプワよ〜? ……うーん、ただこいつを始末するだけじゃ面白くないプワねー……じっくりと痛めつけるプワよー?」
し、始末……? 痛めつける……?
「んー……。じゃあ、まずは部下の攻撃から行くプワよ?」
「え……!」
僕は足がすくんだ。僕の視界には、悪魔のような笑みを漏らすフワライドとその部下しか入ってこなかった……。
★
どういうことなの……? この変なポケモンたちはカイを狙っていて、そのために町を壊して行ってるってこと……?
カイは、あのやさしそうな普段の様子からは想像できないくらい鋭く叫んで森のほうへ行ってしまった……。どうしよう!このままじゃカイが……! でも、今の私の力じゃ、悔しいけどあいつらに太刀打ちなんて……!
と、そのとき。
「おい、スバル!」
通路の向こう側から聞き覚えのある低い声が響いた。
「ルテア!!」
私は、走ってくるルテアのほうへ飛び込んだ。
「どうしようルテア! カイが……! カイがあいつらに……!」
「おちつけ、スバル! 何があった!?」
私はルテアにさっきあったことをざっと教えた。ルテアは終始眉をひそめたまま聞いていた。
「……くそっ、俺が助けに行きたいが……!」
ルテアは町のほうを見た。そこには、ポケモンたちに攻撃されて助けを求めてうめいている町の住民たちであふれている。
「……俺は救助隊だ! やっぱり、俺は助けを求めている彼らを放っておけない」
「じゃ、じゃあどうすればいいの!?」
「スバル! シャナを説得するんだ! あいつにしか、あのポケモンたちに太刀打ちできるやつがいない!!」
で、でも……シャナさんは今……!
「わかってる!! 俺だってあのチキンの様子で、動いてくれるか正直不安だが……」
ルテアは私の表情から、気持ちまでも見透かしてそういった。やっぱり、ルテアは何もかもお見通しだ……。
「今はそれしか手がねぇ! スバル、全てはお前に掛かってる。シャナを説得してくれ!」
「う……うん、わかった、やってみる!」
そうだ! シャナさんもこの状況で自分の町のために動かないわけが無い! 私は小屋のほうに向かって駆け出した。
「頼んだぞ!!」
私はルテアの叫び声を背に受けながら、全速力で走りだした。