逃亡、攻撃、墜落
――いきなり訪れた謎の集団に襲われた僕。ヤド仙人がなんとか“テレポート”で僕を逃がしてくれたけど、僕が行き着いた場所は……?
★
「……ぐ……」
頭が重い……。
僕を支配していた浮遊感は、急速にのしかかる体の重みへと変換された。頭がぐるぐると回って全身の器官が疲れきって軋むような悲鳴を上げる。攻撃を受けたからだ。
やがて五感、僕の肌に地面のひんやりとした感触が伝わった。僕はどうやら、どこかに倒れているらしい。
「う……」
視界もだんだんとクリアになっていった。僕は腕に力を入れて体を起こす。どうやら、ここは森の中のようだ。たぶん……里から少し離れた森だと思う。“テレポート”でもあまり僕を遠くに飛ばせなかったみたいだ。たぶん、ヤド仙人があいつらに妨害されたからだと思うけど。『遠くに飛ばす』って言ってたから。
空を見上げてみると、いまだに月は僕の真上にあった。さっきの出来事からあまり時間がたっていない。あまり遠くにいけずに、まだ時間がたっていない……ということは……。
ガサガサ、ガサガサ。
「! な、なんだ……?」
誰かが近づいている音がする……。まさか、さっきの追っ手たちがもう追いついてきたのか……?
ま、まさか。違う。違うに決まってる! ……お願い、違って……!
と、とにかく、動いては音が出るから動かないほうがいい。敵でも味方でも、見つからないのが一番いい。僕は木の影にぴったりと張り付いて山のように膝をかがめて座った。
お願いだ……!通り過ぎて……!
ガサガサ、ガサガサ!
近い、近い……! そうだよ、たぶん敵じゃないって! 物語とかだったら、こういう場面って、たいてい強力な助っ人とかが運良く見つけ出してくれるパターンでしょ!? 頼むよ……!
ガサガサ!ガサガサッ!!
「……見つけたぞッ!!」
「うわあああ!」
まさか、そんな……! やはり、足音の主は先ほど僕を追ってきたザングース、グラエナ、キリキザンだった。 僕は、体が疲れきっているのも忘れて全力で走った!後ろで誰かが何かわめいていたけど、走るのに夢中になりすぎて、なにをわめいているのかわからなかった。
「はぁ、はぁ……!!」
肺が爆発しそう、足はもぎ取れそうなぐらい重い。
誰か、誰か助けて……! 後ろからついてくる足音は、いまだにガサガサ言っていて小さくなる気配が無い。
「“シャドーボール”ッ!」
「ぐ、ああ!!」
後ろから数発もの黒い塊をくらって、僕は思いっきり飛ばされた。 痛い……! いや、熱い……? 痛みの感覚がだんだんわからなくなっていた。
「いやだ……捕まりたくない……!!」
僕は走って、走って、走った。
その間にも、追いかけてくるポケモンたちは、容赦なく技を僕に放ってくる。それらは僕に命中し、あるいは僕の後ろの木々をなぎ倒した。
走れ……! それ以外に助かる道は無い……! 僕の頭の中には、仙人の『絶対に捕まるな』の言葉がぐるぐるエンドレスでリピートしていた。
そのとき……。
「あっ……!」
前を見ていなかった僕は、この先が崖だというにスピードを落としていなかった。気づいたときにはもう遅い。僕の踏み出した右足は……虚空を踏んでいた。
「うわっ……!?」
重力は僕の全身に掛かって、僕を谷底へといざなった。上から下に落ちる時のあの浮遊感が、麻痺したはずの体に妙にはっきりと伝わってくる。
『逃げ切るのじゃ!絶対につかまってはならん!』
最後に頭に響いたのは、仙人の声。
そして、僕の叫び声は尾を引いて谷底へと落ちていった――。