へっぽこポケモン探検記




















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第十章 “運命の塔”編
エピローグ
 ――ギルドに、再び平穏が訪れた。スバルが“命の宝玉”を使ったおかげで、“ナイトメアダーク”は跡形も無く完全に払拭された。そして、僕はルアンのおかげで、再び仲間たちの元へ戻る事が出来た。





 まず、何から話せばいいものだろう……?
 ギルドに無事戻ってくる事が出来た僕は、みんなに熱烈な歓迎を受けた。ルテアさんには暴言を吐かれながら抱きつかれたし、泣いた事なんて一度も見た事が無いシャナさんが静かに泣いて僕を抱きしめてくれた。ラゴンさんも柄にも無く大泣きだったし、もちろんウィントさんのおかげで僕の毛は涙と鼻水でぐしょぐしょになった。ローゼさんは“わたくしの推理通り”みたいなことを言っていたけどその声が若干震えていた。
 数日たった後に僕は、誰が広めたのか、ナイトメアダークからみんなを守った現代の“英雄”という仰々しい名前をつけられる事となった。実際にNDを払拭したのはスバルで、それ以外にも仲間たちの助力が無ければこの平穏は手に入れられなかったと言うのに。こんなに持ち上げられて良いのだろうか。
 ついでに、僕とスバルのいるチーム“シャインズ”は、この功績のおかげでダイヤモンドランクへと昇格した。

 “イーブル”は完全に解体された。
 ジバコイル保安官に預けられたカナメ、ミケーネ、ポードン、エルザは、もう一度罪を犯す気は微塵もないだろうけど、この大陸にもたらした災いへの罪は大きすぎた。彼らは大陸からの永久追放という処分がくだった。ラピスは今も行方不明だけど、その後ラピスらしきランクルスが悪さをするような噂は二度と聞く事は無くなった。
 ダークライは、もう一度“運命の塔”へ何人もの探検隊が向かったが、姿を見た者はいない。ウィントさんの考えでは、彼はナイトメアダークの消滅に巻き込まれてしまったのではないか、ということだった。確かに、NDが暴走したとき、その触媒はダークライだった。彼はもう、あの時点でNDと同化してしまったのだろう。

 “フォース”を始めとする救助隊の面々は、この騒動が終わってすぐに救助隊連盟本部へと帰っていった。帰り際にキースさんはシャナさんへしつこくすり寄っていたけど、ルテアさんが強制的に引きはがした。ちなみに、僕は検死同意書にサインさせられそうになった。ヴォルタさんはリティアさんと相変わらず仲睦まじい様子だったのには少し安心した。ルテアさんに負けないでヴォルタさん。

 ミーナさんは、この期間に培った外の世界の知識と商業の知識、そして地元愛によって無事にシェイミの里周辺は観光地としての一歩を踏み出す事となった。改めてミーナさんの案内で“空のいただき”に上ってみたけど、途中フワライドやマスキッパに出くわして、いつの間にこんな仲間を作ったのだろうと僕は思った。

 ローゼさんは、相変わらず探偵業で忙しい。カンナちゃんによく留守を任せ、事件解決の依頼をこなしに大陸をまたぐ勢いだ。道に迷ってなきゃ良いけど。時々宅配で僕にへんてこな土産を持ってきて、その度にペリッパーの古株さんにいつも変な目で見られている。

 サスケさん率いる探検隊“ヤンキーズ”は、今もカガネとギンジの人相は最悪だけど、僕らとは良いライバルだ。凄い勢いで依頼をこなしていき、先日、晴れてダイヤモンドランクの二つ上であるスーパーランクへと昇格していた。あこがれのシャナさんのチームに並ぶのもそう遠くないと思ったけど、探検隊“フレイン”は、その間にマスター☆ランクへと昇格していた。
 クレセリアのアリシアさんは、トニア君を伴って再び大陸の均整を守る旅に出て行った。“眠りの山郷”にいるナハラ司祭には、まだしばらく戻れないと言ってあるらしい。良い事だ。

 そうそう、スカタンクのクーガンに、バクオングのバソン、いつぞや僕をボコボコにしてシャナさんにボコボコにされたフワライドのライドだけど、無事に魂が戻ってきたおかげで再び僕らに威張り散らしたり、大声を張ったり、プワプワ言ったりを始めたらしい。だけど彼らも“イーブル”の幹部だっただから、ラゴンさんの監督のもと、罪滅ぼしとしてギルドの裏に果樹園を開いて管理する事となった。なんでも、以前からラゴンさんは果樹園を開きたかったらしい。彼らは“ムラサキーズ”として、“ムラサキーズ”果樹園を営むはめとなりトホホ、とよく言っている。彼らにはいい薬だろう。

 “雲霞の里”にいるヤド仙人は、僕の顔を見るなり号泣して抱きついてきた。彼もまた、“命の宝玉”が失われた事で神官としての役割が終わったことになる。今後彼は、瞑想とレクチャーとリンの墓参りをお供に自由に余生を過ごす事だろう。……もしかしたら、僕より長生きするかもしれないけどね。

 ギルドのみんなは相変わらずだ。ウィントさんはまたよくギルドを留守にするようになったし、ラゴンさんはその分苦労人を強いられる。ムーンさんは“ですです”調だし、ショウさんはキースさんに良い影響を受けたのかさらに医療の腕を上げた。レイさんの盗み聞きは相変わらずで、シェフさんのご飯はいつもおいしい。門番のルペールさんの目が怖いのもいつもの日常だ。

 ルテアさんはまだまだ現役の救助隊で、ロディアさんの後を継いで町長になる気はしばらく無いらしい。その分ロディアさんも“ばか息子には負けておれん”とさらに邁進してるみたいで、親子って素晴らしいなと思った。
 ルアンの生きていた頃の“英雄伝説”は、僕が彼から聞いた正しい筋書きに書き換えられる事になった。これでもう、この英雄伝説から悲劇を生む事はないだろう。そして僕は、ルアンの魂が僕からはなれた事で、体力が格段に上がって波導も読めるようになった。近頃、そこそこ強いポケモンを相手にしても簡単に勝ててしまうのは、きっとそのおかげだろう。

 シャナさんはというと、バリバリと探検隊活動を続けつつ、僕の指導をきっかけにそっちの可能性も視野に入れたのか、才ある新人探検家の戦闘指導にも力を入れだしたみたいだ。僕の方は驚いた事に、彼の指導から卒業する頃にはシャナさんを負かすほどの戦闘力を身につけていた。“
出藍の誉れだな”と、ちょっと難しい言葉でシャナさんは僕を賞賛してくれた。だけど、賞賛すべきはやはりシャナさんの指導力だ。
 そうだ! 彼の事でビッグニュースを忘れていた!
 晴れてシャナさんはリオナさんと結ばれて、今二人の間に卵が出来たところなんだ! 今ギルドでは、彼らの子供がオスかメスか、シャナさん似かリオナさん似かで熾烈な議論がなされている。生まれてくる瞬間がとっても楽しみだ。

 スバルは、元気に僕と探検隊活動を続けている。“願い人”としての力は失ったけど、彼女はまた輝くような元気とはつらつさを取り戻した。スバルはもうシャナさんの弟子を名乗りながら、今はルテアさんの指導の元、電気のコントロール方法を教えてもらっているという贅沢ぶりだ。

 そして、僕は。
 僕は――。





 僕は、トレジャータウンの入り口に立っていた。僕の横には、スバルが立っている。
「やっぱり、行っちゃうんだね……」
「少しだけ長い間、留守にするだけだよ」
 そう、僕は。ギルドをしばらく離れて、一人で旅をする事にした。
 なぜそういう考えに至ったのか。それは僕が、“雲霞の里”から外に飛び出して“イーブル”を壊滅させるまでのこの短い間に、ここまで広い世界が目の前に広がっている事を知ったからだ。もっと、旅をしてみたい。もっともっといろんな事が知りたい。そして出来れば、もっと強くなりたい。
 そう思って、僕は今から旅に出る。スバルを待たせてしまう事になるけど、僕は探検隊として本格的に活動する前にいろんなものを見ておきたかった。
「じゃあ、スバル。行ってくるね」
「うん……」
 僕は歩き出す、だんだんとスバルから距離が離れていく。ふと振り返ると、スバルが小さく振っていた手を下ろしたところだった。
 そうだ、僕には言っておかなければならないことがある。
「スバルーーーーーーーッ!!」
 僕は叫んだ。スバルの名を呼んだ。遠くにいても、ちゃんと聞こえるように。彼女は耳がいい、返事は無いけどしっかり聞こえているだろう。
 だから、息を吸って。
 ありったけの音量で、ありったけの想いを込めて。
 叫んだ。


「――僕は、君が好きだッ!」


 スバルが、ぽかんと口を開けるのが遠目でもわかった。
「だから、きっと戻ってくる! 必ずッ! 待っていてッ!」
「……」
「……」
 スバルが手を当てる。声が遠くに届くように。そして――。


「カイーーッ! 私もッ! 大好きだよーーッ!!」

ものかき ( 2015/08/04(火) 15:08 )