へっぽこポケモン探検記




















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第七章 英雄祭編
第九十七話 エキシビジョンマッチ! ――VSルッグ&ファイア
 ――エキシビジョンマッチの火ぶたがついに切って落とされようとしている。爆炎槍雷の相手として指名されたのはマグマラシのファイア、そしてズルズキンのルッグ。彼ら四匹はいったいどういうバトルを繰り広げるのか。





 審判が試合開始の合図を出した。すると、先ほどからただでさえ裂けんばかりに響いていた歓声がついに頂点にまで達した。ここに集まった観衆たちはみな血の気の多いものばかりのようだ。
 マスターランク探検隊・シャナとそこからの出身であるルテアにとっては、場数を踏んだのもあり歓声など慣れたものだ。が、相手側二人はそうもいかないようで、先ほどから戸惑いながら周りを見渡している。
 すると、それを見たルテアはフッ、と笑って……。
「おうおう、二人して客席見渡すなんてずいぶん余裕じゃねぇか」
 挑発気味にそういったルテアの眼光は、それはもう鋭い。どうやらこの眼光は(純粋に彼の表情もあるだろうが)特性“威嚇”が発動したがための恐ろしさのようだ。その証拠に、ファイアはかなり怯えを含んだ表情で、後ずさりさえしそうなほどである。だが、ルッグの方はというと……。
「ふむ……それがそっちだけの専売特許と思わないでほしいですね……」
 人相が悪いことで有名なズルズキンであるが、先ほどまでさほど怖いと感じなかったルッグの顔。だが、その表情が一変した。まさにチンピラという名がふさわしいその最悪な人相をいかんなく発揮して、彼もまた特性“威嚇”を発生させたのだ。
「げっ……」
 その人相には、さすがのシャナも先ほどのファイアのようにちょっと逃げ出したくなってしまったらしい。カイのほうをちらっと振り返って“やっぱり出たくなかった”と目配せをする始末だ。その時カイが、シャナさんとマグマラシさんは実は似た者同士なのでは、と思ったのはまた別の話。
 ズルズキンとレントラー、どちらも表情をゆがませれば人相が最悪なポケモン同士で、しばらくの間にらみ合いが続き……。
「いっくぜぇ!!」
 先に動いたのは――ルテアだった。
 野性的笑みを全開にした彼は、体中の体毛に電気をため込み、それを惜しみなく相手二人に向けてはなった。
「“十万ボルト”!」
 電撃は槍雷の名にふさわしい速度と威力で二人に迫る。しかしその時、ルッグは手に持っていた棍棒を地面と平行に持ち、腕を前に突き出した。
 そしてその棍棒を高速回転させる!
「「!?」」
 そのアイテムと行動にルテアとシャナが驚く中、彼のまわした棍棒に十万ボルトが当たった。すると、回転に負けた電撃は対象に当たることなく四方に分散される。棍棒の利点を最大限に使った技の回避方法だ。そのユニークなかわし方に、幾度の場数を踏んできた爆炎槍雷も感心で目を見開く。
「ほぉ……」
「面白い戦法だな。俺には真似できねぇ芸当だぜ」
「そりゃどうも」
 破顔一笑して賞賛を述べるルテアに対し、ルッグの返答はそっけないものだった。
 ――ルテアが人を褒めるなんて、めったにないんだがな。
 シャナはそう思いながら苦笑する。
「人のことを褒めるほど余裕あるんですかねぇ……。その余裕も今の内ですよ」
 こんどはルッグが挑発的にルテアにそう言い返した。いや、ただ挑発的なだけではない。これはどうやら、技の一つである“挑発”が発動されたのだ。“挑発”は、文字通り相手を挑発することで、攻撃技以外を一切出させないという効果を持っている。どうやら、シャナよりルテアの方がその技に引っかかりやすいという魂胆だろう。しかし、ルッグのその意図を分かった瞬間、シャナは思わず口元を釣り上げてしまった。
「残念だったな、兄ちゃん。俺はそんな挑発には引っかからないんでな」
 ――やっぱり。
 ルテアはルッグの放った挑発に乗ることはなかった。長年の付き合いで分かったことだが、ルテアは相手をいじったり、軽いノリでおだてたり、暴言を放ったりはするものの、バトルの時に限りいざ自分がそれらを受ける側の立場になると、いきなり冷静になる性格のようなのだ。その図太い神経は何とも便利だな、とシャナ自身呆れたことが何回かある。
「しかし、あんたみてぇな輩が敬語なんて使ってくるたぁ思わなかったぜ」
「なっ……! 見た目は関係ないでしょうが!」
 ルテアは、挑発をしたルッグに対して逆にそう切り返した。するとどうだろう、別に正式な“挑発”を放ったわけではないルテアに対して、ルッグは顔を真っ赤にし始めたのだ。棍棒を構え、猪突猛進気味にルテアへ突進する。それをルテアは「よっ」と言いながらひょいひょい交わしたり、棍棒の攻撃を捌いたり、適当にあしらい続けた。と、いきなりルテアは攻撃中のルッグに向かって声をかける。
「おぅ兄ちゃん、俺の方ばかり見てていいのか?」
「は?」
「――“ブレイズキック”!」
「うわあっ!?」
 ルッグの背後から、炎に包まれたシャナの蹴りが彼を襲う……と思ったが、シャナの攻撃の瞬間、驚いたルッグは足を滑らせて間一髪攻撃から逃れることとなった。
「お、たまたまとはいえ避けるのはなかなかだ」と、シャナは独りごちる。シャナから見て、このズルズキンはかなり出来ると思った。
「忘れたのか? これはダブルバトルだぜ」
「ファイア君ッ! 何をボケッとしているんですか!!」
 ダブルバトルなのに今まで傍観しかしていなかったファイアに、苛立ち気味のルッグが渇を飛ばした。「ひっ」と少し情けない叫びが彼から漏れる。
 シャナはファイアのその姿に、同情に近い苦笑いを漏らした。そこへルテアが密かに近づいて彼に言う。
「はぁん……どうやら二人はダブルの経験があまりなかったみてぇだな……」
「どうやらそのようだ。まぁ、いまさら手加減したら相手に失礼だろ、俺はいつも通りに行く」
 そういったシャナが、今度は自ら攻撃を繰り出すために走り出した。
「“かわらわり”!」
 狙うは、棍棒を持ったズルズキン・ルッグ。と、先程渇を受けたファイアがルッグの脇から現れた。
「“ファイアーボール”!」
 シャナに向けられた火の玉。しかし、彼は構わず走り続けた。このままなら技が当たってしまうといった時、絶妙なタイミングで火の玉の前にルテアが躍り出る。
「“アイアンテール”!」
 硬化した尻尾で火の玉を相殺する。その拍子に尻尾がジュッと熱せられ、ルテアは「あっちぃッ!」と叫んだ。どうやら尻尾の毛が焦げてしまったようだ。
 シャナが放った“かわらわり”をルッグは棍棒で払い続ける。しかし、相手は“組手”を会得したシャナだ、やはり段々と彼がルッグを押す形になる。そして、ルッグがフィールドの橋まで追い詰められると……踵が段差に引っ掛かった。
「うわっ!」
 倒れないようにバランスをとろうとしたために、ルッグの攻撃の手が止まってしまった。その隙を逃すシャナではない。
「“かわらわり”!」
「グッ……!」
 地面に叩きつける形で、シャナの技が炸裂した。その時、ルッグの周りの地面に出来た亀裂を見て、カイをはじめとする数十人の観衆の顔に縦線が増える。
「“火炎車”!」
 ファイアは、立ちはだかったルテアに炎を纏って突進する。だが、それはルテアの電撃に防がれてしまった。そして、ルテアは――。
「――“フラッシュ”ッ!」
「うわぁっ!?」
 迸る閃光は、叫び声を上げたファイアのみならず観衆にまで届いた。思わず彼らも目を塞ぐ。
「さて、そろそろフィニッシュといこうじゃねえか」
 まばゆい光に動きを封じられたファイアとルッグを、ルテアの赤い双眸が捕らえる。
 ――悪いが、俺の目はフラッシュ越しにもよく見えるんだぜ……。
 身体中に電撃を纏った電撃を、彼は二人に向けて放った!
「“電磁砲”ッ!」
「「!」」
 ファイアとルッグは、二人して電磁砲をもろに食らった。まさか、この閃光の中から正確に攻撃を当てられるとは思いもよらなかったらしい、被弾した彼らは驚きを隠せないようだった。
「俺たちレントラーの目が光で見えないとでも思ったか?」
 そう、何者をも見通す目を持つルテアにとって、“フラッシュ”の閃光は“電磁砲”を確実に放つための時間稼ぎであり、牽制であり、予備動作なのだ。
 そして。
「なっ……!?」
 “フラッシュ”の眩しさから回復した二人の目は、ある光景によって見開かれることになった。
 彼らの目には、青い炎を纏ったシャナの姿が移っていたのだ――。
「まずいっ!」
 ルッグは、シャナの纏ったただならぬものに、本能的な危機感を感じた。だが、彼らが回避のためにどれだけ体を動かそうとしても、なぜか体が思うように動いてくれない。すると、ルテアは歯を見せて笑いながら……。
「忘れたのか? 俺が放った技の効果を」
 ルテアが先ほどはなった技・“電磁砲”は必ず相手を麻痺状態にする技。それを受けたファイアとルッグは、どうやってもうまく体を動かすことができないのだ。そして、シャナのまとったその青い炎に、今度は衝撃波のようなオーラが包み込む。そして、麻痺状態で動けない二人に彼は……。

「――“フレアインパクト”ッ!」

 “フレアドライブ”と“ギガインパクト”の会わせ技――“フレアインパクト”は二人を容赦なく襲い、技を解除した頃には、彼らは目を回して伸びていた。
 勝負は、爆炎槍雷の勝利で決着がついたようだ。


「おいおい、ありゃやりすぎなんじゃねぇか?」
 ルテアは、かなりボロボロな様子の二人を指差して、シャナにジトッとした視線を投げ掛けた。
 シャナは、呼吸を整えながら頭をポリポリと掻く。
「いや……手加減はしたはずなんだがな……反動きついし」
 ――手加減してあのほどの威力なら、本気を出したらどうなるんだ……?
 その時、観衆のほとんどがそう思ったに違いない。

■筆者メッセージ
ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と 業火の炎〜では、「第九話 ほんの余興」とお話がリンクしています。
ものかき ( 2014/05/23(金) 12:14 )