へっぽこポケモン探検記




















小説トップ
第七章 英雄祭編
第九十六話 予想外の出来事
 ――ついに始まった“英雄祭”、そこに来たお客さんの数が思った以上に膨大で、僕とスバルはいとも簡単に離ればなれとなってしまった! しかも、お金とかは全部僕が持ってるし、スバル大丈夫かなぁ……?





「はぁっ……! やっと抜けた……!」
 しばらくの間、僕は群衆の波にもみくちゃにされながら道を歩いていた。そして、ようやく開けた空間を見つけて僕はやっとの思いで波から抜け出すことができた。
 僕が抜け出した空間も、人の流れは無いにしろ、人だかりはたくさんできていた。ここはいったいどこら辺なんだろう……?
 目の前には、祭りの準備の間に突貫工事で設えたのだろう、急ごしらえ感の拭えないバトルフィールドが二つほどあった。そして、いくつかのテントの上には目印のような旗がある。
 そうか、ここはバトル大会のフィールド……。

「――ん? おーい !そんなところで何やってんだよー!」

 不意に、前方にある少し離れたテントから聞き慣れた声が聞こえた。僕がその方を見てみると、テントの中にルテアさんシャナさんがいるのが見えた。シャナさんは僕を見て手招きしている。
 さっきの声はルテアさんだ!
「ルテアさん、シャナさん!」
 僕は思わず声をあげて(たぶん知っている顔を見つけて安心しちゃったんだ)、急いで彼らのいるテントに駆け寄った。そんな僕を見た瞬間、二人の表情が訝しげなものとなった。
 そんな二人を代表するかのように、シャナさんが僕にむかって尋ねる。
「カイ、スバルと一緒じゃなかったのか」
「それが……。あの人混みではぐれてしまって……」
 そう言ったときの僕は、恐らく罰が悪い表情だったと思う。一方、僕の話を聞いたシャナさんたちは、妙に納得したような表情になった。
「あー……あの人だかりならそりゃはぐれるよなぁ」
「言っておけばよかったな。この祭りのお客さんの数はハンパないって」
「まるでケンタロスかバッフロンの群れだぜ」
 ルテアさんとシャナさんは、ひとしきり交互に感想を述べたあと改めて僕をみる。
「で? どうすんだよお前。あの人数からスバルを探しだすなんて無理だぜ」と、ルテアさん。
「え、えっと……やっぱりあんまり動かない方がいいですよね……」
「なんならバトル会場で待ってればいいじゃないか。ここは目立つし。そろそろ大会が始まるから、待っている間も暇しないしな」
 これはシャナさんの提案だ。確かに、バトル大会の会場はすぐに目がつく。スバルのことだから、たぶんすぐこっちに来てくれるはずだよね……。
「バトル大会は、二人が進行するんですよね?」
「ああ、俺がシングルで……」
「俺がダブル」
 ルテアさんがシャナさんの言葉を引き継ぐ。
 二人が言うには、決勝戦までは同時進行でバトルしていき、決勝戦は先にダブル、最後にシングルとなるらしい。
 と、不意にルテアさんがとんでもないことを言い放った。
「そうだカイ、ここでスバルを待ってんなら、お前もバトル大会にエントリーしちまえよ」
「……」
 ……え?
「えぇええええええッ!?」
 むりむり! むり! むりッ!!
 青天の霹靂。いきなりルテアさんが放った予想外の爆弾発言に、僕は必死で首をブンブン振った。
「僕にバトルなんてできませんよっ! 前に撃沈したじゃないですかぁっ!!」
 前に、というのはもちろん“ヤンキーズ”戦のことだ。
「『前に』っていつの話だよ! そんな大昔のこと……」
 ルテアさんがすかさず放った反撃に返す言葉が見つからなかった僕は、最後の頼み綱に助けを求めた。
「シャ、シャナさん! なんとか言ってください! 僕にバトルなんて……!」
 すると彼は……。
「いいじゃないか勝ったって負けたって。勝敗を恐れていたらなんにも始まらないぞ」
「……」
 ……最後の頼み綱が今、絶たれた……。そのまま奈落の底に落ちた気分だ……。
「ほら、シャナもこう言ってるし、潔く腹をくくりやがれ」
「ルテア、ペン」
「あいよ」
 僕が密かにうちひしがれている横で、シャナさんがトーナメント表と名簿を取り出した。そして、執刀医がメスを受けとるような口調でルテアさんからペンを受け取り、僕の名前を記入する。あぁー……。
 シャナさんのその行動は、実際にメスを入れられる痛みより、精神的に痛かった……!





『待たせたな、バトル好きなポケモンたちッ! 今から、“英雄祭”最大イベント――バトル大会を開始するぜーッ!!』
 そんなこんなで、いつの間にかバトル大会が始まった。ルテアさんがフィールドのど真ん中に立ち、観衆にむかって四足ポケモン用のマイクで呼び掛ける。その瞬間、周囲からは割れんばかりの歓声が起こった。
『バトル大会にエントリーしてくれたポケモン、そして見に来てくれたポケモンには心から感謝するぜ! 進行は、毎年お馴染みの俺! ルテアだ!』
 再び歓声。そして彼は、『俺、来たぜぇー!!』と雄叫びをあげる。(僕の横にいたシャナさんがため息をついていたのはまた別の話)……と、僕の近くにいたゴチミルさんが、「キャーッ!」と叫びながら気絶してしまった。ちょ、誰かー!
『さて、早速ランダムに組まれたトーナメントでバトルをしていきたいところだが、その前に――』
 不意に言葉を切ったルテアさん。「彼、毎回こんなテンションですか?」とシャナさんに聞くと、「いつもこうだ」と返事が帰って来た。
『――毎年恒例! エキジビションマッチを行うぞーッ!!』
 え、エキジビションマッチ??
 観衆たちが興奮に沸くなかで、そんな話を聞いていなかった僕は首を捻った。僕はシャナさんを見上げて尋ねる。
「なんですか? エキジビションマッチって」
「本戦前の余興に、司会者と、客一人が飛び入り参加してバトルをするんだ。これが結構人気で、エキジビションマッチをしたくて祭りに来る者もいるぐらいだな」
「へぇ、ルテアさんとバトルしたい人がいるってことですか?」
「あいつはああ見えて、強い救助隊として名を馳せているからな。“槍雷”という二つ名もあるし」
 ルテアさんは、結構シャナさんみたいにその姿を憧れる人たちがいるみたいだ。それはきっとすごいことなんだろうなぁ。
『さぁ! んじゃ早速俺と戦う相手を選ぶんだが……。うーん』
 ん?
 ルテアさんは、なんだか不満げな表情だった。どうしたんだろう。
 彼はひとしきり唸った後で、不意に『これじゃあちょっともの足りねぇな』と言い出した。
「何をやっているんだあいつは」
 これはどうやら打ち合わせとは違った行動らしく、シャナさんは怪訝そうな表情で悪態をついた。そんな中、観衆たちも何が起こるのかとざわめいている。

『よし、決めた! ――今回のエキシビジョンマッチは、俺とシャナを相手にしたダブルバトルだッ!』

「え?」
「はぁあああああああッ!?」
 オーディエンスの歓声をBGMに、僕のポカンとした声とシャナさんの叫びが重なった。その間に、ルテアさんは満足げな表情でこちらに近づいてくる。
『ってことでさ、お前もフィールドに来いよ』
『何勝手なことしてるんだよお前はッ』
 シャナさん……叫び声がルテアさんのマイクに拾われてます……!
『なぁ、いいだろー! ダブルバトルしようぜー!』
『断る』
『なんでだよ』
『元々お前だけのマッチだろうが』
『固いこと言うなよ。――みんなも見たいよな! シャナのバトル!』
 ワーッ、と、先程とは比にならない大歓声。ルテアさんは観衆を味方につける作戦に出たようだ。
『ほらな、みんなも見たいってよ』
『いやだ』
『出ようぜ』
『やだ』
 や、やだ……?
『でろ』
『やだっつってんだろ』
 ルテアさんはついに「あぁーッ!」と叫びながらマイクをどかした。そして僕を見る。
「カイ、お前からもなんとか言ってくれよ!」
 え、ぼ、僕?
「え、えーっと。僕も見たいな、シャナさんのバトル。……いいじゃないですか、勝ったって負けたって」
 僕は、先程シャナさんに言われたことをそっくりそのまま返した。
「ぐっ……!?」
 こうかはばつぐんだ!
「よしっ、決まりだな!」
 ルテアさんは意気揚々と叫んで、強引にシャナさんをフィールドへ引っ張り出した。すごい歓声が起こったけど、シャナさん本人はすごくやりにくそうだなぁ……。
 彼は、自分が思った以上に周囲から慕われていることを自覚していないんだ……。
『さて、んじゃ改めてエキシビジョンマッチの対戦相手を選考するぜ! うーん、そうだな……』
 ルテアさんは、ざわめく観衆をぐるりとゆっくり見渡すと、『お!』と声をあげてある一点を見つめた。
『そこのマグマラシの坊主と眼鏡かけたズルズキンの兄ちゃん! フィールドに出てきてくれ!』
 観衆の後ろ側で会話をしていたマグマラシとズルズキンは、ルテアさんの指名を受けてちょっと……いや、かなり驚いたような顔をしていた。そうだよね、いきなり指名されたら誰だって驚く。
 指名された二人は、どうやら連れらしいメガニウムと会話を数回した後、ポケだかりを掻き分けながらフィールドまで出てきた。
『よっしゃ!! 今回のマッチは、この四匹でダブルバトルだ!!』
 そう叫んだハイテンションなルテアさんに、シャナさんは再度ため息をつく。マグマラシさんとズルズキンさんは、彼のペースについていけていないようで、しばらく硬直していた。
「あ……あの」
「ん? どうしたんだ坊主?」
 少々おどおどしながら左手をあげるマグマラシさんに、ルテアさんはずいっと彼に寄る。な、なんか彼怖がってますけど……。
「なんで僕達を指名したんですか?」
「なんだ、そんなことかよ」
 質問にルテアさんは、なぜか得意気に胸を張った。
「そんなの、あんたらが仲よさそうだったからに決まってんだろ!」
『……』
 予想はしていたけど、やっぱり何となくで決めた理由に、シャナさん以下相手二人も複雑な表情をした。
「そういうことで、俺はルテアだ!」
「バシャーモのシャナだ。よろしく」
 二人が自己紹介をすると、慌てて彼らも自らの名を明かした。
「ま、マグマラシのファイアです」
「ズルズキンのルッグです」
「ファイア!! ルッグさん!! がんばって!!」
 ん?
 どうやらさっきまで二人と会話をしていた連れのメガニウムが、大音量で彼らに声援を送っているようだ。
「おぉ? 坊主、彼女からの黄色い声援か? いいねぇ」
 さっそく、というかなんというか。フレンドリーな口調でルテアさんはファイアさんを囃し立てていた。
 ファイアさんはその瞬間に顔が真っ赤に染まる。
 も、もしかして内心まんざらでもない!?
「違いますよッ!」
 ものすごい慌てぶりで首をぶんぶんと振る彼に、ルテアさんはさらに面白がって豪快に笑った。でも、さすがに初対面相手にやり過ぎのような……。
「悪かった悪かった、それじゃ始めようぜ――審判!」
「は、はぃ!」
 え、ルテアさんたち以外にも審判いたんだ。エキシビジョンマッチ専属の人かな。見ない顔だから多分救助隊の誰かだと思うけど。
 いきなり声をかけられたことで、少し慌てていた審判だけど、居住まいを正した後、真剣な目付きになった。

「そ、それではエキシビションマッチダブルバトル……開始!」

ものかき ( 2014/05/22(木) 10:23 )