へっぽこポケモン探検記




















小説トップ
第七章 英雄祭編
第九十三話 あの季節が来た
 ――僕が修行したり、ローゼさんから衝撃の事実を聞いたり、シャナさんが怪我したり……。色々なことがあったけど、僕らにやっとしばらくの平穏な日々が訪れた。と、ある日……。





「――諸君、そろそろあの季節がやって来たぞ!!」

 とある日の朝礼、いつものように大広場の前でラゴンさんの話を聞いていた僕たちだけど……(ウィントさんはやっぱり脇で見ているだけだ)。
 なぜか、今日のラゴンさんは妙にハイテンションだ。
「あの、ラゴンさん……」
 僕の横にいたスバルは、耳をピクピクさせながら控えめにラゴンさんへ声をかける。
「ん? どうしたんだスバル」
「『あの季節』って……なんですか?」
「ああそうか、“シャインズ”は新入りだから知らないのか……」
 ラゴンさんは、顔がくっついた両手を組んで、一人フムフムと納得する。そして彼はなぜか得意がりながらその場を数歩徘徊した。(浮いてるけど)。
「数年に一度訪れる『あの季節』とは、すなわち――」
 と、歩を止めたラゴンさんの目がギラリと光った。(僕が少し怯えてしまったのはここだけの話)。

「――“英雄祭”だ!!」

「「えいゆーさい?」」
 僕とスバルは同時に首をかしげて同時に声をあげた。なんだろうそれは?『さい』がつくからには何かのお祭りだろうか?
「説明しよう! “英雄祭”とは……」
 今日のラゴンさんはやけにハイテンションだ。彼は意気揚々と説明を始める。
 “英雄祭”。
 数千年前、この大陸が二つの国に分断されていたころに世界の危機を救ったとされる“英雄”を称えて、決まった年にトレジャータウン総出で、大々的に行われるお祭りのことだ。
 その英雄とは、もちろんあの“英雄伝説”に出てくる英雄のことで、トレジャータウンの住民はこの祭りにただならぬ情熱を注いでいるらしい。
 ちなみに主催はトレジャータウンの町役場と、ここ、ビクティニのギルドだ。
「……で、我らも今日から、祭りに向けた準備に取りかかる必要がある!」
 相変わらず声がでかくなっていくラゴンさんの言葉に、ギルドのみんなはザワザワした。みんながみんな、それぞれ祭りに対して感想を抱いている。またこの時期が来たとか、これから忙しくなるとか……。
 と、そんなざわざわとした声の中で、シャナさんが控えめに声を発した。
「ひとつ思ったんですが、今は“イーブル”のことでバタバタしている最中です。またいつ敵が来るかもわからないのに、祭りはそのままやるんですか?」
「ふはははその質問を待っていたのだシャナ!」
「……」
 ラゴンさんはシャナさんの質問が終わらないうちに高笑いをしながらそう言った。今日のラゴンさんのテンションはハイを通り越して異常だ。
「確かに! “イーブル”がいつ襲撃に来るかわからないこの状況で、祭りなど行うのは控えた方がいいかもしれん! だがしかーし! トレジャータウンはこの祭りを心待ちにしているのだ! このギルドはトレジャータウンの補助なしに運営できない! 日頃の感謝をこの祭りで返さずいつ返すのだ!」
 ラゴンさんは長い独白を終えたあとになぜか得意顔になる。(俗に言うドヤ顔というやつだ。)
 まぁ、確かに。トレジャータウンは最近“イーブル”やNDの恐怖に、活気が失せてしまっているような印象も受けなくはない。一日二日のお祭りでその活気を取り戻すことも必要なのかな。
「と、いうことで。“英雄祭”はとり行う。今日からその準備だ! いまから役割分担をするから、各自その役割を果たしてくれ」
 ラゴンさんはリオナさんに目配せをした。すると彼女はどこからかクリップボードのようなものを取り出し、ラゴンさんに渡した。どうやらそのボードに役割が書いてあるようだ。
「えー、まず俺は……“英雄祭”の総責任者だ。よろしく頼む。で、まずはリオナとルペールはギルドの展示会の準備をしてくれ。アリシアとトニアもそっちに回す」
「わかりました」
「リョーカイデス」
「それで……。シャナはルテアと一緒に祭りの目玉であるバトル大会の準備だな。おっと、言い忘れていたが、今回は救助隊選抜メンバーも祭りを手伝ってくれることになったからな
 ラゴンさんの嬉しい知らせに、弟子たちみんなが歓喜にざわめいた。「うぉお!毎回人手が足りないから助かる!」とか、「今回は忙殺されなくてすむ……!」とか。しまいには嬉し泣きする者まで現れた。え、このお祭りの準備ってそんなに辛いの?
「次、ショウは医療テント担当だ。当日までに医者を数人集めてきてくれ。……救助隊選抜にも一人いるだろ、医療係」
「はぁ……。まぁ、いるにはいるんですけど」
 ショウさんの受け答えは歯切れの悪いものだった。ん?どうしたんだろう。救助隊の医療班ってどんな人なのかな? 後でルテアさんに聞いてみよう。
「マルマン、ムーンは、当日は巡回警備に回ってもらう。レイはいつも通り迷子の案内役だ。今日はとりあえずテントを張るのを手伝うように」
「はーい」
「わかったぜコラァ」
「はいです!」
「マルマン、お前……前回みたいに爆発するなよ?」
「わかってるぜコノヤロー!」
 ……いったい、前回彼に何があったんだろうか。
「で、シェフは……」
 ラゴンさんはコック帽を被ったブーバーに視線を移す。すると彼は、興味なさげに
「屋台の準備でもしているよ」
 と言った。
「頼むぞ」
「ねぇねぇー、ラゴンー! 僕はぁ?」
 と、ここに来て初めて親方であるウィントさんが、フワフワ浮遊しながらラゴンさんに声をかけた。その瞳は期待でキラキラ輝いている。
「親方は……」
 ラゴンさんはクリップボードに挟まれた紙をパラパラめくって一言。
「お祭りを楽しんでください」
「わかったぁ!」
 これには全員、声に出さずとも同じことを感じただろう。
 ――はたして、これでいいのだろうか……?
 と、すでに僕ら以外全員が役割をもらったようで、広場の真ん中には僕とスバルだけが取り残された。ラゴンさんは僕らの方へ近づいてくる。
「さて……カイ、スバル。二人はある意味一番重大な任務を果たしてもらう」
「ある意味……」
「……重要な任務?」
 僕らがペラップ返しに聞き返すと、ラゴンさんはにやりと笑う。
「重要な任務、それは……祭りの宣伝だ!」
 ビシィッ!
 再びラゴンさんがハイテンションモードで僕らに指差す。
「君たち二人がこの祭りの宣伝をどれだけしてくれるかによって、客の動員数がかなり変わるのだ!!」
「具体的に私たちは何をすればいいんですか?」
 スバルの問いに、ラゴンさんは深くうなずきながら「いい質問だ」と言った。
「二人には案内状を配ってもらいたい。具体的なやり方は後で説明しよう。とりあえず、外へ出る準備をしてまたここに来てくれ」





 僕たちは、いつも冒険するときに使うトレジャーバッグを肩に下げて、ラゴンさんに言われた通りに大広間へ戻ってきた。
「さて、早速二人には案内状を配ってもらいたいのだが……。案内状は二人で手分けして配ってもらいたいのだ。まずは……」
 ラゴンさんは、まず左手から大量の案内状を取り出す。紐で縛られた束がいくつもあった。これ、何枚ぐらいあるんだろう?
「トレジャータウンを一周して、家々にこれを投函する作業。そして――」
 と、今度は右手からこれまた大量な案内状が。しかし先程と違うのは、こちらは案内状が箱詰めされている点だ。
「こっちは遠方への案内状だ。もう片方はこれをペリッパーの郵便局へ届けてもらう作業をしてもらう」
 なるほど、他の地方からもお祭りの動員を求めるって訳だね。
 相談した結果、僕がペリッパー郵便局へ遠方への案内状を届ける作業、スバルがトレジャータウンを回る作業をすることになった。
「二人とも、しっかりやってくれよ!」
 ラゴンさんは僕らにそう言い残してどこかへ姿を消してしまった。
「じゃ、カイ。終わったらギルドで待ち合わせね!」
「うん、気を付けてね」
「カイもね」
 僕らはギルドの入り口からそれぞれ右と左に別れて道を歩き出した。
 さて、これから忙しくなるぞ!





 〜案内状〜

 今年もやります! “英雄祭”!
 トレジャータウンが総力をあげて主催するタウン全体のお祭りです!!
 露店、屋台多数!
 祭り最大の目玉であるバトル大会ももちろん開催!
 老若男女どなたでも、どしどしご参加ください!



ものかき ( 2014/05/18(日) 17:20 )