“イーブル”――出陣
――“眠りの山郷”でのコンタクトの後、なんの音沙汰も見せていなかった“イーブル”。しかし彼らはその裏で、着実に準備を進めていた。
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「――で、実際のところどうだわさ?」
円卓のように並べられた五つの椅子、その一席から眠そうに声をあげたのは、ゼリー状の体をしたランクルス。四本柱の一角だ。他の四席にもしっかりとそれぞれのポケモンが居座っていて、それは場に全員が揃っていることをあらわしていた。
「今のこの状況は、僕らに有利だわさ? あっちに有利だわさ?」
ランクルスの言葉に、「ふん、そんなこともわかりませんのゼリー?」と、ジャローダのミケーネが声をあげる。
「ふん、じゃああんたはわかっているだわさ? ……蛇」
「キィイイイイ!! だからあたくしは蛇じゃなくってよぉおおッ!!」
「グヘへ、まぁ“命の宝玉”はこっちにあるし、NDもなかなか侵食率は高いんだろぅ? ねぇ、ミケーネちゃぁん?」
ダストダスは、誰が聞いても耳を被いたくなるような気持ちの悪い声音でミケーネに近づく。だが……。
「あたくしに触らないでくださいませ!!」
「グヘェ!!」
それをすかさず彼女は“つるのむち”で弾いた。
「だけど、あのリオルは謎のギルドで強くなっちゃっただわさ。せっかく化石盗賊団をけしかけたのに返り討ちにされちゃっただわさ」
「……どうやら、リオルは確実に力をつけてきている。それはこちら側に不利だろうな」
ここに来て初めて、最後の四本柱、エルレイドのエルザが発言した。それを受けた三人がじっとりとした視線を彼に向ける。
「グへ、まぁ確かに? “三日月の羽根”もなかなか集まっているから、“満月のオーブ”が完成するのも時間の問題だろうねぇー。楽観視はできないよグヘヘへ」
「というかエルザ! 何勝手に敵と接触してるだわさ! 危うくインビクタに捕まりそうになっただわさ!」
「ふん、因縁の相手を殺しに行ったと思ったら、中途半端に帰ってきましたし――」
「やめろ」
『……』
制止の声をかけたのは、円卓の真ん中に当たる席に座ったボスであった。その瞬間、四本柱は全員が口を閉じて沈黙する。
「……確かに諸君の言う通り、我らは有利とも不利とも言えない。決定打に不足しているのも確かだ。ならば――」
ボスの静かな声に、四人全員が耳を傾けて次の言葉を待った。
「――抜本塞源。危険因子が手に終えなくなる強さを得る前に……潰す」
「おーぅ、言うねぇボス。だけど、どうやって潰すんだい? 楽しそうだけどグヘヘへ!」
ダストダスの言葉に、今度は彼へじとっとした視線が送られることとなった。
「……連盟側は、そろそろ“アレ”に浮かれる頃だろう」
「あぁ、アレね。お気の毒だわさ」
「その祭りの時に……奇襲をかけるのか」
エルザがボスの言葉の意味に気づき、そう言うと、一瞬全員の表情が固まった。だが、それも一瞬のことで、その後全員がそれぞれの表情を見せた。
ある者は、襲撃を望む猟奇的な表情を。
ある者は、眠そうにしながらもその意見に賛成する表情を。
ある者は、ボスの意見が全てだと言う表情を。
そしてある者は、再び会うであろう因縁の相手に対する覚悟の表情を。
ボスは、そんな四本柱のそれぞれの表情を見回し、そしてこう言った。
「――諸君……出陣だ」