第七十九話 バトル! ――VS化石盗賊団
――いきなりギルド“ブレイブ”を襲った化石盗賊団を名乗る九匹に、ギルドメンバー五匹プラス一匹が彼らの制圧にかかった!
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「“水の波動”!」
ミネラは化石盗賊団の一員であるトリデプスにむかって水の塊を放った。詠唱から技の錬成、発動までのロスタイムはほぼ無い。
バシャッ! “水の発動”がトリデプスの顔に命中した。
「……ああー? なんか今顔に当たったなぁ……」
しかし、トリデプスという種族柄か、ただ神経が相当鈍いだけか、とにかく彼はそう反応してからノロノロと再び破壊活動に戻ろうとする。
「パパたちのギルドを壊さないで! ――“ミネラルスター”!」
ミネラは高いながらも普段出さない怒りを込めた声でトリデプスに叫んだ。そして、“ミネラルスター”――水から生成された星を高速で打ち出す技――を放つ。後ろを向いていたトリデプスは、その技をもろに受けてバランスを崩しそうになった。しかし、やはりというか先程の鈍い反応には変わりがない。
「ああー? そんなことしてもおいらの体は痛くないよー……なんせ鋼の体なんだからー」
「じゃあ試してみる? 鋼と水、どちらが強いか!」
自身の二回の技を耐え抜いたトリデプスの言葉にも、ミネラは余裕な口調でそう叫んだ。そして彼は深呼吸をひとつして、キッとトリデプスを見据える。
「行くよ! 駆け抜け水たち!」
ミネラがそう叫ぶと、それに呼応したように、ミネラの周囲からザザッ、と水が溢れてきた。そしてその大量の水はトリデプスの方に流れながら、重力に逆らい、何かに形作られた。
「そしておいで! 水の仲間達!」
その何かは、ポケモンだった。
キングドラ、ミロカロス、ニョロトノ……水でできたポケモンたちは大量の水に乗って轟音をたてながらトリデプスに突進した!
「“アクエリアリムス”!」
「うわぁ……!?」
ザァンッ!!
トリデプスは水圧に耐えられずに地面に叩きつけられた。ミネラが“アクエリアリムス”を解いた時には、すでにトリデプスは地面に伸びていた。
「水だって、鋼に勝つことができるんだよっ!」
ミネラは自慢げにそう言って胸を張った。
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「君たちの相手は俺だ!」
一方シェルマルは、カラフルな体に羽のついたアーケオスというポケモン、そしてラムパルドと対峙していた。すると彼に気づいたアーケオスがケロケロした声で嘲笑うかのように叫ぶ。
「俺たち二匹相手に勝てると思ってるのかよ!」
「はったおせー! なぎ倒せー!」
ラムパルドは先程から馬鹿の一つ覚えのように同じことしか叫んでいない。シェルマルはこの二人を相手にすることに滅入ったのか小さく嘆息した。そして腰につけたホタチを両手に構える。
――カイ君の手解きをしている手前、どんな相手にもちゃんと勝たなきゃね……。
「いいよ……二人とも一斉にかかって来い!」
シェルマルは叫んだ。その瞬間、二匹はものすごいスピードで彼の方へ飛びかかる。
「俺のスピードについてこれるかな!?」
「はったおせー! なぎ倒せー!」
「……」
シェルマルはそんな二人を冷静に見極めた。そして……。
「はっ!」
「「ぐはぁっ!?」」
目にも止まらぬ速さでホタチに水の剣を生成し、懐に入り込んで二匹を斬りつけた。彼は、呻き声をあげて隙を作った二匹から一度離れる。そして……。
「見せてやる! これが俺の――」
シェルマルがそう叫んだ瞬間、彼の背中から天使にも似た羽が現れた。彼はそれをはためかせ低空飛行をしながら一気に二人に迫る!
「――斬空水天剣!!」
そして、一瞬の防御すらも許さない速さで水の剣を使い、彼らを斬り上げた!
「「ぎゃああっ!」」
もちろん二匹になす術はなく、斬り上げられた体は重力に従って思いっきり地面に叩きつけられた。技を解除して地面に着地したシェルマルは小さくこう呟いた。
「……まだカイ君の方が強いんじゃない?」
★
「君たち、本気で屋根の修理費どうするつもりなの!?」
シルムがそう言った相手は、大きな触手が特徴のユレイドルと、こちらも触手が目立つオムナイトだった。
「シュウリヒ? ナニソレ、オイシイノ?」
「オイシイワケナイじゃん。キットクイモノジャナインじゃん」
ユレイドルとオムナイトの二匹は、聞き取りにくい片言でお互いにだけわかるような会話をしていた。見ていて苛々を増幅させるような会話だ。
「ソレヨリ、ハヤクオタカラウバワナキャダメじゃん」
「オタカラ? ナニソレ、オイシイノ?」
「……“ブレイクバレット”!」
ダンダンッ!!
「「ヒィヤァッ!?」」
シルムが構えたレウスバーニストから青い弾丸が放たれた。それらは二匹のすぐ前の地面にのめり込み、土くれが盛大に飛び散る。
もし本人たちに当たっていたらその自慢の甲羅など一瞬で砕け散ってしまっただろう。
「二人だけの世界に入らないでくれる!? こっちは本気で怒ってるんだ、覚悟はできてるよねッ!?」
「ウワァ、コワイ、コワイヨォ〜! “ハイドロポンプ”!」
「ナニソレ、オイシイノ?」
取り乱してしまったオムナイトがいきなり“ハイドロポンプ”を放ってきた。どうやら自分の世界に入ったまま聞く耳を持たないようである。
「はぁ……しょうがないね」
シルムは“ハイドロポンプ”を易々と避けながら、二丁拳銃をホルスターにしまい、代わりにフレイムベルジュという名の長い剣を取り出した。
「こっちは行かせてもらうよ!」
そう言ってシルムが目を見開いた瞬間、彼の全身に炎がまとわりついた! そして、その炎は羽をつけ、鳳凰の姿になる。
シルムはそのまま二匹に接近し、相手を炎に包み込んだ拍子に翼をはためかせ彼らもろとも上昇した。そしてフレイムベルジュを下にむかって突き立て……?
「紅蓮の翼よ! 燃えてつきろ!」
炎をさらに強めながら落下しはじめた!
「――鳳凰降下斬!!」
「「ヒィヤァアアアアッ!」」
ドカッ!
二匹は“鳳凰降下斬”を受けあえなく地面に伸びた。タイプ不一致ながらも一撃で二匹を沈めるあたり、シルムの力量がいかなるものかがよくわかる。
「ものを壊すのはいけないことだよ、ちゃんと反省してね」
★
「アーマルドにアバゴーラか……」
ラッシュは目の前に立ちはだかる二匹のポケモンを見ながら小さく呟く。相手方も、ラッシュの姿を見た瞬間彼がただ者ではないことを悟り、戦闘体制に入った。
「……見たところ、ただのリザードンでは無いようだな」
アーマルドが鋭い視線を彼に投げ掛けながら言う、それを受けアバゴーラが手で顎を撫でた。
「ほう、それはそれは。用心せねばいかんのう……」
――本当に用心しようとしてるのか?
アバゴーラの口調にラッシュは内心でそう突っ込んだ。
「だがしかし! 我らは戦わなければならん! 切り捨て御免……ゆくぞ!」
「行かねばならんのかのう……」
訳のわからないことを言いながら二匹はこちらに迫ってきた。だがラッシュは慌てず騒がず、不敵な笑みさえ湛えながら二匹へ接近していった。
「俺をただのリザードンではないと見抜いたのは感心だな。その力量に免じて、俺の最強の技で相手をしてやるぜ!」
そう叫んだ後、ラッシュの拳が炎に包まれた。その拳――“炎のパンチ”は見えないほどの速度で当たり前のように相手の体にのめり込む。
「燃えろ! 気合の拳!」
「「ぐわぁッ!?」」
相手が苦悶にうめくその間にも、ラッシュは両手にそれぞれ青い球体と紫の球体を飛ばす。
「竜の心を極め…限界を超える!!」
その球体の生成時間はコンマ以下だ。それを二匹は避けられるはずもない。そして、ラッシュは最後の畳み掛けとばかりに一気に相手の懐に潜り込んだ。その両手には先程の“炎のパンチ”に加え、彼自身の波導を練り込んだ拳で……。
「――“龍炎波動撃”!!」
アーマルドとアバゴーラに渾身の一撃を食らわせた! ドゴッという打撲音の後、気絶した彼らが再び起き上がってくることはなかった。
「ふぅ……まぁ、こんなところだな」
★
うぅ……。みんながみんな、いきなりやって来た盗賊団を制圧するために散らばってしまって、僕は一人きりになってしまった。しかも、制圧しなければならないのは僕も同じわけで……。
「キェエーーーッ!!」
僕の目の前には甲羅のようなポケモン――カブトプスが奇声を放ちながら両手の鎌を振り回し破壊活動をしている。どうやら僕が止めなきゃいけないのは彼のようだ……。
「や……ややややめるんだっ!!」
僕はありったけの勇気を振り絞り、叫んだ。声が裏返るおまけ付きで。するとカブトプスは振り上げていた鎌をピタリと止め、ギロリ、とこちらを振り返った。ヒィッ!?
「ぼ、僕が相手だ……い、いや、あの……」
やっぱり無理やっぱり無理……!
「……」
「……」
「キェエーーー!!」
「ぎゃぁあああ!?」
カブトプスが怪鳥のごとき叫びでこちらに向かってきたぁッ!? そして鎌をこちらに降り降ろ……!
「……あれ?」
ヒョイ。
僕は重心を少し横に傾け、カブトプスの鎌をなんなく避けた。なんだろう……シェルマルさんの太刀捌きの方が全然速い……。
「キェッ!? この我の鎌を避けるなど……! 貴様、何奴(なにやつ)!?」
「いやいやいや!」
別に何者でもないんですけど。
「ならば! 食らえ“滝登り”鎌へ集中バージョン! キェエーーーッ!!」
「あー……」
カブトプスは鎌に水を纏いながらこちらに突進してくる。だけど懐に隙がありすぎた。
「あの……悪く思わないでくださいね。“ソウルブレード”!」
だん、と僕は一歩前に踏み込んでカブトプスの懐に入り込む。そしてまず左手の剣をのめり込ませる。
「グホォオッ!?」
カブトプスは意外にもかなりの距離を飛ばされた。ラッキー。僕はそのまま右手の剣を――飛ばした。僕の腕から放たれた白い剣は、そのまま刃となり真っ直ぐカブトプスに当たる。
ここで補足をひとつ。僕の技“ソウルブレード”は剣として使えるだけでなく、僕の意思次第で剣を刃にして飛ばすことができ、遠距離攻撃にも使えるんだ。
「ギェエーーーッ!?」
カブトプスは断末魔のような大袈裟な叫び声を上げ、ドサリと地面に倒れ込んだ。
「……あれ?」
カブトプスを、倒しちゃったよ……僕。
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「ヒャアッ!! 俺の相手はテメェかァ!」
「ああ、そうだ! 覚悟はできてんだろうなこの野郎! 俺たちのギルドを壊した罪は重いぜ!!」
一方こちらはリーダー同士の戦いとなっていた。片方はギルド“ブレイブ”の親方・ドルクに、もう一方は化石盗賊団首領のプテラだ。
先に動いたのはプテラだった。彼の回りに衝撃波のようなオーラが纏われた後、ドルクに向かって突進してくる。
「“ギガインパクト”!」
「ふん、“ロックフェンス”!」
ドルクはノーマルタイプで一、二を争う高威力の技にたいしても鼻であしらいながら、前足を強く踏み鳴らし、岩の壁を出現させた。
プテラは案の定避けられずに“ロックフェンス”に激突する。だが、“ギガインパクト”を発動していたにも関わらず岩の壁にはヒビひとつ入っていなかった。
「リーダーのクセにこの程度か! それなら手っ取り早く終わらせるぜ!!」
彼は“ギガインパクト”の反動で動けないプテラに向かって叫んだ。
「見せてやるぜ、俺のファイナルロック!」
ドルクはそう叫んだ後、自身の顔の前に巨大な音符を出現させた。その巨大な音符の周りには小さいながらも様々な色をした音符が大量にまとわりついている。だが、“音符”と表したものの、その実体は強い音波だ。あんなものを食らって無事でいられると思うほどプテラも馬鹿ではない。
「ヒャアッ!? ちょ、ちょっと待ち……!」
「食らえ! ――“ハードロックメドレー”!!」
ドルクはついにその音符をプテラに向けて放った。音速で向かう“ハードロックメドレー”を避けられるはずもなく……。
「ヒャアァアアアッ!!」
プテラは断末魔の『ような』ではなく、本当にこの世の終わりに近い奇声を上げながら倒されたのだった――。
「このギルドを相手にしたのが間違っていたっつうことをテメェのハートに刻んどきな!」