へっぽこポケモン探検記




















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第六章 探究と追究編
第七十八話 修行は厳しいだけじゃない
 ――気合いを入れ直し、とうとうギルド“ブレイブ”での特訓が始まった!そのキツさのほどは……一週間たった今でも口にできない。





「だーかーらー! その技は二刀流なんだから利き腕だけで捌かない! これ昨日も同じこと言ったよね!?」
「は、はいすいませんッ!」
 バトルフィールドに響く二つの声。最初に放たれた声はシェルマルさん、もうひとつは……僕だ。
 いま現在何をしているかというと、新しく覚えた技“ソウルブレード”の扱い方をシェルマルさんから教わっているところなんだ。彼は二つのホタチを持って“シェルブレード”を発動し僕の相手をしている。
 しかしこの“ソウルブレード”、自由に繰り出せるようになったのはいいけど、集中力をアホみたいに使う技なのだ。すこしでも気を抜けば消えてしまう技なのに、それを両手で捌けと言うのもなかなかの無理難題。全身が汗だくの状態だ。
「“連双牙”!」
「え、ちょっ! ちょっとまっ……!」
「言ったでしょ、バトルに待ったは無しッ!」
「うわあっ!」
 シェルマルさんはそう叫んで容赦なくこちらにたたみかけた!ドガッ、と“連双牙”が僕の“ソウルブレード”に当たり、僕はかなりの距離を吹っ飛ばされてフィールドに背中を打ち付けた。痛い……!!吹っ飛ばされた拍子に集中力が途切れ、技も消滅してしまった……。
「二人とも、ちょっと休憩する?」
 ちょうど良いタイミングで向こうからシルムさんが声をかけてきた。や、やっと休める……。


「新技を出せるようになったとはいえ、やっぱりそれ以外は来た時とあんま変わんねぇな」
 休みを入れているときにドルクさんが僕にそう言ってきた。いままでの修行のキツさを考えると意外にひどい台詞だが、彼がニヤリと笑みを浮かべているのを見ると半分誉めの意味も含まれているらしい。
「波導は相変わらず読めないの?」
 シルムさんが聞いてきたので僕は縦に首を振る。
「そう簡単に波導は鍛えられねぇよ。一応少しずつは強くなってきてるから、焦らなくてもいいんじゃないのか?」
 ラッシュさん……! 僕は彼の『少しずつ強くなってきてるから』発言にじぃんと来た。
「そうだねぇ、ランニングは『浜辺でバテる』から『半分行ったらバテる』に昇格したもんね」
「えぇ? あんまり変わんないよ?」
 シルムさんが持ち上げてくれるけど、ミネラ君がすぐに落とす。頼むから僕のことは誉めるか貶すかどちらかにして……!
「でも、よくついていってるなと俺は思うよ。一週間前に比べたらね」
 彼は僕を見ながらにこやかにそう言ってくる。
「シェルマルさん……!」
 や、やっぱり今までの一週間は無駄じゃなかったんだね……! 彼の慰めの言葉に、僕は一週間前から行っている修行を思いだしながら、思わず胸が熱くなった。





 僕がこの期間にどんなことをしていたかを振り返ってみる。まずは、体力を増やすトレーニングだ。
「えっと、僕は何をすればいいんですか?」
「ああ、うん。オイラが今から攻撃を放つから、避け続けてくれればいいよ」
 シルムさんが腰に提げたレウスバーニストという二丁拳銃を両手に持ちながら言う。こう言ってはいけないが、いまのシルムさんには嫌な予感しかしない。
「じゃあ行くよ! “ショット&フレア”!」
 シルムさんがレウスバーニストから数発の弾丸――赤と青の二種類で、どうやら炎形の技――を放ってきた! こ、これを避けろと!?
「え、なに――ぶっ!」
 ……避ける間もなく二発目で被弾……。
 次は波導を鍛える練習だ。これはやはり波導が読めるラッシュさんに教えてもらう。
「前にも言ったが、波導は感情や精神と密接な繋がりがある。波導を鍛えたかったらまずは心身ともに鍛えるべきだな」
「はぁ」
「と、言うわけで。まず俺とバトルだ」
「え、なぜそうなるんですか? ラッシュさん! ちょっと! ねぇ!」
「――“フレアソウル”!」
 四つの火炎弾が容赦なく僕に飛んできた。もちろんそれを避けられるはずもなく……。

 新しい技“ソウルブレード”を使いこなすための修行は、ローテーションで教えてもらったけど、一番よくしてもらったのはシェルマルさんだった。
「俺の“シェルブレード”を上手く受け流して。やり方は数回やれば体が覚えてくれるはずだから!」
「はい!」
「行くよ!」
 シェルマルさんが両手にホタチを構えながらこちらに走り寄る。え、これどうすればいいの!?
 ガキィン!
「うわぁっ!?」
 “シェルブレード”が振り下ろされたので僕は両手をクロスさせガード(もどき)をした。
「いや、防ぐんじゃなくて受け流すんだよ!」
「な、何が違うんですか?」
「防ぐのは相手の力を百パーセント食らってしまうけど、受け流せばたとえ相手と力の差が開いていても逆にそれを利用できる……こんな風にねっ!」
 シェルマルさんが腕を動かした瞬間、僕の太刀が目に見えない一瞬の隙に捌かれた。そのせいで僕の懐がガラ空きになる。
「あ」
「“連双牙”!」
「ぐはぁっ!?」
 一発KOだった。





「よし、じゃあ再開しようか」
「は、はい!」
 シェルマルさんが僕にそう言って立ち上がった。「カイ、頑張ってね」とミネラ君が激励をくれる。さらにシルムさんが
「これ終わったら昼御飯だから頑張って!」
 と言ってくれたことでさらに僕のやる気が上がる。よし、がんば……。

 ドガァン!

「うわぁっ!?」
 いきなりギルド内のどこかで大轟音がした!僕らは全員、弾かれたように音をした方を振り返る。
「なんの音だ?」
 ドルクさんが怪訝そうな表情で言った。どうやら轟音はギルドの外から聞こえて来たようだけど……。
「ギルドの外に誰かいやがるみたいだぜ」
 恐らくギルドの外にいる誰かの波導を読み取ったのだろう、ラッシュさんが言った。心なしか表情が険しい。
「みんな、行こう!」
 シルムさんが先導して全員がギルドの外、轟音のした方向へと走っていった!





「ひゃぁっはっはっは! ここを襲撃すればお宝ががっぽり手に入るのかぁ!」
 ギルドの外、ノコギリ型の歯をしていて体は灰色、手のついた翼をはためかせるポケモン――プテラが、狂ったように高笑いしていた。飛翔している彼の眼下には、壊されてポッカリ穴が開いてしまっているギルド“ブレイブ”の天井があった。
 一方地上には……。
 ドガン、ドガン!
「ぶっこわせ! はりたおせ!」
 ギルドの壁に何回も突進しているポケモンの姿が。後ろ足はがっしりとしているが両手は小さく、岩盤のような肌の色をしたポケモン、ラムパルドだ。
 その他にもそこには、トリデプス、オムスター、カブトプス、ユレイドルやアーマルド、アーケオスやアバゴーラなど、総勢九匹のポケモンが各々ギルドの破壊活動を繰り広げていた。と、その時。

「――なにやってんだテメェらぁッ!」

 突然、空気を震わせるような叫びと共に、ドダイトスをはじめとする数匹のポケモンたちが彼らに走り寄ってきた。ドルクたち、ギルド“ブレイブ”である。
「テメェら! 俺たちのギルドに何てことしてやがる!」
「パパ、天井が壊れてるよ!」
 ミネラが壊れたところを指差し、ピョンピョンと跳び跳ねる。それを聞いて怒りを抑えられなかったのはドルクだけではないだろう。
「あの天井の修理費にいくらかかると思ってるの!?」
 ……真っ先に経理の方へ考えが行くのはさすが副親方というべきか。シルムは今まで放ったことのない迫力で叫びレウスバーニストを構える。
「なーんだ、誰もいないんじゃなかったのかよォ。あの野郎ハンパな情報寄越しやがってェ」
 上空にいたプテラはお世辞にもガラがいいとは言えない口調で言った。どうやらプテラがこの九匹のリーダーのようで、他のポケモンたちは皆彼の次の指示を待っていた。
「お前たちは何者だ? ここに何をしに来た!」
 ラッシュは最後の警告とばかりに声を低め、迫力満点な口調で問うた。だがプテラにはその迫力を理解するほど賢明ではなかったようだ。
「俺たちはァ、化石盗賊団だぜェ! ヒャアハァッ! このギルドにお宝がガッポリ積まれてるってェから奪いに来たのよォ!!」
 プテラの奇声混じりの言葉に残りの化石盗賊団もこぞって喚声をあげる。
「盗賊団だと?」
「全体的におつむが足りねぇ輩のようだな……」
 そう言うドルクの額にはうっすらと青筋が浮かんでいる。そしてくるりと首だけ後ろを向いてカイたちに叫ぶ。
「いいか!? 全員で手分けしてこいつらを止めろ!」
「親方、一応これは確認なんですけど……」
 シェルマルは、迂闊に触れたら祟られんとばかりに慎重に彼へこう言う。
「『こいつらを止めろ』って破壊活動をやめさせろって意味ですよね」
「いや、最悪()ってもいいぞ」
「いやいやだめでしょ」
「いやいやだめだろ」
 ドルクの恐ろしい物言いに、シルムとラッシュが見事なユニゾンで突っ込んだ。その横では、カイがドルクの言葉に反応し「えっ……」と声をあげて狼狽しているところを、シェルマルとミネラが「「いや、真に受けないでね」」と、これまた見事なユニゾンで突っ込んでいた。
「とにかく全員で――カイを含めてだぞ――こいつらを止めろ!」
『おお!』
 ドルクの数日間で一番の怒声に、全員が呼応した。そして散り散りに九匹の化石盗賊団へと向かっていったのだった。
「ぼ、僕大丈夫かな……」
 ……約一名は不安と共に化石盗賊団へと向かっていった。

ものかき ( 2014/04/26(土) 12:46 )