番外2 つっぱっていたあの頃
――俺の名前はサスケ。
ダイヤモンドランクの探検隊・“ヤンキーズ”のリーダーだ。 知ってる奴も知らねぇ奴もとりあえずよろしく頼むぜぇ。
今日はなんでか俺の身の上の話を無性にしたくなっちまった。やっぱり、俺も話し相手に飢えてんのかね?こんな人相なもんだから、あんまり自然体で喋ってくれる奴がいねぇのよ、ははは。
ま、とりあえず勝手に語らせてもらうぜぇ。あんま面白い話じゃねぇから興味の無い奴は席を外してくれて構わねぇぜ。まあ、よろしく頼む。
☆
俺が探検隊になったのは今から6〜7年前の話だ。その時俺はまだ進化前のワルビルだった。
今からする話は俺が探検隊を目指すきっかけとなったポケモンとの出会いの話だ。
あの頃の俺はとにかく突っ張ってたのよぉ。俺は世間から見ればなかなか裕福な家庭の出だったようだ。だが、俺の親――殊に親父の方は世間からの目に厳しい奴で、ことあるごとに俺に向かって“いい仕事につけ”だの、“いい加減遊んでいないで勉強しろ”だの、“つるむダチは選べ”だの……とにかく俺を縛り付けるのが得意だった。それしか脳がねぇんじゃないのか、というほどに。
俺は親父の“忠告”が強まっていくのに比例してツッパリ具合も強くなっていった。ケンカも激しかった。
『サスケ、またあの柄の悪い奴らと遊ぶのか。いい加減現実を見ろ。いつまでそうしているつもりだ?』
『あん? その減らず口を鏡で見てみたらどうだ? チャックが開けっぱなしになってるぜぇ。悪いがつるむダチは俺が決める。俺のダチだからな』
『サスケ! お前父親に向かってなんという言いぐさだ!』
『ごちゃごちゃうるせぇよ! 俺はお前を親父だと思っちゃいねぇ! 親父面すんな!』
『なにぃ! ああ、そうか! わかったよ! なら勝手にしろ! ……勘当だ!』
『望むところだあん畜生! 清々したぜ! じゃあな、二度と戻らねぇ!』
……と、まぁ大体こんな感じで、俺は家に戻らずに気の合うダチと町をほっつき歩きながらかなりの悪さをした。あのあん畜生なジバコイルに捕まりそうになったこともしばしばだったぜ。
ほかの縄張りの奴らともかなりボコりあったりした。今思えば、俺の町はなかなか治安が良くなかったみてぇだな。トレジャータウンに初めて来たときのあの平和を見て初めて知ったぜ。
俺がそんな生活を繰り返して数ヵ月たった頃、ダチのうちの一匹が妙な噂を持ち帰ってきやがった。
『おい、サスケ。この町に探検隊がうろついているらしいぞ』
『なに? 探検隊だと?』
探検隊といったらロマンチストという名の気違いどもが群がる集団……というのが当時の俺の彼らに対する印象だった。それに探検隊といったらお尋ね者の逮捕も担っているから、無法者である俺たちにとっては敵なわけだな。
『何しに探検隊がこんなところへ来たんだよ?』
『どうやら、町の頭(かしら)が俺たちを捕まえるように依頼したみてぇだ』
『フン……気に食わねぇ』
あんころの俺たちはとにかく気が荒かった。そいつに捕まるぐらいなら、その正義を気取った探検隊様をボッコボコにしちまおうと考えたわけさ。恥ずかしい話だがな。
そんで俺たちは早速探検隊の姿を探しに町をうろついた。するとだな、しばらくすると道端にキョロキョロ地図と周りの景色を見比べているバシャーモを発見したわけだぜぇ。そう、それがあんさんだ。
縄張りに敏感だった俺たちは、町のポケモンと部外者の見分けはお安いご用だ。すぐにそいつが町に雇われた探検隊だって気づいたぜ。そのときのあんさんを見て俺は、“こんなチキンみたいに周りをキョロキョロしてる奴が探検隊?”と思った。あんなのは見かけ倒しだ。俺たちにかかれば瞬殺だと思ったわけよ。
そこで俺は、あんさんに近づいてこんなことを言った。
『こんな道のど真ん中でなにやってんだよあんさん?』
『……ん? ……ああ。なんだ、あれだよ。ここら辺が町で悪さをするポケモンの縄張りだと聞いてな』
『ほう……? つまり俺たちのことか?“だましうち”!』
『!』
俺はあんさんに奇襲をかけた。あんさんは一瞬驚いた顔をしたが、コンマ一秒もかけずに戦闘体勢に入り“だましうち”を受け流す。なかなかやるな。
『いったいどういうことだ!?』
『ハッ! 余所者がよくそんなことほざけるぜぇ、探検隊さんよぉ! あんたどうせ町の依頼かなんかで俺たちを止めに来たんだろうが!』
『……なるほど、あんたらがその今回の“お尋ね者”ってわけか』
……気づくのが遅ぇよ。
こんとき俺は、俺たちが“お尋ね者”扱いされた怒りよりその感情が先走った。あんさん鈍感だなぁ、おい。
『なんだ?奇襲なんて姑息な手を使うじゃないか。あんたら全員よってたかって。……自分達の縄張りを侵されたくないのなら、正々堂々自分だけの力で俺を追い払ってみたらどうだ』
『んだと? 言ってくれるじゃねぇか! ……おい、お前ら! こいつは俺一人でやる! 手ェだすな!』
背後から激励と心配の声が上がったがこのとき俺は、完全にあんさんの挑発に乗っていた。
……いや、どこかで俺はあんさんの言葉をその通りだとわかってたかも知れねぇ。だが、心の隅で納得してても頭では理解できない、それがあのときの俺だった。
あんときの俺はとにかく突っ張りたいオトシゴロだったのよ、マジで。
そういうわけで俺はあんさんとサシで勝負した。こういうのもなんだが、こんとき俺はこの町で一番強かった。だからこの優男っぽいバシャーモに負ける気がしなかった。
で、結果は……。
聞かなくてもわかるだろう?
……完敗だったぜぇ。
なにもんだ、こいつ?
俺たちが文字通り“よってたかって”攻撃しても勝てなかったんじゃねぇの?
まあ、大分あとになってこのときのあんさんが“ハイパーランク”っつうべらぼうに強い探検隊だって知ったんだがな。……ランクの勉強しときゃあよかったぜ。
あんさんに瞬殺された俺は、しばらくその場で気を失っていた。気がついて周りを見渡してみると、俺と一緒にいたダチがいねぇ。いるのは俺を倒したバシャーモだけだった。
『目が覚めたか。あんたの連れは、あんたが倒された瞬間に逃げていったぞ』
この言葉にはちょっとばかしショックを受けた。俺が信頼していた仲間は俺が倒された瞬間に逃げてしまった。俺を置いて。
俺はそのショックを隠すために話題を逸らそうとした。
『なんで俺をジバコイルにつき出さねぇ』
『改心の余地があると思ったからだ』
清々しいぐらいの即答だ。
『改心? 俺が、か?』
『……あんたが非行に走った理由は、親がありのままの自分を受け入れてくれないからだろう?』
『……』
『あんたは思った以上に義に熱い。思いやりがある。しばらく観察するだけでわかった。あんたは根が良いってな』
『観察?』
『あんたらには悪いが、俺はあんたらを数日間尾行していた。その様子ならバレていなかったみたいだな』
尾行だと?気づかなかった。一生の不覚だぜぇ。
『……なぁ、俺はあんたが探検隊に向いていると思うがな』
『はぁ!?』
冗談やめてくれよあんさん。嘘だろ?
『バトルを見ていてもあんたは筋がいいし、将来化けるぞ』
化ける?……何にだよ?
『あんただってずっとこのままじゃいけないと思ってるだろう?今がチャンスだ。自分が変われる、な』
『……』
『まぁ、よく考えることだ。いっておくが、同じ探検隊同士の“仲間”は、絶対にお互いを裏切らない』
あんさんは格好よくそう言い残して立ち上がった。
不覚にも俺はその姿が胸に響いたって訳よ。決して強がっていない、気取っていない、だが自分の仕事に誇りを持っている者だけが出せる独特のオーラがあんさんから滲み出ていた。
ああ、俺もこんな風になりてぇ。と思った。
俺は、あんさんが去った数日後に覚悟を決めた。数ヵ月ぶりに家に戻って、親に置き手紙という名の殴り書きを残してまた家を飛び出した。
“一流の探検家になるまで家に戻らねぇ”ってな。
☆
その後俺はビクティニのギルドで探検隊になった。二人の仲間ができた。かわいい弟分だ。そしていつのまにかチーム“ヤンキーズ”はダイヤモンドランクになっていた。
……これが、俺が探検隊になるきっかけだぜぇ。
あんま面白くなかったろ。ここまで聞いてくれてありがとうな。
さて、俺はもう戻るぜぇ。今した話はあんま言いふらすなよ。
ん、じゃあこれからもよろしく頼むぜぇ。
あばよ。