へっぽこポケモン探検記




















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第一章 予感編
第二話 予感の正体
 ――ヤド仙人のレクチャーは長い。とにかく長い。僕は“サイコキネシス”で体をがちがちに固定されたまま、その場で数時間彼の話を聞かされるのだった……。





「ヤド仙人、僕もうそろそろ帰らないとまずいんだけど……」
 ヤド仙人の永遠とも思われる長〜い『予知能力』についてのレクチャーが、『種族別の予知能力とその個体差について』という段落まで差し掛かった時、僕がそう口を挟んだ。ヤド仙人の動きがレクチャーポーズ(説明するためにヤド仙人はいつも身振り手振りが激しい)のまま固まった。そして、彼が洞窟にぽっかり開いている天然の窓(もちろん、ガラスをはめていない)から外をのぞいてみると、そこから西日が沈もうとしていた。
「ん……? もうこんな時間じゃったか」
 仙人はそういうと、立ち上がってさっき調合して僕のビンに入ったさまざまな万能薬を入れた袋を手渡した。
「よく最後まで口を挟まずに聞いたな。えらいのぅ……」
「う、うん……」
 そうだね、確かに仙人の話は暗号化されていて通じないから口を挟む余地が無いよね。それにしても、仙人が人のことを褒めるなんて、珍しい。
「さあ、リンが心配している。そろそろ帰るんじゃな」
「うん」
 ここまで話し続けたのはいったいどこの誰? ……と思ったけど、そんなことにかまって入られない。そろそろ出なくては本当に時間が無い。と、いうことで、早々にお暇させていただくことにした。
「じゃあね、ヤド仙人」
「うむ。気をつけるんじゃぞ?」





 僕はちょっと早足できた道を戻っていた。
 まずいなぁ……。リンはああ見えて怒ると怖いんだよね……。
 前に僕が木の実を取りに外に出たっきり、思わず夢中で日が暮れても戻らなかったときがあった。遅くなって家に帰ってきたとき、リンは僕に雷を落とした。
 比喩じゃないよ! 本当に雷が落ちてきたんだ! ハクリューという種族は、天気を一変する力を持っているからね……。
 ……あの時は、さすがに死ぬかと思った……。
 そんなことがあったから、出来れば二発目は食らいたくない。早くしなきゃ……。僕は洞窟から家まで戻る時間の自己ベストを更新する勢いで、家に戻ろうとした。
 しかし――。

「あのリオルはどこだ」

 やけに無機質な声と家の周りに広がった光景に、僕は思わず後ずさった。いったいなんなだこれは……!?
 家の前にいたのはこの里ではまず見ないグラエナというポケモンを筆頭にした狂暴なポケモンたち。彼らは家の入り口の少し手前を取り囲んでいた。そして……。
「知らないって言っているでしょう……!?」
 ポケモンたちに取り囲まれる形で真ん中にいるのは、リン……! 彼女は、全身にいくつもの怪我を負いながら、息を切らしてそう答えた。すると……。
「“きりさく」
「きゃ……ッ!!」
 リンの首筋辺りにザングースと呼ばれるポケモンが“きりさく”を、なんのためらいもなしに降り下ろした。リン……!!
「とぼけるな。貴様がリオルを育てているのはもうわかっているのだ」
 ど、どういうこと……!? なんなんだこのポケモンたちは!?どうしてリンが攻撃を受けてるんだ!?
 茂みにかくれてそれを見ていた僕は、今にもリンを助けるために駆け出したい気持ちと、怖くて足が震える気持ちという相反する感情のせいで、ひどくめまいがした。ど、どうすれば……!!
「うう……」
 リンが、苦しそうにうめきながら、またよろよろと起き上がる。
「だ、誰があんたたちなんかにあの子を渡すものですか……! 私に何をしても無駄よ! 諦めなさい!」
 あの子……そう言えば、さっきのグラエナが「リオルばどこだ」と言っていた……こいつらは、僕を狙ってるってこと?
 なんで……?
「ふん、それなら貴様に用はない。始末したあとにリオルが帰ってくるのをゆっくりと待つだけよ!!」
 キリキザンという狂暴な刃を持つポケモンが、リンに鋭い刃をふりおろそうとした……!
「リンッ!!」
 僕は、自分がなぜかねらわれてる身だということも忘れて、茂みから飛び出してリンに向かった。
「カイッ……! だめッ……!」
「“つじぎり”ッ!」
僕がリンの前に出るのと、リンが叫ぶの、キリキザンがつじぎりを放つのは、同時だった。
「うわっ……!」
 僕は技をもろにうけ、リン共々家の近くの木の幹に吹っ飛んでぶつかった!!
「がっ……!」
「かはっ……!」
 ぐ……っ、何て威力だ……! ぼくはもう、立ち上がることすらできなかった……。元々体力は破壊的な上に、キリキザンの技が強力すぎる……!! 意識が飛ばなかったのが不思議なぐらいだ……。
「ふん、やっとご本人がノコノコ登場ってか? 探す手間が省けたな」
「ぐあぁっ!」
 グラエナが僕の首に前足を思いっきり押さえつけた。い、息ができない……!
「カイ! この……離しなさいっ! “アクアテール”ッ!」
 水にベールを纏った尻尾が、グラエナにむかって飛ぶ。グラエナはそれを僕から離れることで回避する。ぶはぁっ!! た、助かった……!
「フン! “シャドーボール”!」
「“ブレイククロー”!」
「“あくのはどう”」
 ポケモンたちが、一斉にリンに向かって攻撃する。リン!!
「あ……!」
 次の瞬間、すべての技を受けてしまって倒れるリンが、体を起こせない僕の視界に入ってきた。
「リン! リン!! く……っそう!!」
体が、どうしても動かないっ……! どうして……僕はこんなにっ……!?
「しつけぇな、そんなに死にたいならまずお前からだ! ザングース!!」
 グラエナが叫ぶと、ザングースは両手をかざしてその真ん中にエネルギーの球を形成する。あ、あれは……!
「リン! リーンッ!」
 僕は必死に叫ぶが、すでにぼろぼろなリンがめを覚ます気配はない。このままじゃ……!
「ふん、これでおわりだ!」
 ザングースが叫ぶ。
 動けぇっ! 言うことを聞くんだ!! 僕の体!
「“はかいこうせん”!」
「う……わぁああ!」
 僕は、ありったけの力を四肢にこめた。リンは、リンだけはっ!!
「なにっ!?」
 ザングースが困惑ぎみに叫ぶ。はかいこうせんが放たれたと同時に、僕の体は悲鳴をあげながら動き出したからだ。
「うわあああっ!」
 必死になって、僕はリンの前にでた。すぐそこには、“はかいこうせん”が迫る!このままだと僕は、はかいこうせんに巻き込まれてしまう。でも、避けるわけにはいかない!
「リンを、リンを守るんだッ!」
 僕が、そう叫んだと同時に――。

 ――空間が、歪んだ。

 僕の回りの空間がグニャリと曲がったかと思うと、迫り来る“はかいこうせん”を前にして、僕の目に見える視界が急速に遠ざかる。
 そして――。

ものかき ( 2014/01/16(木) 08:54 )