第一話 出会い
「今日も綺麗ねぇ」
「うん。これ以上綺麗な光景なんて見た事が無いよ。…でも世界にはこれ以上に綺麗な光景があるんだろうなぁ…」
三匹は海岸に付いていた。透き通って見える海の水がとても綺麗な上、夕方になるとクラブたちの吹く泡と夕日が重なってさらに綺麗に見える。まるで幻想的な場所と化していた。
「そうだね…。…でも私は他にどんなに綺麗な光景を見ても、私の中ではいつまでも一番はここかな」
「うん。僕も何だかそう思うよ」
「あら奇遇ね。私もそう思ってたわ」
そんな事を話していたら、ココアはある事に気付く。
「…ねえ二人共…」
「何?」
「どうしたの?」
ココアに返事を返すが反応がないので少し心配するラウルとルミア。だがその事が目に入っていないのかココアは二匹と目を合わせない。ずっと同じ所を見つめている。さすがに気にかかったのかラウルとルミアもココアがすっと見ている所を見る。その瞬間にラウルとルミアも顔を真っ青にした。
「え……?」
「あれって…」
「ポケモンだよね……?」
三匹から約十メートル程離れた位置にポケモンが倒れている。三匹はただそれを呆然として見る。
「!! と、とにかく助けないと!!」
「! そ、そうね!」
ハッと三匹は我に返って、急いで倒れているポケモンへと駆け寄った。
〜〜〜☆〜〜〜
あれ…此処…何処だ…?たしか俺…ってあれ?何も思い出せねぇや…。
「大丈夫!?起きて!しっかりして!」
さっきから声が聞こえるけど…。何なんだ…?でも起きなきゃいけないのは確かだな…
「どうすんのよ!このままじゃ私たち刑務所行きよ!」
「刑務所なんかに行く必要ねぇよ」
「「「!?」」」
俺はそのまま体を起こそうとする。が、体は全く動かない。
「よ、よかったぁ。生きてた…!」
「勝手に殺すなよ」
俺の目の前にはリオルとロコン、イーブイの三匹がいる。…ん?リオルと…ロコンと…イーブイ…?
「は?」
「? どうかしたの?」
ロコンが俺に問う。いや、どうもこうも…
「何でポケモンが喋ってるんだ?」
「え?」
可笑しい。可笑しすぎる。普通ポケモンは喋らない。そうだ、これは夢だ。夢に違いない。
そして俺は頬を抓る
「…痛い」
「あたりまえだよ!」
「…変なピカチュウね」
…今、こいつなんて言った…?
「おい、今なんて言った?」
「え…。変わったピカチュウだねって…」
!?
俺は体の痛みを忘れてとっさに水面に顔を映す。黄色い体。真っ赤な頬。先が黒い長い耳、そしてギザギザのしっぽ。…間違いない…。俺、ピカチュウになってる…。
「嘘、だろ…?俺…ピカチュウになっちまった…」
「何言ってるの?」
リオルが俺に問う。どうする…言うか?言った所で信じてくれるか分からない…が…。これを言うとしても後だな
「おい、いい加減に出てこいよ」
「「「?」」」
すぐ近くにある茂みを見つめる。
それにつられて三匹も茂みを見つめる。
「けっ。バレてたのか」
「兄ちゃん鋭いねぇ」
茂みからドガースとズバットが出てきた。見るからに怪しい奴らだ。
そんな事を思っていると、ドガースとズバットが頷いたのが見えた。何か悪い事でも考えたんだろう。その勘は見事に的中した。ドガースとズバットは一気にこちらまで攻めてきて、リオルに体当たりをしかけた。
「うわっ!!」
急な攻撃に対応できず、リオルは吹っ飛ぶ。
「な、何するの!?」
ロコンが怒って火の粉を吹く
「おっと、危ねぇな…」
「こいつが欲しかったんだよ。こいつが」
ドガースとズバットの二匹は、ロコンの攻撃を躱すとズバットが何かを頭の上に置いた。
そしてそこには、さっきまでリオルが首にかけていた袋が乗っていた。
「!! いつの間に!返せ!」
「嫌だね。取り返したかったら俺たちに追いついてみな」
「ま、お前らみたいな臆病者には無理だろうけど」
それだけ言い残して、ドガースとズバットは洞窟の中へと入って行った。
だが三匹はそれを追いかけようとしない。
「おい、取り返しに行かないのか?」
「…行きたいけど…あそこには凶暴なポケモンが沢山いるし…」
…つまり怖くて行けないってことね…。
「ら、ラウル!行けるよ!三人で力を合わせればすぐに追いつけるよ!」
「そうよ!いけるわよ!」
ロコンがラウルと呼ばれたリオルに右手を差し伸べる。ロコンという種族は四本足で立つので右前足を出している状態だ。
「う、うん!」
ラウルはロコンの手を借りて立ち上がった。
さて、俺はまだ少し体が痛いし休んでるかな。
「あ、ピカチュウさん」
「…!何だ?」
最初誰の事を言っているのか分からなかったが、今俺はピカチュウだという事を思い出し、イーブイに返事をする。
「ちょっと此処で待っていてくださいね。すぐ戻りますから。話はそのあとに聞かせてもらいますね」
「ああ」
それだけ言い残して三匹は洞窟の中に入って行った。
「…さ、行くか」
俺は少し痛む体を起き上がらせて三匹の後を追った。
ちっ、嫌な予感しかしねぇ…。