第九話 技
「はあぁぁ〜〜〜…」
「五月蝿いわね。溜息をしたら幸せが逃げるって言うわよ?」
「もうとっくにこいつの幸せは逃げてるんじゃないの?」
「シフォン。それ言い過ぎ」
俺は大きな溜息をする。そしてそれを軽くルミアが窘める。
「いや、ため息をつきたくなるだろ、あんなめんどくさい事があった後なんだからよ」
「それもそうね…」
え?何の事を言っているのかよく分からない?じゃあ簡単に説明するぞ。一度に一緒に探検できるのは一つのチームで四人だけなんだ。そこにさっきシフォンが新しく仲間に加わった。つまり合計五人になる。だから一人をギルドに戻さなくちゃいけない。俺はこんな蒸し熱い所とっとと出たかったんだが、どうやらチームのリーダーは抜けちゃいけないらしい。だからラウル、ルミア、ココア、そしてシフォンの内の誰かだけが抜けられる。ルミアは出たがってたけど、この熱さに平気で居られるから出さない。ココアは副リーダーだからダメ。シフォンはまだギルドメンバーに紹介もしてないし、怪しまれるだろうし、騒ぎになりそうだから却下。残りはラウルだけとなり、ラウルを返す事になった。ちょうど五月蝿かったしいいかって思ってた頃だったから俺は別にそれで良かったよ。なのに此処にきてラウルが「仲間外れは嫌だ!」とか「皆の役に立ちたい!」とか五月蝿くなって、俺は偶々持っていた睡眠の種でラウル眠らせてギルドに送ったんだよ。分かった?
「無駄に長い説明ね」
「何でお前まで心読むんだよ」
「あんたが無意識のうちに口に出してたのよ」
「あっそ」
ちなみに俺たちはただ喋っているだけではなく、しっかりとダンジョンを攻略して行っている。ついさっきも階段を上がった…いや、下がった所だ。
「ココア、今何階だっけ?」
「えっと。今六階です」
「じゃあ後一階だな…。さて、また敵ですか」
俺たちの前に二匹のカラナクシが現れた。だが妙な事に一匹は水色、東のカラナクシであり、もう一匹はピンク色、西のカラナクシだ。
「可笑しいわね。此処は西だから東のカラナクシがいるわけが無いのに…」
シフォンも同じ事を考えていた。ココア達を見ると、ココアは分かっているようだが、ルミアは分かっていないようだ。
「え?どういう事?」
「カラナクシは西にいるカラナクシと、東にいるカラナクシとでは姿が少し違うんだ。西のカラナクシはピンク色の身体で東のカラナクシは水色の体をしている。そして、此処は西だ。だから東のカラナクシ…つまり水色のカラナクシは居ないはずなんだ」
なるべく分かりやすく説明すると、ルミアは「ああ、なるほど」と言った。…ほんとに分かったのか?
「あんた今失礼な事思ったでしょ」
「い、いや?」
ルミアが睨みつけてくる。女の感って言うのは鋭いな。
「まあ、先にこちらを片付け無いと行けないな。電気ショック!」
俺は電気ショックを放つ。電気ショックはガブリアス達との戦闘の時に一回使っただけなので、まだ上手くコントロールできないが、一応、敵に当てる事はできる。多分、此処の敵がまだ弱いからだろうけど。
だが、今の電気ショックは外してしまった。偶々だろうと思い、もう一度電気ショックを放つため、電気袋に電気を溜める。
「喰らえ!マッドショット!」
…はあ!?
俺が驚いているのには深いわけがある。どうせ避けれる様な遅いマッドショットかと思えば、あっという間に俺の前まできているからだ。…?…きている…?俺の前に…? …へ?
「ぐぅ…!」
〜〜〜☆〜〜〜
見事にマッドショットはライトの腹に命中した。さらに、ピカチュウ…つまり、電気タイプという事もあるので、効果は抜群。技の威力は二倍に上がる。腹に喰らうと効果は抜群で、大体2.5倍だろう。
「がはっ!」
さすがの激痛に、ライトはその場で腹を抱えて膝をつく。それほどの高威力だったというわけだ。だが、この洞窟にはそれほどのレベルのモンスターは出現しない。もしいるとしたら、お尋ね者としか、考えられない。さっきのように、シフォンの様な者の可能性もあるが、見たからに、明らかに我を失っている。そう思ったココアは、すぐに三匹に声をかけた。
「皆!このカラナクシはお尋ね者だよ!」
「!…なるほどね…」
ライトはそれなら技の威力にも納得できると思い、戦闘態勢を取った。
「!?何やってるのライト!?私たちのレベルじゃ勝てる分けないわよ!」
「何言ってんだよ!俺たちの目の前に!今!大金があるのにそれを見過ごせって言うのか!」
「「「そっち!?」」」
ココア達はこの時、このチームのリーダーは大丈夫なのか?と、同じように思った。だが、そんな考えはすぐに振り払い戦闘態勢を取る。
「さて、これからが本番…」
すると、ライトは動きを止めた。
(なんだ…?この本は…)
この時、ライトの脳内では、二つの本が浮かんでいた。その二冊の本には題名がついていない。そして、ライトは何故か無意識のうちにその本に振れた。すると、その本は消えてしまった。
「どうしたの?ライト」
ココアの声によって、ライトは現実に引き戻され、目をしばたいた。何故か脳内に大量の技が浮き上がってくる。さらに、なぜかポケモンの草や、水、炎に電気と言ったタイプの名前も浮かび上がる。
「あ、いや、何でもない」
ライトはそう言って誤摩化したが、本人は内心、結構取り乱していた。
(なんなんだよこれ…)
ライトがそう思った瞬間、夢に出てきたピカチュウの声が聞こえた。
《やっほ!ずいぶんと取り乱しているみたいだね♪》
(…お前か…ちっ…)
《舌打ち!?酷くない!?》
夢に出てきたピカチュウに対して、ライトは厄介者の様な扱いをする。
(ところで、さっきから俺の周りの時間が止まっているんだが?)
そう、実は今、ライトの周りは時間が止まっている。そこに気付いて欲しかったのか、夢に出てきたピカチュウは興奮しながらそれに答えた。
《前に夢の中じゃないと会えないって言ったよね?だけど、あの後いろいろと調べて分かったんだけど、周りの時間を止めて、ライトの中…というより、ライトの中の空間の中で話す事によって夢じゃなくても会える事が分かったんだよ!あ、もちろん夢の中でも会えるのは変わらないよ?》
(へえ〜。でもそれって作者がめんどくさ…)
《あー!あー!それは禁句だよ!》
禁句を言いかけたライトの言葉を、大声で隠すピカチュウ。…もう遅かったが…
《で!本題だよ!さっきの二つの本は、全ての技と全てのタイプが乗った本だよ!あ、でも全ての技と言っても、伝説のポケモンが使う様な技を抜くよ?》
(へえ〜。…で?)
何が言いたいのかサッパリ見えて来ないのでライトは冷たい目でピカチュウを見る。
《その目は辞めてよ…。でね。その本は君の頭の中から探り当てた二つの本だったんだ!もう何も残っていないと思っていたけど偶々残っててね。で、その本を君に渡す為に、少しだけ周りの時間と空間を止めさせてもらったんだよ!》
(ん?何か俺に渡すときも周りの時間を止めないといけないのか?)
《うん。なんでかは僕たちもわからないんだけどね。…おっと、もう時間だから僕はこれにて。またね!》
(え、ちょっ!)
ピカチュウが消えると同時に、周りの時間が動き出した。
「じゃあライト!とっとと片付けちゃいましょ!」
「…ああ!」
そして、ココアを覗く三匹は声を合わせて大声で叫んだ。
「「「ポケ(金)の為に!」」」
「ははは…」