にこり笑って
すねたキミの横顔が、いとおしく思えてしまった。
ボクが何を言っても意地を張ってそっぽを向いている、少し赤らめたその横顔が。
わたしのお菓子はどこーっ。キミは頭の葉っぱをぶんぶん振り回して、ちいさな体が示せる精一杯の抗議をしてみせた。もちろんうっかり食べてしまったのはボクだ。けれどあたりいっぱいに漂うほんのりと甘い香りとキミの姿とに、弾劾されているはずのボクは当事者であることをすっかり忘れ、両目を垂れた下駄文字のようにしていた。
じとーっ。ボクを見つめるキミの瞳が濡れている。
ごめんな、また買ってあげるから。そう言って葉っぱを撫でてやるのだけれども、キミはふいっと顔をそむけて取り合ってくれない。
それどころか、不意にべーっと舌を出してやり場のない怒りをぶつけてくる。そんなに大事にとっておきたいものだったのかな。
それにしても、本人は怒りの表明のつもりで舌を出しているのだろうけど、それがまたたまらなくかわいらしくて、ついつい「反省」の言葉がどこかへ飛んでいってしまう。それどころか。
あー、人が謝ってるのにそういうことする子にはお菓子なんてあげなーい。
ゴメンねのかわりに美味しいお菓子を買ってきてあげようと思ったけれど、ひとりで食べちゃおーっと。
そうやって拍子抜けした声で言って、薄目を開けてちょいと横を見やる。すると。
若草の肌の上に、ぽろぽろ透き通った雫がこぼれていた。
さっきまで見とれていた横顔が、もうじき一番の実りを迎える林檎のようなほの赤い色味を帯びて震えている。
気付いた時には、ボクはしゃくりあげたその顔もとをまじまじと見つめていた。そうしてキミを泣かせてしまった罪悪感と同時にまた感じてしまったのだ。
――ああ、なんだかんだ言ってもやっぱりキミが一番かわいいよ、と。
ウソだよ、ウソウソ。そんなことしないって。
抱き上げたちいさな体が熱かった。手のひらに滴ったひとつぶの雫も。
目元の涙をそっとぬぐってやったら、まんまるい烏羽玉のような瞳がボクを見上げてきた。ほんとに? そう聞くような目遣いをして。
あーもう。そんな目をしないでよ。
そんなことされたら、ダイスキが止まらなくなっても知らないぞ?
ボクはにこにこ笑顔を浮かべながら、ほっぺたをなでなでしてあげた。
それからキミの一番の自慢の、きらきらと緑を咲かせた葉っぱも。
泣いている姿もかわいいけれど、キミに一番似合うのは、その笑顔だからね。
――その顔、泣かせたボクに言われたくないだって? それは言わないお約束だよ。
だからお願い。
にこり笑って、チコリータ。