第二話 そしてイラつくほどうれしくて
ざあああああああああ・・・。
ふりしきる雨。
警戒している一匹のポケモン。
ざあああああああああ・・・。
うちつける雨。
体を震わせる弱ったポケモン。
ざあああああああああ・・・。
雨はまだ降っている。それどころか、だんだん強くなる。
窓ガラスは今頃滝のようになっていることだろう。
そして、それよりも大切な物。大事な事。
「・・・あんた、母さんは?父さんも。」
聞かなくてもわかっていた。
こいつは捨てられたのだ。
弱いから。
小さいから。
強いこの方が、こいつよりも育てやすいから。
残酷かもしれないが、野生では珍しいことではない。
―私も一緒。
「ダイジョウブ。私は、あんたと一緒。ね?同じなの。」
ビブラーバは、抱き寄せると一回体をよじったが、少し緩めるとおとなしくなった。
息遣いがすぐそこに。
「・・・あんた、冷たいねえ。」
ポケモンとは不思議なものだ。なぜ私におとなしくだかれているのか。
なぜ私から逃げないのか。
「瑠空。私は、瑠空っていうの。」
あんたは?
そうきこうとして、寸前で口をおさえる。失言だった。名前なんてあるはずがない。
その拍子にビブラーバが私の腕から離れた。でも、5センチくらいの距離を保ってそこにいる。
「・・・あんたはエスケープね。この息苦しい場所から助け出してくれるから。」
エスケープ。
エ、ス、ケ、エ、プ。
うん、我ながらいいネーミングセンスをしている。ふふん。
エスケープは首をすこしかしげ、小さくうれしそうに鳴いた。
そうか、気に入ったか。
声で伝えるとはなかなか頭のいいやつじゃないか。
「よし、エスケープ!今日からあんたは私のポケモン!モンスターボールはお小遣いでそのうち買うからね。」
200円ぐらい、あったはず。
・・・たぶん。
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「そう、旅に・・・ねえ」
翌朝エスケープを見せてから、本題に入ると、センセイはうなりながら考えはじめた。
まるで自分の子とでも思っているように。
結局、ここの施設の長さんに聞くらしいが・・・
十歳になったのだから、出発は無事できるだろう。
それにしても・・・
「あんたは、私へのプレゼントなのかな?エスケープ。」
センセイにお風呂に入れられ、あたたかくなったエスケープは、
「ビイ?」
と鳴いた。