ハゲのスピーチにスマ……出来んわ!
ポケットモンスター、縮めてポケモン。
人は古くからポケモンと生きてきた。 一緒に遊んだり一緒に働いたり時には共に戦ったりーー。 しかし、未だその生態には謎が多く、日夜研究者達が熱心にポケモンを調査している。
ポケモンとの関わり方は様々だ。 ポケモンを鍛えてバトルをするトレーナー、ポケモンの見た目や技の芸術性を追求するコーディネーター、病気や怪我からポケモンを救うポケモンドクターなど、挙げればきりがない。
そして、君達が通う若葉学院は、次の世代としてポケモンと共に明るい未来を築くために‥‥‥うんたらかんたらーー。
(ったく、んなもん今時幼稚園児でも知ってるっつの。 どうでもいい、とっとと終われや)
端正な顔に苛立ちを滲ませ、レンは教師のバーコード頭を睨む。
ここはワカバタウン、ウツギポケモン研究所。 レンをはじめとする若葉学院の生徒達数十名は、『特別実習直前講座』なるものを受けていた。
この特別実習、早い話がジョウト地方を旅してジムバッジを集めたりポケスロンで記録を出したり、3学期の約2ヶ月の間に、どれだけの成果を上げられるかを競うもの。 毎年、座学と実際のバトルやポケモンの育成の成績が優秀な生徒が選ばれる。
そして、レンを含む今年の実習生達は出発を明日に控え、ウツギポケモン研究所に集められて最後の諸注意やら何か細々した説明やらを聞かされている(はずだったのに何故ポケモンと人の歴史やら学院の話になっているのか、レンには理解出来ない)。 ーーが、今壇上にいるハgーーもとい教師の話がかれこれ10分以上続いており、待たされる事が大嫌いなレンのこめかみには青筋がたっていた。
(もうちょっとだよレン、これが終わったら後はナナヒの挨拶だけだから)
(そうだよ、我慢しろ。 暴力沙汰にでもなったらせっかくの自由がおじゃんになる。 大人になれよ)
それでも彼女が教師につかみかかり、残り少ない毛をブチらなかったのは、両サイドに座っている親友2人によるなだめすかしのおかげだ。 もはや羅刹と化しつつある友を前にオロオロと首を振るアイナと、呆れ顔でレンの左腕を掴んでいるコウヘイ。 まあ、2人も教師のムダ話に辟易している事は事実だが。
レンは瞳の中にメラメラと炎を宿したまま、声を潜めて言った。
(それも気に入らないんだよ。 岩タイプに鋼タイプの技が効くっつーのも覚えねえような奴が、親の力で実習くんなよ)
やっと喋り終えたハゲに呼ばれ、ふんぞり返って現れた少女がナナヒだ。 真っ赤な髪にツンツンした鼻。 高級ブランドで固めた身なり。 通販サービスか何かで成功した金持ちの家に生まれたナナヒは、無駄にプライドが高くて自分本位な性格故、生徒みんなから疎まれている。
さらに何かと親に泣きつくところがあり、親が何でも叶えてくれると思っているところがある。 今回の実習だって、参加レベルには到底満たないはずなのに、何故だか生徒代表なんてポジションに当然のごとく収まって(間違いなく親が学校に圧力をかけたんだとレンは踏んでいる)、おまけにウツギ博士からいわゆるジョウト御三家のタマゴをもらい受ける事になっているのだ。
(ったく‥‥‥ムシャクシャする。 誰かケンカでもふっかけてくれないか)
そうすりゃこの鬱憤を晴らせるのにーーレンが溜め息をついたその次の瞬間。
ドカアアアアアアン!!!
衝撃、爆音。 唐突に爆発と建物の損壊が起こったのだ。
その場は一瞬にして混乱の渦中に放り込まれ、生徒、教職員は頭を庇って右往左往する。
「たっ、タマゴが!」
真っ青な顔のウツギ博士が叫ぶ。
「!!」
レンはダッと研究所の奥へ駆け出した。
「ちょっと、待てよレン!」
コウヘイの声を無視し、レンは揺れ続ける研究所の中へ飛び込んでいった。