第1話
1
海斗とイタチは顔を見合わせた。
「よろしくな!きょうからお前は俺のポケモンだ!」
「ブイブイ!」
海斗とイタチは笑う。
まるで昔からの親友だったかのように。
2
海斗とイタチが出会う前まで時は遡る。
少年は浜辺で走っていた。
トレーニングなどではない……。
少年はただ……
追いかけられていた
「ギョエエエエー!ちょっと!タンマ!許してお願い!」
少年を追いかけるのは無数のキャモメ。
名の通りカモメの姿をしている。
少年は寝ているキャモメの群れを起こしてしまったのだった。
その少年は肌が褐色であった。
白いTシャツがその褐色をより一層きわだてる。
瞳は海のような青い綺麗な色をしている。
「ムリ……キャモメはムリ……」
ゼーハーゼーハーいいながらも少年はなおも走る。
「ママーみてーまた海斗君追いかけられてるよー」
「あらあら本当ねでも海斗君なら大丈夫でしょう」
「大丈夫じゃねええええええええええ」
やがてキャモメの群れに捕まり全身をつつかれる。
バサバサとキャモメの群れが何処かへ行った頃には海斗はキズぐすりじゃ足りないほど怪我をしているだろう。
「キャモメ超こええ…」
自業自得である。
フラフラと歩いて家に帰るのであった。
3
「ただいま…」
「あら海斗帰ったのおかえり」
「俺の傷のことはノータッチかよ」
エプロン姿の若い女の人……お母さんとこんな会話をしつつ海斗は部屋に向かう。
ボフっとベッドに身をなげ「ハァ」とため息をつく。
チラッと横目をやるとそこには1枚の写真が飾ってあった。
小さな少年と筋肉質の男性が写っていてとても楽しそうに笑っている。
「父さん……今何処にいるんだよ…」
海斗が幼かった頃、父に言われた言葉を今でも覚えている。
「海斗。父さんが帰るまでお前が母さんと初音を守るんだぞ」
そう言い残し父は漁に出てそれっきり戻っていない。
海斗は暗い顔になりボソリと呟いた。
「父さん……今や母さんと初音の方が強いや…あいつら目で睨むだけでキャモメ追い返すんだぜ…あいつら女じゃねえわ」
あの二人は女ではなく男だと思う海斗であった。
「俺この家で一番弱い気がするよ……」
少し泣きそうな海斗であった。
3
いつの間にか眠ってしまったらしい。
海斗の部屋から見える夜の海はとても綺麗だ。
淡く輝く海。波の音…
そしてどこまでも続いてるかのように見渡す限りの海。
海斗はこの景色が好きだった。
「この世界のどこかにある海の都アトランタル…父さん俺もみてみたいや」
いつか父に話してもらったおとぎ話。
そのおとぎ話の中に海の都アトランタルという都市が出てきた。
そこにはたくさんのポケモンや未知の生物がいるらしい。
なんでもルギアという名のポケモンがそこの主らしくとてもかっこよかったのを今でも覚えている。
「お兄ちゃんまだそれ信じてるの」
バッと声のした方を振り向くとそこにはまだあどけない感じの少女がいた。
身長は低く幼い顔つき。
海斗と同じ青い綺麗な目をしているがそれとは対象的に肌は透き通るように白い。
肩ぐらいまである薄い水色の髪の毛。
まるで人魚のような少女である。
「初音か……ノックしろよ」
「したよ?心のノックを」
「音をたててノックしろ!」
おとなしそうな見た目とは裏腹に案外ボケてくる。
ジェネレーションギャップというやつだろうか。
「なんのようだ?」
「ご飯。今日は海鮮丼」
ハァと海斗はため息をついた。
「今日も……だろ?一週間も海鮮丼続いたら流石に飽きるよな」
「アハハお母さん同じ料理は最低一週間は続けるもんね」
二人揃ってガクっと肩を落とす。
あの母はそのうち一ヶ月ぐらい同じ料理を作りそうだ。
4
「海斗あんた食欲ないの?」
「一週間同じ物食べたらそりゃな…」
ここで笑ってごまかす母は流石だと思う。
海斗は文句を言いながらも食べる。
「そういや海斗。なにかやりたい事決まった?」
「男性のやつを女性のあれに突っ込むこと以外なにも」
「ちょっと!お兄ちゃん食事中に変なこと言わないでよ!あー食べる気なくしたごちそーさん」
「お前そんなこと言って単に海鮮丼飽きて食べたくないだけだろ」
俺だって食べたくないんだ逃げるなと心から思う海斗。
しかし妹の回避能力もあがったもんだ……
「なにもやりたいことないなら漁師は?」
進路がまだ決まっていない受験生の進路を必死で考える人のように見える。
漁師というのはあんまりやりたくはなかった。
海は好きだがやっぱり冒険とかをして新しい海を発見したりだとかをしてみたかった。
かといって冒険家もどうかと思っていた。
「まだわかんねえわ」
「お兄ちゃんいっそのことあっち系の男優になっちゃえば?」
さらりとこんなことを言えるこいつは男性のやつが付いているんじゃないだろうか。
「わが妹よ…貴様はお兄ちゃんが汚れた職業についても平気だと言うのか?」
「え?もう汚れてるじゃん」
やべえ何も反論できねえ。
「なら……あんたポケモントレーナーは?」
「……ポケモンクリーナー?」
お掃除屋さんだろうか。
「ポケモントレーナー!ポケモンと一緒に旅をしてチャンピオンを目指す人のことだよ!」
スケールでかいな。
海斗はこの時思った。
ポケモントレーナーは自分にあってるのかもしれないと。
このポケモントレーナーという言葉が彼の将来を大きく変えたのであった。
続きます。