丘の上の誓い
緑の丘の上、その天辺には一本の大きな木が生えており、青い葉をさわさわと心地のよくなびかせた。
その木の下で小さな男の子と女の子が隣りあわせで座っている。
「ねえ、おにいちゃん」
女の子の呼びかけに、隣で目をつぶっていた男の子はゆっくりと目を開けた。
「ん、どうしたんだ?」
「あそこ、見て」
指差したその先には青いポケモンが、小さな岩の上に登って、飛び降りては登りを繰り返している。
その飛び方には容赦はなく、2人の背の高さを優に超えるほど跳躍しては顔面や頭を地面に激しく強打した。
「あんな高い所から落ちて、痛くないのかな」
「痛いに決まってるだろ」
何度地面にたたきつけられ、それでも青いポケモンは岩に登った。
女の子は青いポケモンが落下する度に目を逸らし、青いポケモンがゆっくりと立ち上がり始めるとまた熱心な眼差しでそのポケモンを見つめた。
「ねえおにいちゃん。あのポケモンは一体何がしたいのかな」
「さあな、ジャンプの練習でもしてるんじゃないか」
「だったらあそこの池に飛び込めばいいんじゃないの」
丘の下にある小さな池を指差した。
「泳げないんじゃないのか」
「青色の体なのに?」
「それは関係ないだろ」
2人がとりとめのない話をしている間にも、青いポケモンは何度も岩の上から跳躍した。
気のせいか、青いポケモンの跳躍する高さが、少しずつ高くなっているような気がする。
そしてまた青いポケモンは岩の上から跳び上がる。
「うわっ、凄い!!」
丘を越え、2人の視線を越え、大きな木を越え、青いポケモンは今までに無いほど高く跳んだ。
2人は急いで木から離れ、空へと視線を送る。
見上げると、吸い込まれそうな青空がどこまでも続いていた。
満遍なく空を見渡したが、青いポケモンの姿は見当たらなかった。青い空の中に吸い込まれていったのかもしれない。
「あそこ、居るよ!」
女の子の指差した先には、確かにあの青いポケモンが居た。見事に青い体が青空の色に溶け込んでいたのだ。
「凄ぇ、あんな高い所まで跳んだのかよ!」
「ねえアレ何してるのかな」
青いポケモンは空の中、必死になって両手両足をバタつかせていた。
キラキラと瞳を輝かせ、大空の中、必死にもがいていた。
女の子はポツリと呟いた。
「あの子、もしかして空を飛ぼうとしているのかも」
「翼も生えてないのにか」
女の子はこくりと小さく頷いた。
やがて勢いを無くした青いポケモンは、地面へと落下した。
ドシャリと鈍い音がする。
しかし青いポケモンはまたすぐに起き上がると、岩の上から跳躍した。しかし、もうさっきのように空高くまで跳び上がることは無かった。
男の子は、段々と跳ぶ高さが低くなっていく青いポケモンを見つめて呟いた。
「馬鹿だよそんなの」
「全然馬鹿じゃないよ!!!」
女の子はキッと睨んだ。
「今は飛べなくたって、翼が生えてなくたって、いつか信じていればきっと願いは叶う。そのうち立派な翼が生えてくるよ!」
半場泣きべそをかきながらも必死に叫んだ。
「空は飛べるんだよ!!!」
突然の怒鳴り声に、驚いた青いポケモンは固まってしまった。
緑の丘の上、大きな木が太い枝をざわざと揺らして、いくつもの葉を落としていった。
青い空はいつの間にか真っ赤に染まり、西の彼方に太陽が沈みかかっている。
「でも」
男の子は言う。
「馬鹿だけど、今は意味の無いことなのかもしれないけど.....でも...それでも...」
女の子はしばらくの間、じっと男の子を見つめていた。ガラス玉のように透き通った瞳は、一体男の子から何を読み取ったのだろうか。
それから女の子は相変わらず固まったままの青いポケモンの元へと向かい、両手で抱きかかえると男の子の元へと戻ってきた。
女の子はまだ少し不機嫌そうな顔をして口を開いた。
「私、この子をお家に連れて帰りたい」
「母さんに怒られるぞ」
「そしたらまた此処に逃げる」
「分かった、俺がなんとかしよう」
女の子はくすくすと笑った。
「私、おにいちゃんが好き。大人になったら結婚しようね」
「うん」
沈みかかる夕日の中、男の子と女の子は手を繋いで丘を降りてい