第六話 信念は何処
「な………なんだと言うのだ………この有り様は………」
そう呟く男の眼前には凄まじい破壊の痕跡が散らばっていた。
何かの建物だったのだろうか。
その木片は跡形も無く吹き飛ばされ
他にも多くの血痕が飛び散っており
ここで激しい戦闘が行われたことを窺わせる。
「……ここまで徹底的だと犯人の情報を疑わざるを得ないなアルケーのじい様」
もう一人。
ぼさぼさの髪を生やした男が最初に呟いた老人に話しかける
彼らは追っていたベルセルクの情報を掴み遠路遥々オーレライ教会まで来てみたのだが
そこで待っていたのは無惨な破滅の爪痕だった。
「こんなにも念入りに跡形も残さず破壊しつくすなど……本当に我々が追っているのはベルセルクなのか?疑問を覚えずにはいられんわ」
アルケーと呼ばれた男。
時雨アーケオスが苦々しそうに言う。
「ヒトモシ君の情報によればメイガスの
戦士はこの教会に身をおいていたようだが……果たしてベルセルクと対峙して生きているのだろうかね」
ぼさぼさ髪の男
時雨ウォーグルが溜め息を溢しながら続ける。
「まあ−−何にしても別動隊で動いている姐さんと虫組の二人と一度お互いの手に入れた情報を共有する必要があるな。じい様−−騎士に集合をかけましょう。ここに残るのは危険だ。ベルセルクの
戦士が案外ヤバイ奴かもしれないってことが分かっただけでも収穫だろ。」
ウォーグルの言葉にアルケーは頷く
「ウム……メイガスが健在かどうかはさておいてベルセルクには厳重な警戒をしなければな………あのキリキザンでも不味いかもしれん………」
そう言うと二人はとてつもない早さで
忍の如く走りだして見えなくなった。
二人の騎士が居なくなった後のオーレライ教会の跡地
そこに二人の人物が地面から溶け出すように現れる。
否、
二人なのだろうか?
彼等は姿も服装も何一つとして違う部分の無い
正しく同一人物と形容するのが相応しい装いをしていたからだ。
黒いマントを羽織ったお世辞にも顔色が良いとは言えない男。
セキュラーの
戦士。
つまりこのセキュラーは神具「
傀儡で催す舞踏会」による念動体の一部なのだろう。
「どうする?ベルセルクに引き続きアーマー、メイガス、アルケーまでもを補足したが………」
片割れに話しかけるセキュラー
「取り合えず私がゾロアーク様に報告しに行こう。君は引き続きベルセルク達を捕捉し続けてくれ」
「心得た」
そう短く会話を済ませるとセキュラー達は再び地面に吸い込まれるように消えてしまった
__________________________
「……なんだ?ドレイク。その言い方は。よもやこの私に勝つつもりでいるとでも言うのか?笑わせるなよ騎兵ごときが……この私の黒弓の前に膝まづくが良い!」
怒りの咆哮を挙げるシューター。
彼が手元にある弓形の鍵盤を弾くと軽やかなメロディと共にとてつもない本数の黒弓が現れる。
その数はゆうに四十本を越えた。
「ッッ!!」
息を飲み緊張を顕にするフェンサーとポーカー。
かの黒弓の騎士の標的は今尚ここに居る戦士全ての中でもドレイクと、事情は分からないがシューターの実弟であるスキャナーの
支援員らしき少年にあるらしい。
「数が武器だと言うならばとんだ期待はずれだな?平和を掲げる男よ。」
ドレイクの挑発にシューターは
「ほう?貴様程の男が戦局を見誤るとはな。滑稽だなドレイクよ。貴様が先程槍兵にしたことだ。炎の雨の次は弓の雨を味わえ低俗共よ」
シューターが指をならすと空中で静止していた黒弓の軍勢はあっという間に公園の中央に位置するドレイクやスキャナー達をを囲むようにその切っ先を
戦士達に向けた。
「さらばだ。己が願望を撒き散らした貴様らの慟哭を我が平和への讃美歌としよう。ついでだ−−五人纏めてここで終焉を迎えろ」
そして一斉に射出される黒弓達
「チィッッ!」
槍を構えて太刀打ちしようとするポーカー。
苦し紛れに防御結貝を貼ろうとするフェンサー。
弓を突かんで被弾を少なくしようともがこうとするドレイク。
どれも等しく絶望的な対抗策だった。
しかし、
今にも降り注ぐ黒弓達に対して
強気に笑みを浮かべている男がいた。
「スキャナー?お前!もうおしまいなんだぞ!勝ち目が無いのに何笑ってるんだよ!おい!」
全員が絶望的な状況に歯噛みするなか
ゾロアが叫ぶようにスキャナーだけはこの状況にそぐわない笑みを浮かべていた。
「夢を諦めない君の姿勢に僕は感銘を受けたんだよ?ゾロア。だから君の期待に相応に応えようと思う。」
「は?何言って……」
ゾロアは最後まで口にする事は出来なかった。
何故ならスキャナーの体から強力な霊力の奔流が流れだしてゾロアの小さな体を吹き飛ばしそうになったからだ。
「ゾロア……シューターは君の兄貴なんだよね?だったらお兄さんに君の覚悟を見せつけるよ。」
スキャナーはそう言うと霊力の波は光となり渦を巻くようにしてその場にいる全てのポケモン達を飲み込んだ。
「
湖光の夢へと向かう王の鐵船」
ゾロアは光の渦で視界が埋められる直前。
スキャナーのその声を確かに聴いた。
「ッッ!?ここは何処だ!?」
次にゾロアが目を開けるとそこは先程までの公園の風景とは全く異なっていた。
「湖………それも巨大な………」
ポーカーが呟くように今、
公園にて死戦を繰り広げていた
戦士達はこぞって大きな湖の上−−水上に立っているのだった。
「何で水の上で立っていられるんだ……」
ゾロアの疑問はもっともだ。
いや、それ以前にこの湖は何処から現れたのだ?
わけがわからない。
と、そこで恐らくこの不可解な現象の発端であるスキャナーが口を開いた。
「この場所は僕の記憶を基に作られた実在しない世界だよ。僕の召喚能力で君達を僕の世界に召喚したってことだね」
あっけらかんとスキャナーは説明した。
「つまりここは現実とは解離された君の世界って事か?スキャナー。」
フェンサーの質問にスキャナーは頷く。
「なに、そんなに警戒しなくても良いよ?フェンサーとポーカーの騎士同士の戦いに割り込むような無粋な真似はしないからさ。僕の標的はシューターだけだから。」
「ム……」
ならば今は安心しても良いのだろう。とにもかくにもシューターの黒弓から助けてくれたのは間違いないのだから。
「感謝する。スキャナー」
ポーカーの謝辞にスキャナーは首を振る。
「お礼を言われる筋合いは無いよ。こうする必要があったからこうしただけだからね。君たちは巻き添えだよ?それに…………ホラ」
スキャナーが首で示した方を見るとシューターが怒りを露にしていた。
「………このようなみすぼらしい場所で雌雄を決しろと言うのか?貴様はッッ!?ならばその短慮!力ずくでうち壊してやろう!」
「公園よりかはマシじゃないかなぁ」
怒りのままに鍵盤を弾くシューター。
その背後にまたしても黒弓が現れる。
その数−−−100本!
「……さて?召喚術師よ。窮地を脱したわけではないようだな。しかも先程よりも更に旗色が悪くなったと見える。全く………馬鹿の一つ覚えのように弓を飛ばしおってからに………」
今まで沈黙していたドレイクが軽やかな早口でスキャナーに話しかける。
が
ガラリとまるで仮面をすげ替えたかのように
ドレイクの雰囲気が変わる。
冷徹極まりないソレに。
「もしも……もしも貴様が奴の言う通りにその場しのぎでこの世界を構築したならば………対抗策も無く我々を巻き添えにしたならば………その時は」
「この場で貴様を殺して我は湖から離脱する」
スキャナーに敏捷な動きで刀を向けるドレイク。
彼の考えも当然と言えば当然だ。
先程よりも多い数の黒弓を相手にするならば公園の時の方が幾分かマシだ。
更にスキャナーの世界の中に自分達は閉じ込められているのだから対抗策が無ければ黒弓になぶり殺しにされるだけなのだから。
「貴様の神具が記憶の具現化だけだと言うのならばここで死ね」
殺気を隠そうともしないドレイクに対してスキャナーは
「まあまあ落ち着いてって。取り合えずシューターを撃退するからさ?君達はレジャーシートでも敷いて見てれば良いよ」
そう言うとスキャナーは大鎌を召喚解除した。
武器も無しにどうするというのだろうか。
「おい!スキャナー!お前ホントにどうするんだ!」
そんな風につかみかかりそうになるゾロアをゴルーグが制する。
「ゾロア。今ハ、スキャナーヲ信ジテクレ」
「……………分かった」
ゾロアはばつが悪そうに引き下がる
そのようすを見てスキャナーはニコリと笑って頷く。
そして
「集えよ。我が王と共に栄光の時代を生き抜いた同胞……今こそ覇権を示す時−−−
湖光の夢へと向かう王の鐵船!!」
スキャナーは言霊を告げた。
途端
湖の水が真っ二つに割れた。
まるで神話のように。
そして割れた湖の底から浮かび上がって空中で静止したのは全長10メートルはあろうかと言う「船」だった。
しかしその様相は普通の船とは大きく異なっていた。
まず目につくのはその巨大な大砲である。
その他様々な武器が装着されているソレは紛れもなく戦船であった。
「なんだよ……これ………」
フェンサーが驚くのも無理はない。
余りにもでかすぎるソレは鉛のように黒光りして全ての砲台を一斉にシューターに向けたのだから。
恐ろしい。仮にフェンサーがスキャナーと戦うとなったときに果たしてこれを凌駕する事が出来るのだろうか。
「スキャナー!これってあの時の!?」
「そうだよ。君と最初にあったときにシュバルゴを圧倒した船さ。神具になったみたいだね?」
ゾロアは自らが選んだ
戦士の底の知れなさを改めて実感した。
もしかしたらスキャナーは本当に
願望器を狩る事が出来るかもしれない。
と、そこでドレイクが軍艦の威容を眺めながらスキャナーに言う。
「………成る程。時雨シュバルゴを圧倒した………つまり報告にあった通り貴様の真名はロット・デュラック・ランクルス−−−「最高の騎士」と言うことか。従ってレイト・ゾロア、闇同盟当主の弟か。やっと話が繋がったな」
否−−とドレイクは続ける。
「フ……違うな。貴様の真名はソレでは無いだろう?我等騎士が羨んで憧れてやまない最高の騎士−−−そしてこの「王に忠誠を誓う船」…………」
そしてドレイクはスキャナーの本当の真名を看破した
呪いと後悔と栄光に満ちたその名前を
「湖光の騎士−−ランスロット・デュラック御初に御目にかかり光栄の至りですな。」
「出来れば最後まで隠し通したかったんだけどね……その名前」
スキャナーが苦笑しながら冗談めかして言う。
「……普通ならばこんな騎乗道具を持っている時点で貴方はドレイクに選ばれるのが定石だ。しかし−−」
「貴方は心の中で騎士となるのを嫌がった。だから召喚術師にまで自ら成り下がったのだろう?」
ドレイクの言葉に対して
珍しくスキャナーは緊張に満ちた表情をして無言で通す。
「………話はまたの機会にしようかな……ホラ、そろそろシューターは我慢の限界みたいだからね!」
話を反らしてまで嫌な話題だったのだろうか
スキャナーが指をならすと黒船からスロープが降りてくる。
「ゾロア来てくれ。」
「えっ、ちょっと…!?」
スキャナーの合図で横にいたゴルーグがゾロアを担いでスロープを登り始める主の後を追う。
スキャナー陣営三人の姿が船の中に消えた所でドレイクが独り言のように呟く。
「……騎士でありたいならば過去を悔やんでいては始まらない。ソレを知ってか知らないでかは分かりかねるがな………スキャナーよ」
「過去を捨てたからといって己の残した禍根から逃れられる訳でも無かろうに」
この空間でフェンサーやポーカー、ドレイクに出来ることは今は無い。
取り合えずはシューターとスキャナーの因縁の対決を観戦するしか外に無かった。
__________________________
「……ククク………待ちくたびれたぞ?貴様が御話しをしている間に私はついついこんなにも黒弓を作ってしまってな。」
口元をひくつかせながらシューターが続ける。
どう見ても爆発寸前であった。
「あちゃー………どうしようかゾロア………お兄さまお怒りですね謝って赦してくれるかな……」
「ムリだね。大体お前のせいなんだからな!勝手に飛び出して!しかも傍観してれば殺られた筈のフェンサーとかポーカーまで助けてさ!」
「いやぁ………体が勝手に」
「それに何?ドレイクとも知り合いなの?スキャナー」
ゾロアは心配そうな表情をしている。
−−当然か、かなりの隠し事をしてたしなぁ……
ゾロアに余計な不安を抱かせてしまったのはとても心が痛むが………スキャナーとしてもあまり触れられたい部分では無かったのだ。
「ゾロア。今ハ目ノ前ノ「シューター」ダ。」
「あっ………そうだった……スキャナー!この話はまた今度な!絶対全部聞き出してやるから!」
自信満々に宣戦布告をするパートナーに対して苦笑いで返すスキャナー。
「お手柔らかに………ってくるぞ!」
スキャナーの叫びの通りにシューターは酷薄な笑みを浮かべながら黒弓の群れを放ってきたのだ。
「どうやら貴様らはここが戦場だと言う意識が無いようだな………ならば絶望にて教授してやる!光栄に思うが良い!」
「ゴルーグ!」
「オウ!」
スキャナーは短く相棒に指示を出す。
するとゴルーグは看板の上にある砲台に何かを詰め込んだ。
「スキャナー!早く!ゴルーグは何やってんの!?弓矢が凄い数来るよ!!」
ゾロアが叫び声を上げる。
「慌てないでゾロア。ゴルーグ!「霊力増強」と「鍛治工房」の時空転換を砲台室に接続して!」
スキャナーの端的な指示にゴルーグは迅速に対応して見せる。
「霊力炉モ異常無シ!イツデモイケルゾ!」
「オーケーだよ!シューター!君にゾロアの意志の強さを見せてやる!」
スキャナーは操舵室にゾロアを連れて駆け込みレバーを引いた。
「喰らえ−−−
刀剣・霊力砲!!!」
此方に向かって飛来する黒い星達は全てシューターが霊力により造り出した弓矢であることは言うまでもない。
その数は凡そ400本を越えているように思える。
それに向かってスキャナーは何をしたと言うのか?
「
湖光の夢へと向かう王の鐵船」のあちらこちらからスキャナーがレバーを引いた途端にたくさんの砲台が現れる。
そして−−その砲台から発射された砲弾は様々な形状をしていた。
刀
剣
槍
弓矢
斧
鎌
砲弾
くない
中にはツボのようなモノやロケット、鉄球等もある。
それらが次々と強烈な発射音と共にシューターの黒弓陣とぶつかり砕け散り爆発して四散していった。
「なんだと………!?」
シューターは狼狽を隠せない。
自分の黒弓は霊力で編んで作られている。
ソレを真っ向から相殺するなど神具でなければ出来ない芸当だ。あの武器の群れが全て神具だとでも言うのか?
いや、ソレ以前に何故あの黒い船に無数に造り上げた黒弓が一つとして当たらなければ掠りもしないと言うのだ?
そんなにも船捌きが上手いと言うのかあのスキャナーは。
それにあの質量の武器が全て船に貯蔵されているとは考えにくい。
恐らくあのスキャナーも自分の「宝物殿」と同じようにモノを貯蔵出来る空間を持っているのだろう。
それで説明はつく。
しかし、この状況に陥ってしまったことは説明がつかない
認められない……認めない!!!
自分と同等以上の力を持つ輩が存在しているだと!?
そんなのは時雨キリキザンや剣ドリュウズ程度だと、そう思っていた。
何者だ!?あのスキャナーは!
「……ッッ!!ええい!認めるかッッ!!ゾロアッッッッ!!!スキャナーァァァ!!!貴様らを
平等の名の元に平伏させてくれようぞ!!!!!!」
全ての黒弓を打ち落とされ怒りのままに咆哮するシューターはそう叫ぶとその体から黒い光を発する。
「スキャナー!あれは不味いよ!打ち落とせないから避けて!!」
何が起こるのかゾロアは知っているのだろうか?
スキャナーは焦った。
「ええッッ?どうしてさ!」
「ホントにアレはヤバ…………−−−−」
どす黒い光は霊力なのだろう。
ソレがスキャナーの記憶に刻まれた世界を侵食していく。
「この世界を侵食するなんて……まさか宝物殿の霊力を解放するつも−−−」
続きの言葉を紡ぐ事は出来なかった。
「
湖光の夢へと向かう王の鐵船」ごと暗黒の光に飲み込まれてしまったからだ。
スキャナーの読みは正しい。
シューターは
生存競争のなんたるかも失念してここで世界ごと四人の
戦士を葬るつもりなのだろうか。
今後の戦いにおいてシューターの切り札足る宝物殿の霊力を出しきることは敗北を意味する。
ソレをさせてしまうほどにシューターはこの展開が気にくわなかったのだろう。
だから
彼は躊躇い無く使用する。
全ての霊力を一息に解放して「世界の定理を魔法さながらの力で平等に従える」大いなる大神具を
「従え従え平等に等しく従え民草も平民も貴族も奴隷も政職も皇帝も王さえも−−−」
「壊して請わして乞わしてコワセ崇めて敬い奉り恐怖に戦け平等に−−−−」
そして世界は塗りつぶされる。
縦横無尽に残虐非道に無慈悲に傍若無人に
「
王権にて告げる平等支配ッッ!!!」
その瞬間
空に
海に陸に
空気に太陽に月に雲に
あらゆる定理が音を立てて
割れた。
__________________________
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
「兄者!」
「………これはッッ!!」
地上にいた
戦士達が異常にあわてふためく。
いきなり世界が黒くそまったと思ったらあちら此方にヒビが入り空や水が崩れていくのだ。
「……時空断層を実際に起こすとは……途方もないな……」
ただ一人ドレイクだけは落ち着き払って降り注ぐ瓦礫をかわしながら言う。
「ドレイク!ここは一時休戦してこの世界から脱出しよう!シューターがあんなの隠してたなんて……」
「フェンサーよ!我等も協力しよう!」
「無駄だ」
フェンサーとポーカーの言葉に異を唱えたのもドレイクだった。
彼は笑っていた。ニヤリと。
恐怖のあまりにおかしくなったのか?
それとも諦めて笑うくらいしか出来ないのだろうか?
否
彼の笑みは新たな楽しみを見つけたかのような子供のソレによく酷似していた。
「最早この空間はヤツ−−シューターの支配下だ。逃げるなど不可能だ。」
「それじゃあどうやっ……」
慌てるあまり声をあらげるフェンサーを片手で制すドレイク。
「なに−−簡単な事。シューターを殺してこい。それで全て終わる。」
「ハァッ??」
落下してくる岩石を剣で切り裂きながら眉を潜めるフェンサー。
「誠……それが出来れば苦労はしないッッ!!」
「兄者!もう時間が!!」
ポーカーの言う通り今はこの瓦礫を対処するので手一杯。
どうしたってシューターに近づけない。
しかも世界が崩壊したらここにいる
戦士やポケモンは皆消滅してしまう。
「我がシューターを殺そう。フェンサー、ポーカー、貴様らはそこで瓦礫の相手をしていれば良い」
「策があるのッッ!?」
焦りと期待に顔を輝かせるフェンサーにドレイクは続ける。
「ああ……しかしシューターまでの距離が遠いな……何か邪魔な瓦礫を片付けるモノと神速でシューターに接近出来るモノは無いだろうか?」
その言葉でフェンサーとポーカーは顔を見合わせて頷く。
全て理解したと言うのだろう。
「先発は我々が受け持とう」
「僕は補助を担当する……ドレイク頼むよ」
フェンサーとポーカーは其々の神具たる槍と剣を構える。
「取り合えずここを出るまでの協力関係だ。貴様ら騎士の力を見せて貰おうか。」
ドレイクは腰に提げていた刀を取り出す。
酷く禍々しい空気を醸し出す−−死を連想させる風貌の刀だった。
恐らく神具なのだろう。
鞘に納められていてもその刀からは紫色の毒々しいオーラが漏れだしている。
四人は其々の得物を重ね合う。
「行くぞ−−
改竄すべき騎士の結末…」
近くにあった岩石にドレイクが手を当てると
岩石は見る間にミサイルの形に変形していった。
ドレイクはソレに立ち乗りをする体勢をとる。
続けてポーカー達が槍を構え直した。
そして
「「
十字聖槍で重ねる福音ッッ!!!!」」
槍をシューター目掛けて投擲する
同時にフェンサーが
「
貝水放出ッッ!」
ドレイクが乗っているミサイル目掛けて水砲を打つ。
するとドレイクを乗せた騎乗ミサイルはフェンサーの水砲の後押しによって高速でシューター目掛けて飛んでいく。
ドレイクの行く手を阻もうとする世界の破片である瓦礫はポーカーの聖なる槍で破壊されて彼の勢いを削ぐことは出来ない。
とてつもない速度を以て槍とミサイルがシューターに肉薄する!
「ッッ!?ドレイクだと!!!?」
「さあ………食事の時間だ我が剣よ……」
もうまもなくシューターと追突する所でドレイクはその禍々しい刀を鞘から抜いてミサイルから飛び降りた。
__________________________
「チイィィィィィィッッ!!!」
先んじて飛来する槍とミサイルをシューターは自らの造り出した闇の穴に入る事でかわしたが
「遅いッッ!!!」
ドレイクの禍剣を完全に避けることは出来なかった。
「ガアッッ………!!」
腕を斬られたシューターはうめき声を漏らしながらもドレイクから距離を取る。
「そうか……フェンサー達と手を組んだか……!!」
シューターが吠えるように言う。
「一時的にな。さて……シューターよ、貴様は必ず此処で死ぬ。それは我が定めた理だ。」
ドレイクは禍剣の切っ先をシューターに向けて告げた。
「なに……?貴様の理だと……!?ふざけるなッッ!誰が貴様に従うものか!分を弁えろドレイクッッ!!」
声を大にして言うシューターだが
ドレイクは鼻で笑って返す。
「平等……ならば従う権利も従わない権利も平等にあるのだろうな?暗黒王ダークレスウェル・ゾロアークよ」
「従わせる権利も等しく存在するのだッッ!!汚ならしい騎士の詭弁に付き合う余裕は無いッッ!!」
最早滅茶苦茶だった。
「貴様の掲げる平等がどれ程に浅はかなものかよく分かったよシューター。詭弁を弄しているのは貴様だ。闇同盟の長よ」
「我が道を汚すかッッ!?騎兵風情がッッ!!ならば此処で死ぬのは貴様だドレイクッッ!!」
シューターの背後から黒弓の軍勢が一気に現れる。
宝物殿の霊力を世界に放出した今、この世界そのものが霊力庫そのものに等しいのだろう。公園で彼が見せた数など比較にもならない程の数の黒弓がドレイク目掛けて飛来する。
「平等に従える事に気を取られて民草の実状に興味を持たぬ器の小さい男には誰も従わぬさ……現に貴様の弟も主の元を離れたではないか」
雨の如く降り注ぐ黒弓をドレイクは禍剣で叩き落とす。
何故かドレイクには一本として当たらない。
先の公園ではこの数の十分の一でも苦戦していたと言うのに!
「何故当たらぬ!?騎兵程度此処で貫かれ死せるが定め!?」
苛立ちで思わず叫ぶシューターに対してドレイクは驚愕の言葉を告げる。
「当たらぬよ。貴様をこの手で殺すまでは我が剣は進撃を止めぬ。そう言う「呪い」だ」
呪い。一度抜いたら誰かを殺すまでは鞘に戻らない剣−−ダインスレイブ等が挙げられるがそう言う類いの呪いなのだろうか。
「……光栄に思えよシューター。貴様は我が認めた強敵だ。今回の
生存競争において三人強者を挙げろと言われたら我は貴様を抜擢しよう。故に−−−」
「貴様は此処で死ぬのだ。」
ドレイクはシューターを殺すと言う決定事項を内包した剣の真名を告げる。
「三度の殺戮を約束せし刀−−我はその鎖に
戦士シューターを括る。彼の暗黒王の真名を供物としてその真価を発揮せよ−−」
それは相手のクラスと真名を看破してからでなければ使えない絶対たる殺戮兵器。
昔、とある男が妖精に頼んでどんな願いでも三回までならば叶える剣をこしらえさせた。
しかし三回使いきるとその剣は使用者の命を吸い付くして再び眠りにつくと言う。
「
冥夜へと誘う来訪呪縛ッッ!!!」
「ッッ!!!
王権にて告げる平等支配ッッッッ!!!!」
二人の信じ定めた理が火花を散らしてぶつかり合う。
決して理解し合う事の無い二人。
己の信じた道以外に興味など無いからだ。
等しく与えられた権利は
等しく命を奪い尽くす。
真の平和なんてモノは世の中に存在していないのだから。
しかし、剣と闇がぶつかる直前
遂にスキャナーの記憶の世界を構築していた基点である「
湖光の夢へと向かう王の鐵船」の霊力が
「王権にて告げる平等支配」の闇によって遮断されたが為に
世界が完全に崩壊した。
__________________________
「ダメだお前は当主では無い」
「だがっッッ!!このままではミジュマルは
戦士となり
生存競争に駆り出されるのだぞ!!それでも良いのか貴様はッッ!!??」
何処からか声が聴こえる。
自分の名前を呼ばれた気がした。
「それは剣流にいる以上避けては通れない道だ。」
「またしても貴様は家族を見殺しにするつもりなのかッッ!?ドリュウズ!!」
師であるドリュウズと誰かが口論をしている?
白い世界でたゆたう意識の中ミジュマルは引っ掛かりを覚える。
自分はこの声を聞いたことがある?
「×××××の事をまだ………あれは仕方がなかった……」
「仕方がなかった?ふざけるなッッ!貴様ほどに愚かな男は居ないだろうなッッ!!」
「剣と言う愚かな流派にいる限り誰しもが愚かだよ。お前も含めてな」
「もう良いッッ!ならば苦しい目に合う前に俺が手を下してやるよ!」
ドリュウズの口論相手はそう言うとミジュマルの方に向かってきた。
「まてッッ!!×××××!!!させんぞ!!」
「すまないミジュマル……恨むなら剣を恨め」
男は持っていた剣をミジュマルに向けて降り下ろした。
一瞬、男の背後にドリュウズの姿が見えたような気がしたがミジュマルの意識はそこで途切れた。
__________________________
「ッッ!!!??」
ミジュマルことフェンサーはそこで起き上がる。
景色がスキャナーの世界とは違う。
ここは
「公園………!?」
戻ってこれたのか自分は
安堵の溜め息とともに状況を確認する。
隣にはフェンサーを守るようにして剣ドリュウズとフォン・ツタージャがいる。
「気がついたか?フェンサー」
「良かった………!」
ドリュウズとツタージャが思い思いに話しかける。
が、フェンサーの頭は未だにぼやけている。
そこでふと思い出す。
「他の
戦士は!!?」
「呼んだかな?フェンサー」
横から声を掛けられたのを察して見るとそこにはスキャナーが居た。
更にゴルーグもいる。ゴルーグはゾロアを抱えていた。
二人とも疲弊した表情をしている。
「我々はスキャナーに助けられたのだ。」
と、そこで反対側から声がした。
ポーカー達だ。
「世界が崩壊する直前にスキャナーが船の中に我々とフェンサーを召喚してくれてな。」
「そうだったのか……スキャナーありがとう……って言うか!元凶って君でしょ!!」
フェンサーが思わずつっこむ。
「えへへ……痛いところを突くねー君。」
スキャナーは頬をかきながら言う。
「あっ!ドレイクとシューターは!?」
そこでポーカーは顔を曇らせる。
「彼らは召喚を拒否したんだよ……って言うか仮に応じたとしても船に入れたくないよ。」
スキャナーが説明する。召喚して全員脱出を目指したがシューターとドレイクはクラス別スキルの「対霊力」のランクが高く掛けた召喚霊術をキャンセルされてしまったと言うのだ。
つまり
「二人ともあの世界に置き去り!?」
フェンサーは悲痛な表情をした。
シューターはともかくドレイクは一時的にとは言え同盟を結んだのだ。
それがなにもしてない自分達だけ助かるなど恥ずべき事だ。
「うんにゃ、世界は完全に壊れた筈だけども……普通なら世界と一緒に消滅するんだけどね?もうあの時点で世界の8割はシューターに乗っ取られて居たから……もしかしたらイレギュラーがあるかもしれない。」
期待して良いのだろうか。
競争相手が脱落するのは喜ぶべき事なのだろうが
望んだ結果とは思えないこの状況で素直に喜べるほど彼らは落ちてはいなかった。
「さんざ迷惑かけといて申し訳無いんだけど僕らはここいらでおいとまするよ。パートナーがぐったりしてるんでね。帰ったらお説教されそう!さよならー!」
そう言うとスキャナー達はゆっくりと歩きながら港の方へ消えてしまった。
「フェンサー。我々も今宵は引き下がろうと思う。我が主が呼んでいるのでな……いずれまた再戦を」
「ああ!」
ポーカー達は頷くとその場から歩き去ってしまった。
「さてフェンサー。お前に話しとかなきゃいけない事がある。」
全ての
戦士が去った事を確認してドリュウズが口を開く。
「奇遇だねドリュウズ。僕も話さなきゃいけない事があるんだ。」
互いに戦闘の後で疲弊していると言うのに
そんな様子を見せずに話し続ける。
「此処で立ち話も難だし一回島に戻らないか?」
フェンサーはドリュウズの提案ににべもなく賛成した。
夜風に吹かれながら歩き出す彼らが去った後の公園は闘争の空気が薄れていった。
「……あわわ……ど、どどどどうしよう……!どうしましょう………キリキザン様が……」
誰も居なくなった公園の片隅には震えている子供が居た。
「と……取り合えずアーケオス様に……報告しなくちゃ……!」
子供は夜だと言うのにその公園から駆け出していった。
__________________________
「ゾロアーク様が行方不明だと!?!!」
アルガスタ邸の広い食堂にステラロック・ギガイアスの怒声が響く。
「は………最早次元の違う戦いの中で私は見ている事しか出来ず………何とかスキャナーの心象世界までは捕捉出来ていたのですが……面目次第も御座いません………」
苦渋の表情で頭を垂れているセキュラー。
セキュラーに何とかしろと言うのも無理があるし酷な話であろう。
それを理解しているのかギガイアスはこれ以上セキュラーを攻めることは無かった。
ある意味主よりも人格者である。
「……主が居ない今……意味を成さない情報かもしれませんが……分身体がベルセルク、アルケー、アーマー、メイガスを捉えました。今は同行を監視しております」
「成る程……これで役者は全員揃った訳だ。」
あまりの事態に無言になってしまったギガイアスの代わりにサザンドラがセキュラーの報告を聞く。
「どういたしましょうか……主を探せと命じて頂ければ我々は総出で捜索に当たります!!」
臣下の礼をとりながらも拳に力を入れて俯いているセキュラーにサザンドラは
「無駄であろうよ。あの方が居るのは恐らく現実とは隔離された世界だ。この世の摂理に繋がれている我々ではどうしようもない。」
「そんな!では主は………」
悲痛な声を挙げるセキュラー。
「しかし一つだけ方法があるだろう?
霊界に繋がる入り口を作れば良い。」
サザンドラが落ち着いた声で言う。
「霊力って言うのは
霊界から送られてくるものだからな、行き着く先も結局
霊界なのだ。つまりゾロアーク様は
霊界にいる可能性が高い。」
報告によればあの世界は霊力で作られているとの事だしな
とサザンドラ。
「しかし……
霊界にたどり着いたポケモンは居ないと言う話では………」
「ポケモンならな。都合の良い事に神の力を授かった魔術師が三人も居るではないか。」
サザンドラはニヤリと笑う。
「成る程、つまりメイガス、スキャナー、アルケーの何れかに
霊界への穴を開けさせる訳か。」
「従わせるか、それとも協力するか。何れにせよ只でやってくれる
戦士は居ないでしょうな。」
ギガイアスの言葉に首肯するサザンドラ。
「さて………魔術師狩りと行きたい所だが……セキュラー、お前には荷が重かろう。どうするか?」
既に決まっている答えを告げるかのようにサザンドラは言った。
「ベルセルクと手を組もう。それが我々が勝ち抜く最後の手段だ。」
__________________________
「それで……こうして全員に集まって貰った訳だが……」
そう告げるのは老人。時雨アーケオスことアルケーの
戦士だ。
「よもやキリキザンが………信じられん」
歯噛みするアルケー。
その様子を幼子……時雨ヒトモシが震えながら見つめている。
「ほ……本当のことです……」
「疑っておるわけでは無い。信じたくないだけじゃ……」
既に仲間にベルセルクについての事は話したが。
それを超える驚愕な情報が待っていようとはアルケーもウォーグルも思わなかった。
しかしドレイクが居ないとなると自分が指揮を執るしか無くなってしまう。
「……………」
こうも企てた策略が上手く行かないとなると
プランは三つ位立てておいたほうが安全か。
等とアルケーが思案していると
横からウォーグルが口を出す。
「じい様。原点に戻りませんか?幾ら騎士皇と言えども
戦士相手は勝ち目がない。だからセキュラーの真似事をしましょう。」
「
支援員の暗殺……か」
それは騎士としては不名誉な行為だ。
しかし名誉云々いっている間にも戦局が悪くなっていくのは必然だ。
「分かった。ではこうしよう。我等鳥組は引き続きメイガス、スキャナー、ベルセルクの始末。他の騎士皇はアバゴーラ、お主の指示の元にフェンサーとポーカーの
支援員を暗殺してもらう」
「委細承知」
普段のおちゃらけた調子ではなく厳格な面持ちのアバゴーラは指揮官としての彼の器の大きさを伺わせる。
「……ただし……ヒトモシ。御主は我等と来てもらう。」
「ひゃっ!?は……はいっ!!」
小さな体をビクンと震わせて了承の意を伝えるヒトモシだが体はガクガクと震えている。
ドレイクが−−キリキザンが戻るまでヒトモシは儂が守る。
そう心に誓うアルケーであった。
__________________________
夜道を歩く影が四つ。
彼らは其々異なる風貌をしていた。
「おのれっっ!!ベルセルクめッッ!!この恨みは何れ必ずッッ!」
地団駄を踏む勢いで怒りをぶつけるのはチェスター・オーレライ・ブルンゲル
「落ち着けよ。命があった分マシだろうが」
それを諌めるのはアーマーの
戦士たる時雨デスカーン
何を隠そう彼らが戦仕度を整えているといきなりベルセルクが教会に攻撃をしかけてきたのだった。
メイガスが迅速に対応したのとアーマーが絶対防御スキルにて防衛を強化したお陰で怪我人は居なかったが教会の霊具や
霊薬は殆どが失われてしまった。
壊滅的だった。
「なあなあ!シンボラさん!アイツ凄かったよな!あーんなド派手なぶち壊し方初めて見たよ!俺!」
「破壊とは他者を不幸にするものだとばかり思っていましたが………幸福を感じる方も居たのですね!余計な先入観を捨てなければいけませんね私も」
関係ない話で盛り上がるメイガスやココロモリは放っておいて、アーマーは言う。
「緊急だったからな……
霊薬は四つしか回収出来なかったよ悪いな」
「
霊薬なんてのはすぐにでもこさえられるさ。問題はこのあとどうするかだよ……取り合えず拠点を確保しないことには始まらない…………」
ブルンゲルがぼやく。
しかしそこで以外な人物が声を挙げる。
ピリヤ・ココロモリだった。
「家壊されちゃったもんなー。じゃあさ!うち来る?」
目を輝かせて親切で言った彼をまじまじと見つめるアーマー達だった。