第五話 戦場は混沌
「「
十字聖槍で重ねる福音!!」」
そう真名を解放されたポーカーの神具−−聖槍・ロンギヌスはドレイクが撃ち放った熱戦をものともせずに正面から真っ二つに切り裂きながらドレイクに向けて突き進む。
「……ぬ……」
ドレイクはその様子を見るやいなや未練も無く自らが「
改竄すべき騎士の結末」の力で作り上げた戦車から飛び降りて槍から距離をとった。
「「だぁぁぁぁぁ!!!」」
ポーカーが雄叫びを上げるとロンギヌスの槍は彗星の如くポーカーの手から投擲され熱戦ごと戦車を真っ二つに割り裂いた。
「ほぅ……中々面白い玩具を持っているようだな。よもや熱線をあのような単純さで切り抜けるとは……簡単には行かないと言うことか」
その槍の美しさを前にしてもなおドレイクは冷静さを失わない。寧ろ感心したような言葉さえ呟いている。
フェンサーはこの底の知れない騎兵の
戦士に対して改めて恐怖を感じた。
普通ならば自らの切り札たる神具を攻略されたならばもっと動揺するのが正しい反応だろうに。
「……貴様のご自慢の戦車は壊してしまったが……嫌に易々と捨ておったな。それとも真に頼りとする騎馬がまだあるのか?」
訝しげに尋ねるポーカー
その通りだ。神具を破壊されたと言うのにドレイクは不気味なほどに落ち着き払っていた。
「……そうさな…我はもしかすると今は窮地にあるのかもしれない」
−−しかしだ
「残念ながらアレは我の神具では無い。言うなれば我が能力の具現化……その一つに過ぎぬ」
ドレイクは淡々と驚愕と絶望の真実を述べる
「ハッ………どうだかな、案外ハッタリかもしれんぞ?あのような芸当……ただの騎兵に出来るものではない。それがあの威力ともなれば尚更神具でないとは信じられんな」
ポーカーが言い放つが
「そうか。信じられないともなれば実際に見せるしかあるまいて」
ドレイクが再び地面に無数に散らばった鉄片に手を触れる。
「まさか…………」
そう
そのまさかだ
ドレイクが触れた先ほどまで熱線を放っていた戦車の鉄片は生き物のように
あるものは溶けて
あるものは歪み
またあるものは薄く伸びて
まるで何か大きな機械のパーツであるかのように結合しあって何かをカタチどっていく。
そんなものが「四ツ」
つまるところ先ほどの熱線を放っていた戦車が単純に四騎現れたと言うことだ。
それはポーカーを四方から囲むように其々中心に向けて砲台を向けている。
後はドレイクの意思ひとつで熱線四本がポーカーに向けて放たれる事だろう。
正に生殺与奪を握られているのだ。
流石のポーカーでも四方向から迫り来る熱線を全て対処するのは得物の数からしても物理的に不可能だ。
「……ッッ…」
流石に動揺するポーカー。
「ポーカー!助太刀する!」
堪らずフェンサーは水流剣斬を構えてドレイクに向ける。
しかし
「良いのか?フェンサー。我に武器を向けた時点で貴様も焼却候補の対象と見なすぞ。」
「ドレイクの言う通りだフェンサー。助太刀は要らぬ、その騎士道精神に俺は感銘を受けたぞ。それだけで十分だ。」
冷たく言い放つドレイクに続けてポーカー達にも援護を拒絶された。
フェンサーは心の中で歯噛みする。
どうしていつもいつも何も出来ないんだ!僕は!
己の無力さを恨まずには要られない。
「
改竄すべき騎士の結末………さらばだポーカー、彼方に居るセキュラーによろしく。」
まあ実際にはセキュラーは死んでは居ないのだがこの場に居る
戦士達はその事を誰も知らないのだから致し方あるまい。
「
鳳!!!」
ドレイクは大きく手を振りかざして思いきり
号令をかける。
ポーカーにとっての死の宣告を
そして放たれる熱線四本。
「ポーカー!!」
ポーカー達はその協力無比な四撃になすすべも無く焼き付くされ敗退−−
とはならなかった。
なぜならば
先ほどの炎の雨とは全く対照的な
「雨」がドレイク達を襲ったからだ
いやこれはただの雨というよりかは集中豪雨。
バケツの水をひっくり返したのかとも思える唐突な雨に四人は戸惑うばかり。
ついでに熱線もかきけされていた。
しかし唐突にこんな豪雨が降るとは考えにくい。
人為的な物である事は明白だった。
誰がこんなことを?
その犯人は公園の入り口に立っていた。
大きな鎌を持った男が得意気な顔をして得物を構えていた。
「
湖光の夢を奏でる曲戦斧−−激流掌!」
そんな表情でいたのも束の間、横から走りながら現れた小柄な少年に飛び蹴りされて大鎌の男は「ふにゃっ!?」と何やら奇妙な声を上げて前に転がった。
「このバカバカバカバカ!!もひとつオマケにアンポンタン!!」
小柄な少年は涙目で何度も大鎌に蹴りを食らわせる
「イテテテテ!何すんだよゾロア!君が
戦士を全員今すぐ倒せって命令したんじゃないか!」
「言ってない!一言も言ってない!むしろ隠れて様子を伺おうって話してたところだよ!このバカ!」
遂に登場した四人目の
戦士に先ほどまで死戦を交えていた四人の
戦士達はどうリアクションしたらよいものか途方に暮れていた。
__________________________
「……この男がオーレライの開祖、ゼロ・オーレライ・ヴィ・シンボラーだと?にわかには信じられんな」
時雨デスカーンことアーマーの
戦士はオーレライ
復活教会の礼拝堂の椅子に腰掛けながら不機嫌そうにしている。
無理もない。目の前には倒すべき敵がいるのにも関わらず手を出すなと言われているのだから
実際問題
生存競争では自分以外の全ての
戦士を打ち倒して9匹の属性能力と共にその生命を
願望器に捧げることによって願いを叶える事が可能となるのだから
先ずは目の前にいる「メイガス」を倒さないことには話が進まない
だと言うのに
盟友たるチェスター・オーレライ・ブルンゲルはアーマーにメイガスを倒すなと言ったのだ
アーマーの目的はブルンゲルの願いを叶えること。
そして幼年にも関わらず戦場に駆り出されるヒトモシを憎き時雨キリキザンや時雨ウルガモスの手から奪還し保護することだ。
後者は別に
生存競争を勝ち抜く必要性は無いが前者は違う。願いを叶えるために殺戮を繰り広げなければならないのだから
「まあ信じられないのも分かるが事実だ。彼はゼロ卿……今から1000年前に我等オーレライの門を開き導いた偉大なる者だ。恐らくオーレライに伝わる神具、「
死者無限復活読本」の力によって現代に甦ったのであろうな……」
ブルンゲルが祭壇でゆっくりと告げた
「その「
死者無限復活読本」ってのは一体全体なんなんだ?神具であることは分かったが……死んだものを甦えらせるってことか?」
「そう。死んだ者の魂を無限とも言える霊力で違法召喚してその場にある有機物で魂の器を形成する……ただし自我までは再現出来ない筈なんだが……」
成る程。つまり自分が切り裂いたあのゾンビはある意味本当の意味でのゾンビだったのか
ブルンゲルの言う通り自我は見受けられず、ただ召喚者の意向によって命令通りに外敵を襲う使い魔のような者であると言うことか。
となるとこの男−−ゼロ卿はどのようにして復活したと言うのだろうか。見たところあのゾンビのように不完全な見た目をしている訳でも無く、自我を失っている様子も無い。
寧ろ自分を召喚した道具を使いこなしている程に知能も完全に再現されている。
「なぜ貴様はあのゾンビ共のように自我を失っていないんだ?」
アーマーは問う
その問いに対し
メイガスの
戦士はその円らな瞳をブルンゲルに向け−−
次にアーマーに向けて口を開いた
「大体の事情は掴めました。わたくしは確かにあの教典−−「
死者無限復活読本」によりこの世に仮初めの生を受けました。普通ならば死者の魂に器のみ用意して使い魔として甦えらせる−−それが彼の教典の能力です。しかし今回は我が友人−−ココロモリが教典を開きながら序章−−「執筆者復活の文言」を唱えて下さったお陰で復活することが叶ったのです。」
メイガスは坦々と事実を述べる。
1000年前のポケモンが現代に復活した理由は分かった。
しかし、何故全て生前と同じ状態で復活するに至ったのか分からない。
「なあ……ゼロ卿さん。あんたはその「執筆者復活の文言」によって自分の自我とか能力まで再現出来るようにしていたのか?」
「いいえ。私ほどの大魔導師でも流石に本当の復活までには至らなかった。言われてみればわたくしは何故自我を持っているのでしょう?」
メイガスは不思議そうに首を傾げる。
その横でブルンゲルが何か望遠鏡のようなモノを持ってメイガスを見ている。
「なにやってんだ?」
アーマーからの問いかけにブルンゲルは
「………もしかしたら
願望器の影響かもしれん」
望遠鏡を覗きながら言った
「ゼロ卿の体をとてつもない程の霊力が巡っている。いや、寧ろ彼の体は98%が霊力で構成されていると言っても良いな」
「つまり?」
「恐らく「
死者無限復活読本」による復活と同時に
願望器に「メイガス」の
戦士として認められて神の12分の1の霊力を授かり「執筆者復活の文言」に足りなかった部位を埋めてしまったのだろう。最早只の使い魔ではない……ただ体の内側が殆ど霊力だから「対霊力」スキル持ちには叶わないだろうな」
アーマーはブルンゲルの説明に頷く。
成る程「メイガス」とは魔術師の事を指すが加えて「司祭」の事も指している言葉だ。
ならばゼロ卿がそのクラスに復活と同時に選抜されるのは当然の結果だったと言うことか。
メイガスに聞こえないようにアーマーはブルンゲルに質問する
「で……
戦士としてはどの程度なんだ?」
「
支援員の力で見てみたが………霊力と神具が飛び抜けている以外はそこまで特筆すべき所は………」
「なるほど。そんなに強くないなら今討ち取っても勝てるってことだな?」
いきり立つアーマーに対してブルンゲルは
「パラメーターだけ見るならお前も人の事は言えんがな……まぁまて。僕に考えがあるのさ」
「なに?」
ウィンクしながら言うブルンゲル
「ゼロ卿殿には
生存競争の事は教えない。寧ろ協力してもらおう。仕方あるまい?元々君にあげるつもりだった「
死者無限復活読本」は彼が神具として使用しちゃってるんだから−−その埋め合わせだと思えば良い。」
話を聞く限りゼロ卿は
生存競争の事を知らない−−それは確かなことだが………。
「簡単な話さ、メイガスとアーマーの
戦士は協定を結ぶと言うことだよ。見返り無しでね。」
ブルンゲルは自らの先祖を
生存競争の手駒に使うと
そう言った。
「ブルンゲル……そこまでして叶えたい願いってのは何なんだ……」
アーマーは静かに問う
ブルンゲルは少し俯き
友人からの質問に答えるために口を開く。
「………神話の世界」
「なに?」
「神話の再現を夢見ているのさ、僕−−いや、我々は。君には詳しくは話して居なかったよねオーレライ
復活教会が具体的に何を目的としている団体なのかを。」
−−オーレライ
復活教会の有る理由−−
現オーレライ
復活教会教祖
チェスター・オーレライ・ブルンゲルはその目的を語る。
「昔の話さ、1000年以上も。まさに神代の世界、その時代には神となるに相応しい強大な能力を持ったポケモン達が生息していたと伝えられている。その者達を使役して世界のバランスを思うがままに操作出来るとしたらそれは神域のポケモン−−「アルセウス」位であろうよ」
「アルセウス……」
知っている。自分達、「時雨」の先祖や「剣」「ダークレスウェル」が450年前に邂逅したと言う伝説を越えた「創造神」
そもそもこの「
生存競争」さえも彼の神の力による物が殆どを占めている。
言うなれば
生存競争をイコールでアルセウスと結びつけられる程に。
「しかし−−たかが普通のポケモンである我々が創造者に並ぼう等と烏滸がましいとは思わないか?いや、寧ろ並び立てば必ず天罰が降るであろうよ。」
−−だからこそ−−
ブルンゲルは続ける。
「だからこそ我等オーレライは神の御座に座ること無く神域に踏み込む「神具」を長年に渡り研究して開発に望んできたのさ。神を従えるためにね」
そこでアーマーは合点がいった。
「なるほどな。やっと分かったよ、幾ら親友でも「殺し合いに付き合え」って言われて何の得も無いのに付き合いますって言うようなお人好しは居ないもんな」
「やだなあ。僕はもしも得が無くても君に頼まれたなら何でもしてあげるつもりだよ?」
「うそをつけ。裏の顔を持つ奴等とは付き合いがあるからな−−ブルンゲル、親友としての面と教祖としての面。二面性を持ったお前を俺は信用しても良いのかな?」
嘯くブルンゲルにアーマーは厳しい眼差しを向ける。
「待ちなよ。話には続きがあるのさ。
我々オーレライの一族は「原点」たるゼロ卿の造り上げた呪本「
死者無限復活読本」を基に神を従える「神具」を何代にも渡り作製してきた。しかし結果は未だに出せていない」
ブルンゲルは口元を歪ませて言う
「だがね?素晴らしい奇跡がここに巻き起こったんだよ!デスカーン!我等の始祖たるゼロ卿が何の因果か現世に復活を遂げた!!これを利用しないでどうする?」
語っている内に悦に入ってしまったのかニヤニヤと顔をおぞましく歪ませる盟友にアーマーは初めて「嫌悪感」を抱いた。
「で……つまり研究を大幅に進めて目的に近づきたいが為に俺にあの邪本を渡して神具にしようとしていたわけか」
吐き捨てるように言うアーマーに対してブルンゲルは仮面のような笑みで告げる。
「否定はしないさ。しかし君に危害が加わる物で無いことは分かっていたし君みたいに霊力の低いポケモンでも扱える君に相応しい武器だと思ったって言うのもある。アレは持ち主の霊力を頼りにせず自らを
霊界とコネクトして霊力を無限大に内蔵することを可能としているからね」
末恐ろしい話だ。
現代でも「
霊界」にアクセス出来るポケモン等存在していないと言うのに1000年前にあのゼロ卿なる男はそのシステムを完成させていたと言うのか。
霊界−−
ポケモン達が持つ生命エネルギーの源たる霊力が涌き出る大元の視認出来ない世界。
ポケモン達は生きている限り
霊界に立ち入る事は出来ないがこの「世界」に存在している以上は自然に
霊界から霊力を供給されている。
霊力が無くなったポケモンは−−死ぬ−−なんて事は無くて精々体調が悪くなる程度である。
が、事戦争においては大問題だ。
自ら特殊能力や技法を使おうとすると霊力無しには不可能である。
霊力を失うと言うのは戦う力を失うと同義である。
関係無いが騎士領と言うスタンスである時雨の騎士達は霊力を無限大に貯蓄している
霊界への到達も
願望器に託す願いに含まれているのだ。
戦争システムの永久的な保存による騎士と言う役割の保護
騎士領の掲げる大いなる最終目標地点。
しかし現在の騎士領は困窮しておりウルガモスの目的続行と言う方針よりも目先の領存続問題の方が大事であると言う事が多くの騎士達の意見でありそれをトップで唱えた男「斬滅のキリキザン」
時雨キリキザンがウルガモスの独裁政治を打ち砕き実質的な騎士領のトップとなっている。
その意見事態にはデスカーンは賛成だ。
キリキザンに感心していると言っても良い。
しかし
そこからが良くなかった。
生存競争にかける願望を「騎士領の窮地を救う」にして
時雨騎士領のウルガモス直属のエリート集団である「十二騎士皇」を全員
生存競争に参加させて本気で勝ちを取りに行くつもりなのだと言う。
デスカーン自体は少し席を外していたのでその情報を知ったのは十二騎士皇でありながら遅かったのだが、その十二席の内の空席である「物組」に先代十二騎士皇の時雨シャンデラの息子である時雨ヒトモシを加えると言うのだ。
実戦経験もない只の幼子を戦場に放り投げると言う無謀さ浅はかさ愚かさにデスカーンは激しく憤っている。
それを提案したウルガモス、遂行したキリキザン。
愚か者達の手からヒトモシを救いだすのがデスカーンの目的だ。
昔のように−−アーケオス翁やアバゴーラ、そしてデスカーン達と一緒に仄かに香る春風の中、庭に出て日の光を浴びながら笑顔で駆け回る元気なヒトモシの姿を見るためならば
例えこの身が炎に包まれようとも、
進み続けるしかない。
そのために友を尋ね
戦士となり
生存競争に参加するのだから。
「俺には目的がある。そのためならその邪本でも何でも使ってやるさ。」
正に悪鬼のような相貌で睨むアーマーの
戦士に対して
ブルンゲルはのったりとした口調で言う
「その覚悟は最初に確認してるから分かってるさ。しかし御覧の通り君の言う邪本はその本を書き上げた本人の手に帰ったってわけだ。つまり君に貸してあげる予定だった神具はもう僕の手元には無いんだよ。さて?でもアーマー、君は鎧の騎士だからね−−我々が羨んで仕方ない創造者が君に分け与えた力があるはずだよ」
「……アーマークラスの特別スキルか」
「そう、通称「絶対防御スキル」だね」
絶対防御スキル
アーマークラスに与えられるクラス別スキルである
それはセキュラーの「存在隠匿」とも、
スキャナーの「召喚従属」とも違う。
端的に言うならば
「どんな攻撃をも無効化する完全なる防壁」
である
物理非物理に問わずあらゆる害からその身を守り抜く技を強制的に授けられる。
必然的にパラメーターで見える耐久値はA以上−−最高ランクとなるのである。
「
災厄を打ち砕く銀の純率−−それが俺の武器だ。お前が俺を利用するのは構わないがなブルンゲル。約束を反故にしたら赦さん」
凄みをきかせていい放ったアーマー
「勿論。君には僕の願いを聞いてもらうんだから君の願いを叶えるために僕は本気で勝ちを狙うよ?心配はいらないさ。僕たちの間に不正はあり得ないでしょう?むしろね」
「メイガスの扱いか」
「ああ」
そうなのだ。
アーマーであるデスカーンにとってはさしたる驚異ではないが、ゼロ卿と言うポケモンが恐ろしい。
出来れば敵に回すのは好ましくない。
「さっき言ったんだけどもメイガスは本来とは違う方法で属性付与されている可能性が高い。まず
願望器に願いを叶えさせる事が難しいだろう。何てったって神を目指したゼロ卿本人が今は神の力たる霊力の化身なんだからね、まずポケモンと認識されるのかどうか。」
「そこのところはもうお前に任せるよ。上手くやってくれ」
うんざりとした表情のアーマー
「まっそう言う事なら僕がやっておくから君は霊薬の調合でもしていたらどうかな?君にとっては生命線でしょう」
無言で頷くとアーマーは礼拝堂の隣にある調合室に入って見えなくなった。
「やれやれ……ええとゼロ・オーレライ・ヴィ・シンボラー様!」
ブルンゲルは自分達が話している間、礼拝堂の入り口近くの椅子に座って懐かしき教会を眺め回していたメイガスの
戦士に声をかける。
「なんですかね我が末裔……チェスターよ。このわたくしが造り上げた教会が美しく手入れまで施されている様子を見られるとは感激していますよ。」
話しかけられたメイガスは司祭段にいるブルンゲルに向けて円い瞳を向けて語り返す。
するといきなりブルンゲルは膝まずいて頭をたれた。
「どうかお願いしたいことがございます!」
声を張り上げて何事かを懇願する子孫に首を傾げて先を促す。
「どうか−−どうか我等の悲願たる「神の座」を手中に納める為にお力添えをここに願う所存でございます!我々子孫の面々は1000年間もの間に御身の御作りになられた神教を営みつつ悲願に到達する方法を模索して参りました。しかしどの者でも御身の築き上げた天賦の壁を乗り越えることが叶わず−−結果として未だに悲願への一歩も踏み出せていない体たらくでございます!」
一気に言い切るブルンゲルを見てメイガスはと言うと
「………なんと……私を現世に呼び戻したのは貴方を……我が末裔達を私の残した呪縛から解放するための神からの試練だったのかもしれません……」
目を潤ませていた。
「私の残した呪縛は私自身で絶ちきらねば貴殿方に償う事も出来ません!よろしい!!ならば私自ら!!神域を!現世にて侵して見せましょう!!」
「おお!お力添え感謝してもしきれません!ゼロ卿!偉大なる魔術師よ!では早速……悲願達成の為には迫り来る災厄たる怨霊を8匹程浄化しなくてはなりませんがゆえに……」
意気揚々とするブルンゲルと常時テンションの高いシンボラーは確かに血縁関係であることを伺わせていた。
「なあなあ……シンボラーさん?もう入っても良いかなー」
話の邪魔になると考えて教会の外に出てもらっていたピリヤ・ココロモリが煮えを切らして扉を開けて入ってきたがそれに気づく所が眼中にも入れずにブルンゲルは
生存競争の内容の中核を上手くぼかしてアーマーに協力するようメイガスの
戦士に伝えるのだった。
果たして
ここに最凶の魔術師たるメイガスの
戦士と
最強の防壁を誇るアーマーの
戦士の
結果的な同盟が掲げられたのであった。
__________________________
「スキャナーが現れました。」
水晶玉を覗いているのは闇同盟暗殺部隊長、そして隠密の
戦士であるセキュラーの
支援員であるサウザンド・サザンドラである。黒いマントに仮面と言った行々しい装いだが醸し出される雰囲気は冷静そのものだ。
「スキャナーだと?」
サザンドラの発言に対して声をあげたのは闇同盟のリーダー、シューターの
戦士であるダークレスウェル・ゾロアークだ。
サザンドラとは対照的にその高貴な身なりに妖艶な笑みを浮かべている様はかなりの色香を醸し出していた。
「どういう事だ……まさかこんなにも早くに一つの場所に四人もの
戦士が集結したと言うのか……馬鹿な!どいつもこいつも何を考えている!?」
シューターは先の展開が読めない事に苛立ちを覚えていた
セキュラーの目を通して戦局を把握するのが当面のシューターのスタンスであった。
しかし−−
序盤の内に四人もの
戦士の能力が判明してしまった。
これはシューターが当初から狙っていた展開に近く寧ろ喜ぶべき事なのであるが……………
「間抜けしか居ないのか!?今回の
生存競争にはッッ!?」
対抗策の一つや二つ位は練ってくるものと覚悟をしていたにも関わらず今までに現れた
戦士四人の能力は粗方分かってしまったのだ。
面倒くさい性格の主を片目で見ながらサザンドラはシューターの側近たる歴戦の猛者ステラロック・ギガイアスに話しかける。
「ギガイアス将軍……この流れをどう見ますか?」
「フム………個人的に多祥なりとも分析してみた見解を述べさせて貰えるならば……」
ギガイアスはセキュラーの目を通して水晶を見ているサザンドラにゆっくりと話す。
「フェンサーの
戦士だが−−能力自体はそこまで特筆する物は無い。が、中々柔軟な思考の持ち主のようだな。見たところまだ若いが−−剣の一族と言っていたな。ならばあの剣裁きはスキルによるものだろうな。概ね底上げ系統のスキルであろうよ」
ギガイアスの読みはほぼ正しい。
フェンサーとなったミジュマルの保有スキルには「剣聖」と言うものがある。
「剣聖」
恐るべきスキルである。
凡そ剣技においてであるならば全てのパラメーターを引き上げる事が可能である。
剣ドリュウズに育てられた剣ミジュマルの「剣聖」スキルはAランク。
つまり剣技のパラメーターをAまで上昇させる事が出来るのだ。
他の
戦士と比べると力も大きさも劣るミジュマルが対等に渡り合えるのはこのスキルの恩恵が大きい。
「なに、近づかなければシューターのような遠距離攻撃が得意な
戦士には何も出来ない。ある意味対抗策が完成している
戦士だ。」
「我が主にとっては恐るるに足らん相手だと」
「ああ。フェンサーの例にはポーカーも当てはまる。しかしドレイクに関しては……事前情報をセキュラーから貰っていたにも関わらず驚異的な能力に度肝を抜かれたわ。流石に主でも相性の問題で戦闘は避けた方が良いだろうな」
依然としてドレイクの能力「
改竄すべき騎士の結末」の驚異は健在だ。
触れた物の所有権と物のルーツを改竄して自らの騎乗武器に改造する能力。
シューターにとっての最大級の驚異。
「ドレイクには近づか無いのが無難ですか。私も同意見ですがね。あの男は確かにゾロアーク様とは分かり会えない人格の持ち主ですからね」
そこでサザンドラはぎょっとするような事を言ったのだった
「……まるでドレイクを前から知っていたような口振りだが……面識があるのか?サザンドラ」
ギガイアスが相手を伺う
「………昔の話です。私とアイツは敵同士、その関係は永遠に覆されることは無いので御安心を。」
あくまでも内容については語らないサザンドラ。
ギガイアスはため息をついて話題を戻す。
「まあいい。そして真打ちのスキャナーだが……よもやあの大鎌から水を噴出するだけが能力だと言うならば気にするまでもないが……」
「と言うかこのスキャナーの
支援員らしき少年は……まさか……」
サザンドラが水晶の中でスキャナーの
戦士に飛び蹴りを加えた少年を見て頬をかく。
「坊っちゃん!?」
ギガイアスが珍しく大声をあげる。
無理もない。その者は一ヶ月以上アルガスタ邸を留守にして所在が掴めなくなっていたのだから。
レイト・ゾロア−−闇同盟に所属していたのは周知の事実だったが
「……ゾロアーク様………」
眉間にシワを寄せて苛ついたように額を押さえるシューター。
「あのバカ………!!勝手に出ていったと思ったら………!!
生存競争に首を突っ込んでいるだと!?」
今にも噴火しそうな勢いのシューター
そう、レイト・ゾロア。
彼は闇同盟リーダー、ダークレスウェル・ゾロアークの実の弟なのだから。
「連れ戻してやるッッ!!この愚か者めがッッ!!」
「ちょ……!!我が君!落ち着いてください!!今ここで貴方が出ていっては全てが水の泡に………!!」
「黙れ黙れ!!あの不忠者に鉄槌を下してくれようぞ!」
そう言うとシューターの
戦士であるダークレスウェル・ゾロアークは突如何もない空間から現れた渦巻く闇の中に吸い込まれるようにして消えてしまった。
「ああああ……!!御仕舞いだッッ!!なんと言うことだ!あの方は自らがダークレスウェル家の悲願を達成する使命をも失念してしまったと言うのか!?」
「………………」
哀れにも泣き叫ぶ勢いで地団駄を踏む歴戦の猛者の面影も残さないステラロック・ギガイアスの様相にサザンドラは同情を禁じ得ずにはいられなかった。
__________________________
レイト・ゾロアがポコポコとスキャナーの頭を叩いていたその時
「私はとてもとても思いやりがあり、他人の感情の振れ幅に関してはかなり過敏な方だと自負しているがね−−」
突如として公園に響き渡る声
そして
公園に隣接する五階建てのマンションの屋上に一つの影が陽炎のように揺らめいて沸き上がった。
「貴様の愚かさだけは理解に苦しむぞ!?ゾロアよッッ!!」
陽炎は長身の男の影を映し出してポケモンの姿をとった。
その男はゾロアのいる方向を睨み付けていた。
「新手の
戦士か!」
「えっ!?」
ゾロアはいきなり名前を呼ばれて驚いたのか目を丸くして声の方向を向くが
「なんで……なんで!ここに兄貴がッッ!?」
動揺を隠せずに震えた声で言う。
「貴様がッ!勝手に出ていき面倒を起こしているのを見かけたからだ!屋敷に戻れ!ゾロア。」
高圧的な態度と声音でゾロアを諭す男。
しかし
「イヤだッッ!!」
ゾロアは男の申し出を切って捨てた
「ッッ!!?よもや貴様………私に逆らおうと言うのか?」
「そうだッッ!僕には僕の生き方があるッッ!もうお前に−−ダークレスウェルの家に決められたレールの上を歩くのは御免だッッ!!」
震えながらも拒絶を訴える少年。
それは
戦士を相手に丸腰でとった行動としてはその勇気は称賛に値しただろう。
しかし
「……ほう……。少しは言うようになったではないか……そうか………」
男は俯き肩を震わせていた。
笑っている?
否
「ならばッッ!!貴様のくだらない家出心をこの場で無惨に串刺しにしてくれようか!!」
怒りに満ちた男は手を掲げるとその手には漆黒の弓鶴が握られていた。
しかしその弓鶴は少々普通のソレとは趣を異にしていた。
鍵盤がついていた。
弓鶴の糸のあるべき部分にはピアノと呼ばれる楽器の鍵盤がついており一見武器には見えなかった。
だから
対応に遅れた
「
宝弓葬送・終末の黒弓−−−先ずは8本!!貴様の言う生き方をッッ!この私に魅せてみろッッ!!」
男が鍵盤を叩くと叩いた場所から輝く光が飛び出し弓の形をとった。漆黒の弓。
合計八本が男の頭上に現れた。
そして
「確認だ。戻る気は無いか」
「無いッッ!!」
男は憎悪に目を血走らせる
「なら死ね」
言うと共に8本の黒弓がゾロア目掛けて光の速さで飛来する。
その速度はかつてスキャナー達を襲った時雨騎士領の騎士皇の一人。「神速のアギルダー」時雨アギルダーの技。「手裏剣八咆哮」を有に越えていた。
「うわあぁぁぁッッ!!」
たまらず自分に向けられた凶器に恐怖を覚えてうずくまるゾロアだが
「
湖光の夢を奏でる曲戦斧!!」
「地封印解除・破却!!」
一本としてゾロアに触れた弓矢は無かった。
「え……」
見れば
ゾロアを男から守るように間に割って入る者が二人。
「御話し中申し訳ないんだけれどもね。おいてけぼりは悲しいからさ」
「混ゼテ貰イタイノダガ?」
スキャナーの
戦士−−ロット・デュラック・ランクルス
その従者−−ブリストル・ゴルーグ
がそれぞれ大鎌と拳を構えて男と向き合っていた。
「邪魔立てするか−−スキャナー。」
「まあ待ちたまえよ。ゾロアークよ。いきなり現れて最初から怒りっぱなしなど忙しなくて仕様がないではないか?」
そこに割り込む男。ドレイクの
戦士だった。
「いやはや−−今日の我は運が悪いな。狙った獲物以外の獣が何匹も飛び出してくるとは……ゾロアーク。貴様がセキュラーを捨て駒にしたのを知っているから言わせてもらうがもう少し臆病者の君なら穴蔵を決め込むかと思っていたのだがね?」
「キリキザンッ!!そういえば貴様もこの私の悲願を邪魔立てする愚者だったな!!今ここで死ぬか?」
「おーい。相手は僕だよー!おーい!」
必死になって大鎌を頭上でブンブンと振るスキャナー
「何を言う。貴様の方こそ我等騎士に仇なす存在。平和等と言う綺麗事を長年に渡り盲信し続けた愚者に過ぎぬ若輩者がどの口で悲願などと口にする?」
ドレイクが冷たくいい放つ
すると
「キリキザァァァァンンンン!!!貴様はここで死ね!永遠に自らの信じた道が間違いだったと後悔しながらなァァァァ!!!」
男−−ゾロアークは我を忘れて咆哮した。
して弾かれた鍵盤から現れる16の黒弓。
「時雨の騎士にダークレスウェルの怒りを思い知らせろッ!!」
「無視するなーーーッッッッ!」
重なるスキャナーの叫びとゾロアークの怒声
最早疑うまでもない。
あのような攻撃方法や能力から見ても
ゾロアークと呼ばれた男が
戦士であることは一目瞭然である。
あのように多少乱暴であるが言葉を喋っていると言うことは狂乱した「ベルセルク」ではあり得ない。
そして騎士クラスを三人も前にして現れた事から三大魔術クラスの「メイガス」でも「アルケー」でも無いだろう。
「セキュラー」は死んだ。
かといって「アーマー」にしては装備が軽装過ぎる。
従って消去法的にも「シューター」が該当するだろう。
ゾロアーク改めシューターの
戦士は
怒声と共に計16本の黒弓をドレイクとスキャナーめがけて発射した。
「
改竄すべき騎士の結末」
「
湖光の夢を奏でる曲戦斧!」
スキャナーとドレイクは同時に飛び出した。
ゴルーグはゾロアを庇うように正面に立った。
「グッッ!!貴様等ァァァァ!!」
ドレイクは黒弓を素手で掴みとり
掴んだ黒弓をシューターに向けて打ち返す。
ドレイクの触れた黒弓は先端が高速回転し、後方からは火が吹き出しているドリルロケットへと変貌していた。
スキャナーは大鎌で迫り来る黒弓を直接叩き割り−−又は衝撃波で粉砕して叩き落とした。
飛んでくるドリルロケットをシューターは真っ向から受けた。
「やったか!?」
思わず叫ぶナゲキだったが
「いや!まだだ!」
ダゲキがそれを否定する。
「ドリルロケットが当たる直前にシューターの腹の辺りに黒い歪みが出来てロケットを飲み込んでいた!」
フェンサーとダゲキには見えていた。
「そうか………貴様は「宝物殿」を継承したのか。」
ドレイクは無感情に言う。
「宝物殿?」
訝しげに言うフェンサーに答えた訳でも無かろうがシューターが言う。
「ダークレスウェル宝物殿。ダークレスウェルを継ぐ当主のみが所有することを許された「霊力貯蔵庫」だ。」
「霊力貯蔵庫…………まさか!」
「なるほどな……つまりそこから霊力を転送して弓を精製したりロケットを収納したってことか」
フェンサーとポーカーが理解した。
この男の持つ宝物殿はとてつもなく厄介な代物であることも同時に。
「この貯蔵庫には約400年分の霊力が貯蔵されている。枯渇することなどあり得ない。貴様等のような雑魚など一瞬の内に剣山に変わり果てるが……どうする」
得意気に言い放つシューターだがそれに異を唱える者が。
「ほほう?しかしだゾロアークよ。そう言う台詞は誰か一人でも串刺しにしてから言う台詞では無いのか?」
ゆったりとしたような早口でドレイクはシューターに向かって歩み寄っていく。
冷徹な雰囲気を纏わせながら
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−−−ゾロアーク様が戦場に現れましたが!?一体何があったんです!!?−−−
部屋にセキュラーの声が響く。
「…………」
無言で俯いてしまっているギガイアスをチラリと見てサザンドラは大きなため息を溢す。
「どうしますか?」
「…………どうしようもない………あれほど戦場で技をさらけ出す
戦士を馬鹿にしていたお方がまさか同じことを仕出かすとは………」
ぶつぶつと呟くギガイアス。
確かに。
ゾロアークの機嫌を治す等と言うのはもう不可能に近い。
−−監視を続けてて良いんですか?−−
「構わない。続けてくれ」
問い掛けるセキュラーの焦った声に反応を返すことしか彼には出来ないのが現状であった。
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「…………ここか」
長槍を一本肩にしょった男はそう言った。
男の目の前には立派な建物がある。
それは教会だった。
今は休業中なのか扉は固く閉ざされている。
「それでいい」
男は呟くと扉に向かって長槍を突き刺した。
いや実際には突き刺せてはいなかった。
槍は扉に傷ひとつつけることも叶わなかったのだ。
「何らかの術式か。ならば遠慮はいらないな」
遠慮とはなんなのか
そして男は呼んだのだ
正しく荒れ狂う獣の名を
「来いベルセルク。ぶちこわせ」
「Garrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!!!」
けたたましい咆哮を撒き散らしながら現れたベルセルクの
戦士その深緑色の鎧に全身を包んだベルセルクは
教会−−−オーレライ教会の扉とは名ばかりの霊力によって鉄格子にまで強度を底上げされた木を唯一撃牙剣を振り回しただけで跡形も無く吹き飛ばして粉砕した。
しかし
「簡単には通してくれないって訳かい。まっ当然っちゃあ当然だよなあ」
苦笑しながら男が見る先にはスプラッター映画でよく見るゾンビの群れが地面から涌き出るように現れていた。
「なあベルセルク。あれ、何とかしてくれよ」
「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」
ベルセルクは兜の隙間から覗く赤い眼光を残しながら
猛スピードでゾンビの群れに掴みかかっていった。