第四話 闘争は苛烈
「始まったか」
剣ドリュウズが呟く。
フェンサーの
支援員たるドリュウズとその従者フォン・ツタージャはフェンサーとポーカーの戦いをその現場てある公園から数キロ離れた建物の屋上から見つめていた。
「しかし−−相手が二槍使いとは……中々有利に事が運びそうですね」
ツタージャのその言葉にフェンスに腰掛けて戦局を眺めていたドリュウズは向き直る。
「……いや……寧ろ不味いかもしれん。二槍ってのは中々[剣]で立ち向かうには面倒な代物なのさ−−その証拠にホラ」
ツタージャが双眼鏡で公園の様子を除き見ると
戦局は膠着していた。
けしてフェンサーが遅れをとっている訳ではないが槍と剣ではリーチが違いすぎてフェンサーが攻めきれていない。
フェンサーが剣で槍を裁いて踏み込もうとするともう一本の槍がフェンサーを横凪ぎに切り裂こうとする。
それを弾くともう一本が−−
「………ドリュウズ……貴方から見てポーカーの槍裁きはどの程度のものですか……?」
ツタージャは不安そうな表情で問う。
「達人以上だな、少なくとも武芸の実践経験はフェンサーよりも上だ。しかし妙だな」
ドリュウズが公園の方を睨みながら言う。
「……妙……ですか?」
「ああ……二槍を使う奴なんてのはまず居ない。何故か分かるか?」
「…………」
ドリュウズは続ける
「二槍を使うよりも一本の槍を使った方が一本の剣に対しては相手取り安いからだ。殊更打ち合うだけならば一本の方が良い。実際そこに勝機があるな−−見てみろ」
再びツタージャが覗くと
今度はフェンサーが押している……ように見える。
「つまり……だ、防御に一本、攻撃に一本なんてのよりも攻守に一本で対処出来る武器なのさ槍ってのは。二槍を使うのは色々な意味で効率が悪い、そして此方の失策が一つ」
「失策?」
ツタージャの問いにドリュウズは溜め息を溢した。
「あぁ……ポーカーの後ろに立っている男……恐らく
支援員だろうが……これでは実質的に二体一だ。不味ったな……」
「……ここから狙撃しましょうか?」
ツタージャが提案するが
「いや、止めておけ。どこで誰が見ているか分からないだろう?」
「誰が見ていると……」
ツタージャが不審そうな表情をする
対してドリュウズは再び溜め息をついた
「なぁ……ツタージャ、死人がもしも未練を残して
願望器にすがり付いていたら気持ちの良いものでは無いよな」
いきなりドリュウズが訳の分からない事を言い出し首を傾げたツタージャだがドリュウズが顎で示した方を見ると驚愕を禁じ得なかった。
「……セキュラー………!?死んだ筈じゃ………」
ドリュウズ達が陣取っている建物から戦いの場である公園を挟んだ向こう側、そこにソレは居た。
黒いマントを棚引かせたその姿は見間違える事は無い。
まさしくセキュラーの
戦士の物だった。
「………声がでかいぞ……ったくどうしてこう面倒事ばかり起きるかね………」
憂鬱そうに本日何回目かも分からない溜め息をドリュウズは溢して呟いた。
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「どうした?そんなものかフェンサーよ」
ポーカーの扱う二つの槍を突破出来ずにフェンサーは防御で手一杯になっていた
−−不味い
しかし
ドリュウズの指摘通りにあと一歩攻めきれていないフェンサーだがポーカーの動きに慣れてきたからか段々と相手の動きのパターンが読めてきた
ポーカーが槍で此方の剣を一本の槍で裁き−−
もう一本の槍で此方を攻める。
−−そこだ!!−−
フェンサーは槍を防御するのではなく後方に……ポーカーから距離を取るように超スピードのバックステップで槍をかわした。
「……なっ!?」
思わず前に突きの姿勢で止まってしまい驚愕の声をあげるポーカー。
そこにフェンサーは再び高速で接近して上段から斬りかかる。
「ハァァァァッッッ!!」
「………!」
しかし、フェンサーの一撃はポーカーには届かなかった。
一瞬の間に突きの姿勢からポーカーは地面に転がりフェンサーの剣を槍の切っ先で受け流したのだった。
「……見直したぞ……フェンサー。まさか猪突猛進とはな……最近の若者には見られない芸当だ。」
ポーカーが立ち上がり槍を構えながら称賛の念を伝える。
対して突進の勢いを水の力で殺したフェンサーはポーカーに向き直り剣を構え直す。
「まさか………あの一撃をかわされるとは思わなかったよ………」
フェンサーは心の内で歯軋りした。
ここで決められなかったのは好ましい状況じゃない。
寧ろポーカーが自分の本気の速度に付いてこれる程の実力者だと分かってしまった。
「で………?何時になったらその剣の本当の姿を見せてくれるのか……フェンサーよ?」
ポーカーは真面目な表情でフェンサーを睨む
「その剣−−水の力を使っているのか−−間合いが見て取れんのでな……やりづらくて仕方が無い、長さがコロコロと変わりおるわ……」
睨みつつ苦笑交じりに軽口を挟むポーカー
−−ばれてたよね、そりゃあ
フェンサーの「
水流剣斬」は剣の部分の成分が水で出来ているので伸縮自在だ。だからこそシールドとしても使えるのだった。
しかし、欠点もある。水であるから温度の変化に弱いのだ。もしもそのような手合いが現れたら引くしかない。
仮にポーカーがそのような力を持っているとすれば……
それを知られるのは敗北と同義だ。
「………」
「応じず………か。」
ポーカーは落胆した様子も無く続けた。
「ならば……此方からお見せしよう我が神具を……」
ポーカーが二本の槍を持ち直して構える。
その時−−フェンサーの背筋を冷たい空気が襲った、
更に自分が槍に貫かれる一瞬後の出来事が脳裏に浮かぶ
、剣士として磨きあげられた予知にも等しい予感だった。
フェンサーは即座に防御では無く回避に全力を注いだ
そして−−刹那
「
福音聖槍!!」
ポーカーの二本の槍が襲い掛かった。
「……ッッッ!!」
一瞬だった。
そこには地面に突き立てられた一本の槍と
もう一本の輝く槍を手にした突きの姿勢のポーカーがフェンサーが居た場所と入れ替わる形で立っていた。
決定的な変化はフェンサーが地に倒れていた事だろう。
「……ぐうッッッ……」
しかし致命傷は免れていたようだ
頬に一筋赤い線が刻まれた以外は目立った外傷は見受けられない。
間一発で回避に成功したのだった。
フェンサーは頭の中を整理する
あの一瞬、
まずポーカーが右手に持っていた槍を此方に向けて高速で投擲してきた。
それをフェンサーは地面に転がって避けた……つもりだったがそれとほぼ同時にポーカーが左手の槍を突きの姿勢で持ったままフェンサーの間合いまで接近して貫こうとした。
なんとか水の力で槍の軌道をずらして串刺しは避けたが、槍は頬を掠めていった。
「……フム……これをかわすとは……フェンサーよ、貴様……もしや剣聖−−剣の者か……」
余りにも的確すぎる程に卓越した剣技を見てフェンサーの真名に心当たりがあったのだろう。
「……その通りだよ。そう言うポーカー……君は紫鋭の名を持つ者だよね」
「如何にも。この身は紫鋭、槍を極める為に存在する流派よ。まさか剣聖として名を轟かす剣流と手合わせ出来るなんて夢のようだ。」
−−紫鋭
それは武芸の世界において剣と双璧を成す槍術を生業とする流派。
「まさか紫鋭ダゲキその人との果たし合いが叶うなんて……此方も光栄の至りです」
「剣ミジュマル……君の剣術……しかと見た、見事だ世の剣士達にとってみれば輝く星のような存在なのだろうな」
「お互いの素性も知れた所で思う存分武を競えると言うものだね」
「ああ。望むところだ」
しかし清々しい気分でいる二人の間に割って入る者が居た。
「……フェンサーが剣の一族ならば最早猶予は無くなったな、ポーカーよ、本気で殺りに行くぞ」
後ろに立っている男が言う。
「……成る程ね……同じく紫鋭ナゲキって事か。」
「ああ……兄弟でこの
生存競争に参戦している。君のような強者と矛を交えて己が武を競うためにな。」
紫鋭ナゲキが言う。
「ポーカー、神具にてフェンサーを討つ。遠慮はいらない。」
「ウム……これで決めさせて貰おうか……行くぞ」
ポーカーは先程の投擲にて地面に突き刺さった槍を抜き再び二槍を構える。
フェンサーも対して剣を構える。
「「参る!!!」」
そしてポーカーは二槍でフェンサーに肉薄−−
しなかった。
「……え?」
フェンサーが場にそぐわないすっとんきょうな声をあげた。
しかし責められる事では無いだろう。
なにしろポーカーはフェンサーに向けて疾走しながら片方の槍を空中に向けて「放り投げた」のだから
投げられた槍は地面に落ちること無くもう一人−−
紫鋭ナゲキがダゲキと同じく疾走しながら掴み取り
突きの姿勢で突撃してきたのだった。
そして−−−
「「喰らえ−−
福音聖槍!!!」」
二本の槍が彗星の如くフェンサーの体に風穴を空けようと肉薄した。
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同時刻
公園の物陰から戦局を見守る影が三つ
「……おろろ………なんか凄い事になってるねぇ」
「…うん……フェンサーとポーカーには近づかなくて良かった………あんな奴等と真っ向勝負なんて死んでも御免だね」
のほほんとした声で呟くスキャナーに
ゾロアは緊張した声で返す
「死んだら戦わなくても良いんじゃないかなぁ」
「あぁもぅ!うるさいよ!ちょっとは真面目にやってくれよ!」
「静カニ……………決着ガ着キソウダ。」
騒ぐ二人を諌めてゴルーグが言うが
「もうっ!何なんだよ!さっきから真面目にやれやれって!僕は何時でも真面目だよ!そんなに他の
戦士ばっかり気にかけてさ!もう怒った!」
「ちょっ……スキャナー!悪かったって……おい!何処に行くつもりだよ!待てってば!」
慌てるゾロアに対し
「真面目にやれば良いんでしょ!だったら二人纏めて退治しちゃうから!」
「スキャナー!!落ち着け!今出てくのは不味いってば!!」
「スキャナー、頼ム!辛抱シテクレ!!」
二人はスキャナーを止めることが出来ずにズルズルと戦場に引き摺られて行った。
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ポーカーであるダゲキだけで無く
支援員と思われるナゲキまでもが攻撃してきたのだった。
本来、
支援員は
戦士を最大限サポートするのが役目だ。
支援員たるポケモンが倒されれば
戦士は全力を発揮することが出来なくなり
生存競争においては勝ち目が薄くなる。
よって戦闘は
戦士に任せるのが基本になる。
支援員に出来ることと言えば精々敵の
支援員を討ち取る位であり、神の力を手に入れた
戦士には基本的に勝つことは不可能に近い。
だのに
支援員であるナゲキは
戦士たるポーカーと共にフェンサーに挑みかかってきたのだ。
その想定外の行動にフェンサーは一瞬戸惑ったが即座に攻撃に移る。
「
水流剣斬!!」
水の力を自在に操れるフェンサーは足元に水を纏わせて空中に跳びそのまま一回転した。
「兄者!!」
「任せろ!!」
ナゲキに向かってフェンサーは攻撃を放つ
「
貝水放出!!」
圧縮された水の塊を剣先から打ち出す遠距離攻撃。
その速さと質量は弾丸を上回る。
「ウオォォォォォ!!」
しかしその水の弾丸をポーカーがナゲキの前に移動して守るように槍で二つに切り裂きそのままフェンサーに接近する
「「
福音聖槍!!」」
「
水流剣斬!!」
二本の槍と一本の剣がガチガチと火花を散らして−−
しかし二人分の力を込めている分フェンサーの剣をポーカーとナゲキの槍が蹂躙し始める
「グアァァァァツッッ!!」
フェンサーは堪らず膨大な霊力と力の波に押されて
身動きもとれなくて−−
とれなくて
しかしその状況を打開し、フェンサーを二槍から救い出す救世主が現れたのだ。
それは四発の弾丸だった。
ぱんぱんぱんぱんと
何処からか打ち出された弾丸は銀色の光を放ちながらポーカーを貫こうとする。
「チ………!」
「ッ!」
堪らずポーカーとナゲキは槍による攻撃を中断してフェンサーから距離を取った。
見ればポーカーの頬には一筋の赤い線が出来ていた。
奇しくもフェンサーと同じ部位を負傷したのだった。
間一髪だった。ツタージャが動いてくれなかったら終わっていた…………
姿は見えないが助けてくれた相棒に心中で感謝するフェンサー
「伏兵が居たとはな………中々粋のある事をしてくれるではないかフェンサー」
ニヤリと楽しそうに笑うポーカー
しかしそんな発言など意に介さずの態度でフェンサーは言う
「そちらこそ……二人して
戦士だったとは……面白い事をしてくれるね。ダゲキはポーカーだけど……ナゲキ、君は一体何のクラスなんだ?果たし合いの最中に来歴も明かさず襲い掛かるなんて不意討ちにも等しいぞ!!」
今の撃ち合いで理解した。
紫鋭ナゲキは
支援員ではない。
支援員などではない。
彼もまたフェンサーやポーカー、セキュラーと同じく
願望器に選ばれた
戦士だ。
寧ろ何故気付かなかったのか。
それはナゲキの放つ霊力量に原因があった。
彼の放つ霊力の密度が微弱なのだ。
普通の
戦士ならばアルセウスの力を分け与えられている以上霊力による霊圧を感じることだろう。
しかしナゲキのそれは一般のポケモンと対して変わらないのだ。
しかし改めて見てみると
支援員と思っていたナゲキだけでなくポーカーたるダゲキの霊力も一般的な量だ。
訳がわからない
どう言うことなんだ
フェンサーの困惑を見てポーカーは問いに対する答えを告げた。
「なに、簡単な話よ。我らは双子。同じ時に同じ場所で産まれ同じように生き、同じように修行した−−言わば魂の双子、ツインソウル。よって我らは二人にして一心同体、以心伝心。魂の根底から似通った我らに神とやらが遣わしたほんの戯れであろうよ。」
「つまるところ我らは二人にしてポーカーである。二人であるが故に双槍である。改めて名乗ろう、我が名は紫鋭ナゲキ、ポーカーのクラスに属する
戦士だ。」
フェンサーは思いきり殴られたかのような錯覚に襲われた。
おかしい
二人で一つのクラスに属するなんてあり得ない
こんなのはルール違反だ
それこそ神の力を使わなければ……実現不可能だ
そこでフェンサーは思い当たる
神の力−−−−神具−−
不可能を可能にする奇跡のチカラの一部。
「然り。これは我らの魂そのものが神の加護を付与された物−−
双生仁義−−我らの生き様そのものだ。」
成る程ならば認めたくはないが理解は出来る。
要するに彼等は二人で「ポーカー」なのだ。
それはわかった
しかし−−疑問は幾つか出てきた。
「……でも、その神具はメリットばかりでは無いみたいだね。」
フェンサーは気付いた。霊力量が少ないと言うことは霊力を消費するような長期戦に向かないと言うことだ。
「ああ、その通りだ。10の神力の内一つを更に分割しているからな、霊力量は通常の
戦士の半分しかない。しかしだ−−フェンサーよ、我らは武芸者であり魔術師でも無ければ錬金術師でもない。霊力量に何の意味がある?」
その通りだった。長期戦に向かないと言ってもそれは霊力を使用するクラスであればの話。
殊更ポーカーのような霊力燃費の良いクラスならばそのデメリットは皆無に等しい。
それでは−−本当に
戦士を二人同時に相手しているようなものではないか
何かしら欠点を探そうとしても無駄なのだろうか
「……まあ強いて挙げるならば二本の槍が神具になったことかもしれんな……元々私は二槍使いだったがナゲキが同じく
戦士になったことにより慣れない一本の槍で戦うことを強いられているのだ。ナゲキにとっても同じであろうよ」
無言で相槌を打つナゲキ−−否、ポーカーの
戦士。
つまり最初のダゲキの二本の槍による戦闘スタイルこそが彼の本領だったと言うことか
「さてどうする?如何にポーカーと言う一つのクラスと言えども二人同時に相手どるのは流石にフェンサーと言えども苦しいか?」
「いや……寧ろ討ち取り甲斐があって気が乗ってきたところだよ」
挑発するようなダゲキの発言にフェンサーは不敵な笑みで返す。
しかしフェンサーの心中では不安が渦巻いていた
ナゲキが
戦士で
支援員で無いとすると彼等兄弟の
支援員は何処にいる?
不意打ちを狙って隠れている可能性を考慮して居なければ少しの判断ミスが命取りだ
二人並んで構えをとるポーカー達に対してフェンサーは不安を悟らせないように気丈に刀を構えた。
「我らの
支援員が気になるか。しかしだ、それは此方も同じことよ、先程の銃撃−−貴様の陣営には腕利きの者が居るようだな。」
そうだ。ツタージャの存在がポーカー達に露見した時点で条件は五分五分だ。
今度こそ真の戦いが出来ようと言うものだ。
「剣流4代目当主−−剣ミジュマル−−押して参る」
「「紫鋭道場主ダゲキ(ナゲキ)此方から行こう」」
武芸者としての誇りを担った剣と槍がまず最初の激突を果たそうとしたその瞬間
突如として空気を震わせる轟音と共に
公園の上空から巨大な炎の雨が三人の騎士達目掛けて降り注いだ
__________________________
「申し訳ありません………」
「………………………………………………………………………………」
平謝りするツタージャを横目で見ながらドリュウズは
戦場である公園を見つめる。
ツタージャが咄嗟に
鋼鉄機弾を撃たなければ正直に言ってフェンサーは脱落していただろう。そこについては寧ろ誉められるべきであろうが事態はそんな簡単な状況ではなかったのだ。
−−確実に気付かれた−−
見ればセキュラーと思われる男は既に姿を消していた。
ここからが問題だ。
果たして我々の姿を認識したセキュラーが易々と引き下がるだろうか
此方に
戦士が居るならばいざ知らず、
今この場には
戦士に対抗出来るフェンサーは居ない。
寧ろ今の一件で我々がフェンサー陣営であることを明かしてしまったようなものだ
よってフェンサーの
支援員と思われる我々をセキュラーが狙いに来るのは必然だ
そこでドリュウズは提案する
「ツタージャ、二手に別れるぞ。セキュラーの眼を分断する。」
「………承知しました」
これはつまり
セキュラーに狙われた方に死ねと言っているのだ。
何れだけ彼等が剣術に長けていると言っても神の力を授かった
戦士に勝てる道理が有る筈が無いのだ。
だから
こんな話を建物の階段を下りながら話している時点で彼等は後手後手に回ってしまったのだろう
果たして
セキュラーはそこにいた。
隠密の名の元に
フェンサーの
支援員を暗殺するために
何時もと変わらず悪い顔色でドリュウズ達を見据えた。
「本来であればフェンサーとポーカーの戦闘を見届けるのが指命だったのですがね−−我が主たるダークレスウェル・ゾロアーク様ことシューター殿に持ち帰る土産が口伝えだけと言うのも些か寂しく思えていたところです」
セキュラーが口を開く
「よう、死に損ない。それとも−−−死んだように見せるのが目的だったのか?」
ドリュウズの言葉にセキュラーは目を細めて
「………剣ドリュウズ……やはり貴方は危険だ……生かしておいたら後々我等に仇為す存在になるでしょう。」
「何を今さら−−主の名前や目的まで喋ったって事は−−」
「ここでサヨナラってことですかね」
言うが早いがツタージャは腰から拳銃を抜き出し発砲した
「
鋼鉄機弾!!」
二発の弾丸がセキュラー目掛けて放たれたがセキュラーはそれを短刀で切って捨てた
「諦めも肝心ですよフォン・ツタージャ嬢、弾丸で
戦士は殺せません。しかし
戦士である私は貴殿方を殺せます」
余裕綽々で歩み寄る凡そ暗殺者とも思えぬその態度に向かってツタージャは
「……殺せないのは承知の上……でもね……」
ツタージャはもう一発
上の階に向けて発砲した。
何を狙ったのか
すると大きな物が崩れるような音が
上の階から響いていて段々近づいてくる!
「足止め位は−−させてよね」
それは爆発音だった。
ツタージャが屋上に設置した爆弾を弾丸で起動したのだ。
「ッッッ!貴様!」
ツタージャに向けて4本の短刀を投擲するセキュラーだが
すべてドリュウズの銀色の槍で弾かれてしまった。
「フン……
戦士等と言うから強いのかと思ったが……役不足だ……死に直せ、セキュラー。」
ドリュウズはそう言い捨てると建物の壁に金の槍で穴を開けてツタージャを片手で抱えて穴に飛び込んだ。
「逃がすかッッッ!!!」
後を追うように穴に飛び込もうとしたセキュラーだったがツタージャが置き土産とばかりに放った弾丸に貫かれてそのまま建物の奥に吹き飛ばされた。
ちょうどその時に支柱が爆弾の余波で破壊されたのか建物はまるで積み木を崩すかのように猛烈な埃を撒き散らしながら倒壊した。勿論中に居たセキュラーは無事では済まない筈だ。
三階位の高さからの自由落下を難なくこなしたドリュウズとツタージャはまず溜め息をついた。
「……すみません……私のせいで……」
「気にするな、結果としてセキュラーを撃ち取れたしッッッ!!??」
ドリュウズが言葉の途中で目を見開いた
ツタージャもドリュウズの視線の先を見て言葉を無くした。
それもそのはず
フェンサー達の居る公園の辺りに向かって星のように無数の火の雨が降り注いで居たのだから
__________________________
「ッッッ!」
「ええっ!?」
正に打ち合いの一歩目を踏み出そうとした矢先に強烈な熱さに違和感を覚えて空を同時に仰いだフェンサーとポーカーは迫り来る新たな驚異に目を見開いた。
それは表すならば「炎の雨」
巨大な炎の塊が数えきれないほどに唐突に出現してフェンサー達を燃やし尽くそうとしているようだ。
フェンサーは「
水流斬剣」を
防御結貝に変形させて
ポーカー達は其々自分に降りかかる火の粉を槍を高速回転させることによって弾き身を守った。
だがそれも束の間
今までとは比べ物にならない程の大きさの炎の塊がゆっくりと此方に接近してくる。
まるで太陽が落ちてきたのかと錯覚するくらいにその光景は常識を逸していた。
否、本当にそれは只の炎の塊なのだろうか?
流石に太陽に見えてしまう程の大きさの物を得物一本で防ぎきるのは不可能だと判断したのかフェンサーとポーカーは公園の狙われていると思われる場所から早々に離脱した
その直後
太陽が先程までフェンサー達が戦っていた場所に
墜落した。
呆然とごうごうと燃える公園内を見つめるフェンサーとポーカー達だが
太陽の墜落した場所の中心から人影が現れた事によりその表情は引き締められる
この場で攻撃を仕掛けてくると言うことは間違いなく
生存競争絡みの敵−−即ち
戦士の何者かであることは誰の目で見ても明らかだった。
このような強力な炎を操るとなると魔術師たるメイガスか?
それとも万物の根源たる炎を操る錬金術師、アルケーか?
その答えは自ずと知ることになる。
人影が燃え盛る炎をものともせずに此方に歩み寄ってくる。
フェンサーはその人物に見覚えがあった。
紅く燃えるルビーのような瞳に
兜から髪の毛のように一本垂らした鎖。
口元は包帯で見えず
如何なる表情も読み取れない−−
炎のせいで周囲の温度は高い筈なのに回りの気温が下がったかと錯覚するような冷たい空気を纏った男。
セキュラーの
戦士をただ一撃の元に葬りさった異能者。
騎兵の
戦士−−−ドレイク
緊張のせいか暑さのせいか
汗を流すフェンサーとポーカーだがそんなのは関係ないと言わんばかりの声音でドレイクは言う。
「フェンサー、ポーカー。
戦士としてこの
生存競争に招集された誉れある騎士達よ。我が名はドレイク−−見ての通りこの身は騎兵、騎士同士で腹を割って話そうではないか」
「へ?」
「ぬ……」
唐突に話がしたいと言われて困惑する三人。
いきなり攻撃されて動揺していると言うのに更に追い打ちをかけてくると言うのか
「いやなに……いずれ貴様等とも一戦交える事になるのだろうが……我の目先の目的はアーマーの
戦士でな、其奴を仕留めてから貴殿等とは矛を交えたいと考えている。その為にお互いの持っている情報をこの場で分かち合わないか?と言う事だ。」
ドレイクからの提案にフェンサーは迷った。
情報を手に入れられると言うならばそれは願ったり叶ったりだが−−果たして此方に渡せるだけの情報があるのだろうか、いやそもそも何故今さら何の情報が欲しいと言うのか
一方ポーカーは不快感を顕にしてかぶりをふって槍の切っ先をドレイクに向けた
「有る意味魅力的な提案やもしれぬが………我等には小細工は不用。そも話がしたいなどと言う理由で我等の果たし合いを妨害するとは……騎士の風上にも置けぬ愚か者め。」
「武器をとる気も無いと言うのならば直ちにこの場から去るが良い。騎兵と言ったな貴様……言いたい事があるならば貴様の所持する乗り物で我等の槍に立ち向かうが良い」
二人してドレイクの
戦士に向けて槍を構えるポーカー
その反応に対してドレイクは冷ややかに二人を見据えた
「……そうか……ならばその信条を焼却してくれようぞ」
回りの温度が氷点下に変わったような一切の感情を殺した声色で呟くドレイク
全身に悪寒が走るのを感じながらフェンサーは行く末を見守るしか無かった。
ドレイクはそのまま後方に跳躍して太陽の落ちた場所に舞い戻ったかと思うと足元に手を翳した
「……騎士法:
改竄すべき騎士の結末……!!」
ドレイクがそう言うとドレイクの足元から何か−−炎が何かを形どって行く……!!
ソレが出来上がるまでに時間はかからなかった。
一言で言えばソレは「戦車」だった。
成る程、あの太陽のような物は元は鉄の塊だったのだろう。
それに炎を付与してフェンサー達目掛けて放ったのだろう。自分自身もそれに騎乗して。
そして今、それは紛れもなく戦車の形をとり、その巨大な砲台をポーカーに向けている。
その威圧感にポーカーは息を飲んだ
「焼き焦がせ−−−「
焔」」
途端−−砲台から熱線が放たれた
恐らく触れたものは全て消滅してしまう程の超高温の
一瞬にして辺り一面が血で染めたかのように真っ赤に燃える、燃え盛る。
「ポーカー!!」
フェンサーは敵だと言うことも忘れ叫んだ
ポーカーはその熱線を真っ正面から浴びてしまったのだ。
「焦るなフェンサーよ、これしきで倒される我等では無いぞ?」
フェンサーは瞠目した
ポーカー達は槍を前に突き出す形で熱線を二つに切り裂いて居たのだから。
いや、もうすでにその槍は二本では無かった。
その姿は神々しく、まさに神代の代物なのでは無いかと思ってしまうほどに美しく雄々しかった。
一本。
二本だった槍は合体と言う安っぽい言葉で現して良いものか迷うが文字通り一本の槍となっていたのだった。
「我等の魂を一つに」
「元は一つだった物が元に戻る」
−−−−その真名は−−−−
「「
十字聖槍で重ねる福音!!!!!!」」
言い放つ
一つの物があらゆる事象を覆して
恐るべき熱量を正面から切り裂いて突き進む。
槍は止まらず止められず
そのまま伝承に残されたように全てを切り刻み
見るものの魂を震わせた