第二話 襲撃は唐突
闇同盟本拠地−−「アルガスタ邸」
その住む者の威厳を感じさせるような暗黒の館の地下で激しい戦闘が繰り広げられていることをその館の主−−
ダークレスウェル・ゾロアークも知ることになる。
「……………ガマゲロゲ…………」
−−いや−−
とゾロアークは言い直す。
「……セキュラーよ。」
「…………は。……何用で御座いましょうか……?我が主よ。」
何処からか声が響いたと思えばいつの間にかゾロアークの目の前には臣下の礼をとっている男が出現していた。
黒いマントを羽織り、お世辞にも良いとは言えない顔色の男−−セキュラーと呼ばれていると言うことは恐らく一ヶ月後に開かれることが予見されている
生存競争に参加する
十人の
戦士の内の一人−−
隠密の能力を携えた者であろう。
そう言われてみれば確かに普通のポケモンでは考えられないほどの威圧感を感じる。
そしてガマゲロゲ−−−セキュラーの
戦士は口を開く。
「……と一応伺いはしますが……地下ですね?」
「ああ。何があったのか……お前なら把握しているだろう?」
「我等が同胞サウザンド・サザンドラ殿が捕獲した騎士−−時雨斬撃殲滅騎士領、十二騎士皇が一人−−「霞隠のマラカッチ」−−時雨マラカッチと地下の拷問室で戦闘中の模様です。如何致しましょうか。我が主よ?」
ダークレスウェル・ゾロアークはニヤリと笑う。
「……まあ確かに時雨の騎士が瞬殺等と言うのは現実的では無かったな……」
苦笑しているゾロアークだがその間にも下では破壊音が続いている。
「そうだな。さしあたりセキュラーよ。一つ貴様も加勢に行ってやると良い。お前は
守護者なのだからな。」
「御意。」
そう短く了承の意を伝えるとセキュラーの
戦士は闇に溶け込むようにその場から姿を消した。
彼が
隠密のクラスのスキル………「存在隠匿」を使えば最早
ゾロアークでもその姿を追う事は出来ない。彼の「存在隠匿」はランク換算して凡そAランク相当。
その効力は「自分自身の存在感を極限までに薄める事が出来る」と言うものだ。
正しく見えざる驚異となって闇同盟を勝利に導く優秀な
戦士と言えよう。
「さて………貴様の手並みを見せて貰おうか……」
そう言う彼……ダークレスウェル・ゾロアークの右手には
戦士となることが定められた弓のカタチの「紋」が鈍く光を放っていた。
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時雨斬撃殲滅騎士領とは戦争の際に戦う騎士を育成し養成する施設の総称であり、また、500年前に[神−アルセウス]と邂逅した三人−御三家の創始者たる「ダークレスウェル・ギルガルド」「剣エルレイド」「時雨ウルガモス」が自分達の欲望を叶え、栄光をを手にするために作り上げた戦闘集団である。最もその目論みは失敗し世界中に壊滅的な被害と犠牲を出したらしい。
その反省に立ち彼らは
生存競争と言う儀式をアルセウスから授かった力により構築した。被害を最小限に納める為だ。
だが−−繰り広げられたのは恐ろしい戦いであった。
有り体に言ってアルセウスの神の力を見誤ったのだ。
強力無比な破壊のみに特化した神具は更なる被害を生み出し、三人は無残な破壊の痕跡を見ることとなった。
そして強力無比なアルセウスの力を10個に分ける事により単体での被害を抑えるシステムをダークレスウェルが提案した。そして10個の「チカラ」を
願望器に注ぐ事によって各々の欲望を叶えることを可能としたのだった。
10個のチカラを注ぐとなれば後には誰も残らない−−その事態を解決したのが剣だった。
「
戦士の
辞退機能」である。
戦士が望めばその場で能力を手放し
生存競争から離脱出来ると言う機能である。これにより
戦士の生存確率は上がり「何時でもリタイア出来る最低限の生命の保証が約束された
生存競争」と言う認識が御三家以外に広まってしまったのはあまり良い結果とは言えないだろう。
そして時雨は
生存競争の中で「支援員制度」を考案した。これは、強力な神具を使う事によって消費される霊力量が使用者を食い潰す程に膨大な物だと知ったゆえの判断である。契約を結んだ支援員と
戦士はお互いに霊力を共有し、共有した霊力は直接的に
願望器に接続され、
願望器に不定期間に蓄積された膨大な霊力を送られるような
経路を作る。これによってかなりの戦略が増えたことは称賛に値するだろう。
このようにして御三家の面々は其々の得意分野で
生存競争を綻びの無いシステム的な物へと完成に近づけたのであった。
めでたし めでたし−−−−とは行かなかった。
時雨ウルガモス以外の二家の創始者が寿命により死んだ後に時雨ウルガモスが暴走したのだ。
それは
生存競争で願いを叶えられるのが一グループのみと判明したからであった。
同程度の実力を持つギルガルドとエルレイド亡き今こそが動く機会だと判断したのだろうか。
彼は残された騎士団を私物として「時雨斬撃殲滅騎士領」と改名し戦争の道具に使った。勿論ダークレスウェルと剣はそれに抵抗したが多勢に無勢、戦局は悪くなる一方である。
更にウルガモスは勢力を広めて残りの2家所か世界中を支配しようとして騎士領内で「十二騎士皇制度」を作ったのだった。
「初代時雨キリキザン」「初代時雨アバゴーラ」「初代時雨コジョンド」「初代時雨アーケオス」「初代時雨ウォーグル」「初代時雨バルジーナ」「初代時雨シャンデラ」「初代時雨デスカーン」「初代時雨マラカッチ」「初代時雨ウルガモス」「初代時雨デンチュラ」「初代時雨ペンドラー」
因みにこの中で「時雨アーケオス」と「時雨ウルガモス」は現代と共通である。
騎士領の中でも抜きん出た実力者12人により完全に世界は時雨の「私物」へとなろうとしていた。
が、それに歯止めを掛けたのが残る二家だった。
剣は「剣流」と言う最強の剣術を駆使して、
ダークレスウェルは秘法である「ダークレスウェル宝物殿」を駆使して、
それぞれが戦争終結へと働きかけた。
結局戦争は御三家の休戦協定により一時は終息したのだった。
生存競争と言う儀式でもう一度各々の願いを考え直す機会がこの出来事により与えられた。
剣は二度と戦争が起きないように時雨とダークレスウェルを監視する「正義の番人」として
ダークレスウェルは「真の平和」を求めて世界中に平等を
そして−−−−−時雨は−−−−−−
「−−おぅい……キリキザンよ?聞いておるかの?」
その声により現実に引き戻される。
声を掛けたのは時雨騎士領の
五騎賢人議会の一人にして十二騎士皇の一人「岩泊のアーケオス」だった。
齢500才を越えると言う話もあるが真偽は恐らく本人と−−同じ様な話がある時雨ウルガモスしか知らないであろう。
「すまぬな。少し考え事をしていたもので……」
そう笑って返すのは時雨騎士領十二騎士皇の一人「斬滅のキリキザン」−−時雨キリキザンだった。
彼等は今、
生存競争に置いての戦略を「時雨御殿」と呼ばれる屋敷で話し合っていたところであった。
「珍しいのぅ。冷静な主がそのように話を聞き逃すなど……。余程に思い詰めている事でもあるのか……?」
アーケオスの気遣いに感謝の念を感じると共にかぶりをふるキリキザン。
「いいや。我に雑念など一切存在しない………と、言ってもきっと貴方にはお見通しなんでしょうな。」
それこそ珍しく見て分かるほどに苦笑するキリキザン。
だがアーケオスは同じ様に笑って返す事は出来なかった。
「………「結界の騎士」……時雨ヒトモシの事だな……」
アーケオスが目を細めると
キリキザンも俯く。
「違う−−と言えば嘘になりますな。我は正直に申し上げて結界のを戦地に連れていくのは承諾出来ない。
ウルガモスからすればそんなのは甘さ故と言うのでしょうがね。」
苦々しげに目を細めるキリキザン。
その目は紅く光っていた。
「もう決定してしもうていることだしのぅ……儂だって連れていきとうなどないわい。しかしウルガモスの言うことも全くの正論で無いと言えば嘘になるのだ……表面上はな」
「その言い方ではまるで「ウルガモスがこの
生存競争が終結した後の衰弱した十二騎士皇を支配下に置いて再び騎士領のトップに立ちたがっている」と言いたい様ではないか!」
そこで口を挟んだのは三人目の人物−−腰に一本の刀を刺した全体的にのんびりとした雰囲気を放つ癖に眼光だけは鋭い男−−時雨騎士領十二騎士皇の「永劫のアバゴーラ」時雨アバゴーラであった。
「アバゴーラ殿−−何処で「誰が」聴いているか分からないので−−−」
「分かっとるわい!……クカカカッ!それにしたって奴の考える事など手に取るように分かるわい。事
生存競争関連に置いてはなぁ!」
諌めたキリキザンの言葉を軽くいなして今までに貯まっていたウルガモスに対する愚痴を言い始める老人−−アバゴーラ。
この三人で今後の作戦を練っているのだが……皆が皆性格もバラバラなのにこの顔ぶれで会議をしているのには理由が幾つかある。
しかしそもそもこのような会議をするのは本来は十二騎士皇ではなくそれよりも上の存在である「
五騎賢人議会」の面々が行うべきなのであるが、今現在「
五騎賢人議会」は合わせて「二人」しか居ないのだった。
本来五人いるはずの議会が二人となったのは奴−−時雨ウルガモスのせいである。方針の違いから二人の賢人はウルガモスの手により失脚、一人は逃亡と言う最早壊滅的な状況である。まあ最も失脚した者達は最早この世には居ないだろう事は用意にキリキザンには想像できる。ウルガモスはそう言う男なのだ。逃亡した賢人についてはキリキザンはキナ臭い話だと思っている。きっとすでにウルガモスの傀儡にされているのであろう。
つまり残る二人は時雨ウルガモスと時雨アーケオスである。
だから時雨アーケオスがこの場にいるのには正統性があるがキリキザンとアバゴーラが居るのは普通ではない。十二騎士皇が里の行く末を決めるための会議に出席できたことなど今までの時雨の歴史上にはなかったことだろう。
しかしこれに関しては時雨ウルガモスは黙認している。
ありがたいと感じると同時に不気味でもあった。
あの欲望が皮を被って生きているような男が…………
そして二つ目の理由として時雨騎士領には実用的な作戦を立てられるほどに安定した人格者が居ないと言うことだ。
それは会議に出席することを許されなかったと言うのもあるのだが、そもそもがそもそも彼等は戦闘にのみ特化した集団である。作戦など立てる必要は自分達にはない。
何故ならばずっと時雨ウルガモスの命令で動いてきたからだ。
今現在ではキリキザンが実質的な頭となったのでウルガモスの呪縛からは逃れられたのだが……ここだけかいつまんで見てみるとメリットばかりではなかったのだ。
つまり、ある程度の人格者である時雨キリキザンと
「
五騎賢人議会」の一人で時雨の里に最も長く携わってきた時雨アーケオス。
そして−−−
「元々儂はアイツの傲慢な物言いが気にくわなかったのだ!前の任務の時だって儂が提案した作戦を足蹴にして自分の作戦を優先させおってからに!!!その挙げ句の果てには−−−」
「アバゴーラよ……それはもう20年も前の話じゃろう……」
まるで酔っぱらいのように愚痴を捲し立てる時雨アバゴーラもキリキザンに次ぐ「ある程度の人格者」であった。
少なくともマトモな策略を立てることが可能な人物である。
そして三つ目の理由として−−
彼等が今回の
生存競争で重要な役割を担う者達であると言うこと。
時雨アーケオスは
戦士−−−「アルケー」として、
時雨アバゴーラは支援員−−−「パートナー」として、
そして
「……お二方……取り合えず話を戻すこととして……
これからの話、
戦士となる我とアーケオス殿の別行動の件について………」
そう、彼−−時雨キリキザンも
戦士として
生存競争に参加するのが確定していた。
彼の左手には
戦士となることが認められた証である「紋」が刻まれていた。
そのカタチは……
「恐らく我は五大騎士クラスの内の一つ「ドレイク」になるのであろうな……そしてアーケオス殿が三大魔術クラスのアルケーとなるなら役割を分担した方が効率が良いと言う話であったな……」
騎馬のカタチであった。
ドレイク−−10クラス中最も機動力に長けたクラス。
即ち相手にするのは残りの騎士クラスが好ましい。
魔術クラスであるアルケーでは五大騎士クラスの持つ「対霊力」のスキルにとてつもなく不利な物となる。
「うむ……儂の所有する錬金術の能力は……ならば他の魔術クラスと二大暗黒クラス相手にするのが良いのであろうな」
五大騎士クラス
フェンサー。ポーカー。シューター。
ドレイク。アーマー。
三大魔術クラス
メイガス。スキャナー。アルケー。
二大暗黒クラス
ベルセルク。セキュラー。
五大騎士クラスは魔術クラスに強く、
三大魔術クラスは暗黒クラスに強い。
二大暗黒クラスはその特性上真っ向勝負の五大騎士クラスには滅法強いのである。
従ってこの分担は理に敵っていると言えた。
それぞれが四匹の
戦士の相手を受け持つ……
「それに伴い十二騎士皇の分担をしよう。
我のチームとアーケオス殿のチーム。役割をこなす上でどちらが都合が良いのか……。」
キリキザンが言う。別動隊とまでは行かないが
それぞれに適したチームに騎士皇を分けることでより良い展開に事を運べる事は想像に難くない。
ならば−−とアバゴーラ
「ヒトモシはキリキザン……お主と共に行動すべきであろうが。出場することが必然ならば貴様が魔の手から守ってやるべきであろう……。ヒトモシに何かあれば今は亡き時雨シャンデラに会わせる顔が無いじゃろう………」
時雨シャンデラ−−もう今はこの世には居ない
先代の十二騎士皇でもあり、時雨ヒトモシの父親である。
彼も前回の
生存競争の犠牲者である。
かつてキリキザンは
戦士となった時雨シャンデラの支援員として
生存競争に参加した。
即ち目の前で良くして貰ったシャンデラの死を見ることとなったのだ。
死の間際に彼から言われていた。
「−−ヒトモシを−−ヒトモシの面倒を−−見てやってくれ−−」
時雨騎士領の中でも最も残酷な騎士法を使うと恐れられた男の最後に溢した優しさであった。
その優しさに触れたからこそ時雨キリキザンは真っ直ぐに生きてこれたのだろう。
真っ直ぐに。ただただ真っ直ぐに。
それは歴代の騎士達とは比べ物になら無いほどに真っ直ぐな生き方だった。
裏を返せば愚かしいほどに「優しさ」を知ってしまっていると言う事だ。
時雨キリキザンは騎士だったが決して冷酷ではなかった。
敵を殺せば心は痛むし、仲間が死ねば涙を流す。
余りにも、余りにも彼は優しすぎたのだ。
自然体でありすぎた。
だから−−時雨キリキザンと言う騎士は人格者と呼ばれるのだ。
騎士としては普通ではない。
しかし
人としての生き方としては普通すぎたのだ。
「−−ええ、そのつもりですよ。ヒトモシは我が守り抜く。何があっても……ね。」
だがそこにも不安はある。
「デスカーンの事じゃな………」
そうです−−とキリキザン。
実際いきなり
黒銀霊布で攻撃された時は反射的に応戦してしまったが彼もまたヒトモシの事を思っていたと言うことで更に心を痛めるのであった。
デスカーンは今は地下牢に捕らえてあるが……
「地下牢に捕らえていた時雨デスカーンは騎士皇の戦力としてはカウントできんじゃろうな」
そのアーケオスの言葉にキリキザンは疑問を覚えて
「何故ですかな?同じくヒトモシを守りたいと思う者同志で協力を−−−」
キリキザンの言葉を遮るようにアーケオスの説明に時雨アバゴーラが付け足す。
「あやつならばとうのむかしに脱獄しとるわい。」
「なっっ!?どのようにして……純黒の騎士の身体には技法封印を施させたはず………」
アバゴーラの吐き捨てるような言葉にキリキザンが驚きを隠せずに言う。
「クカカカッ!キリキザン……御主でもそのように取り乱す事があるのじゃのう……長生きしてみる物じゃわい……
このような思いがけぬ娯楽が世の中には散りばめられているのじゃからのぅ!」
「アバゴーラよ……主は少し空気を読んだ発言を心がけることじゃな………キリキザンよ。デスカーンの身体には確かに技法封印が施されてあった………これは間違いない……しかし牢屋の扉には破壊された痕跡などはなかった……」
「つまり純黒の騎士には協力者が居ると言うことですか………」
もしくは−−−とアバゴーラ
「デスカーンを利用したい勢力が存在する−−−と言うことかもしれんのう!」
クカカカッ!とアバゴーラは笑う。
キリキザンは出来ることなら敵対せずにいたかったがそれが難しい事になると言う事実にとてつもなく絶望した。
−−ヒトモシを守れと託されたシャンデラの力を−−ヒトモシを大切に思う者にぶつけなければならない理不尽な運命に……絶望した。
我は−−ヒトモシを守れるのか………デスカーンを傷つけずにこの戦争を終わらせられるのか?
答えの無い疑問は彼の苦悩の中に飲み込まれては彼の内側を容赦なく傷つけるのであった
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剣流が住む島には現在3人のポケモンが在住していた。
一人は剣ドリュウズ。
剣聖と呼ばれた男で前回の
生存競争に
戦士として参加した
経歴を持つ列記とした剣士である。
加えて言うならば現在の剣流の当主の師でもある。
現在の剣流当主−−剣ミジュマル
同じく剣流の剣技を極めた者として「剣聖」の名を持つ者。今回の
生存競争に置いて
戦士として参加する−−予定である。と言うのも本来ならば優先的に「紋」が現れる筈の御三家の一角であるのにも関わらず彼には未だ「紋」が現れていなかった。
この状況を打破しようと剣ドリュウズは絶賛模索中である。まあこれに置いては奇しくも心配する必要は無くなったと言っても言い。これは後述する。
三人目は剣流に代々使えるフォン家の一人
フォン・ツタージャ。剣ミジュマルとは同年代と言うこともあり良いミジュマルの話し相手であった。
ミジュマルにとってはドリュウズとツタージャは家族同然であり大切な仲間であった。
彼等と過ごす時間は例え修行が辛くてもミジュマルにとってはかけがえのない宝物だった。
しかし−−−−−−
「うわあぁぁぁぁぁ!!!!!」
そんな想いを踏みにじるかのように
島中に響き渡る見知った者の叫び声。
紛れもなくフォン・ツタージャの声であった。
聞いた瞬間、
剣流−−剣ドリュウズと
剣流当主剣ミジュマルは駆け出した。
とてつもない速さで声の聴こえた方に向かって走り出す。
しかし走るといっても−−
余りにも速すぎる。
彼等剣流の走り−−走法は忍のそれに酷似していた。
一切の無駄を無くした呼吸法と足運び−−−
これだけでも剣流と言う流派に只の剣士が居ないことを証明するには十分だった。
「ツタージャ!!!」
ミジュマルとドリュウズが立ち止まった所−−
この島の中央部辺りだろうか。
恐らく此島で最も全長の大きな木−−
ミジュマル達は「ビッグオーロット」と呼んでいるがそんなことはどうでも良い。
その木の幹に探し人−−−フォン・ツタージャは縛られていた。
縛っている物は…………金色に光る鉄線だった。
「誰がこんな事を…………!」
怒りを顕にしてツタージャに巻き付けられた鉄線を斬ろうと近づくミジュマルだがそこに同時に声が掛けられる
「……来ちゃダメッ……!!罠だっ!!!!」
「ミジュマル止まれッッッッ!!!」
声こそ同時だったが同時に何かが飛来してくる音が聴こえた!咄嗟に腰の剣−−−貝の形をした剣−−では無く正に「貝殻」だった。
それを抜いて刀のように構えるミジュマル。
−−−右ッッ!!!
そしてミジュマルは右から飛んでくる長いシルエット……
長槍を防ごうと「貝殻」を向ける。
「
防御結貝!!!」
途端ミジュマルの持つ「貝殻」から水が吹き出しミジュマルから見て右手側を盾の形に変形した!
飛んできた長槍は水に触れて勢いを殺されてミジュマルに届く前に地に落ちた。
だが……
−−まだ来るッッ!…………上かッッ………!!!!
そのまま盾を頭上に移動させるがそれだけでは足りない。
上から飛んで来るのではなく「飛ばしつつ落ちてくる武器」は横から飛んで来るだけの武器と比べると威力が段違いだ。余分に横に広がっていた水のバリアを一転集中して厚みを増させる。
上から降って来たのは「手裏剣」だった。
その全てを防ぎきり辺りは再び静寂に包まれた。
が、すぐにその静寂は破られることとなる。
新たな登場人物のせいで………
「…………居るんだろ…………出てこいよ………それとも身を潜めて闘うのが好きなのか?となると君は忍者か何かなのかな?」
ミジュマルの挑発に乗った訳ではあるまいが
「ビッグオーロット」の木葉を散らしながら
巨木の天辺から人影が飛び降りてミジュマルの前に着地した。
不思議な格好をした男だった。
澄んだようなブルーの瞳に身体中には鎖を巻いている。
腰には二本の刀剣を携えたそんな男−−−
「忍者なんかと一緒にされると流石にお兄さん悲しいよっと!?……忍者を馬鹿にするとアギルダーの奴に起こられちまうかぁ………」
そうひとしきり呟くと男は真っ直ぐにミジュマルの方を向き直り名乗りを上げる。
「お兄さんの名前は時雨デンチュラってんだよ。まぁ短い付き合いだが見知っておいてくれると感謝感激雨あられだよ。」
時雨斬撃殲滅騎士領の十二騎士皇が一人「雷縛のデンチュラ」
時雨騎士領の中では最も暗器の扱いに長けた騎士であると同時に諜報活動を得意とした騎士でもあった。
そんな事をミジュマル達は知るよしも無かったが
それでも目の前に居る男がただ者ではないのは伝わってくる。幾つもの戦地を潜り抜けた者のみが纏う独特の空気。
それを目の前の男−−時雨デンチュラは持っているのだ。
「……人質を取るような奴に名乗る名は無いが……そちらが名乗ったのなら此方も名乗るよ……僕は−−」
「あー知ってる知ってる。剣流現当主剣ミジュマル。
剣聖剣ドリュウズの弟子でもあり二代目剣聖の座を受け継いでいる。年齢は14才。修行年数は5年間。たっはー!そんな短い修行期間で剣聖の称号受け継ぐなんて……お前とんでもない奴なんだな!スゲーよマジに!」
「え……?はぁ………まぁ…その……どうも……」
相手の一切の皮肉もない素直な称賛に戸惑うミジュマルだった。
さっきまでの威勢は何処へやら。
そんなミジュマルに替わってドリュウズが話を進める
「時雨デンチュラ……と言ったか……時雨の騎士が剣流になんの用件だ……?まさか人質をとってぬけぬけと「挨拶だ」とは言うまい?」
「挨拶だよ。ちょっと剣流の住む島に旅行しにきたのさー!いやぁ良いところだなぁ。用事が済んだらお家に帰るからさ」
「ここは不可侵条約地帯だ……!!貴様らが決めたんだろうが!!」
「だから用事が済んだら帰るからさ。怒るなって剣流。
そっちにも都合が有るんだろうけどもこっちにも都合が
あるんだよー。」
のらりくらりとした時雨デンチュラの言い種にドリュウズはキレた。
「……だったら人質を解放してさっさと用事を済ませて騎士領に帰れ!!騎士擬きが!」
「ったく……怖いねぇ……じゃあサクッと終わらして帰りますかねー、えーっとぉ、俺の用件はぁ…………」
−−−剣ミジュマルの暗殺だよぉぉ!!!
そう叫ぶと時雨デンチュラは光速にも等しい速さでミジュマルに肉薄した。
余りにも速すぎるその動きにミジュマルは反応出来なくて−−出来なくて……
それでもデンチュラの獲物がミジュマルに届くことは無かった。
デンチュラの持っていた刀を止めたのは銀色に輝く槍だった。その槍はデンチュラがミジュマルに近付くより早くミジュマルの足元に向かって投擲され槍が輝いたと思うと銀色のカーテンのような物が螺旋状にミジュマルを包み込んだのだ!!
投擲したのは言うまでもなく剣ドリュウズ。
その槍のカーテンはデンチュラの刀を通さなかった。
しかし流石に騎士。刀が通用しないと分かると銀のカーテンを蹴っ飛ばして反動で後方にジャンプした。
「……ああん?剣ドリュウズ!ずりいぞ!騎士の戦いなら一対一がセリオーだろうが!!!」
激昂するデンチュラだが
「………セオリーだ……。兎も角、人質を取るような奴が騎士だの言っても滑稽なだけだな……」
「ムキー!!それよりもテメェ!!剣流とかほざいてた癖に剣じゃなくて槍使うとか良い度胸だなぁ!オイ!」
−−読者舐めてんのかワレぇ!
と叫ぶデンチュラ。
それを鼻で笑うドリュウズ。
「……ミジュマルの情報はあるのに俺の情報は知らないのか……?俺の剣が「槍剣」だと知らんとは……時雨の騎士も落ちたな………」
そう−−剣聖「剣ドリュウズ」
彼の武器は「槍剣」である。それも双槍。
金の槍はあらゆる存在を貫き−−
銀の槍はあるゆる存在から身を守る−−
「
矛盾槍・双剣騎士槍」の使い手
剣流に伝わる伝説の神具を使いこなした瞬間に彼は剣聖の称号を得たとされる。
「………どうやら……二体一は部が悪い所の話じゃ無いな……
こうなりゃ………!!」
とデンチュラは黄金に輝く剣を構える。
と同時にミジュマルが「貝殻」を持ってデンチュラに斬りかかる。
ミジュマルの剣からは水があふれでて剣の形をとり……
「雷刀石火!!!」
「
水流剣斬!!!」
二人の奥義がぶつかる………!!!
否、ぶつからなかった
「ってオイ!逃げんのかよ!!」
デンチュラはミジュマルのいた方向とは別の方向に
正しく電光石火の勢いで飛びさっていった。
その方向は−−先程までミジュマル達が修行していた砂浜
「クッ……!!ドリュウズ!ツタージャを頼むよ!!」
「委細承知……ミジュマル………あの剣に気を付けろ…」
ドリュウズに鉄線で縛られたままのツタージャを託し
ミジュマルは忍の歩法でデンチュラの後を追う。
−−−ツタージャに酷いことしやがって!
絶対に許さない!!!
怒りの焔に燃えたミジュマルを止められる者は恐らくもう居ないだろう。
__________________________
「アルガスタ邸」の中庭に値する場所では戦闘が繰り広げられていた。
周りの城の壁は芸術家がみたら泣きそうな程に跡形もなく吹き飛ばされ砕け散り破壊の痕跡が残っていた。
戦っているのは二人。
一人は両手に一本ずつ計二本の槍のような物を持ちニヤニヤと笑いながら、口元を歪めながら、さも楽しそうに踊るように攻撃を続けている男。
もう一人は目が仮面のせいで見えず感情を窺うのが難しいが見るものを畏縮させるようなオーラを放つ……そして全体的に深黒を思わせる空気をも纏った片手に黒い剣を持って応戦している男。
見たところ槍をもった男の方が仮面の男を押していて優勢に見えるが……
「ええ。ええ。ええ。分かりますよ分かりますよ!!
貴方は今!闘争を!戦争を!紛争を!争いを!殺しあいを愉しんでいる!!!!」
狂ったように槍を振り回しながら叫び続ける槍の男−−
時雨騎士領十二騎士皇が一人「霞隠のマラカッチ」
時雨マラカッチ。
時雨騎士領の中でも残忍で残酷で冷酷であることに定評のある騎士。
「………笑えないな……そんな下らない殺人狂のような理論で私を理解して欲しくは………無いッッッ!!」
仮面を付けている男−−闇同盟首領副補佐官及び極秘任務実行班長暗殺部隊総括−−−「蛇道のサザンドラ」
サウザンド・サザンドラは黒剣を突きの体勢にして突進する。
「ええ?ええ?ええ?貴方からは同類の臭いが匂いがにおいがニオイガぷんぷんプンプンするんですがね!?どうなんですかね!?」
言いながら突き出された黒剣を二本の槍−−−否、
針と呼ぶべきであろう−−で挟み込んで受ける。
「何を根拠に……戯れ言を……!!」
サザンドラはマラカッチの持つ針に蹴りを入れて距離を取り黒剣を持ち直し体勢を整える。
「ええ!ええ!ええ!そうですとも!!!貴方は私を殺すときにとても愉しそうな表情をしてらっしゃったじゃ無いですか!してたじゃあ無いですかぁぁぁぁぁ!!!」
まあ実際は殺していない……悔しいことに時雨マラカッチを殺したと思い込まされていた……
幻術………らしいが
だとすればこの男はイカれた戦闘狂と言うだけではなく戦闘技術も一級と言う事なのだろう。
実際あの幻術に違和感は無かった。
「……貴様の幻術……あれは見事だった………それにハマった訳なのだから偉そうな事を言うつもりは殊更無いが………」
自分を落ち着かせる為に相手との会話で時間を作る。
それが功を成したのかどうなのかは分からないが……
「んん?んん?んん?戦場で相手を褒め称えるなんて!誉め称えるなんて!貴方は何て素敵な方なのでせうか!しょうか!あれはですね……」
と質問しても居ないのに幻術について話始めた。
「私が作る特殊な薬剤を使い、それを毒性のあるあるものと混ぜ合わせて作った物なんですよ!!これにこれに巻き込まれた捲き込まれたヒトは恐るべき事に現実と見まごうがごとき幻覚に取り込まれてしまうのですよ!!!」
恐ろしいですね!恐ろしいですね!とマラカッチは
狂ったように
曲げすぎ!と言いたくなるほどに首を傾げる。
「そう!これぞ時雨騎士法:霞幻武です!」
−−−私が霞隠のマラカッチ等と呼ばれる所以ですね!
とマラカッチは嬉しそうに話す。
そして近づいてくるマラカッチ。
「だ・か・ら!貴方には楽しんで欲しいのですよ!愉のしんで欲しいのですよ!私の霞幻武から逃れたのは貴方で3人目です!!素晴らしい!素晴らしく素晴らしい!!!
えくせれぇぇェェェェントォォォォ!!!!
大大大大大大大大サービスです!!!!!」
−−−腹を巨針に貫かれた時の空白感を感じるサービス券をプレゼントです!
とマラカッチは大きく踏み込み
「時雨騎士法:針鋭呪鱗!!!」
前後左右から迫りくる巨針……!!
流石の彼でも四方向は辛い……
かわすのがギリギリだ………
だが………針の群れはサザンドラには触れることさえ無かった。
何故なら
「……必要ないやも知れぬが主の命により助太刀に参った。サザンドラ殿。」
黒いマントを羽織ったお世辞にも顔色が良いとは言えない男−−
隠密の
戦士こと。薬夜ガマゲロゲ………
彼が迫りくる針を全て一刀両断したのだった。
獲物は……分からないが流石は神の力を10分の一とは言え付与された者………歴戦の猛者たるサザンドラにもガマゲロゲが何時戦場に入り込み現れたのか分からなかった…。
否、成る程「存在隠匿」だったな……。
気配を極限まで薄めるセキュラーのクラスのスキル。
「サザンドラ殿……申し付けた筈ですが……!何かあれば私目を召喚してくださいと!貴方は私のパートナーなんですから!同じ主に支える身……言うなれば同胞なのですから!」
「……すまなかった……恩に切る……セキュラー……」
登場早々主−−サザンドラに小言を始めるセキュラーを前にして、たった今渾身の一撃を防がれた彼……時雨マラカッチは…………泣いていた………
「…なんと……なんと言うことでしょううううう!!!
私の針鋭呪鱗が!しかも貴方!セキュラーですって!?
サモナーではありませんかぁぁぁぁ!!!!!!!!」
咆哮する騎士を横目で見ながらセキュラーはサザンドラに続ける。
「まぁ戦ってたのは知ってましたが……一応ゾロアーク様の使命が無いと動けませんので……そこの所は此方にも非があると言いますか何と言いますか………」
「構わん。それよりもあの騎士を片付けるぞ。」
二人してマラカッチに向き直る。
「絶望して泣いているならばすまないがそろそろ終了の時間のようだな時雨マラカッチ−−貴様のキャラにも厭きたところだ……いい加減ご退場願おうか?」
冷たく突き放すように宣告するサザンドラだが……
「ぁあ!あぁ!うぁぁぁぁぁ!!!何て私は幸運なのでしょう!!闇同盟のサザンドラの首と
戦士であるセキュラーを同時に討ち取れるなんて………………!!!?神は私にチャンスを幾度となくお与えになられる!!!」
喜んでいた……よく分からない……
「…………あぁ……そして与えられたチャンスを棒に振るのが貴様なんだろうな………」
サザンドラは黒剣を構える。
だがセキュラーがそれを止める。
訝しげにセキュラーを見るサザンドラに対して
「……まぁここはセキュラーってクラスの凄いところを見せなきゃいけない場面みたいなんでね……譲って頂けますね?」
「いや……どういう……」
「見せる相手は貴方ではなく主です。」
−−ゾロアークが見ていると言うのか。
「ご理解頂けたようで何よりです」
−−では!
とセキュラーのサモナーは跳躍する。
そのまま短刀を投擲する。
その短刀は悔しくもマラカッチの針とぶつかり空中で壊れてしまったが
時雨マラカッチの隙を作るには十分だった。
「……え?え?え?貴方ぁぁぁぁ!!!!??何時の間に後ろに?背後にいぃぃぃ!?いや!それよりも何故?何で!?どうして!?霞幻武が効いて居ないのですかぁぁぁぁ!!!!??」
酷い慌てようだったが
セキュラーは冷酷に短刀を振り降ろす。
「幻惑など………掛けることが出来るなら解く事も出来るでしょうに!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
袈裟懸けに切られた時雨マラカッチは中庭の芝生の上に倒れ付した。
中庭から見える屋上には二人の人影が見える。
「フム……さしあたっては概ね問題はないと見受けますが…………これいかに?」
「ウム……問題無かろう。後は最後の仕上げとして私が
戦士となるだけだな。」
厳格な表情をした男はステラロック・ギガイアス。
余裕な笑みを浮かべているのはダークレスウェル・ゾロアーク。
二人にとって今回の結果は十分満足行く結果だったようだ。
が−−−−−−
「ハハ!ハハ!ハハ!見事見事見事ですね!!
闇同盟の皆様方!!皆々様方々!!!」
何と言うことだろうか袈裟懸けに切られた筈のマラカッチが宙に浮かび上がった!
全員が気を引き締める中狂ったような笑い声だけが響き渡る。
「ですが私の二重霞幻武には気付かなかったようですね!!サモナー及びサモナー候補暗殺と言う使命は果たせませんでしたが果たせませんでしたが!様々な情報を手に入れることが出来ました!出来ました!ありがとうございます!ありがとうございます!ではではではでは!!!
サザンドラさんまた何れ!何処かで……いえいえ……戦場で……
生存競争でお会いしましょう!!!」
声が聞こえなくなると袈裟懸けに切られたマラカッチはすうっと薄くなり終いには見えなくなってしまった。
「………気配は遠ざかっていきます………追いますか?」
セキュラーの質問にサザンドラはかぶりを振る。
危険過ぎる相手だ。戦局の見極めに置いては彼に勝る者は闇同盟にはゾロアークを含めて居ないやも知れない。
あのように言われたがサザンドラとしては二度と会いたくない相手だった。
__________________________
結論から言うと時雨アギルダーの投げた手裏剣はロット・ランクルスには当たらなかった。
その全てをランクルスは弾いて見せた。
だが−−
「凄い!やっぱりキミは僕のパートナーに成りうるポケモンだよ!凄いよランクルス!!!」
等と一人で盛り上がっている人物のせいでランクルスはどんどんと戦闘意欲が減退していくのを感じていた。
「………オイ……ランクルス……アイツモシカシテ……滅茶苦茶ニ頭ガ弱インジャ……………」
「……うん……さしもの僕でもそれには半場気付いていたよ………」
大男−−ブリストル・ゴルーグの潜めた声に
可愛らしいくりくりとした目のスマイルマークの武器職人−−ロット・デュラック・ランクルスは呆れた様に答える。
戦闘中に一人で盛り上がっているのはレイト・ゾロア−−元闇同盟の構成員らしい……
その闇同盟の情報力で僕の所在地を突き止めた様なのだが……
いきなり人の家に入って「僕と契約して殺し合いに参加してよ!」とどこぞの何キュベーターのような事をのたまった挙げ句に困ったお客さん−−手裏剣を投げた男……時雨斬撃殲滅騎士領の十二騎士皇「神速のアギルダー」事、
時雨アギルダーを僕の自宅に引き込んでくださったのだ。
「……クックックッ……笑笑笑……手裏剣十連発をいなしたからと言っていい気になるでないぞ………本当の恐ろしさは此処からだ………そうれ!」
−−−騎士法:手裏剣八咆哮!!
とアギルダーは叫ぶと懐から手裏剣を八枚取りだしそれをランクルスに向けてではなくそれと反対側に向けてばらばらと投げた!
一見良く分からない行為にゾロアは
「変な笑い方してるから変な奴だとは思ったけどまさか本当に可笑しく−−−」
等と余裕寂々だったが次の瞬間に彼は瞠目した。
無理からぬ事だ。
反対に投げられた手裏剣八枚全てがブーメランの様に高速回転しながら舞い戻りアギルダーの横を通り抜け文字通り八方向から唸るように……!!風を切る音がまるで咆哮しているかのようにランクルスに襲いかかったのだ!!
「流石のランクルスでもこれはかわせまい……!!」
−−クックックッ笑、笑、笑
と変な笑いを溢しながら行く末を見守るアギルダー
だが……ランクルスはそれを近くにあったブーメラン−−
そう、ブーメランで対抗した。
善戦したと言えよう。急場凌ぎのブーメランは八枚の内三枚を打ち落とした。
しかし残り五枚は−−−!!!
ランクルスに肉薄して−−
肉薄して−−
それでも彼の体を傷付けるには至らなかった。
−−鎧兜
それが彼の体に何時の間にか出現して風切り手裏剣からランクルスを守ったのだった!!
「…………珍妙な術を使う…………」
−−クックックッ笑、笑、笑
と変な笑いを溢す。
「いやぁ……君に言われたくは無いんだけどねえ………で?君が僕を襲うのは僕がサモナー?候補なんだからなんだろうけれどもね?僕には戦う意思は無いんだよねぇ……
お引き取り願えませんか?」
丁寧に提案するランクルスだが
−−−否。
と新たな声が答えた。
「答えは否だぞ。
最高の騎士……ロット・デュラック・ランクルスよ………貴様には此処で死んで貰う。最高の騎士と言う名をいい加減に次の世代に渡してもらいたい所と言うのも有るのだがな……」
苦笑混じりだが芯はガッチリとした印象を持たせる声だった。
声の主は扉の向こうから現れた。
全身に鎧をまとったフルプレートの騎兵。
両手には長槍−−否、両手が長槍なのだろうか?
眼光が鋭く見たものに射ぬかれたような錯覚を覚えさせる−−そんな男が其処にいた。
「…………格好のいい登場を狙ったのならば登場が遅かったな………白熱した戦闘に横槍を刺すような無粋な真似をしおってからに……笑笑笑。」
アギルダーが長槍の男に向けて笑いを溢す。
対して長槍の男は
「あぁん?!ぁぁぁぁ!!!!一々テメェのしゃべり方は堪に触るんだよ!!!口を閉じてろ!!この包帯グルグルかっぱ巻き!!!」
「……血の気が多いぞシュバルゴ………カルシウム不足か?」
「がぁぁぁぁぁぁ!!!黙れ黙れ黙れ!!!手裏剣しか脳がねぇ一発屋が!!!」
「喧嘩を売ることしか出来ないのか…キサマは!この!ベビーカーに乗ったカブルモ!!」
「何だと−−」
目の前で繰り広げられる論争(こどものケンカという)に着いていけずランクルスもゴルーグもゾロアも唖然としていたが……それに気付いたのか長槍の男が咳払いをして此方に向き直る。
「……見苦しいところを見せつけちまったな……俺は時雨斬撃殲滅騎士領の十二騎士皇が一人!「重装のシュバルゴ」
時雨シュバルゴだ…………訳あってアンタらの命……貰い受けるぜ………!!!」
………今さら名乗られても
汚名は返上出来ない。
「………世の中には色んな人が居るんだねぇ………」
「……世界ニハ面白イ事ガ沢山有ルンダナ…………」
ランクルスとゴルーグが頑張ってフォローするが
今さら何をしても
汚名は返上出来ない。
「………何だ?この空気は………」
気付いてなかった。最早どうしようもない。
「…こまけえこたあどうでも良いんだよ!!
いきなり捕らせて貰うぜ!!時雨騎士法:斬鉈陰!!!」
時雨騎士法:斬鉈陰−−−槍による高速の十二段連続突きだった
ランクルスはその全てをかわしてみせた。
シュバルゴは悲痛そうな表情を浮かべて
「おいおい……マジかよ………コイツメッチャ強いじゃねえか!!アギルダー!もっと早く教えやがれ!!!!」
「八つ当たりとは………みっともないな…笑笑笑」
しかしランクルスとて命を狙われているのだ……何時までもこうして遊んでやる訳には行かなかった。
「……ゴルーグ……」
「アア………」
そしてランクルスとゴルーグはほぼ同時に駆け出した!
ランクルスはゾロアを担いで外の砂漠に向かって
ゴルーグは砂漠の地下室の奥の武器庫へ
二手に別れての分散作戦。
これは戦略的にも停滞している話を進めるためにも有効であると言えた。
現に
「……あっ!コイツらァ!!逃げんのかよ!!」
「……逃がさぬ……どこへ逃げても追い付くぞ……笑笑笑」
おじ……時雨シュバルゴは外へ
おば……時雨アギルダーは奥の武器庫へ
と上手く分散してくれた。
−−−さて………どうしたもんかね………
ランクルスは今後の予定をゾロアを担ぎながら考えるのであった
__________________________
オーレライ復活教会の地下室にて
かくして最悪の魔導師−−ゼロ・オーレライ・ヴィ・シンボラーは復活した。
ピリヤ・ココロモリの手によって……
神具等と呼ぶには邪悪すぎる代物…………
「
死者無限復活読本」
恐るべき呪物であった。
死してなおもその魂を呪本に縛り付け使い魔として使役する。残酷極まりない教典−−
それがオーレライ復活教会の保有する切り札−−
チェスター・オーレライ・ブルンゲルが盟友
時雨デスカーンに贈呈しようとしていた物だった。
勿論そんなものをデスカーンは使わないだろうが
こんな「怪物」の手に渡るならデスカーンが持っていた方が幾らかは善良的であっただろうに。
否、手に渡ると言うよりかは手に戻るが正しい。
元々この呪物はゼロ卿の持ち物である。
と言うより彼が書き記し監修したのだから−−−
だから甦らせたい者の名前を呼ばなければ作者−−
ゼロ・オーレライ・ヴィ・シンボラーが死者として甦るのも必然と言えるし、ならばピリヤ・ココロモリがこの呪本を使ったのも必然と言えるのかもしれない。
そして最悪の魔導師が
戦士の資格−−メイガスを手にいれてしまったのは最早どうしようもないほどの確定事項だったのやもしれない。
そんな運命の悪戯がこの
生存競争を波乱に巻き込むなど
誰もがまだ−−−−知らなかった。
「−−−ええと−−取り合えずぅ……アンタ誰?」
いきなり目の前に出現したナスカの地上絵を思わせる男に対して第一声として浴びせる声がソレだったのは仕方のないことではあっただろう。
「我が名はゼロ・オーレライ・ヴィ・シンボラー……オーレライ復活教会の開祖……そしてソナタの使用した「
死者無限復活読本」の発明者でもあります。そして……逆に問いましょう…アナタ………名を何と申しますか?」
「えっ!?俺……ですか?え〜と俺はピリヤ・ココロモリです。ヨロシク……」
ぎょろりと目をココロモリの方に向けるゼロ卿。
そして−−−
ニコリと微笑むとココロモリの手を取った。
「わたくしを現世に呼び戻し、再びオーレライの信仰を奨励しようなんて……アナタはとても信心深い方なのですね……わたくしは敬服の念を隠せませんよ!ココロモリ!!」
その男のテンションの高さにココロモリはちょっと怯えながらも
「あ……ドモドモ……」
とか言ってるのだから非日常への体制は流石−−
出来ているのだろう。
「さぁ!!!言うなれば外の世界に躍り出ましょう!!
信仰を持たぬ愚民供に信ずるべき物は何なのか何たるかを教えに……!!教授しに行きましょう!!!」
もう外に行く気満々のゼロ卿は目を輝かせている。
正直な所信仰を振興するなんて非日常を愛するココロモリからすれば退屈極まりないものに思われたが
まぁ折角誘われたんだしついていってみるか−−−
と結局流されるカタチになってしまったのは自業自得と突き放すべきか、ソレとも同情してあげるべきなのか
少々判断に困るものであった。
「……なぁ、アンタの名前……スゲー覚えにくいからさ?
シンボラーで良いかな………?」
そんなココロモリに対して
「構いませんよ……!!このワタシにこんなにフレンドリーにしてくれるなんて貴方は本当に優しい御方だ…!」
そう言うと彼等は地下室の階段を登り始めた
こうして二人の
戦士と支援員が新たに誕生したのであった。
どちらも
生存競争については全く知らない。
ココロモリは単に存在を知らないから。
シンボラーは単純に
生存競争の成立が自分が産まれて死んだ時代より後の出来事であるから知らないのは当然である。
このグループがこれから巻き起こす災禍は
生存競争の枠組みを越えて、長らく保たれていた「平和」にヒビを入れる事となる。
だが…その展開を知るものは未だ存在していなかった。
__________________________
砂漠の地下室−−武器庫
ロット・デュラック・ランクルスの所有する武器庫のなかでは最も広い武器庫に向かってランクルスの従者、ブリストル・ゴルーグは急ぐ。
−−ついてきたのは−−
「……忍者ノ方カ…………」
余り好ましいとはいえ無い流れだ。
見た所、忍者−−時雨アギルダーは搦め手を得意とする騎士のようで相手をするなら臨機応変に動ける柔軟なランクルスの方が適していた。
逆にフルプレートの騎兵−−時雨シュバルゴは真っ向勝負を得意としているようなのでブリストル・ゴルーグにとっては後者の方が戦略的には「楽」であることは疑いようもない。
と、広大な武器庫の中央で立ち止まりついてきた時雨アギルダーに向き直った。
「……クックックッ笑笑笑……どこに誘き寄せられたかと思えば………貴様たちは一体全体どれだけの武器を作れば気がすむのやら……」
アギルダーが感嘆の声をあげる。
「ランクルスガ作リタイと言ッテイタノデナ………ナラバ私ハソレニ永遠ニ付キ従ウノミ……」
ゴルーグとしてはランクルスに絶対の忠誠を誓っているつもりだ。あの人とはとても、とてもとても長い付き合いなので彼の考えている事など手にとるように分かる。
彼の為にその命を使うつもりだ。
命を救われた−−あの日から……
「……ならば……死に場所が此処でも文句の一つも有りはしまい?」
と、時雨アギルダーは一歩ずつ踏み込みゴルーグと反対の方向に懐から出した八枚の手裏剣をばらばらと投げる。
−−騎士法−−手裏剣八咆哮ッッ!!!
先程にランクルスに向けて使われたのと同じ技だった。
風を切る手裏剣は正しく咆哮のように唸り、うねりながら八方向からゴルーグの命を刈り取る為に中心に向けて集結する。
そして迫った手裏剣はゴルーグの身体に刺さる………!!
身体中を手裏剣に刺されてゴルーグは地に倒れ伏す………
と言うことは無かった。
「………」
「…ホウ……これは驚いた………よもや…拳士だったとはな……
どうりで…よいガタイをしておるわけだ………!」
ゴルーグに刺さっているように見えた八枚の手裏剣は全てゴルーグの鋼鉄のような身体にうけ止められ床にばらばらと金属音をたてながら落ちた。
「ランクルスカラ全テヲ教ワッタ………手裏剣ヲ投ゲルダケガ取リ柄ダト言ウノナラバ今ノ内ニ逃ゲタ方ガ得策ダ」
アギルダーは笑笑笑と笑う。
何時も道理に変に笑う。
そして口を開いた
「…お前たちはあのゾロアとか言う小僧に良いように使われて良いのかな?」
「……ソレハランクルスが決メル事ダ。ランクルスの決定ナラ是非モ無イ。」
「あやつは闇同盟とは関わりは無いと言っていたが……果たして何処まで信用しても良いのやら………かくいう私も闇同盟からのスパイかと危惧し時雨の里を出た後から追跡してた訳なんだがな………」
−−実際問題レイト・ゾロアの願いなんてのも大した願いじゃあ無かったのよ……調べた結果な−−−
「……?ドウイウコトダ……」
気になるか−とアギルダーは続ける。
「 奴の願いは−−−−」
__________________________
砂漠の陸上。
吹き荒れる砂嵐をものともせずに
立っている者達が居た。
一人は我らがロット・デュラック・ランクルス
そのスマイルマークがトレードの武器職人だ。
鎧を着て背中には大きな鎌のような物を背負っている。
それに対峙するのは
二本の長槍を携えたフルプレートの騎兵−−眼光が鋭く見たものに貫かれたと錯覚させるような−−そんな目を持つ男だった。
時雨騎士領十二騎士皇が一人「重装のシュバルゴ」
時雨シュバルゴ。
三人目は−−ランクルスの後ろに……ランクルスを盾のようにした位置で震えつつもシュバルゴを睨んでいる−−
高貴な身なりをした少年−−レイト・ゾロア。
「……ひどい砂嵐だな……だが……戦場としては上出来だぜランクルス。あの狭ッ苦しい部屋よか十二分にマシだ。」
長槍の男−−時雨シュバルゴは余裕綽々といった風に続ける。
「しかしアギルダーの野郎大丈夫かねえ……」
−−いやなに と、
「…実のところネタバラシするとさアギルダーの野郎は事、攻撃手段に置いては手裏剣しか使えねえんだよ……だからもしもアンタの相棒さんが手裏剣術……あぁー手裏剣八咆哮だっけ?あれを防ぎきれる術があるならあんまり相方の心配はしなくていいと思うぜ………?」
敵の言葉に安心も何もあったものでは無いが……
仮に本当だとして−−だとするならばゴルーグには万に一つも敗因となる設定は無い。
−−−だからこそ と
シュバルゴ
「俺との騎士対決には一切の雑念を抱く必要なんてねえ!
いやさ……雑念を抱く余裕すら与えねえ!!」
とシュバルゴはランクルスに向かって跳躍し−−−
「斬鉈陰!!」
先程の十二段突きだが………!!
−−威力と速さが違うッ!!!
おそらくは手加減とまではいかずとも何らかの制限をかけていたのだろう。今繰り広げられてる斬鉈陰なる技は先程とは全く異なっていた。
「そりゃああんな狭い所でおもいっきり戦うとか…無理だろって……。だから言ったんだよ戦場としちゃあ此所は広いと言う点で上出来だってな!」
十二回分の突きを背中に刺していた鎌で何とか応戦したが……二回………かすられた。
ランクルスの右手と左頬からは血が流れていた。
と
「あぁぁぁぁ!!ランクルス!!怪我……!!」
レイト・ゾロアが取り乱して居た。
このくらいなら割りと直ぐになおるんだけど………
あんまり痛くないし………
あの傲慢な少年は血を見て弱気になっているのか
それとも少なからず自分のせいでこんな状況になりランクルスに対して申し訳ないと思う気持ちがあるのか……
さて……どうやら後者のようだった。
「……ごめん……ごめん……ごめんランクルス……ごめん……」
先程まではその態度にちょっとムカプン!としてしまったランクルスではあったが……ここまでされるとちょっと気の毒に思う。
彼は優しかった。
「大丈夫………このくらいならどうってことはない……早くコイツを倒して夕飯が食いたいよ……ねえゾロア。」
「……え?」
夕飯……凡そ戦場では中々聞くことの無い単語にゾロアが反応する。
「…そ、夕飯。ゴルーグの作るご飯はとっても美味しいんだ……だから腹一杯飯食ってとっとと三人で寝よう。」
「……そ……ソレって……」
「
生存競争とかなんとかは知らんけども取り合えず話は聞いてあげるよ?僕は優しいので有名だからね!」
ランクルスが優しくゾロアに語りかける。
ソレだけでゾロアは泣き出してしまった。
「……え?え?何々なんか酷いこと言っちゃったかな……!?僕!」
今まで無理して傲慢に振る舞っていたその「何か」がランクルスの言葉で崩れ落ちたのだろう。
「……ふぇ……うっ……ヒッグ……」
涙が止まらないゾロアに対してポンと頭に手をのせる。
「まぁそのあれだよ!何だっけ?取り合えず君のパートナーになれば良いんでしょ!?だったら今は君のパートナーだ。君を守り抜こうか、騎士としてね?」
ランクルスはそう言うとシュバルゴに向き直る。
「………感動タイムは終わりで良いのか?俺は師匠のアバゴーラとは違って十分に空気の読める騎士だからな無粋な真似はしねえよ。」
………そのアバゴーラと言う騎士が空気の読めない騎士だと言うのならば彼も師匠の色を濃く受け継いでいることはもはや明確であった。
「………行くぜ!時雨騎士法………斬鉈陰!!!」
十二段突きが来るのは最早分かっていたことなのでランクルスはシュバルゴから距離を取り………
大鎌を構える。
「湖の精よ……僕に力を分けてくれるかな?
湖光の夢を奏でる曲戦斧!!」
強力な衝撃波だった。それは近づいてくるシュバルゴに炸裂する!
「……ぐぁぁっ!??何だそれは!!?」
シュバルゴが叫ぶ。
「………これは………とある知り合いの騎士から託された物だよ……ロットメア・ミュジカリアス………神具とまではいかないのだけれども優秀な一品だよ。」
「………ならば………もう容赦はしねえよ……湖の騎士……」
シュバルゴから風が巻き起こる
「……ランクルス!」
「分かってるさ!」
ゾロアの心配そうな声にランクルスは自信を持って応える。
「……これを出させた事を後悔するなよ……騎士王……」
カッ!とシュバルゴが目を見開く!
「時雨騎士法:強制接続!!!!」
超高速で時雨シュバルゴは突っ込んできて!!
「雷震刀屡!!!」
槍による突きだったが違うのは雷を纏いながら槍が高速回転している事だろうか?
もしもあれに触れたら電気で焼き付くされ槍に斬られ文字通り風穴を空けられるだろう。
だがランクルスはそれを地面から飛び出した何かで受けとめた。
__________________________
「奴の願いは「世界に幸せが増えること」だ。」
「ハ?」
時雨アギルダーのその唐突な場違いな……
それこそ子供が考えたような願いにゴルーグは一瞬理解が追い付かなかった。
「それが奴−−レイト・ゾロアの願いだ。どうだ?滑稽な願いだろう?殺し合いに参加してなお求めるものが他者の幸福だと?笑笑笑……いや、笑えないぞ……そこまで他人に尽くせる者など世の中には存在しない。誰もが己の私利私欲の為に動くのだ……そんな……命と引き換えに幸福を求めるなど………」
−−壊れている−−
時雨アギルダーは言う。
ゴルーグにはどういう覚悟でその幸福と言う言葉を彼が唱えたのかは分からない………しかし……簡単に一蹴して良いものでないのは分かった。レイト・ゾロアの真剣な表情………それは決して挫けないと言う不屈の意思を込めた物だった。
−−ソウカ、ダカラ−−
有り体に言ってゾロアに戦闘能力は無さそうだった。
それでも自分で
戦士として
生存競争に参加しようとしていたのにはきっと確固たる意思があったからなのだ。
無謀だとさえ思う。
だが、きっと彼にとれる道はそれしか無かったのかもしれない。
そもそもこの話を始めたのはアギルダーなのだがその真意は別にある。
ランクルスとゴルーグを懐柔しようなどと言うのではない。
元々彼等には暗殺指令が下されている。
連れ帰ったところで殺されるだけだ。
話によってゴルーグから間合いをとる時間が必要だった。
無論話の内容に虚偽は無い。
時雨アギルダーが集めた正真正銘の情報だ。
だからこそこうして騎士法を発動出来る領域にまで移動出来たのも彼の実力の内と言えよう。
−−悪いが捕らせて貰うぞ……時雨騎士法−−−
「時空破りッッ!!」
「ッッ!?」
ゴルーグが気付いた時にはもう遅い……
目の前から時雨アギルダーの姿は消え去っていた。
否
「………時空破り……二の門」
ゴルーグの背後にアギルダーが現れる!
そしてそこから手裏剣八咆哮を繰り出す。
「ナニッ!?」
繰り出された瞬間にはゴルーグの手前にアギルダーは移動していた
−−見エナカッタ!!?−−
直前に放った手裏剣八咆哮がゴルーグの体に炸裂する前に新たな手裏剣八咆哮を繰り出すアギルダー。
合計16本の手裏剣が風切り音を上げゴルーグに迫る…!
「グハッ………!!」
さしものゴルーグでも十六本の手裏剣を同時に肉体で受け止めるのは出来なかった内5本がゴルーグの肉体に刺さっていた。
「クックック……笑笑笑……これぞ騎士法時空破りと手裏剣八咆哮の組み合わせ……名付けて十六時空咆哮……」
得意気に笑うアギルダーはゴルーグからかなり離れた位置に居た。
「……ランクルスノ為ニ……マダ倒レル訳ニハイカナイ!!」
「……笑笑笑……その粋や良し………ならばもう暇を与えてやろう……ゆっくり眠れよブリストル……」
と、その時
「…………何だ……こんな時に………緊急招集………だと……」
手裏剣を構えていたアギルダーは上を向いて何かを呟くと
「………命拾いしたな……ブリストル……ならば何れ会うことになるのだろうな……その時に決着をつけるとしよう。」
−−−精々努力するが良い……笑笑笑……−−−
そう言うと時雨アギルダーは空気に溶け込むが如く目の前から姿を消したのだった。
時雨アギルダー−−恐るべき騎士−−
奴の使う時空破りとやらを次回までに破る手だてを考えなくてはならない
自分は−−弱い−−
今回の一件で分かってしまった。
ランクルスを守る為には足りない……
かつて命を救ってくれたランクルスに恩を返せないではないか……
悔しさの余り壁を叩くゴルーグの嘆きは
次の瞬間に起こった地響きにかき消された。
「…!!?ランクルス!!アレヲ出シタノカ!!??」
地響きは鳴り止まず砂ぼこりが巻き起こった。
__________________________
「……な………んだ……これは………!!?」
「ッッ!これは………!!?」
時空シュバルゴの驚異的な一撃である
「雷震刀屡」を受け止めたのは地面から飛び出た黒い盾だった。
否、盾ではない。
どんどんと砂が巻き上がり巻き起こり
地面から現れたのは「船」だった。
黒く鈍く光る「船」
それの全長は10メートルは在るのだろうか?
とてつもなくゴツいデザインに幾つもの砲台がついている……碇もあるとなればもう……これは………
戦闘船であろう。
「……いや……マジで……:何だ……これ……」
攻撃することも忘れ呆然と黒船を見上げるシュバルゴだが
直ぐに戦闘中だと言うことを思い出したのか……それでも
体験するまでもない「火力」の差を見せつけられたシュバルゴには戦闘意欲等残っていなかった。
「……
湖光の夢へと向かう王の鐵船………僕の切り札だよ……さてこれに勝つ自信があるならば相手になるけどもね?時雨の騎士さんたち。」
たち?
成る程シュバルゴの横にはアギルダーが現れていた。
「なっ!?アギルダー!ゴルーグをどうした!!」
ゾロアが叫ぶ。がアギルダーは
「案ずるな……今のところは引き分けだ……ホラ」
見ると流砂からブリストル・ゴルーグが飛び出した。
「ランクルス無事カ!!?」
ゴルーグが心配そうに声をかける。
「……僕は無事さ……さて?どうするね?」
ランクルスはゴルーグに優しく無事と伝えると
底冷えするような声で時雨の忍びと騎士に最後通帳を言い渡す。
「……引き上げるぞ……シュバルゴ緊急招集だ……」
「………チッ……テメエら次あったらこうは行かないと思えよ!!俺ら虫組が三人揃えば!テメエらなんて一撃だ!」
負け犬の遠吠えを吐くだけ吐いて
時雨騎士領の個性豊かな二人組は姿を消した。
恐らく時空破りだろうとゴルーグは思う。
「……行ったか……ふぅ……」
ランクルスはその場に座り込む。
そこにゾロアがやって来た。
「……あの……ご免なさい……こんな事になってしまって……」
うつむきながらそう言うゾロアにランクルスとゴルーグは優しく言う。
「「気にするな」」
と
「さあて?
生存競争は一ヶ月後だっけ?」
「アア……一ヶ月後ダナ。シッカリト準備シナイトマタ面倒ナ事ニナルゾ?」
ランクルスとゴルーグは
生存競争について話始めた。
その様子にゾロアは驚いて
「…ちょ……!?二人とも
生存競争に出るきは無いって……」
「ちょっとね君の姿を見てたら力になってあげたいと思ってね……それに何だか面倒臭い騎士にも命を狙われているとあっちゃあ伸び伸びとは暮らしていけないもんねぇ」
「うっ……!それはその……ご免なさい………」
多少最初よりも素直になったゾロアの頭に手をのせる。
「備えあれば憂いなしだよ……
生存競争に参加する準備をしようか!」
「うんっ!」
「オウッ!」
そう意気込むロット・デュラック・ランクルスの左手には
本人も気付いて居なかったがカードの形の「紋」が刻まれていた。
__________________________
時雨の騎士と名乗った男−−−時雨デンチュラは果たしてそこに居た。
つい先程まで剣聖・剣ドリュウズと剣ミジュマルが剣の鍛練をしていた海岸………。
そこに時雨デンチュラは腰に巻いた鎖の先端を振り回して待ち受けていた。
「………待ちくたびれたぜ剣流……お兄さんホントはもう勤務時間外なのよねー。これ以上働いてもお給料出ないの、
これ出張社員の辛いところね。」
さめざめと泣く振りなのだろうが……泣いている時雨デンチュラを冷たくミジュマルは見据える。
その間にも時雨デンチュラはヒュンヒュンと鎖を振り回すのを止めない。いや違う!先端には何か……固そうな物が付いている!
「知ってるか?剣流……ホントはお前は今回の
生存競争に参加する筈じゃ無かったらしいぜ?」
鎖を振り回しながら時雨デンチュラは言う。
それには思わずミジュマルも身を乗り出してしまった。
「……どういう事だよ!」
「まぁそう怒鳴るなってがなるなって……ったく剣流ってのは短気な奴が多いのかよ……お兄さん疲れちゃうぜ」
デンチュラは鎖はそのままに話を始める。
「元々剣流にはお前とドリュウズ以外にも剣士が居たらしいのよ、今世代にな。だけどソイツは前回の
生存競争で姿を眩ましちまったらしいな。確か剣ドリュウズと一緒に前回の
生存競争には出てドリュウズの支援員を勤めてたって話だぜ?」
その話を聞いて目眩に襲われるような感覚を覚えた。
頭を力一杯殴られたかのような。
−−思い出せそうで思い出せない。
顔が−−顔にフィルターがかかったかのように
−−ミジュマルを−−出すくらい−−ならば−−
俺が−−
−−だめだ−−お前は三代目当主では−−無い−−
−−当主でなければ−−
戦士には−−なれない−−
「……くっ……ううっ……」
頭が痛い
もう一人
剣流のもう一人の剣士。
名前も思い出せず−−
そこだけ記憶がやきつくされたかのように
触れると−−熱い−−
「まぁソイツは当主では無かったから
戦士には選ばれずそれに拗ねてどっかに行っちまったって話だったっけか?」
合ってる?
とブルーの瞳を歪ませて聞く時雨デンチュラ。
「ソイツの名前は−−−」
言いかけた所でデンチュラはバックステップして飛来した槍をかわす。
「ドリュウズ……?」
見れば槍は銀の輝きを放っていた。
「それ以上口を開くな。我ら剣流に干渉するのは止めて貰おうか……時雨騎士領の騎士よ……」
「えぇーー折角良いところまで行ったのに−−次回のお楽しみって事?」
「貴様に次回等無い……お前は……深入りし過ぎたんだよ。
物語を盛り上げるだけの噛ませ犬ならば噛ませらしく登場して全ての技を出しきったら大人しく噛ませらしい台詞を吐いて死ねば良い。」
−−それが貴様に出来る最後の仕事だ。
とドリュウズは言うとミジュマルに向かって
「油断するな……敵はあらゆる手段で此方を出し抜こうとしてくる………ミジュマル!」
まだ頭痛が抜けないでフラフラしているミジュマルをドリュウズは一喝する。
「…大丈夫……。デンチュラ……今はお前を倒すのが僕の使命だ!ドリュウズ……ツタージャは?」
「申し訳無いがそのままだ。ツタージャを縛っている鉄線に見えた物………あれは「糸」だそれもかなりの粘着性と電性を帯びている。無理に引き剥がそうとするとツタージャに電流が流れる仕組みだ。」
ドリュウズがデンチュラを睨みながら続ける。
「……金の槍で絶ちきろうとしたが切る以前に粘着性で上手くイカン……ツタージャの体にくっついてしまっている……糸は切れなかった。」
「そゆこと〜詰まりお前らもあんな風にされてあの世行きなんだよね。さあ!最後に言い残すことはあるかい? 俺は命乞いして貰うのが楽しみで仕方ないんだよね。」
−−命だけは助けてください−−−
−−安心しな!お兄さん命以外は取らねえからよ!
「このやり取りが堪らなくてさーついついやっちゃうんだよねぇ……で?命乞いは?」
「外道が……ッッ!」
ドリュウズが怒りに目を細める。
「……もう喋らなくて良いよ…デンチュラ……
君のその腐った思考をする脳みそをぶったぎってやるよ!」
剣ミジュマルは動いたがそれよりも早くデンチュラは鎖をミジュマルに向けて放つ
それをミジュマルはかわして「貝殻」を構える。
「貝殻」からは水があふれでて剣の形をとった。
−−一気に決める!!
時雨デンチュラに肉薄するミジュマルだったが
デンチュラの方が空高く跳躍して−−
「勤務時間外だけどしゃあ無いかねーっと!!時雨騎士法:雷糸縛鎖!!」
途端−−危険を察知したミジュマルは剣の形に変形させた水を盾の形に変える。
デンチュラは口から黄金に輝く糸を吹き出して攻撃する。
が、それはミジュマルを狙った物では無かった
「……なっ!?」
剣ドリュウズに向けて放たれた黄金の糸はまるで蜘蛛の巣のように空中でネット状に広がりドリュウズを包み込む!
銀の槍があれば銀のカーテンで身を守ることも出来ただろうが……銀の槍は先程の投擲によりドリュウズの手元には無かった。
従って
剣ドリュウズは蜘蛛の糸に絡めとられたのであった。
「改めて名乗り直そうかあ。時雨斬撃殲滅騎士領、十二騎士皇が一人−−「雷縛のデンチュラ」時雨デンチュラだ。
冥土の土産に覚えときな!」
「……ミジュマル!これは…!」
「十二騎士皇……………!!」
ミジュマルとドリュウズが叫ぶ。
デンチュラはニヤリと笑うと
「さてさてこれでもう邪魔者は居ないな……?剣流……」
剣ドリュウズもフォン・ツタージャも動けず。
戦えるのは剣ミジュマルのみだ……
ミジュマルは歯軋りする。
最悪だ……最悪と言って良い程に事態は不味い。
先ず相性が良くない。
自分の属性は「水」であり
相手は「雷」「虫」である。
更に時雨の騎士皇と言うことは騎士領の中でも選りすぐりのポケモンなのだろう。ハッキリ言って実践経験だけなら剣ミジュマル等赤子の手を捻るのよりも簡単に捕獲され補食されてしまうだろう……
「……どうした?剣流……もう足掻かなくて良いのか?剣聖とか言うからとっときの神具まで用意したってのによ……」
そう言うと時雨デンチュラは腰に刺した一本の剣を取り出す。
黄金に輝いていた。
いや違う、黄金の煌めきの正体は−−−
「
避雷剣・疾風怒涛−−雷とか電気の全ての特性をその刀身に詰め込んだ神世の代物らしいぜ?」
成る程納得だ。あの
雷刀石火なる技もあの剣ありきの技であろう。
「さぁてと……折角だからこの疾風怒涛で蹴りをつけてやろうかね?大丈夫殺すのはお前だけだよ剣流…痛いのは最初だけだ……直に慣れるさ……」
−−その頃には黒焦げだけどな!−−
「雷刀石化!!」
そう言うと時雨デンチュラは「光速」にも等しい速さでの突きを繰り出した!
咄嗟に構えて
防御結貝を張ろうとするミジュマルだが
「……鈍臭えんだよ!!剣流!!!」
その速さで背後に回り込まれて一撃を喰らう
神具の一撃ともなれば威力は絶大だ。
ミジュマルなんて相性の悪さもあって一瞬で命の危機に晒されるだろう。
しかしミジュマルにその刀身が届くことは少なくとも今は無かった。
ぱんぱんぱんぱんと四回乾いた音が聞こえた。
銃声だった。
デンチュラは弾丸を剣の腹で受けた。
「なんだとっ!!?誰だ!!」
時雨デンチュラは慌ててミジュマルから距離をとる。
銃声のした方−−そこには銃を構えたフォン・ツタージャが居た。
「貴様………どうやって!俺の雷糸縛鎖を−−−」
途中で気付いたのだろう。
見ればツタージャは少々変わった格好をしていた。
ドリュウズが蜘蛛の巣に絡められながら勝ち誇った様に言う。
「言わなかったか?粘着性が酷すぎるから糸は切れなかったと。」
−−だから木を切った−−
ツタージャは背中に木の幹を背負っていた。黄金に輝く糸で木と共に縛られながら。
それでもツタージャは狙いを外さない!
「……ッッ!テメエら!!剣流とか何とか言いながら銃なんて使ってんじゃねえよ!!」
−−−読者舐めてんのか?ワレェ!!
といきり立つデンチュラだが
「……ヤレヤレだね…そんなに沢山武器を使うのに「銃剣」の存在を知らないのか。これだから時雨の騎士は−−−」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!テメエらみたいな偽物剣術士に負けるわけがねえんだよ!!!「
雷刀石火!!」」
とデンチュラはツタージャに肉薄−−
出来なかった。
ぱんぱんぱんぱん と更に四回の銃声が鳴り響く。
「鋼鉄機弾……!」
と デンチュラは体中で余すところなくその銀の弾丸を受けることとなった。
「グ……ガァァァ!!」
痛みで叫びをあげるデンチュラだが
何とか耐えて−−堪え忍び
「こうなりゃミジュマルだけでも道連れだぁぁぁぁぁ!!!!!「
雷刀石火!!」」
光速の突きは今度こそミジュマルを捉えた。
が−−
「……何ィッッ!!??お前!!
雷刀石火が見えるのか!??」
デンチュラの疾風怒涛をミジュマルは
防御結貝で受け止めていた。
「……どんなに光速で動ける剣があっても結局は物理攻撃……最終的には相手の懐に入るんでしょ?」
「…し、しまった……!!」
−−だから君が来るのを結貝を張って待ってただけだ−−
と、剣ミジュマルは勢いを殺され結貝の前で動けずにいる
時雨デンチュラに対して剣流の奥義で迎え撃つ
盾の形の結貝を
剣の形に変えて
剣流の−−
デンチュラが馬鹿にした剣流の奥義で相手取る。
「槍とか銃だと不満みたいだから望み通り剣で相手をしてあげるよ」
とミジュマルは構えて剣を振るう。
大切な者を守るため−−
目的の為に行動をしたことの無い剣士が
目的を持って剣を振るったらどうなるのか
剣ドリュウズもその結末を見ることとなった。
「つ−−剣流ッッ!!!!」
「
水流剣斬!!!」
容赦のない一撃が時雨デンチュラを襲う。
−−剣流四代目当主−−剣ミジュマル−−
若くしてその手で守るべき者のため
他者の命を手に掛ける。
この瞬間彼の右手には「剣」の形の「紋」が刻まれた
これが彼の悲しくも
戦士として最初の「殺し」となった。
「キリキザン……………残業手当……向こうに行っても送れよな……」
それが時雨斬撃殲滅騎士領十二騎士皇が一人「雷縛のデンチュラ」
時雨デンチュラの残した最後の言葉だった。
__________________________
生存競争開始3日前−−
時雨の里の時雨御殿には時雨斬撃殲滅騎士領の十二騎士皇全員が揃っていた。
と言ってもそこに居るのは十二人では無く十人であったが。
「これだけまっても来ないと言う事はどうやらデンチュラは落命したと見て間違いないだろうな」
そう言うのは彼等の中でも位置から考えて纏め役のような存在なのだろう
紅くもえるルビーのような鋭い眼光をもつ男。
「斬滅のキリキザン」時雨キリキザンである。
その腕には当たり前の様に騎馬の刻印が刻まれている。
「……俺は信じない………デンチュラ様が落命だと……?あり得ないの一言に尽きるぞ……!」
そう言うのは全身を包帯で巻き付けた忍びのような格好の男。
「神速のアギルダー」時雨アギルダー。
「……コイツと同意見なのは腹に据えかねるが……デンチュラ様と落命って言葉が結び付かねえんだよ……」
彼もまた不思議な格好をしていた。
全身鎧で両手には槍を携え、見たものには射ぬかれたと錯覚させるような鋭い眼光の男。
「重装のシュバルゴ」時雨シュバルゴ。
「あの方が倒されたとなると今後の諜報任務に差し支えが出ると思われますが………キリキザン様はどうお考えで?」
そう言うのは全身に紫色の刺青を施し……体中に革のベルトのような物を巻いた女−−その妖艶さは一つの挙動を取ってみてもあせることがない。
「先送りのコジョンド」時雨コジョンド。
「ウム………
生存競争での情報収集にはアギルダー、ヒトモシ……貴様らに動いてもらわねばならないだろうな。」
名前を呼ばれたアギルダーは未だに納得していないのか目を細めるが頷いて了承の意を伝える。
そしてもう一人
「……!ひゃっ!……はいっっ!!!!」
この十人の中では恐らく最も年若い騎士−−
彼は怯えたような口調で同じく了承の意を唱える。
「結界のヒトモシ」時雨ヒトモシ。
本来ならば戦闘に向かない筈の臆病な性格である彼に出番が回ってきたのは前述の通りだ。それには心を痛める者も居れば利用しようとするものも居た。
年齢が二桁に届くか届かないか位であろうに
「…………あ……あのぅ……」
「ん?」
か細い声でヒトモシがキリキザンに話しかける。
「キリキザン様……キリキザン様に報告しなければ……い……いけないことが……」
「なんだ?申してみよヒトモシ」
「はっ……はい……!!ええと……ええとええと……メ………メイガス………」
「メイガス……?魔術師の
戦士か……まさか
戦士の正体が分かったと申すか?」
「は……はい………!!せ………
戦士の名前は……ぜ……ゼロ……」
ヒトモシは意を決した様に言う。
「……ゼロ・オーレライ・ヴィ・シンボラーだそうです……!!」
これには他の騎士皇の面々も面食らったようでざわつき始めるがキリキザンはそれを片手で制す。
流石のキリキザンでもこれには真偽を疑う話で
それは真か?と聞き返していた。
「そうか−−ヒトモシ……お前がそう言うのなら我はお前を信じよう。」
とキリキザンは前を向き直り
「そんな恐るべき魔術師が時を越えて参戦すると言うならそちらはお前たちに動いてもらおうか?時雨鳥組」
と鳥組と呼ばれた者達の方を向く。
「フォッフォッ良かろう…そもそも我等は魔術クラスと暗黒クラスを相手にすると言う話であったしのう……
丁度良いわい。」
そう言うのは時雨鳥組指揮官
「岩泊のアーケオス」時雨アーケオス
時雨騎士皇は便宜的に四つの組に別れている
・時雨刀組
時雨キリキザン
時雨アバゴーラ
時雨コジョンド
・時雨物組
時雨デスカーン
時雨マラカッチ
時雨ヒトモシ
・時雨鳥組
時雨アーケオス
時雨ウォーグル
時雨バルジーナ
・時雨虫組
時雨デンチュラ
時雨シュバルゴ
時雨アギルダー
因みに一番上に居るのが指揮官なのだが
最早キリキザンとアーケオスのみとなってしまった。
デンチュラはどういう事かは分からないが連絡がつかず、
デスカーンは始まる前に裏切った。
残る騎士皇は十人。
「私には異論は有りません。」
そこで強気そうな目をした骨の紙留が目立つ女−−
「氷結のバルジーナ」時雨バルジーナが合意を口にする。
続いて
「俺達はキリキザン…あんたに従うのみだ……あんたが命令してくれりゃあ俺だけじゃねえ……里のドイツもコイツもがこぞって命を投げ出すよ……」
遠回しに合意を表明するぶっきらぼうなイメージを持たせるボサボサの髪の毛の男
「甦りのウォーグル」時雨ウォーグルだった。
「フム……では異論が無いようなので鳥組の面々には騎士クラス以外の4クラスの相手を任せよう。
虫組は鳥組と共に行動したまえ。指揮官がいないとなれば二組で行動するしかない。」
「それにしても−−−」
と老人……腰に一本の刀をさげた男。
「永劫のアバゴーラ」時雨アバゴーラが続ける。
「デンチュラが死んだとしてあやつの持ってた刀−−
「
避雷剣・疾風怒涛」はどうなったのやら−−」
シュバルゴとアギルダーがデンチュラの名前に対して苦渋の表情をしているのに気付かずに続ける
「確か話によればデンチュラは剣の流派の居る島に向かったそうじゃあないか。となるとかの剣は剣流の手に渡ったと考えるのが普通か?奴等はほぼ全ての剣を扱うことが出来る剣のスペシャリストだからな」
「アバゴーラ殿は剣流の剣技についてご存知で?
キリキザンが言う。
「ああ……儂もまた剣士として知っておる……先代剣ドリュウズとは一度手合わせしてみたいものじゃと常々思っておってのう。」
実際アバゴーラの剣術は時雨騎士領の中でも敵うものなど居ないと言われるほどで恐らくは彼の剣聖・剣ドリュウズに並ぶかそれ以上であることは間違いないだろう。
「それで?それで?それで?我々物組は貴女方貴殿方刀組と共に行動をすれば良いのですね?善いのですね?」
話を元に戻す意味も込めてニヤニヤと笑っているどこか歪さを感じさせる男
「霞隠のマラカッチ」時雨マラカッチが言う。
「ああ、その通りだ。物組には刀組と共に行動してもらう」
−−そしてもうひとつ−−とキリキザン
「裏切りをした時雨デスカーンの対処についてウルガモスから伝令だ……」
全員が息を潜める中キリキザンは言った。
「殺して良し。
生存競争で出会う可能性大だ。」
冷酷な決断に暫く時雨御殿は静まり返っていた。
__________________________
生存競争前夜−−その夜の空気はとても冷たかった
まるで刃物で突き刺されるような緊張感。
そんな夜だった。
「やあ……今晩はデスカーン……体調はどうかな?」
「……良いように見えるならお前は眼科に行った方が良いぞ……」
オーレライ復活教会の礼拝堂にて、
その床には魔方陣のようなものが描かれていた。
「……間違っては居ないと思うが一応確認しといてくれよデスカーン……」
デスカーンは見るからに疲弊して窶れていた。
それもこれも
願望器に存在を見つけてもらうために
霊薬を大量に服用したからである。
霊力は一時的にとんでもない量にまで増大した。
そして目論見通りデスカーンの右手には鎧の紋が記されていた。
しかし副作用が酷かった。無理矢理ホースを引き伸ばして入れられる水の絶対量を増やすだけ増やして
霊薬の効果が切れたら中身が空っぽなのだ。これが体に良い訳がない。
だがデスカーンは疲れきって倒れそうな体を引きずる様にして魔方陣へと向かう。
「時間……24;00になれば自動的に儀式が始まり
戦士としての能力とクラス特性、神具の力が付与される筈だよ。それまで後3分だね……」
デスカーンの意識は残り三分を乗り越えるためだけに総動員された。
_________________________
「成る程ね後3分でこの魔方陣の中に
戦士の力が流れ込んで来るわけなのかい……」
「ああ、この儀式をしない
戦士は神具を
願望器から受けとる事が出来ない。自分の武器だけで勝ち抜く事になるんだよね。」
砂漠の地下室の魔方陣の中には二人
レイト・ゾロア
ロット・デュラック・ランクルスが座っていた
「この時間よりも後とか前とかに
戦士の能力を強制召喚していると神具は自分のクラス特性とマッチしにくいらしいよ」
彼等は知る良しもなかったが実際に今回の
生存競争において事前召喚していたのはメイガス、セキュラーとアルケーの
戦士だ。
メイガスは違反召喚により。
セキュラーは主の意向により。
アルケーは資格を簒奪したが為に、
簒奪した相手が既に事前召喚してしまっていたと言うのが大きい。
ゴルーグは魔方陣の解れを直して只見守るのみ……
__________________________
「召喚の為の魔方陣は特製の物を用意してやったわい……感謝すると良い……神具もとんでもない程に強力な代物を用意してやった。しかし取り扱いには十分に注意するのじゃぞ」
最近姿が見えないと思ったら神具の為に奔走してたのかと思うと少なからず感謝してしまうキリキザンは本当に優しすぎた。
「では……参りましょうか……戦争へ」
キリキザンとウルガモスは時雨御殿の地下へ向かった。
残りは2分。
_________________________
「ハハハハハ!さあ!サザンドラ、セキュラー、ギガイアスよ!私が私の望む平等な世界を手にいれるための力を神から簒奪するその瞬間!見物することを許すぞ!」
いつになくテンションが高い闇同盟リーダー、ダークレスウェル・ゾロアークだ。
「………主はノリノリですな」
「こんな一面も持ち合わせているとは……中々に恐ろしい御方だ……」
「私の中で何かが崩れ去って行くのだが……」
そんなことを言っていても時間は止まらずに流れていく。
戦争開始まで
あと
2分
__________________________
剣流のすむ島……その中央部……
かつて「ビッグオーロット」と呼ばれていた大木が存在していた場所……今は剣ドリュウズの槍によって斬られてしまい、その立派な幹を草原の上に晒すのみだが……
そこに魔方陣が書かれていた。
「後はソコに……魔方陣の上に居るだけで構わん。
それで全ての準備が終わり、戦争が始まる。
ミジュマル……お前の………いや、何でもない……」
ドリュウズが何を言おうとしていたのかは分からないが
ミジュマルがすべき事は召喚の儀式に集中することだ。
最後にツタージャと目を会わせて
互いに頷き会う。
もう十分だ。
後は残る時間が目を瞑って
過ぎ去るのを耐えるだけ。
後
1分。
__________________________
多くの者達が長い歴史の上に積み上げてきたモノ。
それらを束ねて願望とする。
御三家と限らず
自分の信念
執念
それらを賭けて戦う
生存競争。
その火蓋が
今
切って
落とされようとしていた。
時計の秒針が
59秒から
00秒へと
カチリと静かな音をたてて
日付が変わったことを世界中に伝えた。
_________________________
「……ぐぁぁぁぁぁぁあっっっ!!!???」
強烈な身体中を霊力が駆け巡る痛みに耐えながらも
声を圧し殺すことは出来ない。
しかし根をあげるわけにはいかない。
ヒトモシを救う。
それが自分の望みだから
時雨デスカーンの意識には
心配そうに彼を見つめる盟友
チェスター・オーレライ・ブルンゲルの姿は
すでに
ない。
「ぐぅぅぅぅ!!?」
「うわぁぁぁぁ!!」
砂漠の砂を巻き上げる強力な霊力の突風に飛ばされそうになりながらもランクルスとゾロアは互いの手を離さない。
互いの温度を確かめ会うように。
霊力の奔流か二人を襲うなか
ブリストル・ゴルーグは二人を助けることが出来ない
無力感に苛まれていた。
「……っつッッッッッッ!!!?」
キリキザン程の騎士でも流石に普段使わないような量の霊力をいきなり身体に注ぎ込まれたら苦悶に表情を歪めるだろう。
ウルガモスが壁に腰かけて様子を見ているが
キリキザンの目には最早写らない。
今は痛みに耐えるので
精一杯だ
「………ヌ……くぅっっっっ!!!」
膨大な霊力をダークレスウェル宝物殿に貯蔵している彼ですら呻き声を出して仕舞うほどに神の力と言うのは恐るべきモノなのだろう。
これで10分の1だと言うのだから恐れ入る。
彼の苦難を見届けることしか出来ない
配下の者達はただただ
儀式の成功を祈るのみだ
辺りの木や草を明るく照らす魔方陣の光と霊力の奔流。
それらは小さいミジュマルの体の中を霊力と言う名の嵐でかきみだしていく。
そんな嵐に翻弄されながらもミジュマルは意識を保ち続けていた。
かくして儀式は終わった。
そして今味わった苦痛など
児戯にも等しいものだと思える
過酷なバトルロワイヤル
生存競争が
今
始まる