第七十五話 一つの終焉
「…………」
一人のポケモンが湖のほとりで立っていた。彼は順に青い空、湖から勢いよく飛び出すコイキングを眺め、そして湖の周りを囲む木々から聞こえるとりポケモンのさえずりを耳にした。彼は時が動かない暗黒世界から見事に連れ去られたポケモンと共に脱出することに成功したのだ。
「戻ってきたか、僕達は……、元の世界に……」
彼は自分の使命をやりとげ、そして元の時が動く世界にたどりついてほっとしていた。心が歪む世界はまるで気持ちよいなどと言った感覚は微塵もなく、早く脱出したい気持ちでいっぱいだった。そんな時、ふと彼は下を向く
「おい、ニードル起きろ」
彼、ヘラクロスのクロスは自分の足元にいるスピアーのニードルの体をゆすって起こそうと試みた。だがニードルは微塵も動かない。
「…………」
「ん?何か聞こえたような……」
ニードルが小声で何かを呟いた。だがクロスには聞き取れずに彼は耳を彼の口元に近づける(ヘラクロスに耳なんてねぇだろ!!と突っ込まれそうだがその辺りに関しては許して頂きたい)
「……zzzzzzz」
「こ……こいつ……」
あろうことかニードルは眠っていたのだ。幸せそうな顔をして寝息を立てている彼を見てクロスはわなわなとふるえ、カバンに手をかけて何かをとりだした。そしてクロスは白い何かを手にし・・・・・
スパアアアアアアァァァァン!!!!!
「おきんんかああああああああああああぁぁい!!」
「アゲーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
クロスは手にしたハリセンで眠っているニードルに制裁を入れた。ハリセンで思い切り殴られたニードルは耳をおさえたくなるような叫び声をあげる。
「いたじゃないっすか先輩!!そのハリセン止めてくださいよ!!」
「お前がさっさと目を覚まさないのが悪い。さぁ、彼らが目を覚ます前にさっさとリーダーのところへ戻るぞ」
「オレ達に知られると不都合なところがあるというのか?」
『!!?』
クロス達がその場を後にしようとしたその時、倒れていた筈のポケモン、ジュプトルの声が発せられた。思わずクロス達2人はびくっとした様子で後ろを振り返る。
「な、なんでおきたんすか!?さっきまで気絶してたはずなのに!?」
「お前達があれだけ大声を出せば否でも目を覚ます」
ジュプトルの答えにリーフ達四人は”うんうん”と言わんばかりに首を縦に振る。ちらりとそんな四人を横目にジュプトルが続ける。
「お前達のようすからしてオレ達にあまり言いたくないような事実があるようだな。助けてもらったことは感謝するが、お前達の真意を知らなければ完全には信用できん」
「ちょ!ジュプトル本気か!!あいつらバケモノ並に強いんだぞ!!」
用心深いジュプトルはクロス達が自分達に事実を隠しているをしていることに若干苛立ちを覚え、リーフブレードの構えをとる。そんな彼を見てウォーターは必死にジュプトルをなだめていた。下手にディアルガを簡単にくだした彼らを刺激すればどうなるかわからない。そう勘が告げていたのだ。
「はぁ、あまり話したくはなかったけどこのまま疑われるとリーダーに怒られるからね。いいよ、話してあげるからついてきなよ」
だが、そんなジュプトルを見てもクロスはあくまでも冷静に彼の意見を承諾し、自分についてこさせるように手招きをする。リーフ達は黙って彼のあとについていった。
「ここは?」
「ここは僕達ブラザーズの活動拠点の一つさ。基地がひとつだとどうしても長期間の活動に支障がでるからって、リーダーが各地にたてるように命令してつくられたのさ」
ファイアの問いかけにクロスはこたえる。淡々と答えているが、その答えはリーフ達には到底考えられないスケールの事態であった。いくらそれなりに名をあげた探検隊とはいえ、基地をあちこちにおくなどまだまだできることではない。それゆえ救助隊ブラザーズがいかに凄いということが証明されている。
「さぁ、入った!入った!」
ニードルは両手の針を左右に振り、入れとシグナルを送った。
「へぇ〜、中は結構殺風景ですね」
ルッグは辺りを見渡しながら呟いた。基地のなかは鍵つきの棚と布団が置かれたのみであった。だが、ここはあくまでも救助隊の基地。余計なものを置く必要などないのだ。
「さて、お前達にはいくつか聞きたいことがある」
「いいよ。最初な質問は?」
「まず一つ、なぜお前はオレを助けた?オレはこの世界では悪党だぞ」
ジュプトルはいま最も気になっていたことを口にした。この世界ではジュプトルは時の歯車と盗むという禁忌をおかしたポケモン。それゆえ全ての世界のポケモンからさげすまれる存在であることは覚悟していたのだ。するとニードルの口から衝撃的な言葉が発せられる。
「あんたは時の歯車のこともろくすっぽ覚えられないほどバカなの?」
「なんだと!?」
真っ向からバカと言われてジュプトルは思わず立ち上がりニードルにリーフブレードを放つ。しかしニードルは容易く交わし、ジュプトルはニードルの背後にあった棚を切り裂いてしまう。
「やっぱあんたバカっすねwww。わすれたんすか?オレ達ブラザーズのリーダーがあんたにあったことを?」
「ブラザーズリーダー……
そうか……あの時のキモリか……」
ジュプトルはブラザーズという言葉を鍵に思い出すことができた。かつて自分をコテンパンにしたあげく、自分のこの世界の悪事に手を貸したキモリ達のことを。
「それで、リーダーから命令されたのさ。未来世界を救う事ができる”盗賊ジュプトル”そして君の横にいるチコリータ”リーフ”を守護しろ、とね」
クロスから放たれた言葉、それはまたしてもジュプトルを驚かせるには十分であった。
「ど、どういうことだ!!!」
ジュプトルはこの事実を受け入れられずにいた。彼にとって最も大切な相棒は人間である。しかし、自分の横にいる同名の者はポケモンである。それゆえにクロスの言う事が信じられなかったのだ。そんなジュプトルをよそにクロスは続ける。
「さっきも言った通り僕達の指令はジュプトルとリーフの守護。リーダーはこの世界がじきにあの未来世界のような暗黒世界になることはすでに把握している。そして君たちポケモンと人間がそれを阻止するためにタイムスリップしてきてきたが人間の方が記憶を失い、ポケモンに変わってしまった……」
「ちょっと待って!!」
クロスの言葉に思わずリーフは思わず立ちあがり話を遮る。
「どうした?」
「な、なんでわたしが人間からポケモンに転生したことを知ってるの!!?」
彼女の疑問も無理はない。このことを話したのはパートナーのファイアぐらいしかいない。
「オレ達のリーダー:グラスさんも元人間だ。恐らくただの勘だと思うけど、人間としての雰囲気がなんとなく感じたんじゃないのか?」
「じゃあ何でわたしは分からなかったんだろ?」
一度だけリーフとグラスはあったことがあった。グラスはその時に彼女が人間であると薄々感ずいていた。だがリーフは気付かなかった。
「そりゃ、あんたがボケだからでしょwww」
「ストーンエッジ!!!」
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
あまりに失礼な暴言を吐き続けるニードルにとうとうクロスのストーンエッジが飛んだ。効果抜群の技ニードルはそのままノックアウト。
「ごめんね、この大馬鹿蜂が失礼なことを……」
「べつにいいですけど……」
口からでた言葉とは反対にリーフは少し怒っていた。そりゃほとんど見ず知らずに等しいポケモンにボケ呼ばわりじゃしかたない。
「話を続けるよ。ジュプトル、君が世界を救うために時の歯車を盗んでいたのはリーダーにはとっくにお見通しだったわけさ。そして君には人間のパートナーがいたことも知っていた。今ではそこにいるチコリータだけどね」
「えっと……、ようするにジュプトルは人間だったリーフさんと共に未来世界からこの世界を救うためにきたけどどういうわけか離れ離れになってしまった。それでクロスさん達は一人きりになったジュプトルやを調べてこっそり援護していた訳ですか……」
「そゆこと♪」
ルッグのまとめにクロスは笑顔で答えた。
「全てお前達にはお見通しだったわけか……」
今まで必死に隠していたことがこうも赤裸々に話されジュプトルは少々ため息をつきながら壁にもたれかかる。
「どうだいジュプトル。もうこれで文句ないかい?」
「あぁ、もういくのか?」
「うん。終わったらすぐに戻れと言われてるからね。それからこの基地のカギを渡しておくよ。棚の中の道具も自由に使って構わないから」
そう言いながらクロスは棚のカギを開け、中からたくさんのグミが入った袋を床においた。言葉通り好きな時につかえという彼の気持ちであった。
「じゃあ僕達はこの辺で。いくぞニードル」
「へ〜い」
クロス達が去って数分後
「ところでお前達。時限の塔という場所は知ってるか?」
「えっ!?」
唐突に出たジュプトルの質問に思わずきょとんとなる四人。当然だが時限の塔なんて場所を知る筈がないからだ。
「まぁ知らないのも無理はないか。時が止まる、即ち星の停止が起こってしまったのは時限の塔が崩壊したからだ。崩壊を止めるには時の歯車五つを時限の塔におさめなければならないのだが……」
「もしかして、ジュプトルも知らないの?」
リーフは少し恐る恐るそう問いかけた。ジュプトルが知らなければ時限の塔にたどりつくことはおろか場所さえも把握できない状況になってしまう。
「あぁ……、すまない……」
ジュプトルは申し訳なさそうな表情で答えた。
「こりゃどうすんだ?あまり時間がねぇってのによ?」
「そうだな。ではこうなったら二手に分かれよう。オレが時の歯車を回収する。その間にお前達は時限の塔の場所について調べてきてくれないか?」
「それは構わないけど、ジュプトル一人で行くの!?」
「そのつもりだ」
ジュプトルはあくまでも一人だけで行動するつもりだ。
「ちょっと待って!!」
「どうした?」
出ていこうとするジュプトルをリーフが制止する。
「また一人だけで行くつもり?今度はわたしもいっしょに行くから……」
「ダメだ」
「--------っ!?」
一人だけで行動しようとするジュプトルにリーフがついていこうとする。だがジュプトルはそれを拒んだ。
「お前は探検隊のチームリーダーだ。リーダーとしてあいつらを引っ張ってやれ。オレのことは大丈夫だから心配するな。一人で行動することにはもう慣れた」
お前はチームのリーダーだ。彼はこう諭した。それを聞いたリーフはついていこうとする足を止めたがどこか納得がいかない表情であった。
「そう、気をつけてね……」
「あぁ、……オレはもう行く。じゃあな、情報が少なくて済まんが頼むぞ」
そう言い残してジュプトルは基地をさっていった。彼は基地を一度だけ振り返り……
--まさかお前がリーフだったとはな……。もっと時間があればお前がポケモンになってからのエピソードを聞きたかったな……--
そう願っていたが、彼にはそれは到底不可能なことだと思っていた。なぜなら彼には自分達のサダメを知っていたから……
数十分後
「でもさ〜、時限の塔なんて場所聞いたことないよね?」
「だよな〜」
グミを頬張りながらそう呟くファイアに外を眺めているウォーターが答える。確かに今まで聞いたことのない場所を調べるというのは骨が折れるものだ。
--それなら見当はついている!!--
『えっ!?』
中にいた四人とは別の声がした。四人は恐る恐る声のしたほうこうに振り向く。そこには自分達が最もよく知るポケモンの姿があった。
「スパークさん!?」
「お父さん!!」
「親父!!」
そこには自分達がよく知る少し老けた容姿のピカチュウ、スパークが立っていたのだ。ファイアとウォーターは感激のあまり彼に抱きつきに行った程だ。
「よかった……、みんな無事だったようだな……。やっぱりあの方達の言うとおりだ」
『あの方?』
「もしかして、ブラザーズですか?」
自分に抱きついてくる息子達の背中をさすりながら何気なく漏らした言葉にリーフとルッグが反応した。
「もしかしてスパークさんもブラザーズと!?」
「あぁ、お前達が未来世界に拉致された後、ブラザーズのリーダーと会ったのだ」
「では、あいつらは本当に大丈夫ですか?」
「あぁ、オレが保障する」
時は遡り、こちらはスパークサイド。ちょうどリーフ達とジュプトルが別行動した時間帯である。依然として不安そうなスパークに対してグラスはあくまでも毅然とした態度で答える。それほどまでに部下に全幅の信頼をよせているのだろう。
……ゥゥゥゥゥゥウウウウウウン!!
「ん?あいつらが戻ってきたようだな」
外から羽音のような音が聞こえてきた。今までのいきさつからしてクロスとニードルであることは間違いないだろう。
パリーーーーーーーーン!!!
「ちわーーーーーーっす!!任務完了しました〜っ!!?」
勢いよく窓ガラスを割りつつ入場するのはスピアーのニードル。そんな彼の後を追うようにヘラクロス、クロスが入ってきた。
「ちょっと失礼するぞ……」
「は、はぁ……」
グラスがスパークの横を横切り、ニードルに近づく。そしてすぅっと息を大きくすいこみ……
「なにしとるんじゃこのたわけモンがああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
その時ニードルに今世紀最大級の雷が落ちたと後にスパークは語ってたそうな。
「……クロスよ。お前達が今ここにいるという事は……」
「はい、無事にチームリーファイ、ジュプトル、それとついでになんか訳のわからないワニノコ達を未来世界から無事に帰還させました」
「よろしい」
最早真っ黒焦げになり原型をとどめなくなったニードルはさておき、グラスはクロスの報告を聞いた。実は彼の報告に一部誤りがあるのは読者の方もお気づきのことだろう。だがそれはこの場にいる誰もが気にしていなかった。クロー達は別に彼らが救援するつもりはなかったのだから。
「リ……リーフ達が戻ってきたのか……?」
「はい、今うちのチームの基地で休ませてますよ」
信じられないといわんばかりの表情を浮かべるスパークにクロスが答えた。すると、彼の目には少しずつ涙がたまっていくのがうかがえた。
「こうしちゃおれん!!早く合流せねば!!」
「ちょっと待て」
一刻も早く戻ろうとするスパークをグラスが引きとめた。スパークは止められたことに少し苛立った様子でグラスを睨む。
「なんの用ですか!!」
「お前のチームのリーフとファイアにこれを渡してほしい」
そう言ってグラスは一通の封筒を手渡した。その封筒は綺麗に閉じられており、よほど大事なことなのだろうとうかがえる。
「これは……?」
「詳しいことは中に書いているからここで言う事もなかろう。さぁ、止めて悪かったな。早く息子達に顔を合わせてやれ」
「は、はい!!」
そう返事したスパークはいちもくさんに屋敷を去っていった。元気よくさっていく彼の姿を見てグラスは、
--オレも若い時はアレぐらいの元気があったもんだ。今じゃすっかりただの老いぼれ同然じゃな--
「何いってんでぃ。おまえさんはまだまだ現役じゃねぇか」
「そうですよ。僕もまだまだリーダーにはかないませんからね」
何も口には出していないにも関わらずラグラージでグラスのパートナー、ラックとクロスはそう声をかけた。長年の付き合いからか彼の考えが読めるようだ。
「おまえら……、余計なこといいやがって……」
口調とは正反対に彼の表情は嬉しそうだった。
「そう言うわけだ」
時間は戻りこちらはブラザーズ基地。現在ではリーファイの仮の基地でもある。スパークは今までのいきさつを話した(彼が酒を飲みまくって飲んだくれになったこと以外は)
「そうだ、お前達に手紙が届いていたぞ」
「手紙?」
スパークは先ほど渡された手紙をファイアに手渡した。ファイアは封筒から手紙を取り出して目を通す
。すると彼の表情が驚愕のそれへと変貌していた。
「どうしたんですか?」
「何が書かれていたんだ?」
「こ、これ……。バトル大会への招集です……」
ファイアの言った言葉、それに全員が固まった。それもそのはず、この時間が止まるどうかもわからない一大事にバトル大会なんぞなにを言ってるんだといわれてもしょうがない。
「あのチームのリーダーが老いぼれだからボケたんじゃねぇのか?」
「ですよね。何考えてんだか……」
ウォーターとルッグがため息をつきながら、呟く。
「いや、これはいい考えだと思うぞ」
そんな二人とは正反対の意見を述べるスパーク。彼の意見を聞いてウォーター達は”はぁ!?”と言わんばかりの表情になる。
「バトルの目的はあくまでもチームを鍛えることだ。探索や情報収集にしても実力をつけていないとできないからな。それに期間は二日だ。短期間でレベルをあげれると考えればそこまで悪く言われるような話ではないと思うがな」
スパークの言葉にウォーター達は成程と小さく呟いていた。
「よっしゃ!!じゃあ早速行くぜ!!」
「なお、この大会に参加するのはチームリーダーと副リーダーのみとなっている。あとのメンバーは時限の塔の情報収集にあたってほしい。とのことだ」
「ずっでええええええええええええええぇぇぇっ!!!!?」
勢いよく出発するウォーターに対してスパークから追いうちが発せられる。
「確かに、時間はあまり残されてないかも知れない!でも強い相手と戦えるバトル大会って面白うそう♪わくわくしてきた♪」
「まずい!!リーフが行く気マンマンだ……」
何気に乗り気なリーフに対してファイアは少々焦っていた。だがそんな彼もお構いなしに彼の腕を掴む。
「よし!!じゃあ出発!!」
「あぁ〜、やっぱこうなるのね〜……」
リーフはファイアを掴んだまま荷物と手紙を持ってダッシュでその場をあとにした 。数秒後2人の姿はあっという間に消えていた。
「あ〜あ、あいつ等だけ強い奴と戦えるなんて羨ましいよな〜」
「まぁいいじゃないですか。僕らはゆっくりグミでもつまみましょうよ」
しょんぼりするウォーターをなだめるルッグ。彼はクロスが置いた袋を開ける。
「あ、あれ?
中身がない……?」
袋の中身はからであった。あれほどいっぱいあったグミが消えるなんて妙な話である。
「あぁ、それならリーフが全部カバンに詰めて出かけてしまったぞ」
「なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!!」
流石食いしん坊バンザイである.