第七十二話 協力
「全く、貴様が役立たずなばかりに、奴らを逃がしてしまったのだぞ」
「私のせいではない!お前の部下が役立たずだから逃げられたのだぞ!!」
場所は変わって、こちらは先ほどまでリーフ達がとらえられていた建物、そこでヨノワールとメガヤンマが口論している。
「グオオオオオオオオオオォォォォォッ!!」
『も、申し訳ありません!!』
ディアルガに一喝され、2人とも頭を下げる。
「……」
『ウイッ!!』
ディアルガが何かの合図を出すと数人のヤミラミが出現。すぐさまメガヤンマをとらえる。
「な、なにをする!!放さんか!!わたしはお前達の上司だぞ!!」
メガヤンマはそのままヤミラミ達に連れ去られていった。恐らくディアルガが失敗した彼を獄中に入れろと命令したのだろう。
「(ふっ、無様な害虫め。いい気味だな)しかし、ディアルガ様、奴らをどのようにしてとらえれば……」
メガヤンマの失態を鼻で笑った後、ヨノワールはディアルガに尋ねた。しかし、どういうわけか彼は罰せられない。
「グルルルル……」
「承知しました。場合によってはディアルガ様のお力をお借りすることにもなりえますが……」
ヨノワールは怪しげな笑みを浮かべながらディアルガに一礼した。
「誰だキサマ達は!!」
ジュプトルは眼前にいるヘラクロスとスピアーにリーフブレードを構える。だがヘラクロスは自分達を敵視されてるにも関わらず、フッと笑みを浮かべていた。
「なぜこんなところで待ち構えていた!!(ワシらの変装は通じなかったのか?)」
「貴様たちはヨノワールの差し金か!!」
「なぜあのミカルゲを倒したんや!!ホンでお前のタイプは何タイプなんや!!」
「はいはい、ボクは聖○太子じゃないから一気にこたえられないよ。それに最後の質問をするのは探検家としてどうかと思うけどね」
上からクロー、ジュプトル、シノの順番のマシンガンのような質問にヘラクロスは突っ込みを入れる。
「まぁ、あえてこたえるとすればぼくたちは君達に力をかすためでも言っておこうか」
「えっ!?」
ヘラクロスの意外な答えに皆素っ頓狂な声をあげる。
「フ……フン!見ず知らずの貴様らの力に頼る必要などない!」
「そうだ!そうだ!!お前達の力など必要ない!!」
ジュプトルとクローは”力をかす”という台詞が気に入らなかったのか、反論する。
「見ず知らず……か、でも君達ならぼくたちのこと知ってるんじゃないかな?」
ヘラクロスはリーフを指差す。
「???」
「ボクと一度あっただろ?ボクの名前を言ってみなよ」
ヘラクロスはそう尋ねるがリーフは一度首をかしげて……
「えっと、どちらさまでしょ〜か?」
「ぼくたちカブトムシやスズメバチに知り合いはいません。雑木林に帰ってください」
リーフとファイアはバッサリと切り捨てた。
「思い出してくれよ。君達が第二十五話の遠征編であのバクフーンに遭遇しただろ?あの時のヘラクロスだよ」
「……、あぁ!!あの時の!!」
「ようやく思い出してくれたか」
ヘラクロスはやたとかと言わんばかりにほっとする。
「で、名前は……?」
『だあああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!』
思った通り、しかし違う意味では意外なボケに一同全員がずっこける。このボケはファイアが発したものだ。
「えぇい!!そんなことはどうでもいい!!とにかくどこの馬の骨かもわからぬお前達についてこられても面倒なだけだ!!どうしてもついていくならワシを倒してからにしろ!!弱者についてこられても迷惑なだけだ!!」
「じゃあ、君を倒したら認めてくれるんだね?」
「あぁ!!」
「(勝手に決めるな!!)」
クローの勝手な行動によりヘラクロスとバトルすることになった。その結果は……
ドカッ!!バキッ!!ズコッ!!
「う〜ん……」
「これでいいかい?」
ヘラクロスの圧勝に終わった。クローはその場でコテンパンにされている。
「流石先輩!!マジパネェッス!!」
『クロー様ああああああああああああああぁぁぁぁっ!!』
スピアーはヘラクロスにシノ&シードはのびてるクローに寄る。
「へへへっ!!お前のようなワニ如きが先輩に勝てるわけねぇだろ!!バーカ」
「なんやと!!この殺人蜂!!お前なんかどうせその先輩とやらの腰巾着やろ!!」
「そうだそうだ!!今度はおれたちがお前の実力を調べてやる!!」
クローがやられたショックからか、今度は部下達(シノ&シード)がスピアーに喧嘩を売る。
ボコッ!!バキッ!!グシャッ!!
「オレも舐めてもらっちゃぁ困るんだよ!!」
今度はスピアーがシノ達をフルボッコにした。彼らもクローと同じく目を回してのびている。
「(この実力にあの口調、そしてヘラクロスとスピアーのコンビ……
よし!!)おい、お前達」
ジュプトルは何かを確信した後に、ヘラクロス達に話かけた。
「ん?何だい?」
「確か、オレ達についていくと言っていたな」
「そうだよ(ちょっと違うけどね)」
「なら話は早い、一緒に行こう」
『えぇっ!!?』
ジュプトルの意外な発言にリーファイメンバーも驚きを隠せない。それもそのはず、少し前までは一番彼らの加入を拒んでいたのだから。
「なんだ、話の分かる兄ちゃんだな」
「お前達がかの有名なブラザーズの一員ならば心強い、クロス・ニードル」
ジュプトルは目の前の2人のポケモンの名を語った。
「じゃあ、承諾ということでいいのかい?」
「あぁ、よろしく頼むぞ」
こうして半ば無理やりにまた仲間が増えた。
「シャドークロー!!」
「ダブルニードル!!」
クロスはシャドークロー、ニードルはダブルニードルでダンジョンの敵ポケモンを蹴散らしていった。クロー達によって証明(?)されたように実力は尋常ではなく、ダンジョン攻略もすいすいと進んでいった。
「よし!!ダンジョンを抜けたな!!」
「我々一切活躍してませんでしたが……」
クローの言葉に部下のシノがぼそっと漏らした。クローはその言葉にうぅっと漏らす。
「そ、それよりもジュプトルよ!!何をさっきからぼさっと突っ立ってるのだ!!」
クローはジュプトルにそう荒々しく尋ねる。
「確かこのあたりなんだが……
オレだ!!ジュプトルだ!!いるなら出てきてくれ!!」
「誰を探しているの?」
クローの言葉を完ぺきにスルーし、ジュプトルは誰かを探しているような声をあげる。その様子に業を煮やしたのかリーフも彼に尋ねた。
「(この感覚は……、もうすでにここにあいつは……セレビィはもうここにはいない……
まさか!!)」
突如ジュプトルは一目散に森の高台と呼ばれるダンジョンに向けて走り出した。
「ど、どうしたんですか!?」
「一体何なのだ!!さっきから人の話も聞かずに!!」
ルッグもクローもこれには驚き彼のあとを追う。他のメンバー達も慌ててジュプトルを追ってダンジョンに入っていった。
「ハァ……、ハァ……」
慌ててダンジョンを突破したからか疲労のあまり肩で息をするジュプトル。
「待ってください!!」
「一体どうしたというの?」
そこへリーフ達も追いついてきた。彼女達もダンジョン内は走ってきたからか既に疲れているのも無理はない。
「ふぅ……、
っ!!セレビィ!?」
ジュプトルは眼前の光景に思わず目を疑った。そこには妖精のようなピンク色のポケモン、セレビィがボロボロになって倒れていたからだ。思わずジュプトルはセレビィのもとに走り出す。
「シャドーボール!!」
「っ!!?ジュプトル危ない!!!」
どこからかシャドーボールがジュプトルめがけて飛んできた。セレビィに気をとられていたジュプトルは攻撃に反応しきれなかった。
「アクアテール!!」
クローは自身の尾に水流を纏わせて攻撃する技、アクアテールでシャドーボールを跳ね返した。
「どうしたジュプトルよ!!あれが罠だという事も見抜けんのか!!」
「うっ……、済まない……」
クローの叱責を受けジュプトルは俯いた。
「ふふふ、とんだ邪魔が入ったか……」
「ちっ、このような姑息で外道な真似をするのはキサマしかいないな……
ヨノワール!!!」
ジュプトルはシャドーボールを飛ばした張本人、ヨノワールに自身が思いつく限りの暴言を吐いた。
「散々うろちょろしたようだが、ここまでだ。貴様らもこのセレビィと同じ目にあいたくなければ大人しくつかまるんだな」
ヨノワールは手招きをしながらそう言った。
「フン!!掴まれと言って捕まる間抜けがどこにいる。お前達!!戦う準備はできてるか!!」
「勿論」
「えぇっ!?はい!!」
「当然でしょう」
「たりめぇだ」
上からリーフ、ファイア、ルッグ、ウォーターが戦う準備をしながらそう言った。勿論クロー達もクロス達も同じである。
「ふっ、やはりあがくつもりだな。ヤミラミ達よ!!」
「ウイイイイイイイイイイイィィィィィィッ!!!」
ヨノワールの号令で一斉に大量のヤミラミ達がリーフ達を取り囲んだ。
「な〜んだ、一人じゃかなわないから物量作戦ですか。やはりヨノワール(ざこ)が考えそうなことですね」
囲まれながらもルッグがぼそっと”挑発”を繰り出した。これにはヨノワールにも聞いたのか、眉を曇らせる。
「愚か者め。ここに来たのが私やヤミラミ達だけと思ったか」
「どういうことだ」
にやりとするヨノワールにジュプトルが聞き返す。その時彼の脳裏に最悪の展開が頭を横切った。
「ディアルガ様」
「なっ……!!」
ヨノワールの一言にジュプトルはさながら鈍気で殴られたような衝撃を受けた。その瞬間辺りが一気に暗転する。
「な、なんだ!?なんかいきなり暗くなったぞ!!」
暗転した時に、咆哮がどこからか発せられた。咆哮が発せられた刹那暗闇が晴れヨノワールの背後には先ほど彼が呼んだ名前のポケモン、ディアルガが立っていたのだ。
「な、何あのポケモン……」
「ディ、ディアルガ。時をつかさどるといわれる伝説のポケモンだ……」
眼前のポケモンの発せられる威圧感に圧倒されているリーフにジュプトルがそう説明を加えていた。しかし、彼自身もディアルガに臆していることは明らかである。
「そ、そんな……、伝説のポケモン相手に戦ったって勝てるわけないじゃない……」
リーフは完全に戦意喪失、あきらめて自らとらえられることさえも考え始めた。
「どうした、大人しくあきらめて捕まるのか」
圧倒的に自分達が有利になったヨノワールはその様子を見てニヤニヤと嫌みな笑みを浮かべた。だがリーフにはそんなことさえも見えていなかった。
「勝てない、ディアルガ相手に勝てるわけがない……」
ドゴッ!!
「っ痛!!」
あきらめて自ら捕まる覚悟を決めたリーフの背中に殴られたような衝撃が走った。その衝撃で前のめりに倒れる。
「一体誰……」
誰が殴ったのか、そう言おうとしたが言わなかった、言う必要がなかった。なぜなら自分の仲間のズルズキンが怒りを込めたまなざしで拳をプルプルと震わせていたのだから。
「どうしたんですか!!リーフさん!」
「えっ……」
口がうまくないルッグは自分が伝えたいことが上手く言えなかった。だが……
「ったく、また一人で悩んでやがったのか。お前は一人じゃねぇだろ。んな簡単にあきらめるんじゃねぇよ」
今度はウォーターが口下手なルッグもこのようなことを伝えたかったのだ。
「皆で力を合わせて戦えばきっと勝てるさ!!そして帰ろう!!自分達の世界へ!!」
今度はファイアが。
「み、皆!!」
仲間たちの励ましを受けたリーフ。今の彼女には先ほどまでの恐怖は欠片も残っていない。
「リーフよ!!ワシとお前のスーパーライバルコンビネーションをあいつらに見せつけてやるぞ!!」
『(いや、いつからコンビになったんだよ……)』
クローの言葉に一行は唖然となっていた。ただ、リーフだけは少し嬉しく感じていた。
「さて、お前達を捕まえてや……」
「葉っぱカッター!!」
ヨノワールがリーフをとらえようとした時、リーフは近づいてくるヨノワールに葉っぱカッターを浴びせた。先ほどまでの彼女が抵抗するとは微塵も思わなかったのか、まともに葉っぱカッターを食らってしまう。
「ぐっ、抵抗するのか。実力の差は歴然としているのだぞ」
「確かに、勝てないかもしれない。戦ったところで無駄な抵抗になるかもしれない」
「ほぉ」
リーフの言葉にヨノワールは鼻で笑うようにあしらう。
「でも、絶対に負けない!!お前のようなディアルガに頼り切ってるような卑怯者に潔く死ぬくらいなら戦って死ぬほうがましだ!!」
「ぬっ……、言ってくれる……」
卑怯者という言葉がよほどこたえたのだろう。ヨノワールは余裕の表情を一変、怒りの形相とかした。
「みんな!!絶対に勝つわよ!!」
『おぉーーーーーーーっ!!!』