第六十七話 こんなバザーがあってたまるか!
とある貧乏くさい建物前、ここにサメハダーのジェット(以下省略)の三バカが立っていた。彼らは自分達の組織のアジトの前に立っているのだが、どういうわけか入るのを躊躇しているように見える。
「ねぇジェットさん。何でずっとここで突っ立ってんの?」
困った様子でオノノクスのノンドがジェットに尋ねる。今の彼には初期の残虐性は微塵も感じられない。
「全くお前達が間抜けなばかりにまた我輩があいつに頭を下げねばならなくなったではないか!!」
「だって、そりゃあんたの問題だっろ〜がよ〜!!」
「なんだと!?大体てめぇの間抜けな発明が失敗したからこうなったんだろうが、このボケ蝙蝠!!」
ジェットとバットがぎゃあぎゃあ子供じみた喧嘩を始める。
「おい」
『うわぁっ!!』
背後から短く冷徹な声が聞こえた。そこには彼らの同志のバクフーンの姿が。
「なっ!!いつからそこにいたんだ!このネズミ!!」
「お前達がここで喧嘩してからだ。それよりもボスが早く戻ってこないとお仕置きすると怒ってるぞ」
「なにぃ!?
こうしちゃいらんねぇ!!お前達!!早く向かうぞ!!」
『へ〜い』
「(えっ、出番これだけ……?)」
「戻ってきやしたボス」
ここは建物の最上部、無機質な機械が大量に並んでいる部屋に一人のポケモンが立っていた。ノンドはそのポケモンに声をかける。
「お帰り♪
ところで七つの秘宝はちゃんととってきたんでしょうねぇ?」
甲高い女性のような声でそこにいたポケモン、ネンドールが話しかける。だが、むろんネンドールに性別はないのでこいつは……
「いやぁ……それが
ここにいるスカポンタン共がドジを踏みおって……」
ジェットが後ろの部下達(ノンド・バット)を見ながらいいわけする。後ろの2人はえぇっ!?と言わんばかりの表情を浮かべる。
「なんですって〜!!ど〜して、ど〜して、ど〜して!!あんた達はいつもこうなのよ!!」
「だったらはじめからドジなオレ達なんか頼まなけりゃいいじゃねぇか目玉焼き!!」
ノンドが部下とは思えない暴言を吐いた。
「も〜、あんた達のいいわけなんかうんざりよ!!」
「心配すんな目玉○父。次の我輩の作戦は抜かりはない。今度こそやつらから秘宝も時の歯車を奪い取ってやるさ」
「その言葉信じてもいいんでしょうね、バカサメ?」
「勿論だ目玉焼き。今度しくじったら一カ月トイレ掃除してもいいぞ」
ジェットが自信満々に答える。こちつらに主従の二文字はないと思われる
「まぁ、いいわ。もししくじったらト本当にトイレ掃除って呼ぶから。ところでノンド。
あんたさっきから何食べてるの?」
ネンドールが何かをボリボリと音を立てて食べてることに気付いた。
「うん。さっき駄菓子屋でアメちゃんを買ってきたんだ〜♪」
「何ぃ!!我輩にも少しよこせ!!」
「僕ちゃんも食べる〜っ!!」
「あんた達いい加減にしなちゃい!!お友達どうしで仲良く分ければいいでしょ!!」
おっさん三人が駄菓子のとりあいを始める。実にみっともない。そんな三バカをネンドールはオカンみたいに諌める。
「とにかく!!今度こそあいつらをコテンパンにやっつけるのよ。わかってんの〜」
なぜかネンドールまでアメちゃんを食べている
「問題ないさボス!!今度こそあいつらをボコってやる!!
こうやってこうやってやる〜っ!!!」
バットが四枚の翼を無造作に振るう。
ガツン!!
「あ痛えええええええええええぇぇぇぇぇっ!!
だ〜れが我輩の頭をボコれといったこの大ボケ蝙蝠〜っ!!」
どうやらバットが振り回した翼がジェットの頭を直撃したようだ。本当にお間抜けな連中だ。
場所は変わってこちらはリーファイ基地、
「あ〜あ、ここんとこ三日も暴れてねぇからどうにも暇だぜ」
「もぉ〜!!兄さんは暴れることしか頭にないの!?この野蛮人!!」
「おいおい、このオレが野蛮って言いてぇのか?
この野郎!!」
怒ったゼニガメ、ウォーターが義弟のヒノアラシ、ファイアに殴りかかろうとする。
「ほ〜らほら!!そうやってすぐに殴ろうとするじゃ〜ん」
「はいはい、お二人共落ち着いてください」
ファイアとウォーターは相変わらずである。それをズルズキンのルッグは特に慌てる様子もなく止める。
「おい皆、ちゅうも〜く」
底に入ってきたピカチュウのスパークが自分に注目するように呼び掛ける。呼ばれた三人は言われた通り彼の方に振り向く。
「注目したようだな。喜べ、我らがチームリーファイリーダー……
チコリータのリーフが復活だ!!」
スパークがそう言うと、チコリータのリーフが元気な様子で現れた。それを見た三人の表情が一気に明るくなる。
「ははは……
皆、おはようなぎ……」
リーフはぎこちない様子でそう言った。だが三人はそんなことは気にしない。
「すっかり元気になったね〜」
「よかったですよ」
「ったく、世話かけやがって」
それぞれかける言葉こそは違うが三人共やはりリーダーの復帰が嬉しいのが見て取れる。
「みんな、早いとこ水晶の洞窟に向かってジュプトルとの決着をつけに行くわよ。今度こそね」
『おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』
リーフの言葉にメンバーの掛け声が響いた。
水晶の洞窟
「メタルブレード!!」
「せやあっ!!」
リーフは鋼鉄の葉でルッグは武器である棒で襲いかかってきた。ズガイドス・ダンバルを倒した。実は今回はほとんどの敵ポケモンはこの2人で倒していたという。
「けっ!!つまんねぇな、さっきからあいつらばっかり活躍しやがってよ」
ウォーターは自分が戦えないのが不満なのか、はたまた自分にもオリジナル技がないためか少し不機嫌になっていた。
「じゃあこの話終わったら作者のところに殴りこみにいっちゃう?”僕達にもなにかオリ技か武器をよこせ!”ってさ」
「いいねぇ!!オレも行くぜ!!」
めずらしく意見が一致したファイアとウォーターは何やらまたメタに走っている……。
「ふぅ……。中々手ごわかったわね。あのダンベル」
「いや、それを言うならダンバルでしょうが。どうやってアレでトレーニングするんですか
って、あれ?」
リーフのボケにルッグが突っ込もうとすると何かを発見したかのように地面を凝視する。
「どうした?」
「いや、あの階段……。いつもの階段と少し違うような気が……」
ルッグが目の前にある階段に違和感を感じていた。もともと不思議のダンジョンはフロアごとに階段が設置されており、そこから奥に進むことができる為、ダンジョンには必ずあるものだ。
しかし今彼が見ている階段は少し通常のそれとは異なっていた。ルッグはそれに見覚えがあったのだが……。
「思い出した!!確かあの階段は秘密のバザーです!!」
『秘密のバザー?』
ルッグの言葉を復唱するように四人がハモる。
「はい、ダンジョン内でまれにしか見つからないのであまり詳しくは把握してないのですが、そこでは探検隊の手助けをする施設が色々とあるんです」
ルッグがそう解説した。もともとチームの中では博識な彼だが、秘密のバザーについてはあまりよく知られてない。それだけ見つけるのが困難なのだろう。
「とりあえずは百聞は一見にしかずだ。危険な訳でもないだろうし中に入ってみよう」
スパークを先頭に一行は秘密の階段を下りていった。
「いらっしゃ〜っい!!!」
『うわあああああああああああああぁぁっ!!』
入ってきたリーファイメンバーを大声で出迎えたのは灰色の一つ目の幽霊のような外見のポケモン、サマヨールだった。このサマヨール、見た目に反してかなりハイテンションだ。
「ったくいきなり騒ぐな!!心臓に悪い!!」
「いや〜、ごめんちょ♪このバザー、十年やってるけど一度もお客さんがこなくてさ〜♪
どうしようかと思ってたら君らが来たわけ♪と、言うわけでゆっくりしていってちょ♪」
サマヨールの異常なまでのハイテンションについていけない五人。てか十年もやってんのかい。
「まず、ここがウルガモスのランドリーさ♪汚れた道具とかを消毒してくれるよん♪」
「ヒャッハーーーーーーーーーーーーッ!!!汚物は消毒だーーーーーーーーーーーっ!!!」
『……』
ウルガモスの奇声に五人は茫然となる。
「(あいつ、消毒とか言って”やきつくす”とかしてきそうな気がするな)」
「(確かにね……)」
兄弟(ウォーター・ファイア)がウルガモスに対してひそひそ話をしていた。
「そんでここがどやキングの癒しのスペースさ♪」
そんなひそひそ話がされてることは露ともしらないサマヨールは次の施設の紹介をした。彼が指差した先には以前出会ったどやキングことヤドキングが寝そべっていた。
「えっ?何?何なの?癒されたいの?
今日は疲れてるからまた今度ね」
どやキングは寝そべった状態で手でしっしと追い払う仕草を見せる。
「どう?凄くいいところでしょ?」
『いい加減にしろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!』
満面の笑みで自慢げに話しかけるサマヨールに五人が一斉に怒声を浴びせかけた。
「碌でもねぇ、奴らばっかりじゃねぇか!!大体あいつなんか癒しっつうかいやしいだけじゃねぇか!!」
ウォーターが怒りのあまりその場を立ち去ろうとする。
「あ〜!!ちょいまち!!せっかくだからこのサマヨール様の占いだけでもやっていってよ〜
無料(ただ)にするからさぁ〜」
サマヨールが引きとめるようにウォーターの腕を握る。
「占いだ!?ガキじゃあるめぇしんなもんやってられっか!!」
「まぁ、まぁ、どうせただなんだしやるだけやってみようよ〜。それにそんなにカリカリしてると体に悪いよ〜」
「ったく……、しゃあねぇな」
怒り気味のウォーターをなだめるように話しかける弟、ファイア。彼の言葉を聞いて少し大人しくなる。
「よっしゃ!!それじゃあ張り切っちゃうよ〜♪」
サマヨールはどこにしまってたか分からない水晶玉をとりだした。そして珍妙な呪文のような言語を発した。
「#%’(?¥&!^%(^o^)ノシ$%:@!!!!」
傍から聞けば”こいつ何言ってんだ”と言われても仕方がないような声でサマヨールは占いを続けていた。
「なっ!!なんということだ……
まさかこんな結果が出るとは……」
「一体どんな結果なんだ!?」
サマヨールは驚きの表情を浮かべた。その顔を見た五人は彼の顔を覗き込むように凝視する。
「こんな運命を持つ方達が来られるとは思わなかった……
貴方方はこの先……」
『この先……?』
サマヨールの言葉を復唱するリーフ達。彼が発した結果は……。
「この先……
何も起こらん♪」
『ふざけんなあああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!!!』
バザー内に五人分の技の轟音とそれを食らった哀れなゴーストポケの断末魔が響いた……。
「ったく!!あんなのほっといてさっさと行くぞ!!」
終始苛立っているウォーターを先頭に一行はバザーを後にした。取り残されたのはボロボロのサマヨールとそれを傍観していたウルガモス・どやキングの姿があった。
その後、サマヨールの妙なバザーに振り回された後は特に問題なく、最深部にたどりついた。そこは湖が広がっており、その中央には薄緑色の光が発せられていた。
「ん?誰かいるみたいだな?」
「あっ!!あいつは!!」
スパークがその近辺の島を眺めていると2人のポケモン、ジュプトルがもう一人のポケモンを倒そうとしているところだった。
「急ぎましょう!!」
『おう(はい)!!』
リーフを先頭にリーファイメンバーはジュプトルのもとに向かった。
「貰っていくぞ。時の歯車を」
「うぐぐ……。ダメだ……時の歯車を奪っては……」
ジュプトルにやられたと思われるポケモンアグノムはうめき声を出す。
「本当はお前を倒すつもりはなかったのだが……
許せ!!」
ジュプトルがアグノムに攻撃を仕掛けようとした。
シュッ!!
「!!!!?」
ジュプトルは気配を感知し、その場をとびのいた。その俊寛、先ほどまで彼がいた場所に鋼鉄の葉が三枚ほど刺さっていた。
「誰だ!?」
ジュプトルが叫ぶとそこには五人のポケモンが立っていた。リーファイメンバーだ。
「は〜い、よい子のみんな〜♪公共のものを万引きするのはよくないわね〜♪
わかるでしょ?」
先頭に立っていたリーフ笑顔が持っていた鋼鉄の葉をくるくる回しながらそう言った。無論この笑顔は裏があるのだが……
「また、お前達か。そこをどくんだ!!」
「どけと言って退くバカがどこにいるの?」
ジュプトルの脅しにもリーフは臆することなく、逆に挑発するような口調で言い放った。
「くっ!!本当にどかぬというのだな!!仕方ない。お前にはもう一度倒れてもらうぞ!!」
「倒れるのはてめぇの方だぜ!!盗人め!!」
ウォーターが指をボキボキと鳴らしながらジュプトルに詰め寄る。
「(ウォーター。今回は存分に暴れてよね)」
「(あぁ、任せな)」
リーフの言葉にウォーターは指を立てて笑顔で答えた。その笑顔は先ほどリーフがジュプトルに見せたものとは全く異質のものだった。
この瞬間、探検隊チームリーファイとジュプトルの戦いの火ぶたが切って落とされた。