第六十六話 頑張るんもいいがな……
ルッグがまた呼び出しを食らった日の翌々日、と言ってもまだ日も昇っていないほどの明け方一人のポケモンが目を覚ます。
「ふぅ…………」
外はまだ日付が変わってないかと思われるほど真っ暗であり、普通なら二度寝に入ろうとするだろう。だがそのポケモンはなぜか眠ろうとしない。そしてそのポケモンは痛む体をゆっくりと起こして部屋を出る。
「まだ、誰も起きてないようね…………」
そのポケモン、チコリータのリーフは他のメンバーが寝ていることを確認して、物音をたてないように家を後にした。
それからおよそ2数間後、そろそろ日が差してくる時間帯のころ…………
「ふわぁ〜〜〜〜〜」
また別のポケモンが大きな欠伸をしながら目覚めた。スパークである。彼は年だからか今日のように早起きするのも珍しくもない。むしろ勝手に早く起きてしまうのである。
「さて、ファイア達(あいつら)が起きてくるまで、少し散歩でも行くかな」
スパークも自分の家を後にした。
「ふぅ……………、このところあわただしくてゆっくりする機会がないものだな……………」
スパークが深呼吸をしながら木々の中を散歩していた。この散歩はかつては彼の日課のようなものだったが探検活動を始めて以来、このようにゆっくりする時間もあまりとれなかったのだ。
「ん?」
その途中、彼は妙な物音を耳にした。それも少なくともこの辺りではまず聞こえるはずがない騒がしい音が聞こえたのだ。
「一体何なんだ………」
スパークは慎重に物音がする方角を向かっていった。
「(もう一度……………。あの時の感覚を思い出して……………
はああああああああああぁぁぁっ!!!」
そこには自分の知っているチコリータ、リーフが木に縛られたマグカルゴ型の人形に葉っぱカッターを繰り出している様子が目に入った。(余談だがマグカルゴ人形の顔はへのへのもへ字になっている)
だが、この葉っぱカッター、通常の緑色とは違ってどの葉っぱも銀色をしていたのだ。さらに銀色の葉っぱは落ちるたびにドサッという効果音を発していた。
「(はぁ………はぁ………
やっとできた……………)」
どうやら彼女は特訓として新技の開発をしていたようだ。疲労を感じながらも同時に達成感を感じていた。
「おい」
「--------っ!!」
不意に後ろから話しかけられて一瞬リーフはびくっとなった。背後には先ほどの行動を見ていたスパークが木にもたれかかりながら立っていたのだ。
「こんなところで何をしている?」
スパークは腕組みをして少し厳しい口調でそう問いかけた。彼がこのような口調で話しているのは恐らく周知のことだろう。
「えぇっと……………、勿論トレーニングです!!あの時ジュプトルに勝てなかった……………。そしてもしかしてチームも守れずに迷惑をかけたかも知れなかったから……………」
はじめは勢いよく答えていたが、徐々に勢いを失い俯く。だが、彼女は自分の本当の想いをぶつけたのだ。
「お前の気持ちは私にもよく伝わっている。事実さっきまで新技の開発をしようとしていたほどだからな。
でもな、一人で抱え込みすぎじゃないのか?」
「えっ?」
スパークの言葉にリーフははっとした様子を見せる。
「リーダーとして仲間を守ろうとするのは大事なことだ。だがな、今の手負いのお前の体がこれ以上悪化させたらそれこそあいつらに迷惑がかかるんじゃないのか?」
「-----------っ!!」
「チームなんだから少しくらい甘えてもいいんじゃないのか?そうしないとチームでいる意味がないだろう?」
スパークは表情こそは厳しいが諭すような口調で語りかける。
「壁にぶつかっても努力を続けることは勿論大事だ。だが、時には力を抜くことも大事だと思うぞ。ずっと頑張りっぱなしじゃ疲れるだろう?」
「……………」
リーフはスパークの言葉をだまって聞いていた。
「そうですよね……………
わかりました!!」
リーフの表情はいつものように明るい顔に戻っていた。それを見たスパークも少し嬉しそうな表情になる。
「さて、そろそろあいつらが起きる時間だ。戻るとしよう」
「ちょっと待ちな!!」
『っ!?』
突如響いた低い声、その声がした方向に二人は振り向く。そこには両手と頭に鋼色のドリルを兼ね備えたポケモン、ドリュウズがたっていた。
「何者だ」
「へへへっ、バクフーン様の命令だ。お前らの持っている七つの秘宝を渡してもらうぜぇ」
ドリュウズがニヤニヤ笑いながらそう言い放った。バクフーンという単語にリーフ達の表情に緊張感が走り、戦闘体制に入ろうとする。
だが、その緊張も一瞬で吹き飛ぶこととは知らずに……………
「おいおい、抵抗しない方が身のためだぜ?いっとくが俺様は滅茶苦茶強いしもし俺様を倒すとバクフーン様が黙っちゃいねぇぜ」
『……………』
ドリュウズは脅すように言い放った。だが、リーフ達にとっては”自分は雑魚です”と主張しているようにしか見えなかったのだ。
「わかったらさっさと七つの秘宝を渡しな!!」
『だが断る』
リーフとスパークはまさかのハモりを見せた。
「ほほぉ、もう一度チャンスをやる。俺様に七つの秘宝を渡せ!!」
『だが断る』
二回目でとうとう我慢の限界がきたのか、それまで余裕の表情を浮かべていたドリュウズも一転、顔を真っ赤にして怒りの表情と化した。
「てめぇら…………
この俺様を舐めやがって〜っ!!ギタギタのメタメタにしてやるぜ〜っ!!」
ドリュウズは依然として顔を真っ赤にして地団太を踏む。
「(大丈夫かリーフ?まだ傷はなおってないのだろう?)」
「(大丈夫です。あのドリュウズは大したことなさそうですし、
ちょっと試してみたいことがありましてね♪)」
リーフはスパークにそう伝えた。
「(わかった。だが危なくなったら私も向かうからな)」
スパークの言葉にリーフは頷き、ドリュウズの方に振り向いた。
「はははははっ!!!手負いのチコリータの小娘ごときが俺様に勝てると思ってんのか!?いくら相性では俺様には多少有利だとしても俺様の方が……………」
「御託はいいからさっさとかかってきたら?」
バカにした笑いでドリュウズは言い放ったが、リーフの挑発に余裕の表情が再び崩れる。
「なんだとぉ〜っ!!ふざけんじゃねぇ!!乱れ引っ掻き!!」
ドリュウズは自身の爪を無造作に振り回しながらリーフに突っ込んでいった。
「メタルカッター!!」
リーフは頭の葉を振り、そこから大量の葉の刃を放出した。通常なら葉っぱカッターと呼ばれる技だが、この葉はアイアンテールの尾のように鋼鉄化していた。
「どわ〜っ!!!」
メタルカッターを真正面から受けドリュウズは吹っ飛ばされるが、なんとか体制をたてなおす。
「この野郎!!!泥かけ!!」
ドリュウズは地面を蹴ってリーフに向けて泥を飛ばした。だがリーフは慌てる様子もなく地面に落ちた鋼鉄の葉を二枚拾い……………
「何ぃ!?」
泥かけの泥を切り裂いた。切り裂かれた泥は勢いを失い地面にドサッという音を残して落ちていった。
「ちくしょ〜っ!!!切り裂く!!」
ドリュウズはもう一度自分の爪を使った切り裂くで反撃を目論みる。だが怒りのあまり攻撃が大ぶりになってしまっている。
ガキン!!
またしても攻撃が防がれた。今度はあの葉で切り裂くを止めていたのだ。
「それっ!!」
「ぐわっ!!」
リーフは防いだ方とは逆の葉を持った蔓でドリュウズを切り裂いた。ドリュウズは鋼タイプなので草・鋼のダメージは少ない筈だが、かなりのダメージを負ったようだ。
「(成程なただの斬撃なら相性の影響はないからな)」
スパークが戦いを見てそう解釈する。確かに針やトゲのような武器を使った攻撃は相性に依存しない。だが技を使った武器なのでそれなりの威力は維持していたのだ。
「ぐあっ……………
この野郎……………」
ドリュウズは木を背にしながらよろよろとよろけた。その瞬間をリーフは見逃さなかった。
「はっ!!」
リーフは手に持った葉を投げた。だが、その先はドリュウズではなく、彼の遥か頭上をかすめていった。
「どこ見てやがんだ!!俺様はこっちだぜ!!」
バカにした様子で言い放つドリュウズ。だが数秒後、彼の顔面に何かが落ちてきた。
「どわっ!!」
彼の顔に落ちてきたのはモモンの実と呼ばれる木の実だった。カゴの実とは違いかなり柔らかい木の実であるこの実は顔面に落ちてきた瞬間にグシャッという音と共に半液体と化し、彼の視界を奪った。勿論これはリーフが狙って落としたもの。木の実で視界を奪う作戦だったのだ。
「くそがあぁっ!!!見えねぇ!!どこにいやがんだ!!」
「こっちよ」
リーフがドリュウズの肩をポンと叩いた。思わずドリュウズは無防備に振り向いた瞬間、彼の体に鋭い痛みが走った。鋼鉄の葉で再び切り裂かれたのだ。これに耐えられなかったのかぐはぁっとこぼしながらドリュウズはそのまま倒れてしまう。
「ふぅ、やっぱり大したことなかったわね。」
「お前にとっては朝飯前だな」
「そんなこと言われたらおなかすいてきましたよ」
リーフは蔓で出てくる汗をぬぐいながらそう呟いた。
「よくやったな。それでこいつをどうするか?」
「とりあえずは保安官のところに身柄を預けた方が……………」
「お待たせしました!!」
リーフがいいんじゃないですかと言いかけた時に別のポケモンの声が聞こえた。そこには保安官のポッチャマ・ゴウカザルの姿が。
「随分早いな……………」
スパークが苦笑いをしながらそう言った。
「えぇ、さっきまでそこで見てましたからね」
『じゃあ、止めろよ!!』
保安官のポッチャマ、ファルコの言葉にリーフ達がハモリ突っ込みをする。
「まぁ、リーフちゃんの新技が見たかったしな!!」
ゴウカザル、フレイムが悪びれずに答える。密かにファルコも頷いていた。
「とりあえずは逮捕にご協力ありがとうございました。このドリュウズからはごうもn……………
取り調べをしてあの組織のことを聞きだします。行くぞフレイm……………」
何やら物騒なことを言いかけたが気にしない。
「ねぇ、リーフちゃ〜ん。今からオレとデートでも……………」
「ハイドロポンプ×443」
「うぎゃああああああああああああああああああああぁぁぁっ!!!」
最早恒例行事ともいえる制裁。フレイムはそのまま星となったとさ♪
「あぁ、それからお二人にお客さんがみえてますよ」
「お客さん?」
「こちらです」
ファルコがそう言うと自分達がよく知るズルズキンと銀色のキュウコンが姿を表した。
「ルッグさん!?」
「キュウコンさんもなぜここに?」
これには少し驚いたのか、二人して驚きの表情を浮かべる。
「実は、かくかくしかじかなんです」
「いや、分かる訳ないだろ!!」
スパークが突っ込んだ。
「成程、キュウコンさんがルッグさんの弱点を見抜いてそれを克服するために呼ばれてさっきまで姿を消してたんですか」
「って、よく分かりましたね!!」
なぜか解釈したリーフにルッグが突っ込む。
「それは分かったがなぜキュウコンさんまでここに来たのだ?」
「えぇ、そのことなのですが、今すぐにでも伝えたいことがありましてね」
「伝えたいこと?」
リーフがキュウコンの顔を覗き込むようにして凝視する。
「単刀直入に申し上げると時の歯車のことです。水晶の洞窟に時の歯車が眠っているとの情報が入ったのです」
「えぇっ!!」
「ジュプトルが!!」
これにはリーフもスパークも驚く。
「断言はできませんが、水晶の洞窟に時の歯車があるはずですわ。そしてそこにジュプトルがいずれ来るかと」
「わかった、ありがとうキュウコンさん。準備ができ次第我々も向かおうと思う」
スパークはキュウコンに頭を下げる。
「でも、何でルッグに伝えなかったのだ?」
「そりゃ、ルッグなら何かの拍子で忘れかねないですからね」
「そりゃ酷いですよ〜」
ルッグは少し涙目になっていた。その光景に三人分の笑い声が聞こえた。
「ではわたくしはこの辺で失礼します」
「あぁ、ありがとう」
キュウコンはその場を去った。
「さて、わたし達も戻って準備を…………
うぅっ!!」
「おっと!」
リーフは帰宅しようとするが、傷の痛みで思わずふらついてしまい、スパークに支えられた。
「仕方ないな。よっこいしょ!!」
スパークはリーフを自分の背中にのせ、おんぶの形をとった。
「えぇっ!!でもスパークさん…………」
「大丈夫だ。お前を背負えぬほど私はまだ老いてはいない」
恥ずかしがるリーフを気にとめる様子は全くなく、そう言ってスパークはリーフを背負って帰宅しようとした。その後にルッグがついていった。