第六十四話 ルッグの修行
「うわあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
大声を発しながら凄まじいスピードでダッシュしているポケモンが一人いた。そのポケモンの種類はルッグことズルズキン。また彼は例によって彼の上司であるサザンドラに呼び出しを食らったのだ。勿論彼がこれほどまでに慌てるのは少しでも遅れるとバツとして流星群をぶっ放されるからだ。
「遅くなりました〜っ!!!!」
「遅いわクソボケエエエエエエエエェェェェェェッ!!!!!!」
「あげえええええええええええええええええええええええぇぇっ!!!」
扉を開けて入ってくるや否やサザンドラはルッグをブッ飛ばしにかかった。吹っ飛ばされたルッグは壁に頭をめり込ませてしまった。物騒なのだがこれが彼ら日常なのだ。いや、正確にはだったと言い換えるべきだろう。
「遅い!!42.195秒遅刻だ!!」
「なんでフルマラソンの距離なんですか!!」
中途半端な秒数にルッグが突っ込む。
「とにかくついてこい!!キュウコンお嬢様がお呼びだ!!」
「じゃあ何であんたが制裁するんだよ!!」
いや、何をいまさら言っておる。まぁ、そんなこんなでルッグはサザンドラについていく。
「キュウコン様!!ルッグを連れて参りました!」
ルッグを連れてきたサザンドラは自分達の主であるポケモンキュウコンの前に立つ。
「御苦労さま。もう下がってもよろしいですわ」
「かしこまりました」
サザンドラは部屋から出ていった。
「それで今日はどうされたんですか?」
ルッグは自分が呼び出された用件を尋ねた。彼は何か事件や依頼の件で呼ばれたと思っている。
「単刀直入に申し上げます。ルッグ。わたくしとバトルをしてもらいます」
「あ〜、それで呼ばれた訳ですか、成程成程
って、えええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇっ!!!!」
ルッグのノリツッコミと叫びがこだまする。
「なななななな・・・・何で僕がキュウコン様とバトルをしなきゃいけないんですか!!(サザンドラさんならいいけど・・・・・)」
ルッグは自分がキュウコンとバトルすることをあまり好ましく思ってなかった。やはりキュウコンを攻撃することは彼にとってはかなり抵抗があるからだろう(ちなみにサザンドラに対しては積年の恨みを晴らしたいからだろうか積極的にバトルをしたがっている)
「理由は後で話しますわ。とにかく今は庭に来てください」
「あぁ、リーフさん達が探検活動を始めようとするところですね」
「・・・・・・・。二話と庭違いですわ・・・・・・」
ルッグにキュウコンが突っ込んだ。
場所は変わってここは屋敷の二話・・・・・ではなくて庭、この庭はごく一般的な庭にバトルフィールドが設置されており、おもに訓練に用いられている。だが主であるキュウコンがここでバトルすることはめったにないのだ。そのためかバトルに来ていたルッグとキュウコンのみならず、サザンドラやルッグの親友であるワルビアルもいた。
「さて、準備はOkですか2人共?」
「問題ないですわ」
「オッケーで〜す♪」
ちなみに今回のバトルの審判役はサザンドラ。
「それでは・・・、バトル開始!!」
「一気に行きます!!噛み砕く!!」
バトル開始の合図とほぼ同時にルッグが噛み砕くで突っ込もうとした。
ツルッ
「うわああああああああああああああぁぁぁっ!!!」
ルッグは足元を派手に滑らせて転倒し、顔面を強打。
「あ〜、そこさっきワックスかけたばっかなんだよね〜」
先ほどこのバトルフィールドを掃除していたワルビアルが申し訳なさそうに言った。
「はやく言ええええええええええええぇぇぇっ!!!!」
仕切り直し、ワックスも乾き、改めてバトルに戻った。
「では改めて!!噛み砕く!!」
ルッグはもう一度自身の鋭い牙を剥けてキュウコンに襲いかかる。
「大文字!!」
キュウコンは向かってくるルッグに向けて炎タイプの大技、大文字を放った。
「うわっ!!」
ルッグはかろうじて大文字をよけた。だが多少かすったためか、かすったた場所が少し焦げていた。
「っ-----!!ドレインパンチ!!」
今度はダメージを与えつつ体力を吸収するドレインパンチを繰り出した。ルッグはこの技の性質を用いて打ちあいに持ち込もうと考えてこの技を使用したのだ。
「アイアンテール!!」
キュウコンは自身の尾を鋼鉄化かさせ、ルッグの向けて放った。アイアンテールはドレインパンチの範囲外からルッグに直撃する。
「うわっ・・・・・・」
ルッグの腕はキュウコンの尾よりもかなり短くドレインパンチでは攻撃がとどかずに、逆に攻撃を食らってしまう。更にルッグはある感覚を感じていた。
「気付きましたわね」
「・・・・・・・・・・・・・はい」
キュウコンに言われてルッグは短くそう返事をした。
そうルッグは今回のバトル自分のズルズキンという種族の手足が極端に短いと感じていた。手足が短いと彼の得意の肉弾戦が今回のように相手によっては長いリーチに押されがちになり十分に発揮できない。更にルッグはリーフ達のようにまともな遠距離技がなくどうしても接近戦を余儀なくされるのだ。キュウコンはこのことを気付かせる為にルッグを呼び出したのだ。
「自分で気付いたようですね」
「しかし・・・・、一体どうすればいいんですかね?」
たとえ自分の弱点がわかっても対策が分からなければどうしようもない。ルッグは少し困った様子である。
「それならこれを使うといいですわよ♪」
にこやかでそれでかつまじめな表情でキュウコンはルッグにあるものを手渡した。それを見たルッグの表情が硬直した。その武器は・・・・・・
「えっ・・・・・・?これ・・・・
棒ですよね・・・・?」
そう彼の言うとおりごくごく普通のルッグの背丈より少し長めの棒だった。せいぜい真ん中に持つ場所を示している布が巻かれてあるのみである。
「そうですわ」
キュウコンはあっさりと言い切った。
「こんなんで戦える訳ないでしょ〜っ!!!」
「どんなものでも使いようによっては剣をもしのぐ武器になりますわ。用は使いようです」
「な・・・成程・・・・」
そう、武器に限らず何事も使いようなのだ。
「分かりました!!これから頑張ります!!」
「では、しばらくはなれた方がいいですわね。サザンドラ」
「かしこまりました」
キュウコンは:相手をしてあげなさい:と言わんばかりの表情でサザンドラに視線を向けた。サザンドラは頷きルッグの前に立つ。
「さぁ、どこからでもかかってこい!!」
サザンドラはいつになく真剣な表情でルッグを睨むように見据えた。ルッグも負けじと見かえす。
「おりゃ!!」
ルッグは手に持った棒を思い切り振りおろした。
「甘い!!」
「うわっ!!」
サザンドラは簡単に棒を受け止め、そのままルッグごと投げ飛ばした。
「さっき言われたことを忘れたか!?」
「(そうか・・・、何事も使いよう・・・・)」
先ほどキュウコンに言われた言葉、武器は使いようである。その言葉を心の中でもう一度復唱した。そして、
「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!」
「ん?」
ルッグは勢いよくサザンドラに突っ込んでいった。あまりに単調な動きにサザンドラは少し警戒する。
「それっ!!!」
「何!?」
ルッグは棒を地面に立て、そしてそのまま棒高跳びの要領で勢いよくとび蹴りを繰り出した。その行動に虚をつかれたサザンドラはとび蹴りを食らってしまった。
「成程な・・・・・・・、だったら次はこっちの番だ!!ストーンエッジ!!」
サザンドラは小さな岩の刃を大量に放つ技、ストーンエッジを放った。
「(かわせそうにないな・・・・・・。だったら!!)それっ!!」
「なっ・・・・・・・・マジか!!」
サザンドラは思わず素っ頓狂な声をあげた。実はルッグ、棒を片手で回転させてストーンエッジをはじきガードしていたのだ。
「やりますわね・・・・・・」
「あんな芸当があいつに出来たのかよ!!」
この2人のバトルを傍観していたキュウコンとワルビアルはルッグの棒の使い方に関心していた。
「もう一度!!」
ルッグは先ほどの要領でとび蹴りをもう一度繰り出した。
「同じ手は食らわん!!」
サザンドラはとび蹴りを警戒して、上空に回避する。
「せいっ!!」
「ふごっ!!」
棒を用いた勢いでルッグはサザンドラの顔面に棒を勢いよく打ちこんだ。まともに食らったサザンドラはヘンな声を上げて倒れる。
「そう何度も同じ手を使うと思わないでください」
倒れているサザンドラに向けてそう言い放った。
「ううううっ・・・・。まさかお前がそんなに強いとは思わなかったな・・・」
サザンドラは起き上がりながらそう言った。負けたものの彼の表情はどこか嬉しそうだった。普段の扱いが悪くとも彼も部下の成長が嬉しいのだろう。
「武器を使って戦うのも結構楽しいもんですね♪」
ルッグは満足そうな表情で手に取っている棒をくるくる回転させる。
「(やはり、探検活動で戦闘のスキルが旅に出る前のルッグよりもあがっている・・・・・。だから今回の棒術もこれほど早く習得できたのでしょうか・・・・)」
キュウコンは心中でそう分析する。だが、これほど早く習得できたのは彼の戦闘センスもあってからだろうか。
「いや〜、お前そんな凄かったんだな〜っ!!!」
「それほどでも・・・・あるけど////」
ワルビアルがルッグの肩をばしばしと叩く。そんなルッグは少しばかし照れていた。