第六十三話 決意
「ふぅ・・・・・。ここまでくれば大丈夫だろう」
スパークは時が停止した大鍾乳洞を見回しながら呟いた。今彼らは巨大岩石群の入口におり、スパークは傷ついたリーフを背負っている。
「ファイアはドーブルを保安官のもとに連れて行け。ウォーターは聞き込みをして他の時の歯車がどうなったか聞いてこい。私とルッグはリーフを看ている」
「はい」
「わかった」
スパークに指示されファイアとウォーターとドーブルはそれぞれ指示された場所に走っていった。
「う・・・・うぅ・・・・」
「急ぐぞ。このままではリーフが危ない」
スパークは自分の背中でいまだに苦しそうな声であえいでいるリーフを見て焦りの様子を浮かべた。
「じゃあこれで戻りますか」
そう言ってルッグはバッグから穴抜けの玉をとりだした。そして穴抜けの玉を使用すると彼らの体が極太の光が包み込んだ。
「つきました」
穴抜けの玉の効果でスパーク達は現在自分達の家に戻ってきた。スパークは急いで家に入り近くにあったベッドにリーフを寝かせた。そこにルッグが入ってくる。
「スパークさん!」
「あまりうるさくするな。なんの用だ」
「す・・・・・・すいません・・・・・」
スパークに怒られルッグは少しバツが悪そうな表情を見せる。
「さっき郵便受けに手紙が入ってたんですが・・・・・」
ルッグは少しためらいながらスパークに一通の手紙を手渡した。スパークは手紙を読んでみた。その内容はこう書かれていた
;はよ戻ってこいや〜!!ボケ〜!!
byサザンドラ:
たったこれだけだったのだ。これを見たスパークは思わず苦笑いを浮かべた。
「すいません・・・・・。どうしても行かないといけないんで・・・・」
「行ってこい。リーフは私一人で看る」
「は・・・はい・・・・」
ルッグは遠慮がちにその場を後にしてキュウコンの屋敷に向かっていった。
「ふぅ・・・・・・・・」
そしていまだに容体はよくないリーフ以外には自分しかいない部屋で彼はため息をついた。そして彼は
慣れた手つきでリーフの体に包帯を巻いていく。
「リーフの奴・・・・大丈夫なのかな・・・・」
場所は変わってこちらは、時の歯車の安否を確認に向かっているウォーター。彼もリーフが心配なのかその表情は暗い。
「おぉ、兄ちゃん。いいバッグ持ってんじゃねぇか。オレにも貸してくれよ。いいだろ?」
そんな時彼はある光景を目にした。一人の鳥のようなポケモンムクバードがそれに似たような鷹の姿のポケモン、ムクホークのカバンを強奪しようとしていた。
「あぁっ!!僕のカバン返してぇ!!」
「じゃあな」
ムクバードはムクホークからカバンを強奪して、その場を後にしようとしていた。
「あの野郎・・・・・。オレの機嫌が悪い時に悪さしやがって!!」
ウォーターはそのムクバードに苛立ちを覚えた。いつもならその進化前のポケモンが進化後のポケモンを脅すという珍妙な光景に突っ込むところだが今の彼はリーフへの心配が高じてかなり機嫌が悪い。もともとの気の短さもあってかウォーターは飛び去っていったムクバードを矢のように飛び出して追いかけた。
「冷凍ビーム!!」
ウォーターは飛んでいるムクバードに冷凍ビームを放った。
「うわっ!!何だあいつは!!」
ムクバードは驚きながらも冷凍ビームをかわした。
「ほらよ!!燕返し!!」
「何ぃ!!」
ムクバードは急に向きを変えて燕返しでウォーターに突っ込んでいった。燕返しはウォーターの腹部に直撃しそのままウォーターを吹っ飛ばした。
「へへっ、大したことねぇ奴だな」
吹っ飛ばした先の瓦礫を見てムクバードが嫌みったらしい笑みを浮かべる。
「誰が大したことねぇんだ?」
「----------っ!!?」
突如背後から聞こえてきた声にムクバードは背筋が凍るような感覚を感じた。恐る恐る後ろを除くと自分の背中に倒した筈のゼニガメが乗っていたのだ。
「てめぇみてぇな心が歪んでる奴なんかこうしてやる!!」
そう言ってウォーターはムクバードの翼に冷凍パンチを叩きこんだ。苦手技、冷凍パンチを受けたムクバードの翼はすぐに凍っていき次第に彼の高度はどんどん落ちていった。
「うわあああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!」
ムクバードは落下の勢いに逆らえずに地面に直撃、ウォーターは上手く着地した。
「く・・くそっ!!燕返し!!」
ムクバードはもう一度燕返しでウォーターに接近した。
「ぐはあああぁっ!!!」
攻撃を食らい悲鳴を上げた。
ムクバードの方が。ウォーターは燕返しを体制を低くして交わして、カウンターのパンチを叩きこんだのだ。パンチを食らったムクバードは動きを止められてしまう。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!!」
ウォーターはムクバードを連続で蹴り続けた。蹴りを連続で食らい続けているムクバードは徐々に後ろに押されて、最後の蹴りでムクバードを壁に蹴り飛ばした。
「おい!!これで済むと思うなよ!!人のモン盗むなんて最低な野郎だぜ!!んな真似したらどうなるか思い知らせてやる!!」
「た・・・頼む・・・・。金なら払う・・・だから・・・」
ウォーターは倒れているムクバードの胸倉をつかんだ。胸倉を掴まれたムクバードは息苦しそうな声でその場を逃れようと見苦しく助けを乞(こ)う。
「あぁ!?金で解決できると思ってんのかこの鳥野郎!!」
「ううぅっ・・・・苦しい・・・・・」
ウォーターはムクバードをさらに強く締め上げる。
「ちょっと待って!!」
突如聞こえた声、ウォーターにとって聞き覚えのある声だ。彼の後ろには弟のヒノアラシの姿が。実はファイア、すでにドーブルをファルコ保安官に保護を頼みこんで帰っている途中だったのだ。
「八つ当たり(そんなこと)したって意味ないよ?
兄さんだっt--------------------」
「フン!!」
ファイアの言葉が終わる前にウォーターはムクバードが盗んでいったカバンを取り返した後にムクバードを壁に叩きつけた。
「失せろ!!」
「ひ・・・・・・・・ひええええええええええええぇぇぇっ!!!」
ウォーターに一喝されムクバードは逃げるようにその場をあとにした。
「わかってる。イライラを解消したかったんでしょ?でもこんなことしたって-----------」
ファイアの言葉も聞かずにウォーターはその場を後にした。だがファイアもこの時ばかりは普段は暴力的な兄(ウォーター)の気持ちが理解できた。
「ちょっと待ってよ!!」
ファイアはそんな兄を追いかけていった。
「あ、ありがとうございます!!」
「気にするな。どうもあんな連中は放っておけねぇからな」
ウォーターはムクホークにカバンを返していた。ムクホークはかなり嬉しそうな表情を見せる。
「しかし、あのムクバードはほんっと碌でもねぇ野郎だな」
「はい・・・・。弟はあんなことばっかりやってるんですよね」
「そうか・・・・・・
って、あいつお前の弟だったのか!!?」
「はい」
まさかのカミングアウト。
「さっきもカバンをとったり、おとといも”兄ちゃん、金かしてくれよ”って脅してきたり・・・・」
「兄ちゃんってそっちの意味の兄ちゃんだったのかよ!!」
ウォーターが突っ込んだ。
この後ウォーターはムクホークに盗まれたカバンを返して、時の歯車の安否を確認に向かっていった。だが他の時の歯車がどうなったかは確認できなかった。
「それにしてもリーフの奴は大丈夫かな・・・・・」
「わからないけど・・・・・」
調査を一通り終えて自分達の家に戻ったファイア達。現在は彼女が寝ている部屋の近くにいる。
「入るぞ」
ウォーターはノックをして部屋に入っていった。
「もぐもぐ・・・・・。あぁおかえり二人共♪
さぁ、ピザタイム!!」
彼らが目にしたのは包帯を体に巻きながらもピンピンした様子でピザを口にしているリーフの姿だった。横では何食わぬ顔でスパークが座っている
『リ・・・リーフ!!』
ファイア達はリーフのもとに走るように駆け寄った。
「おまえ、何のんきにピザ食ってやがんだ!!心配かけやがって!!
----無事でよかったぜ・・・・・・」
ウォーターはいつものきつい口調だが、やはり心配が高じてかポロリと本音を発してしまった。
「ほんっと無事でよかった〜」
ファイアもほっと胸を撫で下ろす。
「それにしても親父、もしかしてピザ焼いたのか?」
ウォーターが食い入るようにスパークに尋ねる。
「あぁ」
一言そう返した。
「ずる〜い!!何でリーフにだけ用意するの〜」
「いや、リーフはけが人だからしょうがないだろ」
「いいじゃねぇか!オレの分はないのかよ!!」
息子二人が父親にだだをこねる。彼ら曰く親父のピザはほんっと〜に上手いそうだ。
「わかったから静かにしなさい。これ以上ここで騒いだらリーフの怪我にさわるから向こうで待ってろよ」
スパークが二人を退場させ、自分も部屋を去った。この三人の親子を見てリーフはため息をついたがその表情はどこか嬉しそうだった。
しかしスパーク達が部屋から去った直後、リーフの表情が曇った。
---わたしに力が足りなかったから、時の歯車を守れなかった・・・・・・・
一人になったリーフはジュプトルから時の歯車を守り切れなかったことに対する自責の念にかられていた。だが、理由はそれだけではなかった。あの時もしジュプトルが縛り状態のファイア達に攻撃していたりすれば・・・・・・・・・。
自分に力がないばかりに大事なパートナーやチームメイトまでもが危険にされされかけたのだ。チームリーダーとしての責任感からか、それらのことが彼女の頭のなかをよぎった。
------もっと、強くならないと・・・・・・・。
窓の外を見ると既にそとは暗くなっており、星が出ていた。その景色を見て彼女は強くなる。そう決心した。すべては大切な仲間を守るために。