第六十一話 有名探検家と保安官
リーフ達が巨大岩石群で時の歯車の捜索にあたっているころ、別の場所でも時の歯車をめぐった戦いが幕を開けた。
「なぁ、ファルコ。ここにあの有名な探検家が来るのか?」
少し苛立った様子で尋ねるのはゴウカザルのフレイムことサル。彼は隣にいた相方のポッチャマに聞いた。
「お前なぁ・・・。予定の時間までまだ八分あるんだぞ。向こうが約束を破ったことにはならんだろう」
「だけどよぉ!!」
相方の言葉にフレイムは不服のようである。
「まぁまぁ、フレイムさん。あちらにもお忙しい中来てくださってるのですから。仕方ありませんよ」
そう言うのは長い体と虹色の鱗が特徴的なとても美しいポケモン、ミロカロスだった。声質や外見から判断すると♀だろう。
「まぁ、フランちゃんが言うなら仕方ねぇけど・・・」
「(こ・・・こいつは・・・・)」
♀ポケモンに呆れるほど弱い彼はフランと呼ばれたミロカロスにあっさり説得された。その様子を見てファルコは半ばあきれていた。
「やっほ〜!!おまた〜っ!!」
「申し訳ありません!!遅れました!!」
その時二人分の声が聞こえた。一人はトンボのような外見のポケモン、メガヤンマ。そしてもう一人はずんぐりした幽霊のようなポケモン、ヨノワールだった。
「いや〜!!待たせてごめんね〜!!さっきまでオイラ、三十分間リンゴ食べ放題の店で食べててさ〜♪それで遅れちゃった訳♪」
「バカ者。遅れといてその言い方はなんだ」
「だってさ!!途中で抜けたらもったいないじゃん!!」
ヨノワールは軽薄な口調のメガヤンマを諌める。しかしメガヤンマはそれほど(と、言うか全く)反省してないようだ。
「いえいえ、時間は間に合ってますから大丈夫ですよ」
「そうですよ。わざわざお忙しい中ありがとうございます」
ファルコとフランはヨノワールに頭を下げる。
「なぁ、ファルコ」
「なんだ?」
「あいつら・・・・・・・誰?」
フレイムの言葉にファルコ達は一瞬ずっこけそうになった。
「お前・・・あのヨノワールとメガヤンマを知らんのか?」
「だって知らんもんは知らん!!」
フレイムはそう言った。
「威張るな!!」
「まぁ、知らないのも無理はありません。あの方達は探検家ヨノワールとメガヤンマです。最近になって突如現れた探検隊でその実力と知識で幾多の探検や依頼を成功させてきますからね」
また喧嘩が起きそうなところにフランの解説が入った。
「そ・・そんなに凄ぇのか!?」
「はい。特にヨノワールの知識、メガヤンマの戦闘能力はどちらもかなりのものだそうですよ。まぁ、わたしもまだ実際にお会いしたことはないのですが・・・・」
「つうか、保安官の癖に部下より知識が少ないって、バカじゃねぇのか・・・」
「んだとぉ!!?」
またまたファルコとフレイムの喧嘩がはじまりそうになった。
「ちょっとちょっと!!」
「はい?」
「オイラ達ほったらかし!?」
放置されてたことに我慢できずにメガヤンマが突っ込む。
「うぅ・・・・。失礼しました。申し遅れましたが私はここの保安官兼探検隊ポケダンズリーダーのポッチャマのファルコと申します。以後お見知りおきを」
「オレはゴウカザルのフレイムだ!!よろしくな!!」
「わたしはミロカロスのフランです」
ファルコ達はヨノワール達に自己紹介する。
「私はヨノワールです」
「オイラ、見ての通りメガヤンマ!!よろぴく〜♪」
ヨノワールは礼儀正しく、メガヤンマは軽薄な感じで自己紹介する。
「さて、今回のことですが・・・・。この“北の砂漠”に時の歯車が隠されてるそうですが、そこで張り込んで時の歯車を奪うポケモンを待ち伏せして捕まえる。これが今回の依頼です。大丈夫ですか?」
ファルコが一通の依頼用紙を見せてヨノワールに確認をとった。
「はい、それで今回はファルコさん達が同行というわけですね?」
「それはいいけど、まえの保安官のジバコイルさんみたいにあまりに弱すぎて足を引っ張るってことない?」
メガヤンマはいささか失礼なことを口にした。と、言うのもこの地方はファルコ達の前にジバコイルというポケモンが保安官をつとめていたが、お尋ね者よりも圧倒的に弱く、それでいて探検家と同行し、彼らの足を引っ張ってしまうことが多々あったのだ。それによりジバコイルは保安官をクビになってしまったのだ。
「よせ」
「おい!!それはオレ達に喧嘩売ってんのか!?あぁ!?」
「お前も止めろ!!」
メガヤンマとフレイムが喧嘩しそうなところをヨノワールとファルコが止める。
「と・・・とにかく、早く向かいましょう」
「あ・・・あぁ・・・」
「そうですね」
フランの一言で喧嘩はおさまり、一行は北の砂漠に入っていった。
「あ・・・暑い・・・・」
北の砂漠に入って数分後、早くもフレイムは暑さでふらふら状態になっている。
「お前・・・炎ポケモンの癖に何言ってるんだ・・・・」
「暑いもんは暑いんだよ・・・・」
「我慢しろバカ」
ファルコはそんな彼を助ける様子は微塵もなく、バッサリと彼の言葉を切り捨てた。
「ふぅ・・・・・・」
フランもまた暑さにやられてかけている。噴きだしている汗を自分の尾でぬぐっている。水タイプの彼女は暑さに弱くてもおかしくはないだろう。
「大丈夫か?ホレ」
ファルコはバッグから水がいっぱいに入った一本の水筒をとりだした。彼のカバンには道具の他に大量の水が入った水筒を入れていたのだ。
「場所が砂漠だからな、水分補給も必要だ」
「すいません。ありがとうございます」
ファルコはフレイムの時と違って優しい笑みを浮かべてフランに水筒を渡した。フランはファルコから手渡された水筒を受けとり、水分を補給した。
「お・・おい・・・。何でオレには何もねぇんだ?」
「お前だからだ」
「おい!!それ理由になってねぇじゃねぇか!!」
理不尽なかれの言葉にフレイムはブチ切れる。
「ほら元気じゃねぇか。お前なんかに大事な水分を渡せるかよ」
「オレだって暑いもんは暑いんだよおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!」
フレイムはほえる。ファルコの言うとおりそれだけ元気があれば大丈夫だと思うが。
「ごちゃごちゃうるせぇな!!だったら思い切り冷やしてやるよ!!!冷凍ビーム!!!」
「ちょっ------------!!?」
とうとう堪忍袋の緒が切れたファルコはフレイムに向かって冷凍ビームをぶっ放した。冷凍ビームを受けたフレイムはその場でカチコチに凍ってしまった。
「全くうるさい猿だぜ・・・・・」
「あの〜、お取り込み中悪いんだけど保安官さん・・・・」
「なんです?」
メガヤンマが割って入ってくる。
「オイラもさっきから暑くて・・・・。オイラにもお水もらえないかな?」
「仕方ないですね・・・・」
ファルコはもう一本水筒を取り出しメガヤンマに渡した。
「サンキュー!!じゃあオイラ、このサルさんを運ぶから!!」
水筒の水を飲んだメガヤンマは氷漬けになったフレイムを持ち上げた。
「そう言えばファルコさんは大丈夫ですか?貴方も水タイプでしょう?」
「私なら大丈夫ですよ。この程度の暑さなら」
ファルコはこの暑さでもそれほどきつくはないようだ。
「流石保安官ですね」
「それほどでもないですよ」
ヨノワールの賛辞にファルコは否定するが、まんざらでもないようだ。
それから数十分後。あの後は特にこれといった問題もなくたどりついた先は”流砂の地”と呼ばれる場所だった。その名の通り大量の流砂が一帯に広がっており、飲みこまれたらひとたまりもない勢いで砂を吸い続けている。
「な・・・何もないですね・・・・。どうしましょう・・・」
フランが少しうろたえた様子でファルコに問いかけた。
「うろたえるな。こう言った類の場所にはなんらかのカラクリがあるはずだ。時の歯車を隠すぐらいだからそれくらいあってもいいだろう」
「でもさ!!でもさ!!ここ見ての通り流砂しかないよ!!カラクリなんて何もないんじゃないの!?」
メガヤンマがファルコの言葉に異議を唱えた。
「だったらこの流砂にカラクリがあるんじゃないですか?流砂しかないならそこに何かあるはずです」
「そっか・・・・。でも、どうやって調べよう?」
メガヤンマの言葉にファルコは待ってましたといわんばかりの表情を見せる。
「メガヤンマさん。少しその凍りついているサルを貸していただけませんか?」
「あぁ、このおさるさんね」
メガヤンマはいまだに凍りついているフレイムをファルコに手渡した。
「それ♪」
「えええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇっ!!!?」
あろうことかファルコ・・・・・。なんと凍りついたフレイムを流砂に投げ捨てたのだ。これにはメガヤンマも驚きを隠せない。
パリーン!!
流砂のしたで氷が割れたような音がした。
「ううう・・・。寒かった〜
って、ここはどこだ〜っ!!!」
流砂の真下で氷漬けにされていたサルの声がこだまする。
「きっとあのしたに時の歯車に通ずるみちがあるはずです!!」
「(んな無茶な・・・・・・・)」
そう言ってファルコは流砂に入っていった。メガヤンマは彼の無茶苦茶な方法に呆れていた。
「わたし達も行きましょう!!」
「そうですね」
後を追うようにフランとヨノワールも入っていった。
「えぇ〜!!マジでみんな入っちゃうの〜っ!!!
オイラ知らないからね!!」
遅れること数十秒、メガヤンマも流砂に入っていった。
「皆どこに行ったんだよ------------------
って、ぎゃいん!!ふぎゃおっ!!」
フレイムが一人で流砂の真上でうろうろ歩いていると上からファルコが降ってきて、彼の下敷きになった。その直後、フランとヨノワールが落ちてきてフレイムを下敷きにした。ちなみにファルコはすぐに反応できたので、すぐにフレイムから離れた為無事だった。その直後にメガヤンマも落ちてきたがはねを使って滞空したため落ちることはなかった。
「やはりここに道があったんだ・・・。行きましょう!!」
ファルコは流砂の洞窟に入っていった。そのあとを追ってフラン達三人も洞窟に入っていく。
「オ・・・・オレを置いてかないでくれ〜」
潰されてぺしゃんこになったサルがしばらくして後を追いかけた。
「ちっ!!またか!!」
流砂の洞窟に入ったのはいいが、入ってからずっと砂嵐が吹き続けていた。と、いうのもここ流砂の洞窟にはバンギラス・ヒポポタスといった特性”すなおこし”を持つポケモンがよく住んでいる。そのためこの特性を持つポケモンが一体でもいると天候が強制的に砂嵐になるのだ。
「オイラこの天気ヤダよ!!早く抜けようよ!!」
「いや、そうは問屋がおろさないようですね・・・・・」
ファルコが指差した先にはサンドパンが二体いた。
「よし、行けサル」
「って、何でオレが!!」
「お前だけ何もしてなかっただろ!!さっさと行け!!」
「ふぎゃあああぁっ!!」
ファルコはフレイムのケツを蹴り飛ばした。
「くそっ!!仕方ねぇな!!インファイト!!」
フレイムは自身の持つ大技、インファイトをサンドパンに向けて放ったが・・・・・・・
「何!?」
フレイムの拳は空を切った。インファイトは外すことはまずない技なのに、その技をすかしてしまったのだ。
「奴の特性か・・・・・」
「何!?奴の特性って!?」
メガヤンマは何も分からずに尋ねる。
「サンドパンの特性は“砂隠れ”天候が砂嵐状態になると攻撃を回避しやすくなるんです」
「そっか〜。だからさっきのおサルさんのインファイトがかわされたわけか〜」
フランの解説にメガヤンマは納得した様子を見せる。
「厄介だな・・・・。もう一度だ!!」
フレイムはもう一度インファイトでサンドパンを殴りつけた。今度は命中したらしく手ごたえもあった。
「おっと!!やらせねぇよ!!めざめるパワー!!」
背後からもう一体のサンドパンが襲いかかってきたが、それに気付きめざめるパワーで返り討ちにした。ちなみに彼のめざめるパワーは氷タイプ。地面タイプのサンドパンには効果抜群だ。
「うっし!!」
敵を倒してガッツポーズをとるフレイム。
「さっ、行きましょ行きましょ」
ファルコ達はそそくさと先に進んでいった。しかしフレイムは全く気付いてない。
「どうだ!!流石オレ!!
------------っておい!!無視すんな〜っ!!!」
おいてけぼりにされたサルは急いで後を追った。
しばらく歩くこと約十五分、流砂の洞窟の最深部とも思われる湖に到着する。
「凄い・・・・。こんな綺麗な湖があったなんて・・・・」
「わおっ・・・・凄いね・・・・」
フランが目を輝かせながら言った。メガヤンマもこの光景に言葉を失っている。
「--------------------っ!!誰か来る!!皆!!これを食べるんだ!!」
ファルコは小声でかつ強い口調で言いながら種を手渡した。ドロンの種と呼ばれる道具で食べると姿が消える代物だ。全員彼に手渡された種を食べ、姿を消した。
「ど・・・どうしたんですか?」
「誰か来ます」
ヨノワールの一言にファルコは短く言い返した。ちなみに姿が聞こえているときは声も聞こえないようだ。
「グハハハハハハハハハハハ!!バットよここか?時の歯車があるところは?」
「はい。ジェットさん。調べによると北の砂漠の流砂の洞窟と呼ばれる場所にあるという情報が入りましたから
あっ、あそこです」
やってきたのはサメハダーのジェットとバットと呼ばれたポケモンクロバットだった。本来目の前にいるファルコ達には透明状態になっている為気付いていないようだ。
「おぉ!!あれか!?じゃあ早速・・・・」
「待て!!」
ジェット達が湖に近づこうとした矢先、湖から一体のポケモン、エムリットが現れた。
「お前達か!!時の歯車を奪おうとする不届き者は!!」
「あぁ、そうだ。痛い目にあいたくなかったらさっさと渡したほうが身のためだぜ?」
「断る!!」
ジェットの言葉を全くきく様子もないエムリット。
「じゃあ仕方ねぇな・・・・・・・。
悪の波導!!」
ジェットは口から螺旋状の暗黒の波導をエムリットに向けて放った。突然の攻撃に反応できずにまともに悪の波導を食らい倒れてしまった。
「うううううぅぅぅ・・・・・」
「ぎゃははははははは!!弱ぇなぁ!!これじゃあ時の歯車の番人”カッコワライ”だぜ!!」
「ジェットさん。何でわざわざ言葉にして言ったんですか?」
「ノリだ!!ノリ!!」
ジェットは倒れているエムリットを見て大笑いする。
「くそっ!!あのサメ野郎!!ちょっと一発言ってやる!!」
「まて!!勝手に行動するな!!」
「大丈夫だって!今のオレ達は透明状態だから見えねぇよ。
ほ〜らブサイク〜♪トイレ掃除〜♪アッカンべ〜♪」
フレイムはファルコの制止も聞かずにジェット達のところに歩いていった。そして、ジェットの目の前で子供じみた挑発をしかけた。
「なんだと!?」
「えぇ?」
なんと見えていない筈のフレイムに向かってジェットは彼を睨めつけた。虚をつかれたフレイムはその場で立ちすくんでしまう。
「アクアジェット!!」
「うわああああああああああああああああああああああぁぁぁっ!!!!」
ジェットは水を纏った水タイプの攻撃技、アクアジェットでフレイムを攻撃した。アクアジェットの勢いでフレイムは吹き飛ばされて壁に激突してしまう。
「フレイムさん!!」
フランは壁に直撃したフレイムのもとに駆け寄る。だがうちどころが悪かったのか意識はない。
「フン!!バカめ!!オレがお前達に気付いていないと思ったか!!出てこい!!」
「ちっ!!結局無駄だったってことか・・・・・」
実ははじめからジェットは見通しメガネを装着しており、透明状態のフレイムのことが見えていたのだ。だがわざと気付かないふりをしていただけなのだ。更に彼は手下の大量のポケモンを呼び、ファルコ達を包囲させた。
「くっ・・・・・・」
ファルコ達は苦い表情を浮かべた。フレイムが倒れた今、かなり状況は不利な状態になる。
「ジェットさん。この前あんたらが逃がしたターゲットもいるようですよ」
「ほぉ、そりゃ丁度いい!!ここで全員始末してくれるわ!!」
ジェットはにやりと笑いながらヨノワールを睨めつけた。
「誰ひとりとしてここから生きては帰ることはできないと思うんだな!!
フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
ジェットが高笑いを浮かべる。
「鬱陶しいことになりましたね・・・・」
「鬱陶しいっていったらメガヤンマも相当鬱陶しいですけどね」
ヨノワールがさらっと嫌みを言った。
「ちょっと!!オイラのこの愛嬌あふれるスマイルはこの場を楽しく盛り上げるんだよ!!」
「じゃあ・・・・・・・、この場を明るく盛り上げてもらえます・・・・・?」
「ってごるあああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!
オレを無視すんじゃねええええええええええええええええええええぇぇぇぇっ!!!」
無視されたサメの叫びがこだました。