第六十話 歯車を盗む盗賊
「はっ!!」
しばらく睨みあいが続いた、先に動いたのはリーフだった。彼女は持っていた鉄のトゲをジュプトルに向けて勢いよく投げた。
「遅い。電光石火」
ジュプトルは鉄のトゲを簡単に交わし、電光石火を用いてリーフに接近してきた。ジュプトル
という種族のためかスピードはかなり速く。
「叩きつける」
「ぐっ・・・・・」
ジュプトルはリーフの懐に潜り込み、腕を技の通り思い切りたたきつけた。その威力は高く、攻撃をまともに受けたリーフは大きなダメージを受ける。
「うぅ・・・、蔓の鞭!!」
攻撃を受けた直後、リーフは蔓の鞭で反撃する。攻撃した直後だったためかジュプトルも反応しきれずに蔓の鞭を食らう。しかし草タイプのポケモンに草タイプの攻撃は効果が薄く、ジュプトルにはそれほどのダメージには至らない。
--------スピードは相手の方が速い・・・・。だったら!!
バシッ!!
突如リーフは蔓の鞭を真上に放った。その先は天井であり、そこの岩に蔓を引っ掛けた後、蔓を短くさせて自身の体を浮かせた。スピードは確実にジュプトルに分がある為に、上下から攻撃をしかけようと考えたのだ。
「------------そう言うことか。
だが・・・・」
ジュプトルは言葉を続けずに蔓を使って上空に浮いているリーフに電光石火で接近してきた。だが、この行動は彼女にとっては想定していたことだった。
「なっ!!?」
ジュプトルをギリギリまでひきつけてシュルシュルという音と共にリーフは蔓を短くして上昇した。これにはジュプトルも反応できずに、空中でバランスを崩してしまう。
「葉っぱカッター!!」
「ぐっ!!」
リーフはバランスを崩したジュプトルの真上から大量の葉を浴びせた。空中で、更に体のバランスを崩したジュプトルは避けるどころか防御もままならずに被弾する。
「ちっ!!」
攻撃が直撃し、そのまま急降下するもすぐに体制を立て直し、着地したジュプトルはすぐさま別の技を放つ体制に移った。
「剣の舞」
「えっ!?」
ジュプトルが使用した技は自身の攻撃力を大幅に上げる積み技、剣の舞だった。ジュプトルは相手が浮いていることから積む余裕があると判断し、この技を使用したのだ。
「電光石火」
ジュプトルはもう一度電光石火でリーフに接近した。しかし剣の舞の影響か、先ほどまでより格段にスピードが上がっていた。
「叩きつける」
「しまっ----------!!」
ジュプトルは天井をつかんでいるリーフの蔓に攻撃した。剣の舞で攻撃力が大幅に上昇している為にリーフはその痛みで思わず天井から蔓を放してしまった。
「(いまだ!!)種マシンガン!!」
ジュプトルは空中で大量の種を落下しているリーフに向けて発射した。種マシンガンが直撃し、その場で爆発が生じた。
「ふっ、少しはやるようだが、大したことなかったな」
ジュプトルは上を向いて爆発した場所を見てそう呟き、時の歯車をとりにかかった。
「-----------------ちっ!!」
ジュプトルは先ほど爆発した場所から飛び退くように離れた。その直後種マシンガンを受けたはずのリーフが自分に攻撃を仕掛けていたのだ。
「くっ!!なぜあの状況で攻撃をかわせた!!」
「これのおかげでね♪」
そう言ってリーフは背中についてるもの、”ふうせん”を見せびらかす。そう、あの蔓の鞭がつかえない状況でリーフはカバンから体を宙に浮かせることが道具、ふうせんをつけて攻撃を回避したのだ。(余談だがどこかのダメタグロスと違い、きちんと調節はしてあるようだ)
「くそっ!!穴を掘る!!」
ジュプトルは穴を掘るで地中に姿を消した。だが地面タイプの攻撃は風船で浮いているリーフには効果を成さない。
「----------よし!!今のうちに!!」
リーフはその隙に自身の持つ大技、ソーラービームの発射の準備にかかった。この技は威力は高いがチャージの時間を要する。だがジュプトルも穴を掘る状態で力を溜めていることからこちらも大技を仕掛けたのだ。
「種マシンガン!!」
「しま---------っ!!」
不意にリーフの真下の地面から大量の種が飛んできた。虚をつかれた為反応できずにまともに大量の種を受けてしまう。剣の舞で攻撃力が大幅に上がっている為、かなりのダメージになってしまう。
「いまだ!!叩きつける!!」
ジュプトルは地面から現れ、落ちてきたリーフに叩きつけるで追撃を与えた。風船は攻撃を受けると割れてしまう。ジュプトルははじめから穴を掘るで攻撃を狙ってはなく、あくまで不意打ちとして用いていたのだ。
「うぅっ・・・・・・・カウンター!!」
「なっ!!?・・・ぐはあぁっ!!」
かなりのダメージを受けたリーフだがなんとか持ちこたえ、ジュプトルに反撃する。カウンターが決まりジュプトルは吹き飛ばされ壁に激突した。
「はぁ・・・なんとか決まったわね・・・・」
実はリーフは剣の舞を使われた時からこれを狙っていた。ジュプトルの特性は“深緑”。中途半端に攻撃するとこの特性が発動する。剣の舞とこの特性が合わさると尋常じゃない攻撃を受ける恐れがでる。
そのためわざと大きなダメージを受けてからのカウンターでの反撃を狙っていたのだ。
「さて、ジュプトルを捕まえないと・・・・・」
リーフはふらふらになりながらも体に鞭打ってジュプトルに近づいた。
「ぐぐっ・・・・オレは・・・・・・
オレは負けん!!」
「うそっ!!」
倒れていた筈のジュプトルは立ち上がった。リーフは反射的にジュプトルから飛び退くように離れた。
「今度こそ終わりだ!!リーフブレード!!」
「--------------ダメ!!このままじゃやられる!!」
ダメージが溜まってたためかリーフはジュプトルの攻撃に完全には反応できなかった。技を出そうとはしたが、せいぜい悪あがきにしかならないだろう。
ガキッ!!
突如として固いものと固いものがぶつかった音が聞こえた。
「なにっ!?」
ジュプトルは自身の目を疑った。今まで自分が戦っていたチコリータがあろうことかまるで鋼タイプのような鋼鉄の体へと化していたのだ。ジュプトルはリーフから距離ととった。そして自分の腕の葉を見ていると少しだが欠けていたのだ。
「まさか今成功するとはね・・・・・・。名づけるならさしずめ”アイアンボディ”ってとこかしらね」
リーフは全身が鋼鉄化した自身の体を見回してホッとしていた。彼女が悪あがきに出した技はアイアンテールだった。しかし今回はただのアイアンテールではない。本来尻尾だけが鋼鉄化するアイアンテールを全身にその範囲が行きわたるようにしたのだ。これにより防御力を大幅に上昇させたのだ。
「まさかリーフがメタル化するとは・・・・」
「メタルってゲーセンとかで両替する奴ですか?」
「それはメダルだろ!!」
「酒とか味噌とかを入れる奴だろ?」
「それはタルだろ!!こんなときに何言ってんだこの親父!!」
おバカ親子三人がなんかコントをしていた。
さて、この三人はほっておいて話を戻そう。体を鋼鉄化させたリーフはポケモンのタイプで言うと草・鋼タイプになっていた。いくら深緑と剣の舞の効果が合わさったリーフブレードでも相性の問題、更にこのアイアンボディの効果で難なく持ちこたえることができたのだ。
「凄い・・・・」
「あんな技ありかよ・・・・」
ルッグもウォーターもリーフが出したアイアンテールのオリジナル技に驚きを隠せない。
「でもこれ・・・・・・・
重くて動けないんだけど・・・・」
「だあああああああああああああああああああぁぁぁっ!!」
なぜか縛り状態にも関わらず四人はずっこけた。体を鋼鉄化させた反動だろうか彼女はこの体についていけないようだ。
「バカな奴だ。電光石火!!」
「動けなくとも技は使えるわ!!葉っぱカッター!!」
不用意に近づいたジュプトルにリーフは葉っぱカッターを浴びせた。
「くそっ!!」
「-------------そうだ!!これで・・・・」
葉っぱカッターはかわされたがリーフはあることをひらめいた。そして彼女はもう一度葉っぱカッターを放った。だが狙いはジュプトルではなかった。
「なんだと!?」
なんとリーフは葉っぱカッターを自分に向けて放ったのだ。大量の葉がリーフに向かってくる。葉っぱカッターはなぜ掠るようにリーフの体を通過した。
「蔓の鞭!!」
「-----速い!!ぐはっ!!」
リーフは蔓の鞭を使ってジュプトルに接近した。だがそのスピードは格段に上がっており、ジュプトルも反応できずに食らう。
「な・・なんだ!?いきなり凄ぇスピードになってねぇか?」
「きっとあれだろう」
「アレ?」
スパークが言ったことにファイアはよく分からなかった。
「ボディパージって技知ってるか?」
「あぁ、あの素早さを上げるアレですか?」
ルッグが答える。
「恐らくあいつはボディパージの要領でその葉っぱカッターで体の無駄な部分を削りつつ、空気抵抗も減らしてスピードを上げたのだろう」
「へぇ〜」
スパークの解説に息子二人は関心していた。
「リーフストーム!!」
リーフはジュプトルに急接近し自身の持つ最も威力が高い大技、リーフストームを放った。
「こちらもだ!!」
なんとジュプトルも全く同じ技を放ってきた。二つのリーフストームは互いにぶつかりあう。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!!
凄まじい轟音が響いた。互いの技は互いに打ち消し合って消滅した。
「くそっ!!こうなったら!!」
そう言ってジュプトルは自身のカバンに手を入れた。何らかの道具をとりだそうとしている。
「させない!!」
リーフはジュプトルに道具を使わせる前に接近した。
「だったら・・・・!!」
ジュプトルは一つの玉を取り出して、地面に投げつけた。その瞬間、辺りが凄まじい光に包まれる。
「くっ!!」
リーフはあまりの光に思わず目を瞑るが、ジュプトルの攻撃には備えれていた。だがいくら待ってもジュプトルの攻撃は来なかった。
しばらくして光が止んだ。それと同時にリーフは自身の行動を後悔することになる。
「しまった!!
------------ぐっ!!」
ジュプトルはこれ以上戦う気はなかった。光の玉は時の歯車をとる為の時間稼ぎだったのだ。リーフはそのことに気づき急いでジュプトルを追いかけようとするが。ダメージがかなり大きく、その場で崩れ落ちてしまう。
「大変です!!」
今まで全く動くことのなかったドーブルが口を開いた。実は彼、動くことはできたが戦闘能力は著しく乏しかったのだ。そのため下手に動くとジュプトルに何をされるか分からない。そのことを危惧したリーフに今まで行動を止められていたのだ。
「ど・・・どうしたんだよ!」
焦った様子を見せるドーブルにウォーターが尋ねる。
「あいつが時の歯車を盗んだことで、ここ一帯の時が止まってしまいます!!」
「えぇっ!!?」
ドーブルの口から出た衝撃的な一言。
「早いとこここから脱出しないと我々も巻き込まれてしまいます」
「だったら早くしないと!!」
「って、その前にオレ達動けねぇだろうが!!」
ウォーターの言うとおり彼ら四人はいまだに縛り状態のままである。
「では無理やりですがワタクシが解除しましょう」
そう言ってドーブルは四人に軽く攻撃した。縛り状態の手っ取り早い解除方法がこれである。
「リーフ!!大丈夫!!?」
「うっ・・・・うぅ・・・・・・」
縛り状態が解除されるとファイアは矢のように倒れているリーフのもとに向かった。しかし
「まずいな、リーフの体がかなりヤバい状態だ。早く引くぞ!!」
スパークの一言で全員その場を後にした。
その直後に辺りが一気にグレー色へと化してきた。時の停止だ。
「くそっ!!あの生意気なジュプトルめ!!」
時の停止がする数分前、ドクローズメンバーはあの後岩場でリーフとジュプトルの戦闘を眺めていた。ヒトカゲは悔しそうに自分をコテンパンにしたジュプトルを睨めつける。
「でも兄貴、あいつ滅茶苦茶強いですぜ?どうやってかつつもりなんですかい?」
「決まってるだろ!!あいつらが戦ってボロボロになったところを俺様がもう一度乱入する!!そうすればいくらあいつらでも簡単に倒せるってわけだ!!」
「成程!!」
極めて単純な作戦だが部下達は感嘆の声を上げる。その時・・・・・・
「うわっ!!」
先ほどのジュプトルの光玉で凄まじい光が発せられる。その光はヒトカゲ達も包み込む。
しばらくして、
「行くぞ!!」
ボロボロになったリーフと時の歯車をとりにいくジュプトルを見て動き出した。彼の言う作戦の時になったのだ。
「待て〜っ!!」
待てと言って待つ奴がいるわけない。ジュプトルはそのまま時の歯車をとった。リーファイメンバーも既にその場から去っていた。
「ん?」
「な〜んか嫌な予感・・・・・」
先ほども述べたように時が停止していった。それに巻き込まれれば当然、巻き込まれたものも時が止まる、全く動けなくなるのだ。
「嘘おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
四人の叫びがこだました。無情にも時の停止は止まらずに四人を飲み込んでしまった・・・・・・・。