第二十九話 本当の宝
「ふうっ・・・・・取り合えずは一安心といったところですかね」
ズルズキンがぺらっぺらになっているグラードンを見てそう言った。事実グラードンはピクリとも動かない。
しかし、突然・・・・
「な、なんだ!!?」
突然グラードンが光始めた。その光がまぶしく思わず全員が目を瞑る。
「なんだったんだ今のは・・・・・?」
しばらくして光が止んだ。しかしそこには衝撃的な光景があった。
「ぐ・・グラードンが・・・・・」
リーフが震えた声で言った。
「なんだ、食べたいとか言うんじゃ・・・
って・・・ええ〜っ!!!」
ウォーターも同じようなの表情を見せる。それもそのはず、先ほどまでいたグラードンの姿が完全に消滅していたからだ。
「あれは本物のグラードンではありません」
「だ、誰!?」
どこからか声が聞こえた。全員が辺りを見回す。すると突然一人のポケモンが姿を現した。
「め・・・・め・・・」
「リーフさん?知ってるんですか?」
「メロンパンかぶっているの!!?」
ズコッ!!
やはり全員がずっこけた
「失礼な・・・私の頭はメロンパンではありません・・・」
そのポケモンは若干怒り気味でそう言った。
「いやぁ、すまない・・・で、あんたは?」
「私ですか?私の名は・・・・」
「ユクシー。知識の神と言われている伝説のポケモン・・・だね?」
「そ、そうです・・・・(なんでこのタイミングで・・・・・)」
ユクシーと呼ばれたポケモンは自己紹介をしようとするも、ヤドキングに遮られてしまう。
「とりあえず、ここから先には通す訳にはいきません」
「も、もしかしてこの先に宝があるから通さないん・・・
ぐほっ!!」
超がつくほど空気を読まないズルズキンの言動にリーフの蔓の鞭が炸裂。ズルズキンは頭にでかいたんこぶができた。
「違います!!今のは置いといて、僕達悪さをしに来たんじゃないんです!!」
ファイアが必死に説得を試みる。その必死な様子にユクシーに笑みがこぼれる。
「・・・・・・・・・・・・・・
わかりました、貴方達を信じましょう。どうぞこちらへ」
ユクシーはそう言っておくに向かっていった。リーフ達もそれについていった。
「こちらです」
ユクシーに連れられた先には・・・・
「汚ったねぇ部屋だなぁ、ちゃんと掃除しろよ・・・(汗)」
そこは大量のものが無造作に置かれていたお世辞にもきれいとは言い難い部屋だった。ウォーターは苦笑いを浮かべながら呟く。
「ま、間違えました・・・すいません・・・・・
では改めてこちらへ・・・・」
「「・・・・・・・・・(汗)」」
ユクシーは別の方向に向かっていった。
「(今度こそ)こちらです」
次に連れられた先は先ほどの汚ったない部屋からは一転、広大な湖、通称 霧の湖 が広がっていた。その周りにはたくさんのバルビード・イルミーゼがお尻の光を灯しながら飛び交っていて、その光景は口では言い難いほどの絶景だった。
「うわぁ・・・・・」
「綺麗・・・・・・・」
ファイアもリーフもその光景に魅了されていた。
「中央で一層輝いているところが見えますか?」
「ん?ああ、あそこだね。で、どれがどうしたの?」
ユクシーに言われた通りヤドキングは湖の中央を凝視する。
「な、なんだろあれ?」
「あれって、ギアルの一部じゃなかったっけ?」
「違いますよ、ギギギアルの一部ですって」
「確かギギギギギアル?・・・・あれ・・・"ギ"何回やったっけ?」
「どっちゃでもええわ!!!」
リーフ・ファイア・スパークのしょうもない議論が展開されたがウォーターによって締められた。
「あれは、時の歯車だよ」
「あ〜あ、時の歯車ね♪だからあれほど厳重に・・・
ってええ〜っ!!!」
「遅いよ・・・」
ズルズキンの反応にヤドキングが突っ込む。
「ま、まさか時の歯車だったとは・・・・
どうしてそんなものがここに・・・・?」
「私はこの時の歯車、そしてこの光景を守るためにここにいるのです」
エンブオーの言葉にユクシーはそう答えた。
「な〜んだ♪時の歯車か♪残念残念♪」
「「?????」」
いきなり声が聞こえた。その正体はギルドの親方プクリンだった。
「こ、この方は・・・・?」
「ああ、まぁわしらと同じ探検隊といったところか・・・・・」
今度はユクシーの問いにエンブオーが答える。
「うわ〜、凄く綺麗な光景だね〜♪」
プクリンは湖の近くに歩み寄った。しかしユクシーは複雑そうな表情を浮かべる。彼までここに踏み込んではいいとは一言も言っていないからだ。
しばらくして他のギルドメンバーも合流した。リーフ達は今回の探検のいきさつをユクシーに話してギルドメンバーのことを弁解した。
そして今は全員で景色を堪能している。
「リーフ」
「な、何?」
「僕さ、あらためて探検隊始めてよかったと思ってるんだ。確かに七つの秘宝を手に入れられなかったのは残念だった。
それに途中でお兄さんにあんな形で再会してしまったけど、何より皆でこんな綺麗な光景を見れたのもこれはこれで何者にも代えがたい宝だと思うんだ・・・・・
だから僕、リーフに凄く感謝しているんだ
だって、リーフにあってなかったら、リーフだけでなくズルズキンさん、ダゲキさん、ローブシンさん、エンブオーさん、そしてギルドの人達といろんな出会いができなかったからね」
ファイアが今までで一番真剣な表情でそう言った。リーフもいつもと違いボケることなく聞いている。
「それはわたしも同じよ。記憶を失って右も左もわからない世界をこうしていろんな仲間に出会うことができたんだから。だからわたしもファイアには凄く感謝してるの」
「リーフ・・・・・・」
こうして、今回の探検は秘宝こそは手にいられなかったが今までとはまた違った宝を手に入れた。
これで、遠征の旅は閉幕を迎える。
場所は変わって、霧の湖とはまるで違った無機質な部屋。そこには二人のポケモンがいた。一人はファイア・クロスを殺そうとしたあのバクフーン、もう一人だがその姿は暗くてよく見えない。
「お前が失敗するとは珍しいな・・・・」
「申し訳ありません・・・・・」
バクフーンはそのポケモンに深々と頭を下げる。
「いくらお前でも実の弟を殺すことはできなかったのか?」
「いえ、想像以上に厄介な邪魔が入ったもので・・・・」
「まぁ、いい。今回は勘弁してやる。下がっていろ」
「はっ」
そう言ってバクフーンは部屋をあとにした。
「ふう・・・・・」
バクフーンが部屋をでるとそこには彼の相方、サメハダーの姿があった。
「へへへへへ、あんたはどんな罰を食らったんだ?」
サメハダーがニヤニヤしながらバクフーンに尋ねる。
「罰?いや、なかったな」
「まじかよ!!?オレなんか"三週間トイレ掃除"だぞ!!不平等じゃねぇか!!」
「私に怒るな。決めたのは総帥だ」
サメハダーが納得いかない表情を見せる。
「あと、お前臭うぞ。今から一カ月半径十メートル以内に近寄るな」
「酷っ!!!そんな言い方しなくてもいいだろうが(涙)!!」
「さっさとトイレ掃除に行け。臭いが移る」
「わかったよ・・・・・・」
サメハダーはその場をあとにしようとするが・・・・・
「(ファイア・・・・・・・・)」
「・・・・・・・?
どうした?」
サメハダーが突然振り返り。そう尋ねた。
「い、いや、なんでもない」
「そうか・・・・珍しくあんたが暗い表情をしてた感じがしたからな」
「気のせいだ、さっさと行け」
「へいへい・・・・・」
サメハダーはその場をあとにした。
実は先ほどバクフーンの表情がサメハダーの言った通りほんのわずかに表情が曇っていたのだ。しかしそれは長年ともに行動してきた彼にしか分からないほどに。