第二十五話 兄の裏切り
「全部話します」
クロスが重い口を開ける。
事態は今から七年前にさかのぼる
道端を歩いていたのはクロスと赤い目と両手の大きな針が特徴的なポケモン、スピアーだった。
「流石ですねクロスさん!!」
「いやぁ、それほどでもないよ」
スピアーはクロスをあこがれの目で見ていた。その様子にクロスは若干照れる。
実は彼らの地区では月に一度虫ポケモンのみのバトル大会が行われていた。
クロスはその大会でたった今、今回で三連覇をなしえたのだ。ちなみにスピアーは彼の後輩にあたる。
「そんなこと言ったってニードルだって、だんだん成績良くなっているじゃないか」
「いや〜、オレなんかまだまだクロスさんにはかないませんよ♪」
否定はするもスピアーのニードルは嬉しそうな表情を浮かべる。
「でも、こうやって後輩がどんどん力をつけていってくるのを感じてくると、そろそろ世代交代を感じてしまうんだよな・・・・」
「そんなむなしくなること言わないでくださいよ!!クロスさんなら大丈夫ですって!!」
若干暗い表情を浮かべるクロスにニードルは明るい言葉をかける。
それらの光景は仲の良い先輩と後輩ということが一目瞭然だった。
「その時だったんだ・・・・。あの時はまさかこんなことになるなんて・・・」
「・・・・・・zzzzzzz・・・」
「・・・・(眠い)・・・」
クロスの話の最中にリーフは熟睡、ファイアも欠伸をしていた。
「・・・・・・・・・(激怒)
起きんか〜っ!!!!」
クロスはどこからかハリセンを取り出し、思いっきりリーフとファイアとド突く。(どこから取りだしたかはご想像にお任せします)
「痛っ!!!」
「話は最後まで聞けいっ!!!ねぇエンブオーさん!?」
クロスはちらりとエンブオーの方へ向く
「全く・・・もぐもぐ・・話は・・・もぐもぐ・・・ちゃんと・・もぐもぐ
聞く・・・もぐもぐ・・・・もんだぞ・・・ゲップっ!!」
「ヒトの話を聞くときは食うのをやめんかい(怒)!!!」
エンブオーは大量のリンゴを食していた。そんなエンブオーにもハリセンの突っ込みが炸裂。
「全く・・・・」
クロスの表情はバクフーンに見せたのとはまた違ったベクトルの怒りの表情を浮かべる。
「話を戻しますよ・・・」
「ん?何すかねあれ?」
ニードルが指差した先にはどこからか煙が出ていた。クロスはそれを見ると一気に表情が青ざめる。
「(も、もしかして・・・・・)」
クロスは猛ダッシュで煙のもとへ走りだした。
「ちょ!・・・クロスさん!?どうしたんすか!?」
ニードルも慌てて追いかける。
「ん?誰だ?」
煙のもとは一つの民家だった。その前にはサメハダーがいる。
サメハダーがふと、どこかを見ると猛ダッシュしてくるヘラクロスのクロスの姿が、クロスは自分に向かってダッシュしてきている。
「な、なんだ!?
・・・・・・・・グェハッ!!」
クロスの猛突進にサメハダーは吹き飛ばされ壁にめり込む。それと同時にクロスは立ち止った。
「・・・・・・・そ、そんな・・・・」
クロスはその光景を見て愕然とする。そこは自分の家だったのだ。クロスは言いようのない不安感に襲われる。クロスは飛び込むように家に入っていった。
「父さん!母さん!!」
「く、クロス・・・・来るな・・・」
あとの声はかなりよわよわしかった、クロスの脳裏に最悪の展開が浮かぶ。クロスは震えながらも扉を開けた。
「・・・・・・・・・!!」
クロスが見たのは自身が予想していた最悪のシナリオだった。彼の両親と思われる二人のヘラクロスが無残な姿で倒れ、その二人を銀の針を持って踏みつけているバクフーンの姿があった。
「あ、あんた誰だよ・・・・何で父さんや母さんを・・・・・」
クロスの声はショックのあまり震えていた。
「・・・・そうか・・お前はこいつらの息子か・・・・
まぁこいつらだが、我々に刃向かったため、それ相応の報いを受けてもらっただけにすぎない」
バクフーンの言葉は冷たかった。その言葉にクロスは背筋が凍る感じがした。
「ふっ、そしてお前も生かしておくと邪魔をしかねないな・・・・
ならば・・・・」
バクフーンはそう言って、持っていた銀の針をクロスに向ける。
「消えろ」
バクフーンはクロスに向かっていった。クロスはショックのため動くことができない。
「ミサイル針!!」
「!!?」
クロスの後ろから二本の針が飛んできた。バクフーンはぎりぎりでかわす。
「大丈夫ですかクロスさん!?」
スピアーのニードルだった。
「おい、あんた!クロスさんに何をしようとしてたんだ!!」
ニードルは怒りに満ちた表情を浮かべながらバクフーンに怒鳴りつける。
「殺そうとしただけだ」
「なんだと!!?」
バクフーンのあまりに身勝手な言葉にニードルは憤慨する。
「そしてお前もだ。我々の邪魔をするなら容赦はしない」
「お前みたいなやつに負けてたまるか!!」
バクフーンもニードルも戦闘体制に入る。
「クロスさん、ここはオレに任せてあんたは警察に連絡を」
「わ、わかった・・・」
クロスは震えながらも立とうとするが・・・・
「・・・・・・しまっ!!」
バクフーンに背後にまわられクロス首に銀の針を突きつけられる。
「お前が一歩でも動けばこいつの命はないぞ」
「ぐっ・・・・」
バクフーンはニードルを恐喝する。二ードルは苦虫をかみつぶした表情(虫タイプだけど)を浮かべるが・・・・
「・・・・・?」
突如ニードルが不敵な笑みを浮かべる。すると・・・・
「背後ががら空きだ!!」
「なっ!?」
バクフーンは驚愕した。それもそのはず、目の前のスピアーが突然消え出したのだ。
「ダブルニードル!!」
「ぐっ!!」
バクフーンの背後に突如強い痛みが走った。後ろを見ると、消えたはずのスピアーが両手の針を自分の背中にに指していたのだ。
実はニードルは家に入る前に、身代わりの分身を仕込んでおいた。そして身代わりを囮にバクフーンの背後を取っていたのだ。
「ぐっ・・・ただの虫ごときが我々に刃向かうとは・・・・」
バクフーンが先ほどの表情から一変怒りの表情を浮かべる。
「さあ、大人しく処刑台に行くことだな!!もうあんたは二人も殺してるんだからな!!」
ニードルは左手の針をバクフーンに向ける。
「ふん、ただの虫けらごときがいきるなよ
大文字」
バクフーンは口から凄まじい業火を発した。しかし方向は明らかに的外れであった。
「へっ、どこを向いて・・・・
・・・・・・・・・・・・・・」
ニードルの表情がとたんに一変する。それは大文字の方向が自分ではなくクロスに向いていたのだ。
「危ない!!」
クロスは自分に飛んでくる大文字をかわしきれずに思わず目を瞑る。
しかし、いつまでたっても攻撃が自分に被弾しない。おかしいと思ったクロスは目を開ける。
そこには痛々しいほど黒こげの自分の後輩のスピアー、ニードルが自分の前に立っていた。
クロスを見を呈して守ったのだ。
「に、ニードル・・・・」
「クロスさん・・・大丈夫・・・で・・・・」
ニードルの言葉が終わらないうちに倒れた。しかしバクフーンは邪魔されたにも関わらずまるでさも当たり前の表情を浮かべる。
「ふっ、やはりお前達は弱った仲間をかばう愚かな習性があるようだな。まあそのおかげで殺りやすいのだがな」
バクフーンは黒こげで倒れているニードルをみて嘲笑いながらそう言った。
その言葉にクロスの表情が一変する。
「さて、厄介な蜂は片づけた、次はお前だ」
バクフーンはクロスににじり寄るが・・・・
「お〜い!!警察がこっちに来るで!!」
突如サメハダーがけたたましく扉をあける。なぜか彼の体には襟巻トカゲのようにコンクリートの壁が着いている。(実はクロスに飛ばされ壁にめり込んだあと、抜こうとしたが抜くことができず、やむを得ず壁を抜かずに無理やり壊して駆けつけてきたのだ)
「どういう状態だ・・・・・」
流石のバクフーンもこの光景を見て苦笑いを浮かべる。
「んなこと言ってる場合じゃねぇ!!早いとこ逃げるで!!」
「ああ」
サメハダーに促されバクフーンもその場を去った。
「そ、そんな父さん・・・母さん・・・ニードル・・・・
うわああああああああああああぁぁっ!!!」
クロスはその場で泣き崩れていた。
「ニードルは命こそは助かりましたが、二度とバトルができない体になってしまいました・・
父さんと母さんは・・・・」
クロスの言葉が途切れた。これ以上を求めるのは残酷すぎるため追及はしなかった。
リーフとエンブオーはバクフーンにただならぬ憤りを感じていたがファイアだけは違っていた。
「お、お兄さんがそんなこと・・・・・」
ファイアは信じられないと言わんばかりの顔をしていた。しかし、クロスの様子から到底嘘とは考えられない。
「とにかく、これからリーダーに報告に行かないといけないんで、この辺で・・・」
クロスはそう言って飛び去って行った。
「クロスさん!!」
ファイアがそう叫んだ。当然だがクロスは戻ってこない。
「カバン忘れてます!!!」
リーフがカバンを持ち上げながらそう言った。クロスはがくっと落っこちていった。