第二十四話 復讐
「何者だ?」
バクフーンは相変わらず冷静な態度でそう言い放つ。しかしヘラクロスは銀の針を持ったまま無言でバクフーンににじりよってくるだけである。
「・・・・・・僕の顔を見ても思い出せないのか?」
ヘラクロスの第一声はそれだった。その言葉からヘラクロスはバクフーンのことを知っているようである。
「・・・・ふっ、誰かと思えば、親が殺されただけで泣きじゃくっていたあの時のヘラクロスか」
バクフーンが嘲笑を浮かべる。その言葉にヘラクロスの表情が一変、鬼のような形相になる。
「そうだ・・・・、あの時、僕の目の前で父さんと母さんが貴様に殺された・・・・」
ヘラクロスは持っていた銀の針をへし折りながらバクフーンに近づく。
「だから・・・・」
「だから?」
「・・・・・・・・・・
貴様の命を取りに来た!!!うおおおおおおおおおおおっ!!!!」
そう叫ぶとヘラクロスはバクフーンに向い殴りかかる、格闘タイプの大技、インファイトだった。
「ふっ」
しかし、全て軽く交わされる。
「力みすぎて大ぶりになってるぞ」
「ストーンエッジ!!」
バクフーンの忠告に耳を貸さずヘラクロスは次の技を出すもすべてよけられる。
「ふん、ヒトの忠告はちゃんと聞くものだぞ」
「黙れ!!貴様の言葉なんか聞いても耳が汚れるだけだ!!」
確かにバクフーンの言うとおりヘラクロスの戦い方はかなり力任せである。
「辻斬り!!」
「・・・・・神通力」
ヘラクロスが辻斬りを仕掛けるもバクフーンの神通力に止められてしまう。そしてヘラクロスはそのまま壁に飛ばされる。
「ふっ、強くなったのは勢いだけで、相変わらずの弱虫だな」
バクフーンが馬鹿にした笑みをヘラクロスに見せつける。
「なんとでも言え・・・・・貴様だけは絶対に許さない・・・・」
ヘラクロスはゆっくりと立ち上がる。
「しかたない、なら、お前も親のもとに連れて行ってやる」
「こっちの台詞だ・・・、むこうでずっと両親に詫びを入れ続けろ!!!」
ヘラクロスは再びバクフーンに向かっていく。
「無駄なことを・・・」
--グシャッ--
「ぐはあっ!!」
ヘラクロスの腹に何かが直撃した感覚がした。それと同時に彼の腹から鈍い音がし、
壁に吹き飛ばされる。バクフーンは技を出していない。ただの蹴りを食らわせていただけだった。しかし、バクフーンは手を緩めない。倒れているヘラクロスの首を掴む。
「うっ・・・・・・」
「苦しいか?」
バクフーンはこれ以上ないくらいの嫌みな笑みを浮かべながらヘラクロスの首を掴み壁に押し付けている。ヘラクロスは抵抗するも、バクフーンの力が強く離れることができない。
「がはぁっ!!!」
バクフーンがヘラクロスの腹を殴りつけたり、蹴りつける。それも連続で何度も何度も。
「あの時忠告した筈だ、我々に刃向かうことはするなと
まぁ、怨むなら、我々に逆らったお前の愚かな両親を怨むんだな」
「ぐっ・・・・」
ヘラクロスは自分の両親を馬鹿にされたため言い返したかったが、苦しみのあまり声が出なかった。同時にいいようのない悔しさがこみあげてきた。
--く、悔しい・・・・
こ、こんな外道を・・・・一発も・・・殴れなまま・・・殺されるなんて・・・・--
「こんな虫けら、殺しても問題はないか・・・・・
今から楽にしてやる」
そう言ってバクフーンは口に炎を溜める。火炎放射だった。虫タイプのヘラクロスが食らえばひとたまりもない。しかし、ヘラクロスの表情は死んではなかった。むしろ、活路を見出したように見える。
「消えろ」
バクフーンの口から今までより強力な炎が吐かれた。炎はヘラクロスを包み込む。
しかし、バクフーンは異変を感じた。ヘラクロスを拘束していた腕が凄まじい力に襲われていたのだ。
「な、なんだ!?」
「この時を待っていた!!インファイト!!!」
「ぐっ・・・・」
拘束されていたはずのヘラクロスだが、拘束が解けていた。
ヘラクロスはバクフーンの腹に連続で殴りつける。その威力は尋常ではなくバクフーンも顔をしかめる。
「まだまだだ!!ストーンエッジ!!」
ヘラクロスは大量の小さな刺状の岩をバクフーンに向けて発射する。それは先ほどよりもスピードも威力も見ただけでも増していた。
「(しまった!!奴の特性根性か!)」
バクフーンは自らの失策を後悔した。根性は状態異常になると攻撃力が増大する特性。今のヘラクロスは火炎放射で火傷状態になっている。
ストーンエッジはバクフーンに直撃する。相性がいいためかバクフーンは膝をつく。
「辻斬り!!!」
ヘラクロスは左腕をバクフーンに向けて振りかざすが、バクフーンはギリギリで交わす。
「成程・・・少しは考えたようだな」
「そのすかした顔(つら )も、ぶち壊してやる・・・」
ヘラクロスもバクフーンも構える。互いに体力はそう残されていなかった。ヘラクロスに至っては足がふらついている。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!
メガホーン!!!!」
ヘラクロスは自慢の角を向けて全力疾走でバクフーンに向かっていった。虫タイプ最強の技、メガホーンだ。炎タイプのバクフーンには効果は薄いが今のヘラクロスには十分すぎるほど威力があった。
するとバクフーンはどこからか玉のようなものを取り出した。そして・・・・
「っつ!!!」
突如眩い光が辺りを照らす。思わずヘラクロスは目を瞑る。
しばらくして光が止んだが、バクフーンの姿も消えていた(ぺらっぺらになっていたサメハダーも)。
「くっ、逃げられたか・・・・」
ヘラクロスは悔しそうに地面をたたく。
しばらくして、エンブオーもかなり回復していた。そして、リーフ達はヘラクロスに近寄る。
「もしかして、君はチームブラザーズのヘラクロスか?」
エンブオーの言葉にファイアが驚いたような表情を浮かべる。
「ぶ、ブラザーズって・・・・」
「知ってるの?」
「知らない訳ないじゃないですか!!世界を救った伝説の救助隊ですよ!!」
「でんせつって入学試験や就職試験によくある・・・」
「って、それはめんせつでしょ!!よくこんな時にボケれますねぇ!!」
ファイアはあれから落ち着いたのか、いつもの口調でつっこむ。
「ど、どうして僕のことを・・・・」
「連盟だったらっ知って当然だ」
「・・・・・そうですか・・・」
ヘラクロスはまるで、知られたくないような口調で呟く。
「確か君は両親をあのバクフーンに殺され、そして、チームブラザーズに救われて・・・・」
「そうですよ。僕はチームブラザーズのヘラクロスのクロスです」
エンブオーの言葉を遮ってヘラクロスのクロスはそう答えた。
「紹介が遅れたな、わしは探検隊連盟のエンブオーだ」
「探検隊のチームリーファイのリーダーのリーフです」
「ファイアです」
一通り自己紹介をする。
「エンブオーさん、リーフちゃん、ファイアくんか・・・覚えておくよ・・・」
クロスはそう言って立ち上がろうとするが・・・
「うぐっ!!!」
クロスの体全体に激痛が走り、そのまま崩れ落ちる。
「無理するな。今の君の体はボロボロだ。少し休め」
「は、はい・・・・・」
確かにエンブオーの言った通りクロスの体は火傷の跡などで痛々しい姿になっている。
さらに先ほどの蹴りで肋骨も数本やられてしまったらしい。(ヘラクロスに骨なんかあるのかって突っ込みはご遠慮願います)
クロスは言われた通りその場に座る。
「一体何があったんですか?」
あまり、聞いてはいけないことかもしれない。それでもリーフもファイアもクロスに何があったか知りたかった。
「わかりました。全部話します」
クロスは重い口を開けた
一方その頃、ウォーター・スパーク・ズルズキンは
「おい、親父、いつまで酔ってんだよ・・・」
「あのなぁ・・・あれだけ走らされて・・うえっ!!」
「うわっ、汚なっ!!」
「こんな調子で無事着くのか……」
スパークはとうとうやってしまった。他の二人はそんな彼に手間取っていた。