第八十九話 間に合う為には
「おう、皆の集。よく寝れたか?」
翌朝、なぜかノコタロウの研究所で一夜を明かしたリーフ達一行は時限の塔に向かう為に休んでいたのだ。幸いにも幻の大地に向かわないラックは徹夜で寝れなかったもののそれ以外のメンバーは万全の状態で挑むことができたようだ……。一人を除いてね。
「〜〜。眠い……」
ウォーターだ。ラックが寝れなかったということは当然彼のアシスタントをしていた彼も寝れなかったということに等しい。ウォーターは眠い目をこすりながら起床する。
「さて、唐突で悪いが、皆の集。O西君に入ってくれたまへ」
寝起きのところをノコタロウは遠慮せずにリーフ達を転送装置ことO西君に半ば無理やり詰め込ました。ちなみに今回は大幅に重量制限などの問題は改善されたとのことである。
「それじゃ、目的地を入力してと……。ではO西君!!お願いします!!」
『ピー。ジュンビカンリョウ。コレヨリダンジョンへテンソウシマス』
ノコタロウがスイッチを押した直後、そうO西君が言葉を発し中に入っていたリーフ達七人の姿は粒子へと変化し上空へ瞬時に転送されていった。残されたノコタロウとラックはその様子を見届けた後にほっとした安堵の様子を見せる。
「さて、俺は仕事も終わったことだし、少し寝させてもらうぜ」
そう言い残してラックはヘッドの中に潜り込むように入っていった。かと思えばすぐに寝息をたてて眠っていたのだ。相当治療がつかれていたのだろう。ノコタロウはそんな彼におやすみといいながら布団をしいていた。
「がんばれよ……みんな…」
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幻の大地。そこは穏やかな空気や雰囲気であるが、どこか物悲しいような雰囲気がする空間であった。しかし今のリーフ達にはそんなことを感じている余裕はなく、目的を遂行することで一杯一杯の状態であった。
「ここが……幻の大地か……」
「確か、この先に目的地の時限の塔があるんですよね」
ルッグが指差した先には浮島に半ば崩れかかっている建物が存在していた。恐らくこの建物こそが時限の塔で間違いはないだろう。しかしルッグの脳内に一つの疑問が思い浮かぶ。
「でも……どうやってあの浮島に向かうんです?」
「確か、古代の遺跡ってとこにそんなとこがあったと聞いたことがあるな」
「古代の遺跡?」
スパークの言葉をリーフは復唱する。
「あぁ、確かその中に時限の塔に向かう手段があったと聞いた。とにかく現地に言ってみればわかるだろう」
「そうだな、今は一刻を争う。急ぐぞ」
ジュプトルはそう言い残し幻の大地のダンジョンへと足を踏み入れた。リーフ達はそんな彼を追っていった。ただジェットのみは”我輩に指図するな!”と一人で怒ってはいたが……。
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幻の大地、そこにはカイリューやブーバーンといった最終進化形態のポケモンばかりが住み着いていた。やはり住んでいるポケモンがポケモンだけに一行も苦戦を強いられていた。今もルッグが苦労しながらも得意の棒術でブーバーンを倒したところである。直接触れると特性“炎の体”が発動して火傷状態になるのだ。火傷に軽いトラウマを抱えてるからか彼は一度もブーバーンに触れずに戦闘していた。
「それっ」
「グガッ!」
失礼。一人を除いて苦戦を強いられていたと訂正する。このチコリータはさながら赤子の手をひねるかのごとく目の前のカイリューを頭上から襲いメタルブレードで切りつけて倒していったのだ。これにはファイア以外の面子もその代わりっぷりに驚きを隠せない様子でいる。
「よっし!!終わり!!」
そんな彼らの視線を気にすることなくリーフとファイアはダンジョンの先に進んでいった。ジュプトル達は少し焦った様子で彼女たちを追いかけていった。
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そんないつになく順調な足取りで一行はダンジョンを踏破していった。そこにはグラードンやカイオーガ、ディアルガやパルキアといった伝説のポケモンの壁画が壁に描かれていたのだ。
「…………」
「?どうしたリーフよ?」
壁画を真剣に眺めるリーフを見てジュプトルが横から声をかける。するとリーフは--
「グラー丼……そういえば食べそこなったな〜」
『ずでぇっ!!』
こんな時にも関わらず食欲を発揮するリーフ。そんな彼女にジュプトルを除いた一行は派手にずっこけった。唯一ずっこけなかったジュプトルは相変わらずだなと苦笑いしながら彼女を見ていた。
「くだらないこといってないで時限の塔へ行く石船とやらを探すぞ」
「おっと、そうだったな。リーフよ、よだれ流してないでいくぞ」
スパークはいまだにグラー丼……もといグラードンの壁画をみてなぜかよだれを流しているリーフを半ば無理やり引っ張っていった。
「あっ!!あれが石船じゃないかな!?」
ファイアが指差した先には文字通り石でできたボートのような船がぽつんと存在していた。原作とは違うじゃねぇかと突っ込みがあるかと思われるかも知れないがそこはこの小説のオリジナリティとして見てくださると幸いだ。
「よし!!一刻も早く向かうぞ!!」
『そうはいくか雑草諸君!!』
--!!?--
不意に轟く嫌みな声。その声を聞いた瞬間ジュプトルは眉間にしわをよせ、”避けろ!”と叫ぶ。ジュプトルの叫びを聞いたリーフ達は反射的にその場を飛び退くように離れた。先ほどまでリーフ達がいた場所には炎で焦げたあとが残っていた。
「ちっ、こんな時に現れるとはな!!メガヤンマ!!」
『えぇっ!?』
ジュプトルが叫んだポケモンの種類と眼前にいるポケモンの種類は全く異なる種のものであった。目の前にいるのは巨大なヒードラン、だがジュプトルはメガヤンマと言い放ったのだ。しかしよく見てみるとヒードランの頭部にはうっすらとメガヤンマの姿が。ここで初めてこのヒードランはメカだと気付いた。
「久しぶりだなジュプトルにリーフよ。この私のことを覚えているかね?」
「フン、キサマのことなんぞ思い出したただけ反吐が出るがな」
メガヤンマの言葉に苦々しそうに呟くジュプトルに対してきょとんとするリーフ。
「えっと……どちらさま?」
リーフの言葉にニヤニヤした笑いを浮かべていたメガヤンマの様子は一転、顔を真っ赤にさせて怒っている。メカのハンドルを持つ手ぷるぷると震えていることからその様子がうかがえる。ジュプトルがリーフ達に”ヨノワールと同じ敵だ”と説明を加える。
「減らず口をたたきおって!!!とにかく!!お前達は私の人生を台無しにしてくれた……。その償いは今ここでとってもらうぞ!!」
「このうるさいおじさん何?売れない芸人さんだったり?」
ファイアもメガヤンマのことがよほど気に入らない様子である。連続で侮辱されたメガヤンマの顔は先ほど以上に真っ赤な顔となる。
「消えろ!!」
激昂したメガヤンマはレバーが折れるのではないかと思われるほどの力でレバーを引く。するとメカの口から大量の火球が飛び出してきたのだ。
「くっ!!」
「任せて!!」
リーフがジュプトルをかばうように火球を受けた。だがオーブの影響で炎技ではダメージを受けずに無傷でたっている。
「どうする皆?早いとこあのメガヤンマをかたずけないと間に合わないよ?」
「フン!!だったら囮をおいてけばいいだろ!!」
困った様子のリーフにジェットが吐き捨てるように言い放つ。しかしジェット以外のメンバーは納得できない様子で反論していた。
「ごちゃごちゃうるせぇ!!我輩があの虫をやる!!その隙にお前達は先へ進むのだ!!」
「えぇっ!?で、でも」
「いいからさっさと行け!!敵の我輩の心配する暇があったらさっさと時限の塔に向かわんか!!」
自ら囮になる。ジェットはそう言い放ったのだ。リーフはそんな彼を止めようとするもジェットの言葉にはっとした顔で承諾をする。
「リーフ!ファイア!!ルッグ!スパーク!!ジュプトル!!それと……ウォーター(水色の亀)!
絶対に時の停止を止めろ!!いいか!!これは我輩の命令だぞ!!」
「わかった!ジェットも気をつけてね」
「フン!!我輩をなめんじゃねぇよ!!」
リーフ達はフン!と鼻であしらうところを見届けて急いで石船に乗っていった。ウォーターだけは“誰が水色の亀だ!”と心中で反論していたが誰も気に留めなかったとのこと。
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「ジェット……大丈夫ですかね?」
石船から降り、時限の塔を目の前にしたルッグは彼を心配するように呟いた。他のメンバー(ウォーター以外の)も少なからずメカを一人で相手する彼のことが心配になっているようである。
「気持ちは分からないでもないが、奴の言うとおり俺達はやることをするまでだ。急ぐぞ」
『それはどうかな?シャドーパンチ!』
先ほどのメガヤンマのように不意に響いた声、デジャブを感じた六人はまたも反射的にとびのいた。そこにいたのは彼らが会いたくはなかった敵、ヨノワールが拳を地面にめり込ませた様子で存在している姿があったのだ。更に彼の背後には六体のヤミラミ達、そして時空ホールが渦巻いていたのだ。
「メガヤンマに続いて今度はキサマか!!」
「そうだ、貴様らがここに来ることなぞとっくにわかっていたことだ。しかしメガヤンマもここに来ていたとは丁度いい。お前達をとらえた後じっくりと奴をいたぶってやろうか」
「なにぃ!?それじゃ俺達お前らの前座かよ!!」
まるで自分達のことなんぞどうでもいいとでも言わんばかりの口ぶりにウォーターが怒った様子を浮かべる。しかしヨノワールは彼のことなぞどうでもいいといわんばかりに続ける。
「ヤミラミ達!!こやつらを時空ホールへ引き込……!!」
「タネマシンガン!!!」
ヨノワールの言葉を遮るようにジュプトルがタネマシンガンで迎撃した。指示され攻撃をしようとしたヤミラミ達は思わず怯んでしまった。
「リーフ!!後は頼んだぞ!!」
ジュプトルがそう叫ぶと彼は一つの袋を取り出し彼女に投げ渡した。その袋の中には水晶色の歯車、時の歯車が入っていた。これが示すこと。ジュプトルは遠まわしに今度は自分が囮になると言いだしたようなものだ。
「そんな!!ジュプトル一人を置いていくなんて!!」
今度は一対一ではなく一体多数というジェットの時とは比べ物にならないほど過酷な戦いである。更にこれ以上仲間が減ることに不安を覚えたリーフは声を荒らげる。
「いや、やれ!!お前達は最高のチームだ!!頼む!!やり遂げてくれ!!」
ジュプトルの真剣だが切実な声。それを汲み取ったのかスパークは真っ先に頷きリーフの左手を引っ張る。
「急ぐぞ、ここで残ってはジェットの気持ちも無駄になるぞ」
「そうですね。急ぎましょう!!」
スパークは半ば強引にリーフを引っ張っていった。ルッグやファイアやウォーターも彼の後を追うように時限の塔に入っていったのだ。ヨノワールはそんな五人を阻もうとしたがジュプトルにエナジーボールで足止めを食らう。ジュプトルはそんな五人に聞こえるように”頼んだぞ……”と繰り返した。
「どうだ?これでお前の思惑通りにはいかなくなったぞ」
時限の塔に時の歯車を所持したままリーフ達は入っていったのだ。これはヨノワールは時間がない、仮にジュプトルを倒してもリーフ達に追いつかなければ無意味だということを示している。
「何、簡単なことだ。お前をすぐにでも倒してから奴らを追えばいいだけの話。ヤミラミ達よ」
『ウイイイイィッ!!』
ヨノワールが言うと一斉にヤミラミ達はジュプトルを取り囲んだ。だがジュプトルは少しも焦らないで逆にニヤリと口元をつりあげる。
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「……………」
ジュプトルやジェットのこともあり、滞りなく時限の塔へと踏み入れたリーファイ一行。しかしリーフの表情はどこか重々しかった。やはり残った彼らのことが気になっていたのだ。
--いいから早くいけ!!我輩の心配をしてる暇があったら……--
--頼む……やり遂げてくれ!--
脳内で彼らの残した言葉が何度も繰り返されていた。ただ同盟を組んだだけにすぎないジェットも昔からの仲間だったジュプトルも彼女にとっては平等に大事な仲間と認識している。それだけに彼らのことが気になって仕方がないのだ。
「リーフ……」
「…………」
そんな迷いが見せたリーフを見て心配そうに彼女を見つめていた。そんな彼女は--
バシイィン!!
「うわあぁっ!!」
突如彼女は両手で自分の頬を力強くたたいたのだ。その音にびっくりしたのかファイアはその音と変わりないボリュームで驚きの声をあげた。
「よっし!!これでよしっと!!いつまでもウジウジしてられないわよね!!」
「…………ふっ、それでこそ私たちのリーダーだな」
スパークはわずかだが笑みを見せていた。他のメンバーも彼と同じような笑みを浮かべている。
「それじゃいそいで……」
ドガアアアアアアアアアアアァン!!!
唐突に凄まじい地響きが響いた。その影響で時限の塔の壁が一気にひび割れていったのだ。
「ねぇ!!これってもしかして!!」
「あぁ、きっと時の停止に向けて世界が一気に加速している!!」
『ッ!!?』
スパークの発した時の停止の加速。それを聞いた四人は血の気さえ引くようなぞっとした感覚に襲われた。
「じゃあ急がないと!!」
「そうね、もったいないとか言ってられないし、皆これを!!」
リーフが四人に手渡したもの、それは俊足の種と呼ばれるアイテムの一種だった。四人はすぐにでも種に手を伸ばし、それを食した。
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--時限の塔入口--
「くっ!!!なんだ!?」
ちょうど強烈な地響きが響いた頃、ジュプトルはその地響きに足をとられ思わず膝をついてしまった。それはヤミラミ達も同じことだがジュプトルと違って表情はにやりとしたままであったのだ。
「ふふっ、どうやら私たちが妨害するまでもないようだな」
ヨノワールはこの地響きの正体をあらかじめ把握していたらしくニヤリと笑っていた。むろんジュプトルもそのことは把握している。だからこそかヨノワールとは正反対の苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべていたのだ。
「だったらどうだ?ここで俺達の因縁にケリをつけようじゃないか」
「ふふっ、私が負けるわけはないが……いいだろう」
ジュプトルは腕の葉、リーフブレードを構えた。ヨノワールも拳に炎を纏い”炎のパンチ”準備をしていた。
--古代の遺跡--
「ぬおぉっ!!なんだこれは!?」
同じく強大な地響きが響いた時、メガヤンマの操作するメカと対峙しているジェットはその地響きの体をよろめかせた。そんな彼の様子を見てメガヤンマはげらげらと馬鹿にした笑いを見せる。
「驚いたかね!!この世界はもうすぐ破滅になっているのだよ!!既にもうこのフィールドも壊れていることがわかるだろう!!」
メガヤンマはご丁寧に、それでいて汚い口調でそうジェットに説明した。彼は密かにジェットの不安を期待し、そんな彼をあざ笑おうとしていたのだ。
「ガハハハハ!!成程な!!物語の締めはこうでなくっちゃな!!楽しくなってきたではないか!!」
「なっ!」
メガヤンマの意思に反してジェットは高笑いをしていたのだ。その様子にはどこか余裕さえ感じられる。だがメガヤンマは相変わらずの高圧的な態度を緩めない。
「ほざいてろ。さて、お前をサクッと消してリーフやヨノワールをさっさと始末してやるとしようか」
「………っ!!!」
リーフを始末する。それだけは聞き逃さなかったジェットは眉間にしわを寄せる。そして--
「ふざけるな!!」
「……あぁ?」
余裕の態度から一変、怒りの態度を表すジェット。その変貌ぷりにメガヤンマも首をひねった。
「あいつは……リーフは………
我輩が倒すんじゃああああああああああああああああああああああぁっ!!!」
幻の大地に一人のサメハダーの大声がこだました。メガヤンマは目の前のサメハダーは彼の予想外の台詞を発した。流石の彼もきょとんとメカのレバーを持ったまま固まっていた。
「お前こそ消えるがよいわ!!」
「ふん!サメ公、消えるのはお前だ。覚悟しろ!!」
メガヤンマはギュッとレバーを握った。ジェットも技を出そうと構えている。
「お前のその機械(おもちゃ)…………、我輩が全てブチ壊してやる!!」