第八十八話 全員集合
--これだけ成長できたなら奴ら……否彼女たちに任せても大丈夫だろうか--
バトルからおよそ十分ほど時間がたっただろう。今だ疲労の色は隠せないもののある程度は呼吸を整わせることができたグラスはよろよろと立ちあがりながらぼそりとパートナーのラグラージのもとに呟く。
ラグラージ、ラックはリーダーのお前さんが決めることだと相変わらず飄々とした雰囲気でそう言い放った。
「リーフ……否、チームリーファイよ」
「は、はい?」
どこか改まった言い方をするグラスにリーフ達は一瞬であるが困惑していた。その様子どこか明らかにランクが下回っている自分達に敬意を持っているようにすら見えた。
「お前……お前達の腕を見込んでワシから直々に依頼を申し出る」
「い、依頼!?」
「おいクソじじい!!おめぇのたわごとにこれ以上つきあってる場合なんかな……!!」
ただでさえ傷ついたリーフに戦闘を申し込んだ挙句、切羽詰まったこの状況で能天気に依頼を申し出たこのキモリにリュウセイは憤慨しそうになり彼にとびかかろうとする。
「ちょっと待ってリュウセイ」
「リ、リーフさん!?(でもこれ以上あいつの我がままにつきあってちゃ体もたねぇでしょ!!)」
リーフに制されて渋々突っかかることを止めたものの、やはりリュウセイは納得がいかずにむすっとした顔つきで下がった。リーフは”続けてください”と口には出さずに顔つきだけでそう伝えたのだ。
「まずはこれを見てくれ」
グラスはいまだによろよろとおぼつかない足取りでリーフに近寄り一枚の紙切れを手渡した。リーフも痛む傷に持ちこたえながら左手を動かし紙切れを受け取った。そこにはこう書かれていた。
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「はぁ!?今向かってるのが研究所!?」
素っ頓狂な声をあげて叫んだのはザンドの上にのっているルッグであった。彼はザンドから手渡された手紙を読んでこう叫んでいたのだ。さて読者の方々もこの手紙になんて書いてあるか気になっていることだろう。それではこの場をかりて紹介する。
--やぁ皆の集、時の停止を食い止めるために頑張ってるかい?時の歯車をおさめる“時限の塔”の場所が見つかったから君達に連絡を入れたよ。時限の塔に時の歯車をおさめれば時の停止はおさまることはわかってるよね?今僕の”すんばらし〜まっし〜ん”で君達を時限の塔に送り届けることができる装置を開発したよ。詳しいことは現地で話すから”○○の研究所”に超特急できてね。
Nより--
こう書かれていたのだ。長々しいのでようやくすると--時の停止を止めるためには研究所来い--とのことである。
「大体”N”なんて名前伏せてるけどバレバレじゃねぇか……」
アホらしいといわんばかりに呆れた様子でジェットがぼやく。彼らをその目的地に送り届けているザンドは苦笑いを浮かべていたのだ。
「だが、これが真実ならば願ってもない話だ。俺達はその時限の塔の場所を把握していなかった」
ただ一人冷静にジュプトルはこの手紙を見て肯定的な意見を述べた。しかしジェットとルッグは”そうだが何か納得できない”と言った様子で互いに顔を見合わせ、ため息をついていた。
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さて、同時刻に同一の手紙を見たリーフはどうだろうか?こたえは簡単(?)ジェットやルッグと同様に苦笑いを浮かべていたのだった。それを見たグラス達ブラザーズ一行もつられたのか同じような苦笑いを浮かべていた。
「ったくあの男は……」
やれやれと言いながらリーフはその手紙をカバンの中にしまった。当たり前だが差出人が誰なのかわかったのだろう。
「まぁ、そう言う事だ……。書いてあることには偽りはない……筈だから大丈夫だ。そこへ向かってくれ」
いささか不安な言葉を集中して聞きとらないと聞こえないほどにグラスはそう漏らした。しかしリーフ達の脳内にはある一つの疑問が浮かび上がる。
「で……どうやって向かうんですか?」
「……ラックよ」
「あいよ。お前さん達今からオレが”ちょうとっきゅう”で送ってやるよ。そこのバンギラスや口うるせぇハッサム達も一緒に送ってやるぜ。ついてきな」
そう言い残しラックは塔を後にしてさっていった。それを追うようにリーフ達も彼のもとを追いかけた。
「おい待て!!誰が口うるせぇハッサムだこらああああああぁっ!!」
ただリュウセイ一人はその場で叫びながら地団太を踏む。だが、当たり前のごとく相手にされずに彼は”ふざけんなああああああぁ”と叫びながら後を追っていた。
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「さて、到着しましたよ」
ザンドは手紙に書いてあった通り”超特急”で飛ばして目的地の研究所にたどりついた。ザンドは自分の背中に乗っている三人に振りむきながらそう言う。
「はやいな……」
「やっぱり……」
「思った通りだ……」
ジュプトルは感心、ルッグとジェットは予想通りであきれ果てていた。”また奴に振り回されるのか”という顔つきだった。
「それじゃ、目的地に無事ついたという事で……」
ザンドが後ろを振り返り飛び去ろうとしていた時だった。彼ははっと何かを思いついたかのごとく急にルッグ達に振り向き--
「運賃として1.300ポケ頂きま〜す$」
『ズドオオオオオオオォッ!!』
目を”$マーク”にしてザンドは右手を差し出した。差しだされた三人はド派手にずっこけた。その後ザンドは“冗談冗談”と笑いながらその場を去っていた。
「ったく、お前の上司ってこんな奴だったのか?」
「いつもはこんなボケるキャラじゃないんですけどね……」
「んなことどうでもいいからさっさと入るぞ」
ジュプトルに促され三人は某研究所の扉に手をかけた。
--なんだ?ルッグ達ももう来ていたのか--
後ろを見るとそこには体の所々に包帯を巻かれたピカチュウ、スパークとゼニガメのウォーターの姿があったのだ。
「ス、スパークさん!?どうしてここへ!?」
「どうしても何も私たちもあいつに呼ばれたから来たまで……ッ!!」
「お、親父!?」
痛む傷を押さえながらスパークは膝をついた。隣にいたウォーターはいつもの彼らしからぬ様子でスパークに肩をかした。
「なんだ。そのこうるせぇ目立たない水色の亀もそんなことするもんだな」
「なっ……!!誰が水色の目立たない亀だって!?」
以前問答無用で襲いかかられたからかジェットはウォーターにかなりの嫌みを言い放った。特に”目立たない”のフレーズが気に入らなかったのかウォーターは自分の眉間にしわをよせ一触触発の状態となっていた時だった。
--おっ!他のお客さん達も来てるじゃねぇかい--
またも不意に発せられた声。それを聞いたウォーターは先ほどまでの怒りを一転、驚愕半分とうれしさ半分の顔つきに豹変したのだ。今度はラッキー島から戻ってきたリーフとファイア、そしてウォーターの喧騒をおさめたと思われる白衣のラグラージのラックが立っていたのだ。ちなみにハガネ達はラックに席をはずすように言われたためここにはいない。
「ああああっあんた……いやっ!あなたはもしやチーム”ブラザーズ”の……」
普段は先輩にさえも無礼な口をきくことが多いウォーターのこの頭の上がらない様子。それを見たリーファイ一同は目を点にしてそのやり取りを眺めていた。
「おぉ、名を覚えてくれてるたぁ光栄だなぁ。いかにもオレはチームブラザーズのサブリーダーのラグラージのラックだ。よろしくな」
「はっはい!!僕はリーファイ所属のゼニガメのウォーターです!よろしくお願いします!!」
『ぼ、僕!?』
一人称まで変える始末、そんな柄にもなく謙遜しているウォーターを見てラックは”かっかっか”と乾いた声で笑いながらウォーターの頭を軽くポンポンと叩いていた。
「話はこの辺にしてそろそろお前さん達を呼び出した張本人のもとに会いにいくか」
そう言いながらラックは扉に手をかけようとするがウォーターが“僕が開けます!”と率先して扉を開けた。
「おいっす、邪魔するぜ」
「邪魔するんやったらかえって〜」
「あいよ〜」
『おい!!』
本当に帰りそうなラックに一同が突っ込みをいれた。ラックは“冗談やがな”と笑いながらごまかしてながら帰れと言い放った張本人の方に振り向く。そこにはローブを羽織った一人の目つきの悪い怪しげなポケモンの姿があった。
「さて、諸君も私の正体を知りたくなったかね?そろそろ教えてやろう!!私の正体は……」
『ノコタロウ!!』
ローブを纏った男、ノコタロウはバレバレな変装を見破られ愕然とうなだれる。そんなことはお構いなしに呼び出されたメンバーは続ける。
「わかりやすい変装や謎はいらんから、ノコタロウよ。何でお前が私たちを読んだのかこの場で詳しく説明してもらうぞ」
「へいへい、んじゃ入ってくれや」
ノコタロウに言われ一行は彼の研究所に入っていった。
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「さて、確か手紙には時の停止を止めるためには確かお前の装置が必要と書かれたあったな」
「そうだよ」
ジュプトルはN……もといノコタロウから送られた手紙を本人につきつけた。ノコタロウは答えた後によっこらしょと言いながら立ちあがり棚にあったリモコンを手に取った。
「そ〜れポチっとな♪」
ノコタロウがスイッチを押すと唐突に二頭身の人型の大型ロボットが現れた。そのロボットは紫色の帽子とスカウターを着用している。研究所の方では散々でてきたロボット”O西君”である。
「まさかO西君が本編で出てくるとは……」
一番O西君を目撃したルッグは驚いたようにこう漏らした。
「とにかく、O西君を使えば君らは無事幻の大地を経由して時限の塔に向かえる訳だ。だから今日は準備をきっちりしておいて明日に転送するつもりだ」
「ちょっと待った」
ノコタロウの説明を遮るようにジュプトルが口をはさんだ。ノコタロウは顔を曇らせた様子で”どうした?”と問いかける。
「なんで今からいけない?俺達には時間がないのだぞ」
せっかちな性格故に彼は今すぐにでも行けないのかとせかしていたのだ。しかしノコタロウはそんな彼の文句をもろともせずに続ける。
「何でって……このお二人の様子を御覧なさいな」
ノコタロウは無数の傷を負ったリーフを指差した。そんな彼女の隣ではファイアが心配そうに見つめながら彼女を支えている姿が。それを確認したのかジュプトルはこれ以上文句がいえずに口ごもる。
「ノコタロウにしちゃ珍しく配慮がなってるじゃねぇか。まぁそこの嬢ちゃんを治療している間にお前さん達はきっちり準備するのも悪くはないと思うぜ?」
「……わかった」
「じゃあ今日はノコタロウの家で寝泊まりですね」
「そうそう……ってはぁ!?」
ルッグが発した言葉に一度はノリかけるも直後にふざけんなと言いたげにノコタロウは言う。だが他のメンバーもなぜかそれにノリ気のようだ。
「んじゃルッグとジェットだったか……?お前達はオレと準備するからついてきてくれないか?」
「構いませんよ」
「まぁつきあってやってもええぞ」
ジュプトル達三人は明日の準備のために研究所を出ていった。
「さてドクター、ちょっと手を貸してほしいのだが」
「わかっとる。そこのピカチュウの親父さんとチコリータの娘を治療してやりゃいいんだろ?お安いご用さ」
ノコタロウの頼みにラックは快く承諾をした。それを聞いたファイアは彼に精いっぱい頭を下げる。ラックはそんなファイアに笑みを浮かべるもはっと何かに気付いたかのように続ける。
「でもな、流石に一晩でオレ一人でやるのもアレだからな〜。誰か一人でも助手がいてくれりゃ助かるんだがな〜」
ちらりとあからさまに”誰か”をチラ見しながらラックは呟いた。そのチラ見された本人はどうなってたかというと--
「それじゃ僕が手伝わさせていただきます!!ラックさん!!」
「おう♪ありがとよ。それじゃ早速頼むぜ。ノコタロウ、ベッドかりるぜ」
「は、はい!!」
ラックはリーフとスパークを連れて行きベッドルームへと向かっていった。そんな彼の後ろでウォーターが汗を飛ばし、緊張した面持ちで彼の後を追っていった。
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「大変です!!ヨノワール様!!」
「どうした、そうぞうしい」
リーフが脱出した暗黒未来。ちょうどリーフがラッキー島に向かっているころであろう。ここで小さな紫色のポケモンヤミラミが彼らの上司のヨノワールに慌てた様子で報告しようとしていた。
「囚人が……、……が脱獄しました!!」
「それがどうした、あんなゴミごときが脱獄したところで我々の目的には差し支えなどない」
ヤミラミの報告にもヨノワールは全く動揺することなく淡々と続けた。しかしその言の葉にはどこか苛立ちが含まれているようだった。
「それが……妙な機械を持ち出して時空ホールをこじ開けようとしているのです!!」
「っ!!なんだと!?なぜそれを早く言わない!!」
先ほどまでの冷淡な様子が嘘のようにヨノワールは感情を浮かべてヤミラミの首を絞める。首を絞められたヤミラミは苦しい……と息を漏らす。
「それであの虫けらはどこに消えた!!」
「黒の森の入口付近です」
「……そうだ。ちょうどいい今すぐ奴の後を追うぞ!そして我々も時空ホールに入る」
ヨノワールは何か策を思いついたのか口元を釣り上げニヤリとした笑みを浮かべた。彼の言う”虫けら”を逆に利用しようと考えていたのだ。
「行くぞヤミラミ達よ。奴を追って時空ホールを通った時、あのゴミ虫を抹殺しろ」
『ウイイイイイイイイイィィィッ!!!』
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「ハハハハハ!!!ついに……ついに成功したぞ!!」
場所は変わってこちらは黒の森入口付近。赤と銀色の体をした四つん這いのポケモンヒードラン--否、ヒードランのロボットが黒の森付近で口から何か怪しげな黒い渦を生み出しているようだった。
「向こうにいるときにあの蜥蜴達四人にも私の力を提供してしもべにしてやった。見ていろ……ヨノワールにリーフにジュプトルめ……。待っていろ。最後に笑うのはこの私だからな!!」
ヒードランロボを操作しているポケモンはロボの中でこう復讐に近い意思を漏らしていた。そう彼が復讐の念を込めている間に時空ホールが完成したようだ。
「ヒャアアァハハハハハッ!!今こそ私の科学の力を思い知らせてくれるわぁっ!!待っていろ!!」
そう叫びメカを操縦しているポケモン、それはかつてヨノワールと共謀した後に投獄されたメガヤンマはロボを時空ホール内に自ら飛び込ませていった。そのロボの体内には行き場を失った三体のポケモンが……。
「…ロー様……。このままあいつについてっていいんで…か」
「仕方ない…ろ……。ワシ達がこの世界から脱出するには……うするしかないのだぞ」
「で、でも……」
「でももなにもない…!!」
ロボットの体内でかすれるような声で三人のやり取りが繰り広げられていた。しかしそんな彼らやメガヤンマ達は知らなかった。メガヤンマの命を狙うゴーストタイプのポケモンが彼の後を追っていることには。