第八十七話 しょうげきの決着
「クックックお前ら、今のオレ様達と戦うことになるなんてつきがないもんだな……」
「な、なんだとぉ!!?」
スカタンク、ガスの挑発を受けたラオンはジェットが”やめろバカサソリ!”と制止(?)を振り切ってガスのところに猪突猛進と言わんばかりに突っ込んでいった。しかし数秒後あっけなく返り討ちにあった間抜けなドラピオンがこそこそと上司のサメハダーのもとに向かっている姿があっただけだった。
「やっぱり返り討ちにあったではないか!お前が勝手な行動をすると碌な事がないんだよ全く!!」
ジェットは半分怒った口調とは反対に目の前の自信に満ちたスカタンクを倒す手段を考慮していた。そして策を練ったジェットはラオンに耳打ちしようと彼の耳元に口を近づける。
--いいかラオンよ。我輩が奴の気を引くからお前は罠をしかけて奴をはめるように誘導するのだ--
--わ、罠を??--
--トラップの準備をしろといったんだ!!トラップをだよ!--
大事なことなので二度(ry
「おら行くぞ!変態スカンク!!」
「へ、変態っ……!!」
ジェットの罵声に今度はガスの方が血管を浮き出させた。追いうちをかけるようにジェットは舌を出して更に挑発する。ぞくに言う”あっかんべ〜”である。
「こんのサメがああああああああぁっ!!やってやろうじゃねええかあああああぁっ!!」
「へっ、間抜けが一匹ひっかかったぜ」
怒り狂うガスを見たジェットはしめたといわんばかりの様子でそう言った。
「毒ガス!!」
ガスは文字通り毒気を帯びた毒ガスは噴出し辺りに充満した!広がる毒ガスを避けられるはずもなくジェットは毒ガスに包まれてしまう。それを見たガスは勝ち誇ったように口元を釣り上げる。
--数秒後--
先ほどの勝ち誇ったガスの表情が一転焦ったような顔つきへと豹変したのだ。自慢の毒ガスを破られる筈はない。そう確信したガスだがその自信は砕かれた。毒ガスが晴れそこにいたのは………
なぜか防毒マスクを着用していたジェットの姿があった。
「ちょっ!おま!!なんで防毒マスク(んなもん)なんざ着用してんだよ!!」
「ふふん。備えあればうれしいな♪」
ドヤ顔でボケるジェットにガスは思わず”憂いだろ!”と突っ込みをいれずはいられなかった。そんな突っ込みは無視してジェットはラオンの方を見ていた。
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「やっぱりトラン(・)プと言えば大富豪だよなやっぱり」
一方のラオンはというとどういうわけかトランプを五つに分けて配っていたのだ。どうしてこうなったのかは言わずもがなだろう……。
「どうだ?準備できたか!?」
トランプを配ってるラオンに背後からジェットが話しかけてきた。しかしラオンはう〜んと言いたげに首をひねっていたのだ。
「いや〜、カード配ったんですが、ローカルルールはどうするか迷ってたんですよ。スペードの三ってジョーカーきれるんですかね〜」
「スペードの三……?
我輩はトラッ(・)プの準備をしろと言ったんだ!!このバカサソリ!!」
致命的(?)な聞き間違いに気がついたラオンは口をぽっかり開けて”あっ……”と言いたげな表情を浮かべていたが時すでに遅し。またもジェットに怒られてしまう。
「このヌケ作が!!戦闘で能天気に大富豪する訳ねぇだろ!!」
ジェットに怒鳴られたにも関わらずラオンはなぜか照れ笑いを浮かべていた。恐らくこれが彼らの日常なのだろう。ガスは戦闘中なのを忘れて茫然と彼らを見ていた。
「もういい!!てめぇみたいなドテカボチャはひっこんでろ!!我輩一人でやる!!」
「は〜い」
ムキになったら全部自分でやってくれる上司。ラオンは密かに彼にそんな期待をしていたのだ。現にジェットは部下を置いといて自分だけで戦闘しようとし、首を回して軽く準備運動をする。
--体調もいいし、あれを試してみるかな--
ジェットはそう思索すると彼の青みがかった体色が徐々に漆黒へと染められ、彼の赤い瞳も血を連想させるような禍々しい赤色へと豹変していたのだ。その豹変ぶりに威圧されたのかガスはおろか部下のラオンまで見たことのない彼の変貌ぶりに二・三歩ほど後ずさる。
「ぐっ……!!悪の波導!!」
ガスはうろたえながらもジェットに攻撃を発した。しかし本来の威力はなくどこか弱弱しい薄い黒色の波導が放たれただけにすぎなかった。ジェットは無言で悪の波導を守るで防ぐ。
「どうした!?それじゃあ悪の波導じゃなくてアホの波導じゃないのか!?」
いつものような彼の台詞。しかしどこか今までにないドスの聞いた低い声が響きそれがガスを一気に竦みあげる。
「ど、毒ガス!!」
先ほどと同じような紫色の毒ガスがジェットの周りを覆った……。
否、覆えなかった。すでにガスが充満した時その場にはジェットの姿はなかったのだ。
--はっ!まだ序盤なのに……おまえ、随分とろいんだな--
「っ!!?どこだ!?どこにいやがる!?」
不意に声がかかりガスはきょろきょろと辺りを見回す。声のしたほうを振りかえるとそこには不気味な眼光を宿したジェットの姿が。
--こいつ…いつのまにオレ様の背後に…!!--
ガスはショックを隠さずにはいられなったスカタンクの自分とサメハダーの相手とは大して素早さに差はないようなもの。にも関わらずに相手が尋常ではないスピードで回り込んでいたのだ。これが暗喩していたこと…。それにガスはショックを受けた。-オレ様があの間抜けなサメハダーより弱い-。
「くそがあぁっ!!」
やけになったガスは不意打ちでジェットに突っ込んでいった。ジェットは守る以外の技は攻撃技しかないのでこの技はほぼ確実に決まる。ジェットを目の前にとらえてガスは思い切り右足を振り下ろした!!
「や、やったのか?」
流石にあの至近距離では避けられない筈…。ガスは冷や汗をぬぐいながら目の前を凝視した。
「ふぃ〜危なかったぜ」
「っ!!?」
またしても背後から声が、ガスは後ろを振り向くとそこにはまたもジェットの姿が。それも傷一つない状態で……。
「お前がもうちょっと強かったら我輩も避けられなかったな……。やっぱ弱いな、お前」
そう言い切る直前にジェットはシュンと姿を消した。その直後、ガスの体に鋭い痛みが走り、無数の傷があった。
「ぐおおおぉっ!!?」
目視では”水色の何か”が全て自分に向けて放たれるところしか確認できなかった。ただ単純にジェットはアクアジェットを連発しているだけにすぎなかった。ただそのスピードが回を増すごとに尋常ではないほど上がっていたのだ。
「さ〜て、そろそろこ汚ねぇのをたぶるのもこの辺にしておくか……」
その言葉が終わった刹那、ガスの体が宙に浮いた。同じくアクアジェットを食らった。
「くっ!!どこだ!!どこにいやがる!!」
宙に浮かされたガスは反撃する余裕もなくただジェットの姿を確認することしかできずにきょろきょろと辺りを見回していた。
「!!?」
「あばよ」
ジェットはガスの目の前に至近距離で現れた。口の中には大量の水が準備されていた。
「”水流爆撃”っ!!!」
ジェットの口から大量の水が発せられガスに発せられた!!無論避けられるはずもなく水流はガスに直撃、刹那耳を覆いたくなるような爆音と共に大規模な水しぶきが発せられた!!
「が……アぁ…」
そこにはひっくり返ってピクピクと小刻みに動いて倒れているガスの姿があった。
「ジェット様!!これってまさか……」
「あぁ、あの目玉焼きもたまには成功させるもんだな。我輩の隠れ特性”加速”と聞いたが…これは中々にいいもんだ♪」
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「どうしたんだぁ?!このオレ様をブッ飛ばすんじゃなかったのかなぁ?火炎玉!!」
「……ちっ」
ルッグは痛む傷を押さえながらアレフトの火炎玉をかろうじて避けた。ジェット達がちょうどトランプ云々のやりとりをしている頃火炎玉を食らいルッグは火傷状態に陥ってしまったのだ。
「くっ!!そんなに大口叩いてていいんですか……ねっ!!」
ルッグはドレインパンチでアレフトを殴りつける……が、火傷状態のためか勢いが弱く当てることもできない。
ガシッ!!
アレフトはルッグの腕を掴んだ。ルッグは振りほどこうとするもやはりアレフトの方が力が強いために振りほどくことができない。
「おらよっと!!」
「うわあっ!!」
ルッグの腕を掴んだアレフトはそのままルッグのあごに膝蹴りを入れた。技の攻撃ではないものの素の力が強いためにルッグは膝をついてしまう。
「おら!!どうした!?いつものようにブッ飛ばしてみろよ!?おぉ!?」
アレフトはルッグをいつもの恨みと言わんばかりに罵倒し続けていた。しかしルッグのほうは運悪く火傷が続いており力が発揮できない。特性”だっぴ”があるといえばあるのだが、不確定要素が強く確実になおる訳でもない。依然として火傷のダメージと火力の減少にルッグは苦しめられていた。
「さぁ〜て、どうやっていためつけてやろうかな〜。埋めるなり吹っ飛ばすのもいいが……」
--止めを差すつもりはない--そうルッグは踏んでおり、またアレフトもその考えでいた。今までの恨みを晴らすためにあえて彼は一発で倒すのではなく痛めつける方を選んだのだ。そんな下種な思考をアレフトが凝らしていた時--
「ぬわあぁっ!」
彼の頭上に大量の水が降り注いだ。ルッグにも水はかかったが水に弱いアレフトは不快な顔をしていたのだ。ヒトカゲという種族は尾の炎が消えると命が終わってしまう。それだけに水には反射的に敏感に反応してしまうのだ。
「ちぃっ!!なにしやがんだてめぇ!!」
この水の正体はジェットが放った”水流爆撃”によるもの。水しぶきの規模が大きくアレフト達の方にまで降り注いだのだ。むろんジェットはそんな文句など聞くはずもなく彼の言う事を無視していたのだ。
「くそがぁっ!!このオレ様に大嫌いな水をぶっかけやがって!!」
--だったら温めてやろうか?--
『!!!?』
上空から響いた聞き覚えのない声。アレフトとルッグは声のしたほうへ振り向いた。
「火炎放射!!!」
彼らの視線の先から業火がアレフトのもとに降り注ぎ彼を一瞬にして飲み込んだ。
「よぉルッグよ。久し振りだな」
「な、なんでここにいるんですか……
ザンドさん!!」
ルッグが言うザンドと言われたサザンドラはルッグの頭上で浮遊していた。火炎放射を放ったのも彼だろう。ザンドはルッグの方をちらりと見た後にアレフトの方を睨めつける。
「なんだてめぇは!!こいつの仲間か!!?」
「お前のような部下をいじめる屑以下のトカゲに名乗る名前などない」
ザンドはそう断言し口から、そして両手を開け上空にオレンジ色の球体を打ち出し、それを破裂させた。
「な、なんだこりゃぁ!!」
オレンジ色の球体は上空で破裂し分解された状態でアレフトに降り注がんとばかりに接近してきた。ドラゴンタイプ最強の技、”流星群”である。なすすべもなく流星群を食らったアレフトは”ぐへぇっ…”と声をもらしながら倒れた。
「ったく、ちょっとばかし成長したと思ってきてみればこれだよ」
「ザンドさん!?なんでここに!?」
ルッグの慌てたような口ぶりに応じずにザンドはラムの実をルッグに食べさせ……というよりは押し込んだ。その後にザンドは“お嬢様の命令以外に何があるんだ”とボソリと漏らした。
「そうですか……お嬢様のね……」
「なんだお前。俺が勝手に出てきちゃ悪いのか?」
不機嫌な様子で詰め寄るザンドにルッグはあたふたとしていた。そんな二人に助け舟を出すように一人の男が話かけてきた。
「よぉチンピラ!!お前も終わったのか!?」
そこには既にガスを倒したジェットとラオンの姿があった。ジェットは既に体の色は元通りに戻っており、先ほどの禍々しい様子は感じられない。
「ん?誰なんだこのサザンドラ?」
ジェットが怪訝そうな顔つきでザンドを指差した。
「ちなみに我輩はサメハダーのジェットでこのズルズキンは我輩の部下。んでこっちが部下の間抜けなドラピオンのラオンだ」
「おぉ!?ルッグの!!初めまして私はサザンドラのザンドです。いつもルッグがお世話になってます」
ザンドはルッグへの態度から一転、ジェット達には丁寧に頭を下げる。ちなみにルッグはアレフトに一方的にやられてたことに加え、ザンドの丁寧な態度に納得がいかずに不機嫌な表情をしている。 --何敵キャラに頭下げてんだよ--と言いたげにザンドを睨んでいた。
「ところでジェットさん。ジュプトルは?」
「!!?そう言えばさっきから見かけないな」
--俺ならここだぞ--
そこには既に水晶色の歯車-時の歯車を手にして立っているジュプトルの姿があった。
「お、お前!!ドガースやズバットはどうしたんだ!?」
「どうしたって……。うっとうしいから片づけたに決まってんだろ」
ジュプトルが指差すとそこには傍らに倒れている二体の紫色のポケモンの姿が。言葉から察するにジュプトルに倒されたのだろう。彼曰く、パワーアップしても話にならないほど雑魚だったとのこと。
「ちょうどいいですね。ルッグ、そしてジュプトルさん。あとついでにジェットさん」
しばらくして誰も口を開かなくなったころにザンドが真剣な表情で彼らに語りかけた。しかしルッグの不機嫌な顔つきは消えない。
「ジュプトルさん。今みつけた時の歯車は?」
「丁度これを入れて二つだが?」
ジュプトルはカバンからもう一つの時の歯車を見せる。言葉通り二つの歯車を手に入れてることを示していた。
「よかった……。ちょうど我々も三つ目を集めたところなんです」
「だが後三つを集めないt……ってなんだとぉ!?」
目標の半分も到達していないジュプトルはザンドの言葉を聞き、途中で言葉を切った。その証拠に彼の手には同じ歯車が三つそろってあるのだ。
「ザンドさん。前のように両手で時の歯車粉砕しないでくださいよ……」
まだ機嫌が悪いのかルッグは腕組みをしながらそう言い放った。大してザンドは”うるせぇ”と少々顔を赤らめて反論するがすぐにせき払いをし、真面目な顔つきに戻る。
「それはちょうどよかったですね。実はリーファイ+ジュプトルさんのメンバーにあるポケモンから手紙が来ていたのです」
そう言ってザンドは丁寧に包まれた手紙をルッグ達に見せた。
「こ、これは!!」
「これ信用してもいいんですか?」
今一つ訝しげな様子のルッグにザンドは首を縦に振る。よほどその差出人のことを信用してのことなのだろう。
「とにかく時間がありません。ルッグにジュプトルさんにジェットさん。今からその差出人のもとへ向かいますから私に乗ってください」
「は、はい……」
「わかった」
「おう!!」
三人が乗ったことを確認してザンドは空を飛ぼうとするも--
「お、俺は?」
「あぁ、ラオンいたのか。お前はそのトカゲ達四人を目玉焼きのとこに連れて調べろ!!わかったか!!」
「は、はい!!」
そう言い残してラオンは倒れているアレフト達を担いで巨大岩石群を後にした。ジェットはそれを見送った後ザンドに頼むと指示(?)した。
「それでは……しっかりつかまってくださいよ!!」
ザンドの体が宙に浮いた。しかしルッグの機嫌の悪さはおさまることを知らずにしばらく、”あの蜥蜴は必ずブチ殺す……”と何度も呟いていたと後にザンドは語っていた。
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一度も攻撃をするな。こう指示されたリーフは攻撃できずに一方的にダメージを受けるだけの防戦一方の戦いとなっていた。しかしそれにも関わらず彼女はにやりと笑っている。彼女の真意とは一体!!?
「--これでは長くはもたんな。ならば--
ソフトプラント!!!」
汗をぬぐいながらグラスは叫ぶと地面から無数の太い蔓が現れたのだ。その太さは蔓の鞭のそれとは程遠い、まるで樹木に近いような蔓が出現したのだ。
「あいつめ……ムキになってあんな大技まで出しやがって……。
ハードプラントの変え技……ソフトプラントをな--」
バトルを見守っていたラグラージ、ラックはムキになったパートナーを呆れた様子で見守っていた。グラスの出したソフトプラント、これはハードプラントの変化技で主にハードプラントの攻撃の準備として使われていた。
「行け!!」
グラスが叫ぶと同時に蔓は一せいにリーフに向かっていった。リーフは必死に蔓をかいくぐりグラスの攻撃にも備えようと守ると身代わりの準備をしていた。
「--!!?動いてない!?--」
グラスは”ソフトプラント”を出している間は全く移動すらしていなかったのだ。リーフの思考では蔓と同時に攻撃をしかけてくると踏んでいたのだ。しかし--
「きゃああぁっ!!?」
無情にも蔓はリーフをとらえてしまった。思索が裏目にでて蔓への注意がおろそかになっていたところを狙われたのだ。依然としてリーフを強く拘束しようと蔓は強く締め上げ、それに対応するようにリーフは苦しそうな喘ぎ声を出す。
「っぅ……あうぅっ……」
蔓から逃れようと必死に脱出しようともがくも、拘束力が強く拘束を受けていない胴体部を左右によじることが精いっぱいな状況となっていたのだ
「お前も何を考えて攻撃しないのかはわからんが……。これでしまいにするか」
拘束されているリーフを見てグラスはハードプラントの準備をしていたのだ。リーフも大技が来ることは分かっている為に力づくでは無理と考え、必死に脱出の策を思索する。しかし焦りが邪魔をし策を練れずに攻撃の準備が整ってしまう。
「”ハードプラント!!”」
とうとう草タイプ最強の攻撃技、ハードプラントが放たれた。とうとう考えが思いつかないリーフはまたも悪あがきに体を動かし始める。しかしそれでも蔓の拘束は放たれない。
「うぐぅっ!!!」
「!!?」
かと思われた。突如としてグラスが膝をついたのだ。それと呼応するようにリーフを拘束する蔓が急に緩みだし、それに気付いたリーフは急いでハードプラントを受けないように構えていた。
「っく!!”守る!”」
襲いかかる樹木を緑色の壁で完全に防ぎきった。リーフの守るも不完全なものではあったがそれ以上にグラスの攻撃が精度が不安定なために十分な防御となっていたのだ。グラスは肩で息をしながらその様子を苦々しく見ていた。
「ぜぇ……くっ!!こんなところで!!」
大汗をかきながらグラスは呟いていた。汗や肩でする息にそれまで戦いを見守っていたハガネ達も解せない様子が一気に解除される。
「成程、そういうことか!!」
「どういうことやハガネ?」
一人だけ理解できたハガネに対してムドウ達は全く理解できていない様子で首をかしげる。むろんアンドロメダの2人もそんなことが分かる訳もなく首をひねっていた。
「あのキモリはスタミナに欠けていた。あのジュカインやリーフはそれに気づいてあえて攻撃をせずに回避に専念して戦いを長引かせたんじゃないのか?」
ハガネの解説にムドウ達は”成程〜”と納得した様子だった。密かにラックが”年だからな”と笑いながら付け加えていたが。一方のグラスも自分の弱点を看破され、ただでさえ大量に流れてくる汗を一層流していた。この汗は疲労というよりは冷や汗によるものだろう。
「--スタミナ切れでもこっちも限界っ!!だったら……--」
リーフはあのバクフーン戦のように左手に高密度の球体を収縮させていたのだ。彼女の切り札とも言える大技、エナジーストームだ。
「はぁっ……くそっ!!」
グラスも攻撃が来ることはわかっているが大技を立て続けに出した極度の疲労で体が思うように動かなかった。事実彼は、ここまで本気で戦ったのはラック曰くざっと三十年ぶりとのこと。ブランクと老いのために体が思うようについていかないのだ。
「エナジイイイイィッ!」
--準備は整った。後は技を決めるだけ!!--リーフは疲労で動くことができないグラスに向けて切り札(エナジーストーム)を放とうと接近する!
「”ストームッ!!”」
--これで勝負は決まった!!--ハガネ達が誰もがそう確信したその時であった!!グラスに接近していたリーフなんの前触れもなく--
傀儡(かいらい)のように力なく倒れこんだのだ。
『!!!!?』
「これはっ……」
「ぬっ!!ハジメッ!!」
「はいっ!!」
ラックの怒声に近い言葉に反応したハジメはすぐさま倒れたリーフのもとに駆け寄った。寸前まで戦っていたグラスも--どういうことだ!?--と言いたげに彼女を見ていた。
「やっぱりダメージが大きかったか!!」
「ってあれ!?ファイアさんはどこだ!?」
はっと気がついた様子でリュウセイは辺りを見回した。確かに彼の言うとおりパートナーであるファイアの姿がどこにも見えないのだ。
バアアアアアァン!!
塔の扉が勢いよく開かれた。その先を見るとそこには大量の木の実、それもオボンの実ばかりを抱えていたヒノアラシ、ファイアの姿が。今までいなかったのも木の実を集めていたからだと思われる。ファイアは倒れこんでいるリーフを見るや否や矢のように走りだしリュウセイをはね飛ばしながら彼女のもとに駆け付けたのだ。ちなみに飛ばされたリュウセイは”ひでぶぅっ!”と声をあげながら蚊帳の外に飛ばされる。
「リーフ!!大丈夫!!?ホラ!!オボンの実だよ!!」
必死の形相でファイアはリーフ目の前に大量のオボンの実を置いた。しかしリーフはかすれるような声を漏らすだけで木の実を食べようとしない。
「ちょっとどいてて」
ハジメがファイアをどかしリーフの目の前に立った。そしてカバンに手をいれ何かをとりだそうとする。だが彼が出したのは意外なものだった。
「は、はぁ!?」
ハジメが出したもの。読者の方ならおそらく強力な薬のようなものを連想しただろう。しかし彼が出したものそれはなんと--
”黄金のリンゴ”だったのだ。これには全員が目を点にしてきょとんとする。
「……くんくん。はっ!!!リンゴ!!」
唐突に先ほどまで倒れていたリーフがガバッと音を立てて起き上った。そして起き上がるや否やいきなり目の前の黄金のリンゴにがっついていたのだ。他のメンバーはリーフの凄まじい食べっぷりに唖然と口を開けて眺めていた(ハジメとラック以外は)
「はぁ〜生き返った〜♪おなかが減りすぎて死ぬかと思ったわ〜♪」
おなかがいっぱいになったのか、この上なく幸せな顔つきでリーフはおなかをさすっていた。
「いやいや、そんな大げさな話……」
「あるよ」
「やろ!?……ってえぇ!?」
ムドウの言葉に彼の予想していたこたえがハジメから帰ってきた。驚くムドウと対照的にハジメはそのまま続ける。
「実際に探検隊に限らずダンジョンでは空腹は致命的な状態異常だからね。実はさっき倒れたのもダメージよりも空腹だったんじゃないかな?」
「そ、そう言えば空腹が酷くて……///」
ハジメの考えにリーフは少々顔を赤くしてこたえた。そう、今回の敗因、それはほかでもない。
空腹によるものだったからでした♪