第八十五話 きまぐれ
「街まであとどのくらいかかるのだ!!?」
「はい、あと二分もすれば到着するでしょう」
ラッキー島を出発したジェットはヘリに乗って部下と思われる運転士をせかしていた。その証拠に彼の体が我慢しきれないように小刻みに震わせていた。
「ジェット様!到着しました!!」
「よし!!お前は戻ってよし!!うおりゃあああああああああぁっ!!」
ジェットはそう言い残して上空を旋回しているヘリから飛び降りようとした。部下の運転士が”ジェット様!”と叫ぶも時既に遅し、彼の姿はヘリにはなく既に飛び降りた後に地面に着地している姿があった。
「ぬっ!あれは!?」
--------------------
「ひいいいいいいいいいいいぃぃぃっ!!」
ジェットがヘリで街にたどりつく数分前、一体のポケモンが数体のポケモンに襲われていた。襲われているポケモンは紫色のサソリのような外見のポケモン、ドラピオンである。そしてドラピオンを襲っているポケモンはカイリューとムカデのようなポケモン、ペンドラーである。しかしこの二体、目が虚ろになっており生気が感じられない。
「グガアアアアアアアアアアアァァッ!!」
「ヒイイィッ!!」
カイリューがドラピオンに向けて巨大爪、ドラゴンクローを振り下ろした。ドラピオンは思わず恐怖のあまり思わずへたり込んでしまった。
「冷凍ビーム!!!」
何者かが技名を叫んだとほぼ同時にドラピオンを襲ったカイリューが”ズシン”と音を立てて倒れていた。ドラピオンはその音に反応してその様子を凝視していた。先ほどまで自分を襲っていたカイリューが体の一部を凍らせた状態でのびている。
「ジェ、ジェット様!?」
技を放ったと思われるサメハダー、ジェットの名前を呼ぶドラピオン。だがジェットはドラピオンの声には反応せずペンドラーのほうに向かう。
「おらあぁっ!!」
ペンドラーが動こうとする前にジェットは自分のヒレで切りつける技、辻斬りでペンドラーを切りつけた。急所に当たったのか一撃でペンドラーは倒れる。
「ジェ、ジェットさまああああぁっ!!」
「…………」
自分を助けに来たと思ったドラピオンは半泣きになりながらジェットのもとに駆け寄った。しかしジェットは表情を変えることなく彼のほうを睨むようにみつめ…………
ゴツン!!
「あいた!!」
ドラピオンの頭に思い切り頭突きをした。これは彼なりのげんこつであるが如何せん手がない彼はこれでげんこつの代わりとして用いてたのだ。
「このばあああああああああああああああああああああああぁかたれが!!指令もなしに勝手に一人で行動するんじゃねぇ〜よ!!」
「い、いえ!!ボスが俺に街のことを調べてこいといわれたもんで…………」
ジェットに怒鳴られて尻すぼみに答えるドラピオン。その証拠に声が徐々に小さくなっている。
「(ったく!あの目玉め!!我輩の部下を何も言わずに使いやがって!!)ところでラオンよ通信機でも聞いたが街は一体どうなっているのだ?」
「は、はい。ボスの命令で街に来たらなんかポケモン達おかしくなったから…………」
ジェットは部下のドラピオン、ラオンに状況の説明をさせた。彼が言うにはボスのネンドールの命令で
街を調査しに来たのだが…………
「しかし何でこんなポケモン達が暴れてるんですか?」
「だっしゃああああああああああぁい!!」
まさか自分にそっくりそのまま問いかけが帰ってくるとは思わず大げさにずっこけるジェット。
「あっ、そうだ!そういえばラオン。お前はこの近くでスパークってピカチュウを見なかったか?」
「そうなんです!オレもボスにそいつを探すように言われたんですよ!」
「んで奴はどこにいるんだ!!」
「えぇっ!?俺知りませんよ!?」
「嘘言ったら針千本だぞこの野郎!!さっきお前と通信した時に奴の姿が映ってたぞ!!」
そう、ジェットがこの街に来た理由の一つ、スパークがモニターの端に移っていたのだ。しかしラオンはそんなことは知らんと言わんばかりに首を横に振る。
「じゃあ何でこの近くを探したのにいねぇんだ!!」
「そ、それは…………」
ジェットに詰め寄られてラオンは思わず後ずさりする。その彼の足元で…………
むにゅ
『ん??』
ラオンの足元に何か柔らかい何かを踏んだような感触を感じた。2人が声をハモらせて足元を見てみた。
『ってええええええええええええぇぇ!?』
そこには彼らが探していたピカチュウ、スパークがぐったりとした様子で横たわっていた。2人して探していた相手が見つかったことに驚きを隠せない。
「ええええええええ!?なんでこいつこんなボロボロに!?」
「んなもん我輩に聞くんじゃねぇよ!今来たところなんだよ!!」
2人で口論をしていたところ…………。
「お〜い!!おやじ〜!!どこにいるんだ〜!!?」
スパークを探していると思われる声がした。彼の息子のゼニガメのウォーターだ。
「お、親父!!?」
ボロボロのスパークの足元で口論しているドラピオンとサメハダー。この様子を見てウォーターもただ事ではなかった。
「お、お前らーーーーーーーーっ!!!」
「ちちち違う!!これは我輩じゃない!」
「そうだよ!!俺達じゃないよ!!きっと犯人は俺達というなの紳士だよ!」
ラオンに至ってはテンパリが高じて完全に訳のわからない言語を発していた。その挙動不審な行動にウォーターは”スパークを襲った犯人=ジェット達”という数式が頭の中で成り立たせてしまったのだ。今にも飛びかかりそうな彼の2人共驚愕している。
「ぶっ潰す!!」
『ちょっとまてええええええええええええぇぇ!!』
--------------------------
数分後
ウォーターはジェット達がスパークを襲った犯人だと思い込んだが、後に駆け付けたズルズキン、ルッグによって説得され騒ぎは収まった。
「全く…………思い込みにも程があるだろ、あんたは」
「す、すまん…………」
棒でウォーターを小突くルッグ。最早ウォーターは完全にルッグに頭が上がらなくなったようである。そのために彼にはただ謝ることしかできなかった。
「まぁ、あんた達を見ちゃ無理もないですけどね…………」
ちらりとジェット達を見るルッグ。確かにジェット達は敵、しかもルッグは一度ジェットと戦っていて彼らを負かしたことがあるだけに彼を疑うのも無理はないだろう。
「お前は…………我輩を信用するのか?」
「信じるも何もスパークさんはあんた達が来る前からやられてたんですよ。
ここの正気を失ったポケモンにね」
『正気を失った!!?』
ルッグの言葉にウォーター・ジェット・ラオンの三人が一斉にハモる。
「…………だがお前が言った通りさっきのポケモンは普通じゃなかったな」
「俺を襲ったあの二体のことですか?」
ラオンの問いかけにジェットは首を縦に振る。
「(ところでウォーター)」
ジェット達に聞こえないような小さな声でウォーターはルッグを小突かれた。ウォーターはきょとんとした顔つきで”なんだ”といいながら振り向く。
「(あの紫色のサソリみたいな奴…………あのポケモンなんて言うんです?)」
「(あれはドラピオンってポケモンだよ。)」
ルッグはウォーターの説明を聞いて釈然とした顔つきで再度尋ねる。
「(”きみはじつにばかだな”って言った奴?)」
「(違う!!それはドラ○○ん!!あいつはドラピオン!!)」
ちょっと危ない台詞を吐いたルッグにウォーターは最早ジェット達にも聞こえるような声で突っ込んだ。
「なにやってんだお前ら?」
「いやいやいやいや!!こっちの話です!!」
ジェットが怪訝な顔つきで問い詰めるがルッグは慌てて訂正した。
「でもズルズキンのくせに敬語のあんた、なんでポケモン達が狂ってんだ?」
「くせには余計です。そうですね…………」
ルッグはラオンの言葉にむっとしながらもポケモン達が狂った原因をジェット達に述べた。彼が言うにはいきなり街のポケモンが狂ったかのように暴れ出した。彼が言うにはその原因は時の停止に近づいてるからという。
「と、時の停止…………?」
「お前は何にもしらんのだな!これじゃ”化けサソリポケモン”じゃなくて”バカサソリポケモン”だなお前は」
首をかしげるラオンに対してジェットははっきりと”バカ”と酷評した。ラオンは”ひど〜いですジェットさま〜”と半泣きになりながら反発するが受け入れられなかった。この世界では時の停止というのはかなり常識的に知られていることなのである。
「そうです。時の停止…………
っ!!!ジュプトルが!!」
ルッグは説明を続けようとしたが、ふと一人のポケモンのことを思い出した。唐突に叫び声にジェット達も思わずずっこけそうになる。
「なんなんだお前は急に叫びおって!!そんで一体どうしたのだ!」
「ジュプトルって誰?」
ジェット達の質問攻めにルッグは一瞬たじろいだが、次第に冷静に説明した。彼の発した”リーフのパートナー”というパートを聞いた瞬間にジェットの表情が真剣なものとなる。
「そいつはどこに行ったのだ?」
今までとは脅すような声……とまではいかないがトーンの低い声を発したジェットにルッグは一瞬だが彼に臆し、威圧感すら感じていた。だがルッグはすぐに冷静に彼の行き先を説明する。尤も場所は説明せずに目的を述べたのだが。
「時の歯車か…………。ラオン!!我輩達も行くぞ!!」
「えぇ!?でも俺そんなこと命令にはないし…………」
ラオンは反発するもジェットに”我輩に逆らうのか!”と言わんばかりに睨まれて渋々承諾した。ジェットはちらりとルッグ達の方に振り向く。
「仕方ないですね…………。あんたらみたいな悪党だけじゃ不安ですし僕も行きますよ」
ルッグはよっこらしょと呟きながら彼に同行することにした。流石に敵に救援を頼むのは彼にとっては癪なのだろう。
「ウォーター。あんたも一緒にk…………」
ウォーターも同行させようと彼の方を振り向くルッグ。しかし彼の考えももれなく崩壊していった。ウォーターが傷ついたスパークを必死に介抱している姿があったのだ。
「ウォーター」
「な、なんだよ!?」
不意に話しかけられ少々声を荒らげるウォーター。そんな彼にルッグは珍しく彼に…………
「スパークさんのことは頼みましたよ」
そう優しく言ったのだ。ウォーターもいつもとは違う態度の彼に思わずにこやかに首を縦に振った。
「それにしても、ジェットさん。あんたがまさか味方になるとは思いませんでしたよ」
「フン!我輩はあくまでリーフと組んでるだけだ!お前みたいなチンピラは知らんからな!!」
「はいはいww」
ジェットのツンデレぷりがもろに浮き出てルッグはニヤニヤしながらそう軽くあしらう。
「とにかく!!ラオンにルッグよ!!行くぞ!!」
「はい!!」
「はい!!
…………ってえぇ!?何勝手にあんたの部下になってんの僕!?」
ルッグの叫びも聞かずにジェット達は既に出発していた。ルッグは慌てて彼らを追いかける。
------------------------
「ん?なんだろここ!?」
ジェット達と別れてラッキー島を進んでいる新生リーファイ一行。いまリーフ達は島の最深部と思われる塔に入っていたのだ。
「塔かと思ってたらここもバトルフィールドみたいね…………」
いまだに痛む傷をおさえながらリーフはそう漏らした。
「その通りだ」
『!!?』
不意に塔に響いた低い声。その声に反応したリーフ達は身構える。薄暗い塔から出てきたのはリーフよりも小さい緑色のトカゲのようなマントをはおったポケモン、キモリだ。
「ぬっ!!貴様はブラザーズの!!」
「いかにも、ワシがブラザーズのリーダー、キモリのグラスだ。この大会を開いたのもワシ達ブラザーズだ」
ハガネが口を開くとグラスと名乗ったキモリがそう答えた。後ろにはラグラージやジュカインの姿もあった。
「リーフにファイアよ。お前達のこの島での活躍はワシも高く評価している」
グラスは開口一番リーフとファイアに賛辞を呈した。しかし彼はその直後に”だが……”と付け加える。
「お前の実力はワシも実に興味深い。言いかえればよく分からないという事だ。だからリーフよ…………」
そう言いながらグラスははおっていたマントを脱ぎすてた。
「ワシとタイマンでバトルしろ」
そう言い放ったのだ。
「ええぇっ!!?な、なんでなんです!?」
「なんでもくそもない、ワシと戦え」
「あんたいきなり無茶だろ!!リーフさんはこんなボロボロの状態なのに無理あんだろ!!」
リュウセイは怒った様子でグラスを怒鳴りつけた。最強の救助隊ともあろうポケモンが傷ついたポケモンと本気で戦おうとすることを知って彼も怒りをおさえられなかった。
「だが、あの蜥蜴本気でリーフと戦おうとしてるぞ」
ハガネの言うとおりトカゲ……もといグラスはリーフと戦う気マンマンである。これはさけては通れないと思った時であった。
--大丈夫だよ--
またも不意に聞こえてきた声。今度はグラスとは違って爽やかな声が彼らの後ろで発せられた。
「ぬわあああっ!!あんさんいつの間におったんや!!」
「いつの間にって、今来たとこだよ」
ムドウは真後ろにいたジュカインに柄にもない大声をあげてしまう。だがジュカインは笑顔でそう言い放った。
「(あのジュカイン……さっきまで奴らの後ろにいたはずなのに……
こいつできるぞ……)」
ハガネはジュカインを睨むように凝視していた。
「君も厄介なことに巻き込まれちゃったね。たしか、リーファイのリーフちゃんだったっけ?」
「は、はい!!チコリータのリーフです!!」
不意に話しかけられリーフも柄にもなく緊張した様子であいさつする。
「そんなに緊張しなくていいよ。僕は一(ハジメ)っていうんだ。種族は見ての通りジュカインだよ」
ハジメと名乗ったジュカインは笑顔でそう自己紹介した。
「ところでリーフちゃん、いきなりで悪いけど、耳貸してくれるかい?」
「は、はい…………」
ハジメは身長差を縮めるためにかがみこみリーフに耳打ちをした。(人知れずファイアがその様子を見て嫉妬していたんだとか)
「えぇっ!?それ本当ですか!?しかもなんでハジメさんがそんなことを!?」
「(しっ!!声が大きい!それはね
ちょっとリーダーに自覚してもらいたいのさ。致命的な弱点を抱えてることにね)」
ハジメは爽やかな笑顔に交じって少しだけだが真剣な顔つきになっていた。
「致命的な弱点?」
「うん。だからリーダーと戦うからってそうやって簡単に臆してちゃだめだよ。
どんなポケモンにだって弱点は必ずある。それを見つけれるまで 耐える ことが大事だよ」
”耐える”という言葉を強調してハジメはグラス達の方に戻っていった。
「(耐えることが大事…………
グラスさん。バトルお願いします」
「よし」
リーフの言葉にグラスも両手を地面につけ戦闘体制に入る。
「リーフさああああああぁん!!そんな大人げないじじいのキモリなんぜ一発でのしちゃってくださああああぁい!!」
塔にギンギンと響くリュウセイの大声。よほどグラスのことが気に入らないのだろうかボロクソに酷評している。
「俺もジュカインのほうはともかくキモリのじじいはどうもいけすかんからな」
「…………同じく」
まさかグラスもここまでひどく言われるとは思ってもなかっただろう。思わず彼はチームメイトのところに振り向く。
「あんなグラスの事(大人げねぇじじい)なんざおまえさんなら軽く捻ってしまえるだろうな〜♪」
あろうことかパートナーのラグラージ、ラックまで彼のことを応援していない。グラスはがっくりとうなだれていた。